2014年3月27日木曜日

The Loudest Voice in the Room

“The Loudest Voice in the Room”を読了。

Fox News Channel(FNC)のPresidentであるロジャー・エールス(Rodger Ailes)の人生を勝手に振り返って、いかにゴリゴリの保守派として米国政治に影響力を及ぼしてきたかを語る本です。ティーパーティーのことを調べていたら、ティーパーティー支持者の多くがFNCを「信頼できるメディア」と評価しているという指摘を見つけたもので、「ところでFNCってどういうメディアなんだろう」と思って読んでみた。ちなみにFNCは視聴率の面では、CNNとMSNBCが束になっても敵わないほど人気があります。著者はジャーナリストのGabriel Sherman。

長いです。キンドルで読んでいるんで気軽にポチってしまいましたが、今、調べてみたら、最近読んだ”The Dispensable Nation”の1.8倍、”The Right Path”の2.5倍の長さがある。あと登場人物が多すぎ。米国人にとっては有名な人も混じっているんでしょうけど、私なんかはすぐに混乱してしまいます。ちょっと辛い。エールスにかなり批判的な内容なんで、慎重を期して書いているのだと思います。ただ、もうちょっと読みやすくコンパクトにまとめてくれてもいいんじゃないか。

エールスは1960年ごろに地元のオハイオ大学在学中から学内のラジオ局の運営に参加してメディア人としてのキャリアをスタートさせたそうで、その後、オハイオ州やフィラデルフィア州のテレビ局で頭角を現します。人気番組「マイク・ダグラス・ショー」にプロデューサーなどとして関わり、テレビ向け演出のノウハウを蓄積したらしい。当時のテレビ人は、レニ・リーフェンシュタールが監督したナチスのプロパガンダ映画なんかでの演出も研究したそうです。で、そうした手腕を生かして、エールス氏は政治家のプロモーションを手がけるビジネスを始める。なかでもニクソン、レーガン、ブッシュ(父)の歴代大統領の選挙戦や政権のメディア戦略に深く関わったとのこと。カメラの配置はこうした方がいいとか、テレビの候補者討論でこんな質問をされたら、こう言い返してやれとかいったアドバイスをしたりするんだそうです。「複雑な事柄を、感情に訴えかける短いセンテンスで表現する」というのがキモらしいですね。あと、対立候補を批判する政治CMの作成を実質的に指揮していたとも。建前上は候補者陣営がこうしたCMを作ってはいけないらしいんですが、エールスは元部下なんかを利用して過激な対立候補批判CMを作らせて、大きな効果を上げていたんだそうです。

で、そんなエールスはブロードウェーのミュージカルのプロデュースもやったりしながら、1990年代になってNBC系のCNBCのトップになって、1996年にルパート・マードックがFNCの設立を決めた際にトップに就任。この頃は、24時間ニュースチャンネルはCNNしかなかったわけですが、視聴者の間には「今のメディアはバイアスがかかっている」という不満があった。そこでマードックやエールスは「より米国的の価値観に基づいた保守系のテレビメディアを立ち上げたら、絶対に支持される」と思ったらしい。FNCは実際に、陣容ではCNNに劣るにも関わらず、クリントン大統領のモニカ・ルインスキースキャンダルや911といった事件を追い風にして、あっという間に視聴率でCNNを追い越してしまう。ブッシュ(子)政権時代のイラク戦争なんかも開戦を強く後押しした。その後のオバマ政権の誕生と再選は阻止できなかったものの、ティーパーティー運動をバックアップしたりして、現在でも保守系メディアの代表として存在感を発揮しているというわけです。

で、まぁ、これがあらすじというわけですけど、この本のなかにはエールス氏がいかにして米メディア内での権力闘争を勝ち抜いてきたかとか、現場のディレクターや記者に圧力をかけて自分の意にかなった報道をさせてきたかとか、いかに人気キャスターのセクハラ訴訟のもみ消しを図ってきたかとか、いかに自分が住んでいる地元の新聞社を買収して地元の政敵に嫌がらせをしてきたかとか、そういったエピソードがふんだんに盛り込まれています。傲慢で臆病な大金持ちといったキャラクター付けですね。もちろんこの本の内容について、エールス側は猛反発して、出版させないように著者に圧力をかけたそうです。その圧力の経緯も後書きで詳述されています。このあたりは私なんかには「なるほど、ドロドロした世界なんだな」というぐらいの印象ですけど、好きな人にはたまらなく面白かったりするんでしょう。

エールスっていう人は一般的な家庭から自らの才覚で身を立てた人で、父親からも「自分を助けられるのは自分だけだ」といった保守思想をたたきこまれてきた。それがマードックに気に入られて、米メディア界に強い影響力を及ぼすようになった。米国ではこういった保守思想には根強い支持があるうえ、エールスの面白い番組を作る才覚とそれを会社全体に浸透させる腕力もあって、FNCは人気を保っているのかなんていう風に思います。

あと、グレン・ベックの話もちらっと出てきますけど、この人は別にエールスが目をかけて育てたというわけじゃなくて、突然現れ、FNCで大暴れして、その後、去っていったということのようです。

面白いんですが、長い。