Decision Points を読み終わりました。震災で仕事が忙しくなり1カ月は中断してましたが、ようやく読了。非常に面白かった。
言わずと知れた米国の第43代大統領ジョージ・ブッシュさんの自伝です。911からリーマンショックまでの8年間、世界中からバカにされ続けてきたこの人は一体どんな人なんだろうと常々疑問に思ってきたのです。この本を読んで分かるのは、このおじさんはすごくいい人なんじゃないかということ。大統領の息子であるブッシュさんは、家族の伝統に基づいてマサチューセッツのなんとかという学校、イェール大と進学し、30前にハーバードビジネススクールに入ったとき「初めて自分の意志で学校を選んだ」なんていう感慨を持ったという人です。(実はきちんと覚えてないのですが、確かそんな風な話が書いてありました。)超おぼっちゃんなわけです。こういう育ちのいい人だから、滅茶苦茶に批判されてもめげずに仕事できたんだろうなと。長嶋一茂みたいなもんじゃないかと。何があっても「家族と神様は僕を守ってくれる」みたいなね。
ただ、そうは言ってもマスコミに対する不信感がなかったわけじゃないらしい。父親の選挙運動を手伝っているときに、取材に協力したニューズウィークの記事の見出しがパパブッシュのことを「臆病者(wimp)」と表現したことをきっかけに政治記者とその裏にいる編集者は警戒するようになったそうです。ニューズウィークの記者に抗議したら、「編集者がどうのこうの」的な言い訳をしたらしい。わはは。
あと、大統領の任期中、個人的な人格批判にさらされたことも振り返っています。「政敵やコメンテーターは私の正統性や知性、誠実さに疑問を投げ掛け、容姿やアクセント、信仰心までバカにした。ナチだとか戦争犯罪人だとか、遂には悪魔とまで呼ばれた。最後のはベネズエラのチャベス大統領の言葉だ。私のことを敗北者で嘘つきだといった議員は今、上院多数党院内総務をやっている」だって。それでもイェールで歴史を学んだというブッシュさんは、「リンカーンだってヒヒになぞらえられたんだ」とめげないのですが、ブッシュさんが一番こたえた感じた批判があった。「イラクが大量破壊兵器を持っていると嘘をついたと批判されたり、金持ちのために減税したと言われることより、カトリーナで多数の黒人が犠牲になったことを理由に『人種差別主義者だ』と批判されるのは辛い」だって。へぇ。
911の後の対応については、「もしも次の攻撃がなかったら、私は過剰反応したと批判される。でも、次の攻撃があったら、なぜきちんと対応していなかったのだと批判される」として、「これが大統領の仕事というものだ」とボヤきます。あと、「ケーブルニュースを24時間分埋めなければならない熱心すぎる記者たち」なんていう表現もある。おぼっちゃんだって頭にきていたみたいです。
このほか印象的なのは、小泉純一郎がけっこうカッコイイ感じで書かれているところですね。2002年のカナダ・カナナキスでのG8サミットで、ブッシュさんが途上国支援に「政治腐敗がないこと」「市場主義経済を目指すこと」「健康と教育に投資すること」といった条件をつけるMillennium Challenge Accountという新手法について説明したとき、フランスのシラク大統領が「ずいぶん身勝手じゃないか。アメリカが政治腐敗の一掃を手助けするだって? 自由主義が腐敗を作り出してるんじゃないか!」と話しかけてきた。それに対してブッシュさんが「少なくともアメリカはアフリカを植民地にしたりはしていないがね。アメリカは困っている人たちがお金を吸い上げられるのを見てられないだけだ。あんたたちがどう思うと、我々はこの方法でいく」と啖呵を切る。このとき、他の出席者はショックを受けて静まりかえった。ただ、「私の友人である日本のコイズミだけがフッと笑って、静かにうなずいていた」だって。まぁ、笑ってるだけなんですが、なんか「ムダヅモ無き改革」の小泉ジュンイチローばりの渋さじゃないでしょうか。あと例のプレスリーの写真も出てきます。
とまぁ、こんな風にブッシュさんに関心がある人にとっては非常に面白い本だと思います。もちろん真面目にアメリカの内政、外交に関心がある人にとっても為になるでしょう。書かれていることは自分に都合のいいところばかりなのかもしれませんが、これも8年間批判され続けた人の本音。これぐらい許してやってあと英語で読んでいると、そんなに嫌みにも感じません。そういうニュアンスを読み取るほどの語学力がないから。
キンドルは相変わらず素晴らしいです。面白いところにブックマークを付けることができるので、こうして感想を書くときにも便利。