"The End of The Asian Century: War, Stagnation, and the Risks to the World's Most Dynamic Region"という本を読んだ。American Enterprise InstituteのMichael Auslinが2017年1月に出版した本です。
アジアは長いこと経済成長が続いてきて、米国なんかでも「これからはアジアの時代だ」なんて言われたりして、オバマ政権も"Pivot to Asia"なんていう戦略を打ち出したりしたわけですけど、このオースリンさんの本は「アジアの未来は明るいばかりじゃないよね」っということを指摘した本です。アジアでの軍事的な緊張は高まっているし、中国経済は維持可能かどうか分らないし、日本はグダグダな状態が長期化しているし、ベトナムにしてもインドネシアにしてもマレーシアにしても政治的に安定しているとは言い難いし、っていうようなことを紹介する内容です。
で、そのうえでオースリンさんはアジアの安定と発展は米国にとっても重要だから、米国はアジアのために積極的に関与していくべきだとしています。だからといって、ものすごいウルトラCでアジアを支えるっていうわけじゃなくて、安全保障でも外交でも文化交流でも現在の取り組みを着実に拡大してくべきだっていう感じですね。南シナ海で中国がアグレッシブになっているから、各国による共同パトロール体制を作ろうとか、ASEANと米国の経済連携を深めようとかそういったことです。
でもまぁ「アジアがグダグダだ」っていうのは大体知っている話ですし、提言の部分もびっくりするような話でもありません。
ただ、最大の短期的なリスクとして「軍事的な衝突」を挙げているところは、それほどにまで警戒すべき事柄とみられているのかという気がしました。もちろんオースリンさんは軍事的な衝突が起こると予想しているわけじゃなくて、「軍事的な衝突が起こりえるリスクがあることは認識せねばならない」と言っているわけですけどね。中期的なリスクとしては「経済の停滞」を挙げています。あと、各国の政治体制のぐらつきとか。
まぁ、最悪のシナリオはいくらでも描けるわけですから、まったくもってアジアがダメになると考えるのもどうかと思いますけど、「これからはアジアの時代だ!」なんていう雰囲気は薄らいできているのかもしれません。
2017年3月21日火曜日
2017年3月2日木曜日
“Death by China: Confronting The Dragon--- A Global Call to Action”
“Death by China: Confronting The Dragon--- A Global Call to Action”を読んだ。トランプ大統領が新設したNational Trade CouncilのDirectorに任命されたPeter Navarroカリフォルニア大学アーバイン校教授が書いた本です。南カリフォルニア大学の非常勤教授だったGreg Autryとの共著です。2011年5月に出版されました。
トランプ大統領は2016年12月21日にナバロ氏をNTCのトップに任命すると発表したときの声明で、こんな風に述べています。
“I read one of Peter’s books on America’s trade problems years ago and was impressed by the clarity of his arguments and thoroughness of his research,"
"He has presciently documented the harms inflicted by globalism on American workers, and laid out a path forward to restore our middle class. He will fulfill an essential role in my administration as a trade advisor."
出版のタイミングからみて、トランプ大統領はこの本を読んで感銘を受けたのだと思います。
この本があることは数年前から知っていたのですが、タイトルが過激なものですから「ちょっとトンデモ系の本なのかな」と思って敬遠していました。でも、ちょっとトンデモな人が大統領になって、しかも著者が重用されているということなので、急いで読んでみた次第です。
いかに中国が悪い国かということを啓蒙するために書いた本のようです。”Death by China”というタイトルは誇張して付けたわけではないようで、実際に中国製品の欠陥でたくさんの人が死んでいるとか、中国国内の人権弾圧でたくさんの人が死んでいるとか、中国の環境汚染はたくさんの人を殺しているとか、そういった話がたくさん出てきます。天安門広場の事件もその一例です。さらに中国の軍事力拡大や宇宙開発の促進が米国にとっての安全保障上の脅威になっているという分析もされています。
で、そういった例のなかに、中国が為替操作や企業に対する補助金で輸出価格を不正に引き下げて、米国の製造業に大きな打撃を与えてきたという批判も含まれています。ナバロ氏は中国の経済政策には外国の製造業を破壊する狙いがあるとして、”Eight Weapons of Job Destruction”と名付けた8つの問題点を挙げています。
・違法な輸出補助金
・為替操作
・知的財産の盗用
・緩い環境規制
・緩い労働規制
・違法な関税、輸入割当などの障壁
・ダンピング
・外国企業の進出を拒む規制
こういった話は別にナバロ氏だけが指摘しているわけじゃなくて、オバマ政権下での対中国外交でも繰り返し問題にされてきました。中国の経済政策について詳しいわけじゃないですが、米国企業からそういった不満が出ていることは間違いないです。
ただ、オバマ政権下では「そういった問題はあるけれども、時間をかけて解決を探っていきましょう。気候変動問題とかでは協力できる余地はあるよね」という立場でしたが、ナバロ氏は「こうした問題は非常に大事なことだから、時間をかけて解決するなんていう生ぬるいことではないけない。即刻解決するべきだ」という立場をとっています。もう中国のことなんて、1ミリも信用していないという感じです。
ナバロ氏はこうした問題点がある中国に対して、米国が自由貿易の精神で関わることは大きな間違いだとしています。
“While free trade is great in theory, it rarely exists in the real world. Such conditions are no more found on Earth than the airless, frictionless realm assumed by high-school physics text. In the case of China v. the United States, this seductive free trade theory is very much like a marriage: It doesn’t work if one country cheats on the other.”
ということです。ナバロ氏の結婚生活も気になるところですが、「自由貿易なんてものは存在しないんだ」という主張は分かります。”The Undoing Project”でも経済学の前提自体が間違っているという話があっただけに、経済学の理論ばかりを重視するのもどうかなと思います。
また、ナバロ氏は製造業というのは国家にとって極めて重要だとして、4つの理由を挙げています。
・製造業はサービス業よりも雇用創出効果が大きい。建設とか金融とか小売りとか運輸とかにも影響が広がっていくから。
・製造業の賃金は平均よりも高い。特に女性やマイノリティへのチャンスとなる。
・製造業が強いと、技術革新も進む。長期的に強い経済を維持できるようになる。
・ボーイング、キャタピラー、GMなどの巨大な製造業企業に依存する中小企業がたくさんある。
こういった主張もよくあります。何もナバロ氏だけが極端な話をしているわけではありません。
あと、これまでに読んだ本のなかでも、米国の製造業で働く人たちが高い誇りを抱いているっていう話もよく出てきました。「製造業が衰退すれば、サービス業で働けばいいじゃないか」っていうのは理屈としてはそうかもしれませんが、製造業で働くのが性に合っている人もいます。「製造業は大事」というのはその通りだと思います。
つまり、製造業はものすごく大事なのに、米国の製造業が中国の不正によって衰退させられているから、これは何としてでも解決せねばならないということですね。うん。分かります。
ナバロ氏はこんなことも言っています。
“When America runs a chronic trade deficit with China, this shaves critical points off our economic growth rate. This slower growth rate, in turn, thereby reduces the number of jobs America creates.”
“If America wants to reduce its overall trade deficit to increase its growth rate and create more jobs, the best place to start is with currency reform with China!”
貿易赤字が成長率を引き下げる要因であることは分かります。これは統計上の定義の話です。ただ、成長率が低ければ雇用増のペースが鈍るとか、中国の為替操作をやめさせれば貿易赤字が減るといった理屈が正しいのかどうかは分かりません。それこそ経済学の理論ではそういうことになるのかもしれませんが、実際の世界ではそんなことにはならないなんていう反論もあるんじゃないでしょうか。
まぁ、とはいえ、トランプ大統領に重用されている人物がこう考えているということは間違いないです。
あと、中国政府が多くの米国債を保有するために、以下のような手法をとっているとも指摘しています。
・中国企業は米国への輸出で多くのドルを受け取っている
・中国政府は中国企業に、ドル建ての中国政府債の購入を強要して、ドルを蓄える
・中国政府がドル建ての米国債を購入する
で、中国が米国債をたくさん保有していることは、いざとなったら「米国債を売って、ドル相場を急落させたり、米国の金利を急上昇させてやるぞ」と脅迫できることを意味します。これも割とよく言われることです。また、中国政府が米国債を購入しなければ、米国にとって国債発行の負担が増すわけですから、そもそも米国の財政は中国に依存しているということにもなります。
ナバロ氏は中国が世界中の企業にとっての生産拠点になったきっかけを、1978年に中国共産党が”opened China’s Worker’s Paradise to the West”したことだとしています。中国が何をしたのかは詳しく書いていないですが、カーター政権下で米中共同宣言が出された年ですね。何かあったんだと思いますが、これをきっかけに、おもちゃとかスニーカーとか自転車とか、そういった業種が中国の安い労働力を目当てに製造拠点を移し始めたそうです。
で、2001年に中国がWTOに加盟すると、さらに製造業の移転が進みます。ナバロ氏はこのときは1978年以降とは違い、米国企業は安い労働力だけでなく、中国の補助金とか環境規制の緩さもメリットとして考えていたと主張します。労働力が安い国なら、バングラディシュやカンボジアやベトナムなんていう国もあったことを理由としてあげています。つまりナバロ氏にすれば、米国企業も最初から中国の不正をあてにしていたという意味で、中国と同罪だということです。
そして中国への製造業の移転は現在も続いています。WTO加盟時は生産拠点としての魅力でしたが、今は中国の市場としての魅力も加わっています。中国政府は、外国企業に”minority ownership”しか認めず、”technology transfer”を強要し、研究開発拠点を中国に移すことを強いています。
ナバロ氏はこういう中国の不正な経済活動に対してどんな対応をとればいいのかという提言もしています。
まず、出てくるのが、
“Congress and the President must tell China in no uncertain terms that the United States will no longer tolerate its anything-but-free trade assault on our manufacturing base”
そのうえで、”American Free and Fair Trade Act”を制定するよう求めています。この法律が定めるところは、
“Any nation wishing to trade freely in manufactured goods with the United States must abandon all illegal export subsidies, maintain a fairly valued currency, offer strict protections for intellectual property, uphold environmental and health and safety standards that meet international norms, provide for an unrestricted global market in energy and raw materials, and offer free and open access to its domestic markets, including media and Internet services”
ということだそうです。
ナバロ氏は中国を名指ししているわけじゃなから、直接的な対決は避けられるとしていますが、これまでのナバロ氏の主張からして、「中国とは自由貿易できません」と宣言するのと同じことだと思います。
あと、ナバロ氏は欧州、ブラジル、日本、インド、その他の中国の不正な経済政策の被害にあっている国々と共に、WTOに対して中国にルールを遵守させるよう訴えるともしています。
さらに為替操作については、中国がそう簡単に止めるわけもないと認めていて、水面下での米中交渉を進めるべきだとしています。で、この際に、中国に伝える内容は、
“The United States will have no other choice than to brand China a currency manipulator at the next biennial Treasury Review and impose appropriate countervailing duties unless China strengthens its currency to fair value on its own”
ということです。つまり中国に対して自ら人民元安を是正しないなら、対抗措置として関税をかけるぞと脅すということですね。
でも、中国が脅しに応じない可能性だってあるわけです。その場合は、
“Of course, if China fails to act in a timely manner, the Department of the Treasury must follow through on branding China a currency manipulator and impose appropriate defensive duties to bring the Chinese yuan to fair value”
だそうです。もう貿易戦争やむなしって感じですね。
こうしたナバロ氏の立場に対しては、「米国の製造業が安価な労働力を求めて海外に流出することは避けられないことだし、中国との貿易赤字を解消したって、どうせベトナムとかインドとかバングラみたいな国の製造業が儲かるだけでしょ」なんていう批判があります。まぁ、そうなんだろうな、とも思います。
しかしナバロ氏は反論します。
“We believe the American companies and workers can compete with any in the world on a level playing field, particularly manufacturing where automation and ingenuity often trump manual labor”
そして例え、中国に不正を改めさせることがベトナムとかインドとかバングラに潤いをもたらすだけだったとしても、それはそれで素晴らしいことじゃないかとも言っています。とにかく不正なことをしている中国が世界経済の真ん中に居座っていることは、極めて不健全で、危険なことだというわけです。
この本では中国のサイバー攻撃とか人権問題とか通商政策以外の点についても解決策を提言しています。それぞれ過激だったり、面白かったりしますが、割愛。
まとめますと、ナバロ氏は中国のことを全く信頼していません。後書きでは1989年の天安門事件以降の中国を、ナチ政権下のドイツやスターリン政権下のソ連と同じ扱いにしています。さらに中国による宇宙開発の章なんかでは、”There’s a Death Star Pointing at Chicago”なんていうタイトルもあったりして、中国は銀河帝国と同じぐらい悪いわけです。だから貿易戦争も辞さないというのも当然といえば当然の話です。ちょっと言い過ぎなんじゃないかという気もします。
ただ、「米国に製造業を取り戻す」というのはまともな主張だと思います。グローバリゼーションの進展していった時期と、先進国経済が元気がなくなっていった時期は重なっているわけで、何かしらの関係があるんじゃないかと主張する気持ちは分かります。そんななかでも米国経済は頑張ってきたわけですけど、ここにきてトランプ大統領という強烈なキャラクターが登場したことで、「中国みたいな国があることを考えれば、グローバリズムが常に正しいわけではない」という考え方が表に出てきたということになるんだと思います。
ただ、中国にとっては現在の状況は居心地のいいものであるわけで、中国は現状の変更は望んでいない。日米欧が結束して、中国をWTOから追い出すとか、逆にWTOから出て行って新しい通商圏を作ってしまうとか、そんな「貿易大戦争」っていうシナリオもあるのかもしれませんが、そうなっちゃうと、どうなっちゃうんだという感じもします。
トランプ大統領が「ソ連を崩壊させたレーガン」のイメージを追って、「中国共産党による経済支配を終わらせたトランプ」みたいな路線を目指したりして。実際にそうするかどうかは別にして、トランプ大統領の脳裏にそんなシナリオがないわけじゃないんだと思います。
トランプ大統領は2016年12月21日にナバロ氏をNTCのトップに任命すると発表したときの声明で、こんな風に述べています。
“I read one of Peter’s books on America’s trade problems years ago and was impressed by the clarity of his arguments and thoroughness of his research,"
"He has presciently documented the harms inflicted by globalism on American workers, and laid out a path forward to restore our middle class. He will fulfill an essential role in my administration as a trade advisor."
出版のタイミングからみて、トランプ大統領はこの本を読んで感銘を受けたのだと思います。
この本があることは数年前から知っていたのですが、タイトルが過激なものですから「ちょっとトンデモ系の本なのかな」と思って敬遠していました。でも、ちょっとトンデモな人が大統領になって、しかも著者が重用されているということなので、急いで読んでみた次第です。
いかに中国が悪い国かということを啓蒙するために書いた本のようです。”Death by China”というタイトルは誇張して付けたわけではないようで、実際に中国製品の欠陥でたくさんの人が死んでいるとか、中国国内の人権弾圧でたくさんの人が死んでいるとか、中国の環境汚染はたくさんの人を殺しているとか、そういった話がたくさん出てきます。天安門広場の事件もその一例です。さらに中国の軍事力拡大や宇宙開発の促進が米国にとっての安全保障上の脅威になっているという分析もされています。
で、そういった例のなかに、中国が為替操作や企業に対する補助金で輸出価格を不正に引き下げて、米国の製造業に大きな打撃を与えてきたという批判も含まれています。ナバロ氏は中国の経済政策には外国の製造業を破壊する狙いがあるとして、”Eight Weapons of Job Destruction”と名付けた8つの問題点を挙げています。
・違法な輸出補助金
・為替操作
・知的財産の盗用
・緩い環境規制
・緩い労働規制
・違法な関税、輸入割当などの障壁
・ダンピング
・外国企業の進出を拒む規制
こういった話は別にナバロ氏だけが指摘しているわけじゃなくて、オバマ政権下での対中国外交でも繰り返し問題にされてきました。中国の経済政策について詳しいわけじゃないですが、米国企業からそういった不満が出ていることは間違いないです。
ただ、オバマ政権下では「そういった問題はあるけれども、時間をかけて解決を探っていきましょう。気候変動問題とかでは協力できる余地はあるよね」という立場でしたが、ナバロ氏は「こうした問題は非常に大事なことだから、時間をかけて解決するなんていう生ぬるいことではないけない。即刻解決するべきだ」という立場をとっています。もう中国のことなんて、1ミリも信用していないという感じです。
ナバロ氏はこうした問題点がある中国に対して、米国が自由貿易の精神で関わることは大きな間違いだとしています。
“While free trade is great in theory, it rarely exists in the real world. Such conditions are no more found on Earth than the airless, frictionless realm assumed by high-school physics text. In the case of China v. the United States, this seductive free trade theory is very much like a marriage: It doesn’t work if one country cheats on the other.”
ということです。ナバロ氏の結婚生活も気になるところですが、「自由貿易なんてものは存在しないんだ」という主張は分かります。”The Undoing Project”でも経済学の前提自体が間違っているという話があっただけに、経済学の理論ばかりを重視するのもどうかなと思います。
また、ナバロ氏は製造業というのは国家にとって極めて重要だとして、4つの理由を挙げています。
・製造業はサービス業よりも雇用創出効果が大きい。建設とか金融とか小売りとか運輸とかにも影響が広がっていくから。
・製造業の賃金は平均よりも高い。特に女性やマイノリティへのチャンスとなる。
・製造業が強いと、技術革新も進む。長期的に強い経済を維持できるようになる。
・ボーイング、キャタピラー、GMなどの巨大な製造業企業に依存する中小企業がたくさんある。
こういった主張もよくあります。何もナバロ氏だけが極端な話をしているわけではありません。
あと、これまでに読んだ本のなかでも、米国の製造業で働く人たちが高い誇りを抱いているっていう話もよく出てきました。「製造業が衰退すれば、サービス業で働けばいいじゃないか」っていうのは理屈としてはそうかもしれませんが、製造業で働くのが性に合っている人もいます。「製造業は大事」というのはその通りだと思います。
つまり、製造業はものすごく大事なのに、米国の製造業が中国の不正によって衰退させられているから、これは何としてでも解決せねばならないということですね。うん。分かります。
ナバロ氏はこんなことも言っています。
“When America runs a chronic trade deficit with China, this shaves critical points off our economic growth rate. This slower growth rate, in turn, thereby reduces the number of jobs America creates.”
“If America wants to reduce its overall trade deficit to increase its growth rate and create more jobs, the best place to start is with currency reform with China!”
貿易赤字が成長率を引き下げる要因であることは分かります。これは統計上の定義の話です。ただ、成長率が低ければ雇用増のペースが鈍るとか、中国の為替操作をやめさせれば貿易赤字が減るといった理屈が正しいのかどうかは分かりません。それこそ経済学の理論ではそういうことになるのかもしれませんが、実際の世界ではそんなことにはならないなんていう反論もあるんじゃないでしょうか。
まぁ、とはいえ、トランプ大統領に重用されている人物がこう考えているということは間違いないです。
あと、中国政府が多くの米国債を保有するために、以下のような手法をとっているとも指摘しています。
・中国企業は米国への輸出で多くのドルを受け取っている
・中国政府は中国企業に、ドル建ての中国政府債の購入を強要して、ドルを蓄える
・中国政府がドル建ての米国債を購入する
で、中国が米国債をたくさん保有していることは、いざとなったら「米国債を売って、ドル相場を急落させたり、米国の金利を急上昇させてやるぞ」と脅迫できることを意味します。これも割とよく言われることです。また、中国政府が米国債を購入しなければ、米国にとって国債発行の負担が増すわけですから、そもそも米国の財政は中国に依存しているということにもなります。
ナバロ氏は中国が世界中の企業にとっての生産拠点になったきっかけを、1978年に中国共産党が”opened China’s Worker’s Paradise to the West”したことだとしています。中国が何をしたのかは詳しく書いていないですが、カーター政権下で米中共同宣言が出された年ですね。何かあったんだと思いますが、これをきっかけに、おもちゃとかスニーカーとか自転車とか、そういった業種が中国の安い労働力を目当てに製造拠点を移し始めたそうです。
で、2001年に中国がWTOに加盟すると、さらに製造業の移転が進みます。ナバロ氏はこのときは1978年以降とは違い、米国企業は安い労働力だけでなく、中国の補助金とか環境規制の緩さもメリットとして考えていたと主張します。労働力が安い国なら、バングラディシュやカンボジアやベトナムなんていう国もあったことを理由としてあげています。つまりナバロ氏にすれば、米国企業も最初から中国の不正をあてにしていたという意味で、中国と同罪だということです。
そして中国への製造業の移転は現在も続いています。WTO加盟時は生産拠点としての魅力でしたが、今は中国の市場としての魅力も加わっています。中国政府は、外国企業に”minority ownership”しか認めず、”technology transfer”を強要し、研究開発拠点を中国に移すことを強いています。
ナバロ氏はこういう中国の不正な経済活動に対してどんな対応をとればいいのかという提言もしています。
まず、出てくるのが、
“Congress and the President must tell China in no uncertain terms that the United States will no longer tolerate its anything-but-free trade assault on our manufacturing base”
そのうえで、”American Free and Fair Trade Act”を制定するよう求めています。この法律が定めるところは、
“Any nation wishing to trade freely in manufactured goods with the United States must abandon all illegal export subsidies, maintain a fairly valued currency, offer strict protections for intellectual property, uphold environmental and health and safety standards that meet international norms, provide for an unrestricted global market in energy and raw materials, and offer free and open access to its domestic markets, including media and Internet services”
ということだそうです。
ナバロ氏は中国を名指ししているわけじゃなから、直接的な対決は避けられるとしていますが、これまでのナバロ氏の主張からして、「中国とは自由貿易できません」と宣言するのと同じことだと思います。
あと、ナバロ氏は欧州、ブラジル、日本、インド、その他の中国の不正な経済政策の被害にあっている国々と共に、WTOに対して中国にルールを遵守させるよう訴えるともしています。
さらに為替操作については、中国がそう簡単に止めるわけもないと認めていて、水面下での米中交渉を進めるべきだとしています。で、この際に、中国に伝える内容は、
“The United States will have no other choice than to brand China a currency manipulator at the next biennial Treasury Review and impose appropriate countervailing duties unless China strengthens its currency to fair value on its own”
ということです。つまり中国に対して自ら人民元安を是正しないなら、対抗措置として関税をかけるぞと脅すということですね。
でも、中国が脅しに応じない可能性だってあるわけです。その場合は、
“Of course, if China fails to act in a timely manner, the Department of the Treasury must follow through on branding China a currency manipulator and impose appropriate defensive duties to bring the Chinese yuan to fair value”
だそうです。もう貿易戦争やむなしって感じですね。
こうしたナバロ氏の立場に対しては、「米国の製造業が安価な労働力を求めて海外に流出することは避けられないことだし、中国との貿易赤字を解消したって、どうせベトナムとかインドとかバングラみたいな国の製造業が儲かるだけでしょ」なんていう批判があります。まぁ、そうなんだろうな、とも思います。
しかしナバロ氏は反論します。
“We believe the American companies and workers can compete with any in the world on a level playing field, particularly manufacturing where automation and ingenuity often trump manual labor”
そして例え、中国に不正を改めさせることがベトナムとかインドとかバングラに潤いをもたらすだけだったとしても、それはそれで素晴らしいことじゃないかとも言っています。とにかく不正なことをしている中国が世界経済の真ん中に居座っていることは、極めて不健全で、危険なことだというわけです。
この本では中国のサイバー攻撃とか人権問題とか通商政策以外の点についても解決策を提言しています。それぞれ過激だったり、面白かったりしますが、割愛。
まとめますと、ナバロ氏は中国のことを全く信頼していません。後書きでは1989年の天安門事件以降の中国を、ナチ政権下のドイツやスターリン政権下のソ連と同じ扱いにしています。さらに中国による宇宙開発の章なんかでは、”There’s a Death Star Pointing at Chicago”なんていうタイトルもあったりして、中国は銀河帝国と同じぐらい悪いわけです。だから貿易戦争も辞さないというのも当然といえば当然の話です。ちょっと言い過ぎなんじゃないかという気もします。
ただ、「米国に製造業を取り戻す」というのはまともな主張だと思います。グローバリゼーションの進展していった時期と、先進国経済が元気がなくなっていった時期は重なっているわけで、何かしらの関係があるんじゃないかと主張する気持ちは分かります。そんななかでも米国経済は頑張ってきたわけですけど、ここにきてトランプ大統領という強烈なキャラクターが登場したことで、「中国みたいな国があることを考えれば、グローバリズムが常に正しいわけではない」という考え方が表に出てきたということになるんだと思います。
ただ、中国にとっては現在の状況は居心地のいいものであるわけで、中国は現状の変更は望んでいない。日米欧が結束して、中国をWTOから追い出すとか、逆にWTOから出て行って新しい通商圏を作ってしまうとか、そんな「貿易大戦争」っていうシナリオもあるのかもしれませんが、そうなっちゃうと、どうなっちゃうんだという感じもします。
トランプ大統領が「ソ連を崩壊させたレーガン」のイメージを追って、「中国共産党による経済支配を終わらせたトランプ」みたいな路線を目指したりして。実際にそうするかどうかは別にして、トランプ大統領の脳裏にそんなシナリオがないわけじゃないんだと思います。
2016年5月13日金曜日
"The Paper Menagerie and other stories"
"The Paper Menagerie and other stories"を読んだ。中国出身のSF・ファンタジー作家、Ken Liu(ケン・リュウ)の短編集です。米国版は2016年3月出版。日本版の短編集「紙の動物園」は2015年4月に出ています。短編集ですから、それぞれの作品はそれより先に発表されていて、日本の方で先に短編集が出たってことなんでしょうね。
表題作の"The Paper Menagerie"は2011年発表。この年のヒューゴー賞ショート・ストーリー部門、ネビュラ賞ショート・ストーリー部門、世界幻想文学大賞短編部門賞の三冠を獲得しました。これが日本のSFマガジン2013年3月号に掲載されています。
いつもチェックしている前川淳という折り紙作家のブログで2014年6月と2015年5月に「紙の動物園」が紹介されていて、読んでみたいなと思っていました。そしたら英語の短編集も最近になって出たということで、早速購入してみた次第です。
日本語版、英語版とも15編の収録ですが、作品は異なっています。同じなのは7作品。
The Paper Menagerie(紙の動物園)
Good Hunting(良い狩りを)
Mono No Aware(もののあわれ)
A Brief History of The Trans-Pacific Tunnel(太平洋横断海底トンネル小史)
The Waves(波)
The Bookmaking Habits of Select Species(選抜宇宙種族の本づくり習性)
The Literomancer(文字占い師)
英語版だけに載っている8作品は以下の通り。
State Change
The Perfect Match
Simulacrum
The Regular
An Advanced Readers' Picture Book of Comparative Cognition
All the Flavors
The Litigation Master and the Monkey King
The Man Who Ended History: A Documentary
どの作品も面白いです。
日本語版と共通作品のなかでは、「紙の動物園」「もののあわれ」「波」「文字占い師」、
英語版のみの作品のなかでは、
インターネットの検索を牛耳る企業による情報統制が常態化した社会を描く"The Perfect Match"
サイボーグ化した中国系米国人の女性のアクション活劇"The Regular"、
19世紀のゴールドラッシュで西海岸にやってきた中国人労働者の集団と三国志の関羽雲長のストーリーをごちゃませにした"All the Flavors"、
不都合な歴史を押し隠そうとする清王朝とそれに抵抗する詭弁家の男の話を西遊記で味付けした"The Litigation Master and the Monkey King"、
意識だけをタイムトリップさせて過去を観察する技術を開発した日系女性物理学者と、その夫で第二次世界大戦中の日本の731部隊の実体を世に知らしめようとする歴史家の男性の行動をとりあげながら、歴史と現在の関係性について考察した"The Man Who Ended History: A Documentary"
なんかが印象的です。
ケン・リュウさんは中国の甘粛省蘭州市生まれで11歳で渡米したということです。中国、台湾、日本の文化や歴史にも詳しいのでしょう。「もののあわれ」では典型的な日本人観に基づいた日本人を描いています。一方、"The Man Who Ended History: A Documentary"では、第二次世界大戦中の日本人による残虐な行為を中国視点で描きつつ、日本としての「歴史的な過ちは認めるんだけれど、過去の行為を否定しきってしまうこともできない」という悩ましい内面も描いています。
また別の本も読んでみたい。
表題作の"The Paper Menagerie"は2011年発表。この年のヒューゴー賞ショート・ストーリー部門、ネビュラ賞ショート・ストーリー部門、世界幻想文学大賞短編部門賞の三冠を獲得しました。これが日本のSFマガジン2013年3月号に掲載されています。
いつもチェックしている前川淳という折り紙作家のブログで2014年6月と2015年5月に「紙の動物園」が紹介されていて、読んでみたいなと思っていました。そしたら英語の短編集も最近になって出たということで、早速購入してみた次第です。
日本語版、英語版とも15編の収録ですが、作品は異なっています。同じなのは7作品。
The Paper Menagerie(紙の動物園)
Good Hunting(良い狩りを)
Mono No Aware(もののあわれ)
A Brief History of The Trans-Pacific Tunnel(太平洋横断海底トンネル小史)
The Waves(波)
The Bookmaking Habits of Select Species(選抜宇宙種族の本づくり習性)
The Literomancer(文字占い師)
英語版だけに載っている8作品は以下の通り。
State Change
The Perfect Match
Simulacrum
The Regular
An Advanced Readers' Picture Book of Comparative Cognition
All the Flavors
The Litigation Master and the Monkey King
The Man Who Ended History: A Documentary
どの作品も面白いです。
日本語版と共通作品のなかでは、「紙の動物園」「もののあわれ」「波」「文字占い師」、
英語版のみの作品のなかでは、
インターネットの検索を牛耳る企業による情報統制が常態化した社会を描く"The Perfect Match"
サイボーグ化した中国系米国人の女性のアクション活劇"The Regular"、
19世紀のゴールドラッシュで西海岸にやってきた中国人労働者の集団と三国志の関羽雲長のストーリーをごちゃませにした"All the Flavors"、
不都合な歴史を押し隠そうとする清王朝とそれに抵抗する詭弁家の男の話を西遊記で味付けした"The Litigation Master and the Monkey King"、
意識だけをタイムトリップさせて過去を観察する技術を開発した日系女性物理学者と、その夫で第二次世界大戦中の日本の731部隊の実体を世に知らしめようとする歴史家の男性の行動をとりあげながら、歴史と現在の関係性について考察した"The Man Who Ended History: A Documentary"
なんかが印象的です。
ケン・リュウさんは中国の甘粛省蘭州市生まれで11歳で渡米したということです。中国、台湾、日本の文化や歴史にも詳しいのでしょう。「もののあわれ」では典型的な日本人観に基づいた日本人を描いています。一方、"The Man Who Ended History: A Documentary"では、第二次世界大戦中の日本人による残虐な行為を中国視点で描きつつ、日本としての「歴史的な過ちは認めるんだけれど、過去の行為を否定しきってしまうこともできない」という悩ましい内面も描いています。
また別の本も読んでみたい。
2015年1月16日金曜日
U.S.-Chinise Relations: Perilous Past, Pragmatic Present (Second Edition)
“U.S.-Chinise Relations: Perilous Past, Pragmatic Present (Second Edition)”という本を読み終わりました。米国のアジア外交の研究者である、ジョージ・ワシントン大学のロバート・サター教授の本です。1968年~2001年までは議会調査局とかCIAとか国務省とか上院外交委員会で働いていたそうで、知人によると、事実関係を冷静に積み上げていく研究手法で知られている人だそうです。ニクソンの本を読んだときに、1972年のニクソン訪中の話が出てきたんで、米中関係の歴史を学んでおこうかというつもりで読みました。勉強になりました。長いですが。
米中関係の歴史は長いわけですが、19世紀の終わり以降の欧州の列強や日本が中国大陸に進出していたころには、米国は中国で目立った活動をしていませんでした。一部の外交官とかビジネスマンとか宣教師とかは中国にいたけど、欧州や日本のように領土を奪ってしまおうなどと画策するわけではなかった。日本の関東軍が満州事変を起こしたのは1931年ですが、そのころの米国の指導者たちは1929年からの大恐慌への対応に手をとられている時期だった。そのため、「中国の領土的統一を支持する」なんてコメントするに留めて、積極的に中国の見方をするわけでもなく、列強と一緒に中国大陸で領土を分捕ろうとするわけでもなかった。内向きだったんですね。
で、1941年の真珠湾攻撃で日米が開戦すると、米国の中国大陸での存在感も増していく。米国は中国での共産党と国民党の対立については国民党を支持する。共産党はソ連とつながっているわけだし、そもそも共産党軍ってそんなに強くないんじゃないのという見立てもあった。これに対して共産党内では「国民党を支持する米国はやっぱり悪い国だな」という印象が強まる。その後、米国の見立てが外れるかたちで、国共内戦は共産党の勝利で終結。共産党は1949年の中華人民共和国建国後もソ連と連携を続け、中国と米国は対立の道に進んでいく。冷戦の始まりです。
米国は冷戦期の最初のころ、中国を封じ込めようとした。1954年には台湾との間で相互防衛条約を締結して、台湾危機が起きる。ただし中国はスターリン死後のソ連が米中の対立に巻き込まれることに慎重になっていったこともあり、米国に対して強硬な態度をとれるような状態でもなかった。このため台湾危機は収束に向かいます。また中国とソ連の間では路線対立が激しくなって、ソ連が1960年に中国への援助を停止したり、中国が1962年のキューバ危機でソ連が米国との対決を避けたことを批判するといった応酬もあった。当時はソ連と中国の間では国境問題もあったそうです。そんななかで1972年のニクソン訪中が実現します。
ニクソン政権がどのような判断で中国との国交回復に向かったかもよく分からない。というのも多くの資料が非公開となっているうえ、関係者の証言が事実と食い違っていたりするんだそうです。ただし米国はベトナム戦争の失敗とソ連のアジアなどでの影響力拡大を懸念して、中国との関係強化を図ろうとしていたことははっきりしているし、ニクソンが米中関係の改善を米国内での支持固めに利用して、1972年の再選を確実にしようとしたことも明らか。実際、ニクソンの判断は国内で支持された。
またニクソン訪中のころ、中国側でどのような意志決定があったのかも不明だそうですが、文化大革命を生き延びた葉剣英が毛沢東に対して、米国との関係強化でソ連の脅威に対応するよう助言していたことは分かっている。1970年代はソ連が中ソ国境に核ミサイルを配置したり、中国沿岸での海軍活動を強化したり、ベトナムでの軍事的プレゼンスを強めていたりした時期。ニクソン政権やフォード政権がソ連とのデタントに向かっていることに中国は不満を抱いていたという状況だった。
で、その後、米中間で国交正常化に向けた協議が続けられた。カーター政権下の1978年に発表された米中共同声明は、米中の国交を樹立するとともに、米国は中華人民共和国が正式な中国政府で、台湾は中国の一部であることを認め、台湾との国交や防衛条約を終わらせるというものだった。一方で、米国は台湾への武器供与を続けるともしている。ただ、カーターとブレジンスキー補佐官は中国との交渉を秘密裏に進めており、共同宣言の内容には議会からは、「台湾との国交を断絶する必要はないじゃないか」といった強い批判が出た。で、議会は1979年に台湾関係法(Taiwan Relation Act)を通し、カーターもこれに署名する。台湾関係法はもともとカーター政権主導の法案だったが、議会が武器供与や経済関係や人権や議会による監視や武力行使への反対といった内容を付け加えた。
ソ連が1979年にアフガンに侵攻して米ソ間のデタントが崩壊すると、中国はソ連が米国と仲良くなって、余裕をもって中国にプレシャーをかけるという事態を心配しなくてもよくなった。で、1981~82年ごろには、ソ連と関係を改善して、米国に厳しい態度を取るという方向性が模索された。一方、レーガンは1980年の大統領選挙戦でカーターの台湾政策を批判し、当選後も基本的には台湾関係法に軸足を置いた対中国外交をとるんだと主張した。しかし実際には、ヘイグ国務長官は米中関係を重視し、台湾への武器供与に反対したりした。1982年8月の第三次米中共同声明では、米国は台湾への武器供与を段階的に減らし、中国は台湾との平和的な統一を目指すとされた。共同声明は玉虫色の内容で、レーガン政権はその後も台湾へのサポートを続けたんだけど、ヘイグ国務長官時代は対中融和路線が強かったということです。
ただ、共同声明発表直前に就任したシュルツ国務長官は、ポール・ウォルフォビッツ、リチャード・アーミテージらを起用して対中強硬外交に転じ、日本や他の東アジア諸国との関係強化を重視していく。
シュルツらが方針を転換した理由には、
○中国が米ソデタント崩壊後に米国に厳しい態度をとるようになったのをみて、中国は米国と協力する気がないのだと見切りをつけた
○中国は国内経済の改革に忙しくて、東アジアで無茶をすることはないとの判断もあった
○レーガン政権は軍事力を強化したので、中国なしでソ連と対決することへの自信が出ていた
○中曽根内閣下の日本との同盟関係強化が進んでいた
なんていうものがあったそうです。こうした米国の強硬な態度をみて、中国は米国に厳しい態度をとる方向性を改めて米国との関係強化に乗り出し、台湾のことでやかましく言うのを控えるようになる。中国は経済成長のためには欧米との関係強化が重要だという事情もあった。レーガンが1984年に訪中した際には温かく迎えられた。
で、1989年に天安門事件が起きる。この結果、米国の中国に対する印象は大幅に悪化した。さらに1991年にはソ連が崩壊。米国がソ連への対抗のために中国と連携する必要は薄れる。一方で台湾では民主化が進んでいて、米国内で台湾の人気が高まる。米中関係にとって良い材料がなくなった時期です。それでも父ブッシュは中国との現実的な関係維持を図りますが、議会から弱腰批判を受けて、1992年の再選に失敗していまいます。
一方の中国は国内の安定化に力を注ぎつつ、米国など西側が共産党体制や台湾、チベット、香港などの問題に介入することを批判した。ただ、鄧小平が1992年に南巡講和を行って、1993年からの経済成長が始まると、米国もそれに注目するようになる。中国も経済成長のためには米国との決定的な対立は避ける方針をとる。
1993年に就任したクリントンは中国の人権問題と米中貿易をリンクさせる姿勢をとって支持されたが、議会や産業界からは反発が強まった。その結果、クリントンは1994年に人権問題と米中貿易のリンクを終わらせる。一方で米国内の台湾支持派は台湾の李登輝総統が私人として米国を訪問するよう認めるよう要求。米政府はビザ発行を認めない方針を示したが、その後、クリントンが訪問を容認し、1995年に李登輝の訪問が実現した。これに反発する中国が台湾海峡で大規模な軍事演習を行い、クリントンは空母を同海域に派遣し、第三次台湾海峡危機に至った。でも、クリントンとしても決定的な対立は避けたいので、1997年と1998年に米中首脳会談がもたれ、1999年に中国がWTOに加盟することが承認される。クリントンは、中国に対するPermanent Normal Trade Relations(PNTR)を認める法律が2000年に成立することも確約。大統領が議会に諮ることなく、最恵国待遇が毎年更新されることになった。このあたりの米国の対応は腰が定まっていない感じです。
一方の中国側では1999年に米国がユーゴスラビアの首都、ベオグラードで中国大使館を誤爆したことへの反発が出たが、やはり米国との対立は避ける方針が採られた。米国は世界で唯一の超大国で、米国との関係維持は中国の経済発展にとって不可欠。観光や日本、南シナ海、台湾などに影響力がある米国との良好な関係を維持せねばならないとの判断だった。
2001年に就任した子ブッシュは対中関係よりも日本などとの関係を重視したうえ、ロシアやインドとも関係を強化しようとした。中国に対しては人権や台湾の問題を積極的に取り上げたし、中国が大量破壊兵器を拡散させたとして経済制裁も打ち出した。シュルツ国務長官のもとで働いたアーミテージが国務次官補になったことは偶然ではない。このため2001年4月に南シナ海上空で米軍機と中国軍の戦闘機が衝突する事件(海南島事件)が起きた際は米中関係が悪化すると予想された。でも、双方は冷静に対応し、この時期の米中関係は良好だった。もちろん2001年9月の米中枢同時多発テロで中国の重要性が薄れたことも要因です。また中国が政権移行期前の国内問題が難しい時期にあったことも影響している。しかしサターさんは、子ブッシュ政権が中国に対する厳しい姿勢を打ち出していたことが最も重要な要因だとします。
良好な関係を築いた米中は北朝鮮の核問題で連携し、子ブッシュは台湾の陳水扁総統に独立に向けたステップを採らないように戒めた。一方では、中国の経済発展に伴って米国内には、中国との貿易赤字、知的財産権の取扱い、為替レートの水準、中国による米国債購入、中国によるユノカル買収なんかの問題が意識されるようになった。2006年の中間選挙で民主党が勝利し、議会が子ブッシュ政権に対中政策の変更を迫るとの観測もあった。でも、子ブッシュ政権は中国を為替操作国と認定することを拒否。中国の人権問題に対する懸念も、中国でのビジネスチャンスへの期待で相殺された。
2006年ごろの中国の要人発言や文書にみられる外交方針は、
○国際社会で超大国を目指す
○中国の経済発展の基盤となる安定的な外交環境を追及する
○中国の発展を阻害するような国際的な公約は避ける
○中国の国内外での成功は中国に応分の責任を求める国際社会との緊密な関係にかかっていることを認識する
といったようなものだったそうです。
2009年に発足したオバマ政権はブッシュ政権の対中政策から大きな変化をみせていない。大統領選の最中でも、最近の大統領選挙ではめずらしく対中政策を争点にしなかった。オバマの外交方針は、経済危機とか気候変動、核拡散、テロとかいったグローバルな問題に対応するため、中国も含めた国際社会全体と協調するというものです。
ただ、中国はオバマの期待に応えていない。国際的な責任を果たすことは中国の経済発展を損なうとの懸念があるためだそうです。それどころか中国は2009年から2010年にかけて、攻撃的な行動をとるようになる。南シナ海に哨戒船を出したり、EEZ内の航行の自由を制限できるんだと主張したり、黄海での米韓軍事演習に反対したり、台湾への武器供与やオバマとダライラマとの面会にこれまで以上に反発したり、米国債への投資をやめて決済通貨でもドルを減らすと言ったり、尖閣諸島が日米安保条約の対象となっているとの見解に激しく反発したりした。こうした態度はアジア各国の中国への警戒感を強め、米国への期待を高めることになる。
一方でオバマ政権は中国の軍事力増強に対して軍事的な対応をとる用意があることを表明し、北朝鮮の問題は米国に対する直接的な脅威だとして中国に対応を求めた。2011年1月に胡錦濤国家主席が訪米した際には、中国からの米国批判は影を潜めていた。中国は北朝鮮に挑発をやめさせ、イランへの制裁緩和を求めず、人民元の切り上げに応じ、2010年12月のカンクンでのCOP16では気候変動問題で協力的になった。
またオバマ政権は2011年にアジア重視戦略を打ち出して、アジア太平洋地域で中国と影響力を競い合う姿勢を示すとともに、中国との関係強化も重要であるとの立場を示す。しかしこれに対しては、一度は攻撃的な態度を改めたかにみえた中国で、再び米国に対してより強硬な立場をとるべきだとのムードが盛り上がる。2012年から2013年にかけて、南シナ海で中国漁船がフィリピン当局に拿捕されたことを機に、南シナ海での活動を強化し、九断線に基づく領海の主張をしたり、尖閣諸島にかんする論戦を展開したりした。中国はこうした強硬路線は成功したとみなしている。
まぁ、ここまでで半分ぐらいです。大体の流れはあたっているはずです。間違いがないという自信はありませんが。
サターさんはこの後、米中関係の行く末について考察を進めますが、結論としては「楽観視できるものではないので、気をつけてウォッチしていかなきゃいけないよね」っていうことでした。
こうやって米中関係の歴史を振り返ってみると、米中関係っていうのは台湾問題がキモであることがよく分かります。サターさんは「米中国交正常化の歴史は、米国が対中関係から利益を得ることと引き替えに、米国と台湾の関係を弱める方向で譲歩していくことだった」としています。2008年に台湾で馬英休総統が就任して親中国路線をとっているので、現在のところは台湾をめぐる米中の対立は大きくなっていないですが、台湾で政権交代があったりして独立路線に切り替わったりすると、米中対立に火がつく可能性がある。
あと、サターさんはレーガン政権下のシュルツ国務長官時代や子ブッシュ政権下での対中強硬路線が中国からの融和を引き出したという点を強く主張しています。サターさん自身が「他にもいろんな見方があるけれど、私はこう思う」というかたちで書いているので、異論があることは間違いないのですが、中国に対して毅然とした態度を取らねばならないぞという立場の人たちはこうした歴史上の経緯を論拠にしているんだなと思った次第です。
サターさんは米国は中国を国際関係のロープで縛り付けて、勝手な行動を取らせないようにする「ガリバー戦略」は上手く機能しているとする一方で、相互不信に基づいたものであるという弱みはあると指摘します。中国が今後も友好的な態度を維持するかどうかは不明。中国は成熟した大人の国になったとみる向きもあるが、中国の指導者はしばしば揺らぎやすく、予想外の動きをみせるとのこと。
中国の経済力が米国を上回る時代になれば、中国を国際関係のロープで縛り付けるどころか、中国が米国などを国際関係のロープで縛り付けるという状態にもなったりするんでしょうか。台湾とか共産党一党支配とかに文句を言わなければ、めったなことは起こらないのかもしれませんが、中国の南シナ海とか東シナ海とかでの領有権の主張をみたりすると、あんまりいい予感はしないですよね。
米中関係の歴史は長いわけですが、19世紀の終わり以降の欧州の列強や日本が中国大陸に進出していたころには、米国は中国で目立った活動をしていませんでした。一部の外交官とかビジネスマンとか宣教師とかは中国にいたけど、欧州や日本のように領土を奪ってしまおうなどと画策するわけではなかった。日本の関東軍が満州事変を起こしたのは1931年ですが、そのころの米国の指導者たちは1929年からの大恐慌への対応に手をとられている時期だった。そのため、「中国の領土的統一を支持する」なんてコメントするに留めて、積極的に中国の見方をするわけでもなく、列強と一緒に中国大陸で領土を分捕ろうとするわけでもなかった。内向きだったんですね。
で、1941年の真珠湾攻撃で日米が開戦すると、米国の中国大陸での存在感も増していく。米国は中国での共産党と国民党の対立については国民党を支持する。共産党はソ連とつながっているわけだし、そもそも共産党軍ってそんなに強くないんじゃないのという見立てもあった。これに対して共産党内では「国民党を支持する米国はやっぱり悪い国だな」という印象が強まる。その後、米国の見立てが外れるかたちで、国共内戦は共産党の勝利で終結。共産党は1949年の中華人民共和国建国後もソ連と連携を続け、中国と米国は対立の道に進んでいく。冷戦の始まりです。
米国は冷戦期の最初のころ、中国を封じ込めようとした。1954年には台湾との間で相互防衛条約を締結して、台湾危機が起きる。ただし中国はスターリン死後のソ連が米中の対立に巻き込まれることに慎重になっていったこともあり、米国に対して強硬な態度をとれるような状態でもなかった。このため台湾危機は収束に向かいます。また中国とソ連の間では路線対立が激しくなって、ソ連が1960年に中国への援助を停止したり、中国が1962年のキューバ危機でソ連が米国との対決を避けたことを批判するといった応酬もあった。当時はソ連と中国の間では国境問題もあったそうです。そんななかで1972年のニクソン訪中が実現します。
ニクソン政権がどのような判断で中国との国交回復に向かったかもよく分からない。というのも多くの資料が非公開となっているうえ、関係者の証言が事実と食い違っていたりするんだそうです。ただし米国はベトナム戦争の失敗とソ連のアジアなどでの影響力拡大を懸念して、中国との関係強化を図ろうとしていたことははっきりしているし、ニクソンが米中関係の改善を米国内での支持固めに利用して、1972年の再選を確実にしようとしたことも明らか。実際、ニクソンの判断は国内で支持された。
またニクソン訪中のころ、中国側でどのような意志決定があったのかも不明だそうですが、文化大革命を生き延びた葉剣英が毛沢東に対して、米国との関係強化でソ連の脅威に対応するよう助言していたことは分かっている。1970年代はソ連が中ソ国境に核ミサイルを配置したり、中国沿岸での海軍活動を強化したり、ベトナムでの軍事的プレゼンスを強めていたりした時期。ニクソン政権やフォード政権がソ連とのデタントに向かっていることに中国は不満を抱いていたという状況だった。
で、その後、米中間で国交正常化に向けた協議が続けられた。カーター政権下の1978年に発表された米中共同声明は、米中の国交を樹立するとともに、米国は中華人民共和国が正式な中国政府で、台湾は中国の一部であることを認め、台湾との国交や防衛条約を終わらせるというものだった。一方で、米国は台湾への武器供与を続けるともしている。ただ、カーターとブレジンスキー補佐官は中国との交渉を秘密裏に進めており、共同宣言の内容には議会からは、「台湾との国交を断絶する必要はないじゃないか」といった強い批判が出た。で、議会は1979年に台湾関係法(Taiwan Relation Act)を通し、カーターもこれに署名する。台湾関係法はもともとカーター政権主導の法案だったが、議会が武器供与や経済関係や人権や議会による監視や武力行使への反対といった内容を付け加えた。
ソ連が1979年にアフガンに侵攻して米ソ間のデタントが崩壊すると、中国はソ連が米国と仲良くなって、余裕をもって中国にプレシャーをかけるという事態を心配しなくてもよくなった。で、1981~82年ごろには、ソ連と関係を改善して、米国に厳しい態度を取るという方向性が模索された。一方、レーガンは1980年の大統領選挙戦でカーターの台湾政策を批判し、当選後も基本的には台湾関係法に軸足を置いた対中国外交をとるんだと主張した。しかし実際には、ヘイグ国務長官は米中関係を重視し、台湾への武器供与に反対したりした。1982年8月の第三次米中共同声明では、米国は台湾への武器供与を段階的に減らし、中国は台湾との平和的な統一を目指すとされた。共同声明は玉虫色の内容で、レーガン政権はその後も台湾へのサポートを続けたんだけど、ヘイグ国務長官時代は対中融和路線が強かったということです。
ただ、共同声明発表直前に就任したシュルツ国務長官は、ポール・ウォルフォビッツ、リチャード・アーミテージらを起用して対中強硬外交に転じ、日本や他の東アジア諸国との関係強化を重視していく。
シュルツらが方針を転換した理由には、
○中国が米ソデタント崩壊後に米国に厳しい態度をとるようになったのをみて、中国は米国と協力する気がないのだと見切りをつけた
○中国は国内経済の改革に忙しくて、東アジアで無茶をすることはないとの判断もあった
○レーガン政権は軍事力を強化したので、中国なしでソ連と対決することへの自信が出ていた
○中曽根内閣下の日本との同盟関係強化が進んでいた
なんていうものがあったそうです。こうした米国の強硬な態度をみて、中国は米国に厳しい態度をとる方向性を改めて米国との関係強化に乗り出し、台湾のことでやかましく言うのを控えるようになる。中国は経済成長のためには欧米との関係強化が重要だという事情もあった。レーガンが1984年に訪中した際には温かく迎えられた。
で、1989年に天安門事件が起きる。この結果、米国の中国に対する印象は大幅に悪化した。さらに1991年にはソ連が崩壊。米国がソ連への対抗のために中国と連携する必要は薄れる。一方で台湾では民主化が進んでいて、米国内で台湾の人気が高まる。米中関係にとって良い材料がなくなった時期です。それでも父ブッシュは中国との現実的な関係維持を図りますが、議会から弱腰批判を受けて、1992年の再選に失敗していまいます。
一方の中国は国内の安定化に力を注ぎつつ、米国など西側が共産党体制や台湾、チベット、香港などの問題に介入することを批判した。ただ、鄧小平が1992年に南巡講和を行って、1993年からの経済成長が始まると、米国もそれに注目するようになる。中国も経済成長のためには米国との決定的な対立は避ける方針をとる。
1993年に就任したクリントンは中国の人権問題と米中貿易をリンクさせる姿勢をとって支持されたが、議会や産業界からは反発が強まった。その結果、クリントンは1994年に人権問題と米中貿易のリンクを終わらせる。一方で米国内の台湾支持派は台湾の李登輝総統が私人として米国を訪問するよう認めるよう要求。米政府はビザ発行を認めない方針を示したが、その後、クリントンが訪問を容認し、1995年に李登輝の訪問が実現した。これに反発する中国が台湾海峡で大規模な軍事演習を行い、クリントンは空母を同海域に派遣し、第三次台湾海峡危機に至った。でも、クリントンとしても決定的な対立は避けたいので、1997年と1998年に米中首脳会談がもたれ、1999年に中国がWTOに加盟することが承認される。クリントンは、中国に対するPermanent Normal Trade Relations(PNTR)を認める法律が2000年に成立することも確約。大統領が議会に諮ることなく、最恵国待遇が毎年更新されることになった。このあたりの米国の対応は腰が定まっていない感じです。
一方の中国側では1999年に米国がユーゴスラビアの首都、ベオグラードで中国大使館を誤爆したことへの反発が出たが、やはり米国との対立は避ける方針が採られた。米国は世界で唯一の超大国で、米国との関係維持は中国の経済発展にとって不可欠。観光や日本、南シナ海、台湾などに影響力がある米国との良好な関係を維持せねばならないとの判断だった。
2001年に就任した子ブッシュは対中関係よりも日本などとの関係を重視したうえ、ロシアやインドとも関係を強化しようとした。中国に対しては人権や台湾の問題を積極的に取り上げたし、中国が大量破壊兵器を拡散させたとして経済制裁も打ち出した。シュルツ国務長官のもとで働いたアーミテージが国務次官補になったことは偶然ではない。このため2001年4月に南シナ海上空で米軍機と中国軍の戦闘機が衝突する事件(海南島事件)が起きた際は米中関係が悪化すると予想された。でも、双方は冷静に対応し、この時期の米中関係は良好だった。もちろん2001年9月の米中枢同時多発テロで中国の重要性が薄れたことも要因です。また中国が政権移行期前の国内問題が難しい時期にあったことも影響している。しかしサターさんは、子ブッシュ政権が中国に対する厳しい姿勢を打ち出していたことが最も重要な要因だとします。
良好な関係を築いた米中は北朝鮮の核問題で連携し、子ブッシュは台湾の陳水扁総統に独立に向けたステップを採らないように戒めた。一方では、中国の経済発展に伴って米国内には、中国との貿易赤字、知的財産権の取扱い、為替レートの水準、中国による米国債購入、中国によるユノカル買収なんかの問題が意識されるようになった。2006年の中間選挙で民主党が勝利し、議会が子ブッシュ政権に対中政策の変更を迫るとの観測もあった。でも、子ブッシュ政権は中国を為替操作国と認定することを拒否。中国の人権問題に対する懸念も、中国でのビジネスチャンスへの期待で相殺された。
2006年ごろの中国の要人発言や文書にみられる外交方針は、
○国際社会で超大国を目指す
○中国の経済発展の基盤となる安定的な外交環境を追及する
○中国の発展を阻害するような国際的な公約は避ける
○中国の国内外での成功は中国に応分の責任を求める国際社会との緊密な関係にかかっていることを認識する
といったようなものだったそうです。
2009年に発足したオバマ政権はブッシュ政権の対中政策から大きな変化をみせていない。大統領選の最中でも、最近の大統領選挙ではめずらしく対中政策を争点にしなかった。オバマの外交方針は、経済危機とか気候変動、核拡散、テロとかいったグローバルな問題に対応するため、中国も含めた国際社会全体と協調するというものです。
ただ、中国はオバマの期待に応えていない。国際的な責任を果たすことは中国の経済発展を損なうとの懸念があるためだそうです。それどころか中国は2009年から2010年にかけて、攻撃的な行動をとるようになる。南シナ海に哨戒船を出したり、EEZ内の航行の自由を制限できるんだと主張したり、黄海での米韓軍事演習に反対したり、台湾への武器供与やオバマとダライラマとの面会にこれまで以上に反発したり、米国債への投資をやめて決済通貨でもドルを減らすと言ったり、尖閣諸島が日米安保条約の対象となっているとの見解に激しく反発したりした。こうした態度はアジア各国の中国への警戒感を強め、米国への期待を高めることになる。
一方でオバマ政権は中国の軍事力増強に対して軍事的な対応をとる用意があることを表明し、北朝鮮の問題は米国に対する直接的な脅威だとして中国に対応を求めた。2011年1月に胡錦濤国家主席が訪米した際には、中国からの米国批判は影を潜めていた。中国は北朝鮮に挑発をやめさせ、イランへの制裁緩和を求めず、人民元の切り上げに応じ、2010年12月のカンクンでのCOP16では気候変動問題で協力的になった。
またオバマ政権は2011年にアジア重視戦略を打ち出して、アジア太平洋地域で中国と影響力を競い合う姿勢を示すとともに、中国との関係強化も重要であるとの立場を示す。しかしこれに対しては、一度は攻撃的な態度を改めたかにみえた中国で、再び米国に対してより強硬な立場をとるべきだとのムードが盛り上がる。2012年から2013年にかけて、南シナ海で中国漁船がフィリピン当局に拿捕されたことを機に、南シナ海での活動を強化し、九断線に基づく領海の主張をしたり、尖閣諸島にかんする論戦を展開したりした。中国はこうした強硬路線は成功したとみなしている。
まぁ、ここまでで半分ぐらいです。大体の流れはあたっているはずです。間違いがないという自信はありませんが。
サターさんはこの後、米中関係の行く末について考察を進めますが、結論としては「楽観視できるものではないので、気をつけてウォッチしていかなきゃいけないよね」っていうことでした。
こうやって米中関係の歴史を振り返ってみると、米中関係っていうのは台湾問題がキモであることがよく分かります。サターさんは「米中国交正常化の歴史は、米国が対中関係から利益を得ることと引き替えに、米国と台湾の関係を弱める方向で譲歩していくことだった」としています。2008年に台湾で馬英休総統が就任して親中国路線をとっているので、現在のところは台湾をめぐる米中の対立は大きくなっていないですが、台湾で政権交代があったりして独立路線に切り替わったりすると、米中対立に火がつく可能性がある。
あと、サターさんはレーガン政権下のシュルツ国務長官時代や子ブッシュ政権下での対中強硬路線が中国からの融和を引き出したという点を強く主張しています。サターさん自身が「他にもいろんな見方があるけれど、私はこう思う」というかたちで書いているので、異論があることは間違いないのですが、中国に対して毅然とした態度を取らねばならないぞという立場の人たちはこうした歴史上の経緯を論拠にしているんだなと思った次第です。
サターさんは米国は中国を国際関係のロープで縛り付けて、勝手な行動を取らせないようにする「ガリバー戦略」は上手く機能しているとする一方で、相互不信に基づいたものであるという弱みはあると指摘します。中国が今後も友好的な態度を維持するかどうかは不明。中国は成熟した大人の国になったとみる向きもあるが、中国の指導者はしばしば揺らぎやすく、予想外の動きをみせるとのこと。
中国の経済力が米国を上回る時代になれば、中国を国際関係のロープで縛り付けるどころか、中国が米国などを国際関係のロープで縛り付けるという状態にもなったりするんでしょうか。台湾とか共産党一党支配とかに文句を言わなければ、めったなことは起こらないのかもしれませんが、中国の南シナ海とか東シナ海とかでの領有権の主張をみたりすると、あんまりいい予感はしないですよね。
2013年6月13日木曜日
棚上げすればいいんじゃないか論
ちょっと昔の話なんですが、Jonathan TeppermanというForeign Affairsの編集者の文章を読んだ。"Asian Tensions and the Problem of History"というタイトルで、なんで日中韓の三国は歴史問題でケンカばかりしているのかねぇという内容です。(参照)
Teppermanさんは、安倍首相が「731」ナンバーの戦闘機の操縦席で撮った写真が中韓の反発を招いた話で日中韓のややこしい関係を紹介。日中は尖閣問題で対立するし、日韓には竹島問題がある。「朴大統領はオバマ大統領との会談のかなりの部分を安倍首相をこきおろすことに費やした」なんていう表現もある。で、もちろん対立の根源は第二次世界大戦に遡るわけですが、Teppermanさんは、
Why can’t these countries just let the past lie, especially when doing so would be so clearly in their interests? Yes, there are plenty of ugly traumas to overcome. But Japan has been a pacifist, liberal democracy for nearly 70 years now, and it’s hard to imagine it threatening anyone.
と疑問を呈します。そうそう。私もそう思う。
Teppermanさんは「ベストの解決法は、西ドイツのブラント首相が1970年にやったように、日本が全面的に第二次世界大戦時の行為について謝罪すること」と指摘します。「大日本帝国とナチは違う」ことにも理解は示すわけですけど、ドイツは謝罪によって膨大な利益があったわけだから、日本だって同様にするべきだというわけです。日本の政治家たちが「これまでに何度も謝罪しているし、賠償金だって払っている」と主張していることについては、「その通りだ」と認めます。でも、日本の政治家たちが保守的で謝罪疲れした支持者を満足させるために、その謝罪を台無しにするような発言を繰り返していることも事実だと。うん。確かにそうだ。
一方、中韓に対しては、「現在の目的のために歴史を利用しようとしている点で罪深い」(Japan’s neighbors, meanwhile, are just as guilty of exploiting the past for present ends.)と論評。中国が尖閣の領有権を主張し始めたのは周辺海域で資源が見つかったことと無関係ではないことや、国内の不満をそらそうとして愛国心をあおっていることにも注目します。
つまり、確かに日本は謝罪はしているんだけど、中韓は資源獲得とか国内の不満をそらそうなんていう気持ちがあるから謝罪を受け入れようとしない。それなら日本はもう一度謝罪した方がいいんだけど、せっかくの最初の謝罪を台無しにするような発言で事態を混乱させていると。つまり日中韓が何故過去のことを水に流せないのかという疑問に対する答えについては、"The answer is that no one will go first."というわけです。まぁ、当たり前の話なんですが、的を得た簡潔な説明である気がします。
じゃぁ、どうすればいいのかというと、Teppermanさんは" simply shelve the thorniest issues and work around them"と主張します。中国と台湾だって難しい問題は棚上げしているし、日中だって国交正常化から中国が台頭する最近までは尖閣問題を事実上棚上げしていたじゃないかと。確かに簡単な話ではないんだけど、棚上げすれば、
it would cool the region’s boiling waters while letting all sides save face. And it might just be the only way to avoid an actual shooting war that no side, despite the overheated talk, wants or could afford.
ということです。
まぁ、当事者以外の立場からみればそうなんでしょう。ということは日中韓の3カ国以外の立場の人はみんなそう思っているわけですな。じゃ、そうするのが正解だな。
写真はTeppermanさん。頭良さそうな顔ですね。
Teppermanさんは、安倍首相が「731」ナンバーの戦闘機の操縦席で撮った写真が中韓の反発を招いた話で日中韓のややこしい関係を紹介。日中は尖閣問題で対立するし、日韓には竹島問題がある。「朴大統領はオバマ大統領との会談のかなりの部分を安倍首相をこきおろすことに費やした」なんていう表現もある。で、もちろん対立の根源は第二次世界大戦に遡るわけですが、Teppermanさんは、
Why can’t these countries just let the past lie, especially when doing so would be so clearly in their interests? Yes, there are plenty of ugly traumas to overcome. But Japan has been a pacifist, liberal democracy for nearly 70 years now, and it’s hard to imagine it threatening anyone.
と疑問を呈します。そうそう。私もそう思う。
Teppermanさんは「ベストの解決法は、西ドイツのブラント首相が1970年にやったように、日本が全面的に第二次世界大戦時の行為について謝罪すること」と指摘します。「大日本帝国とナチは違う」ことにも理解は示すわけですけど、ドイツは謝罪によって膨大な利益があったわけだから、日本だって同様にするべきだというわけです。日本の政治家たちが「これまでに何度も謝罪しているし、賠償金だって払っている」と主張していることについては、「その通りだ」と認めます。でも、日本の政治家たちが保守的で謝罪疲れした支持者を満足させるために、その謝罪を台無しにするような発言を繰り返していることも事実だと。うん。確かにそうだ。
一方、中韓に対しては、「現在の目的のために歴史を利用しようとしている点で罪深い」(Japan’s neighbors, meanwhile, are just as guilty of exploiting the past for present ends.)と論評。中国が尖閣の領有権を主張し始めたのは周辺海域で資源が見つかったことと無関係ではないことや、国内の不満をそらそうとして愛国心をあおっていることにも注目します。
つまり、確かに日本は謝罪はしているんだけど、中韓は資源獲得とか国内の不満をそらそうなんていう気持ちがあるから謝罪を受け入れようとしない。それなら日本はもう一度謝罪した方がいいんだけど、せっかくの最初の謝罪を台無しにするような発言で事態を混乱させていると。つまり日中韓が何故過去のことを水に流せないのかという疑問に対する答えについては、"The answer is that no one will go first."というわけです。まぁ、当たり前の話なんですが、的を得た簡潔な説明である気がします。
じゃぁ、どうすればいいのかというと、Teppermanさんは" simply shelve the thorniest issues and work around them"と主張します。中国と台湾だって難しい問題は棚上げしているし、日中だって国交正常化から中国が台頭する最近までは尖閣問題を事実上棚上げしていたじゃないかと。確かに簡単な話ではないんだけど、棚上げすれば、
it would cool the region’s boiling waters while letting all sides save face. And it might just be the only way to avoid an actual shooting war that no side, despite the overheated talk, wants or could afford.
ということです。
まぁ、当事者以外の立場からみればそうなんでしょう。ということは日中韓の3カ国以外の立場の人はみんなそう思っているわけですな。じゃ、そうするのが正解だな。
写真はTeppermanさん。頭良さそうな顔ですね。
2013年6月11日火曜日
「新型の大国関係」とG2論
中国の習近平国家主席が米国のオバマ大統領と会談しました。そのなかで、"new model of major country relationship"(新型の大国関係)という言葉が出てくるので、どういう考え方なのか調べてみた。
このフレーズは習近平国家主席が持ち出した言葉のようで、6月7日の会談前のちょっとした会見(参照)で、
We need to think creatively and act energetically so that working together we can build a new model of major country relationship.
なんていう風に言っています。
で、この発言には前段があって、そこの部分を読むと、
And at present, the China-U.S. relationship has reached a new historical starting point. Our two countries have vast convergence of shared interests, from promoting our respective economic growth at home to ensuring the stability of the global economy; from addressing international and regional hotspot issues to dealing with all kinds of global challenges. On all these issues, our two countries need to increase exchanges and cooperation.
And under the new environment, we need to take a close look at our bilateral relationship: What kind of China-U.S. relationship do we both want? What kind of cooperation can our two nations carry out for mutual benefit? And how can our two nations join together to promote peace and development in the world? These are things that not just the people in our two countries are watching closely, but the whole world is also watching very closely.
Both sides should proceed from the fundamental interests of our peoples and bear in mind human development and progress.
と言っている。
まぁ、今から作り上げていこうというものですけど、
・双方が納得のいく関係
・お互いの国益のために協調する関係
・世界の平和と発展に資する関係
・両国の基本的な国益を出発点として、人間的な発展や進歩も考慮する関係
ってことですかね。
で、この新型の大国関係については、会談後の共同会見(参照)でも触れられている。
習近平国家主席によると、
President Obama and I both believe that in the age of economic globalization and facing the objective need of countries sticking together in the face of difficulties, China and the United States must find a new path -- one that is different from the inevitable confrontation and conflict between the major countries of the past. And that is to say the two sides must work together to build a new model of major country relationship based on mutual respect and win-win cooperation for the benefit of the Chinese and American peoples, and people elsewhere in the world.
ということらしいです。昔は2つの大国があれば衝突は必至だったけれど、そういうことにならないように協力しあいましょうということですね。この後の発言では、経済での連係や人的交流、軍事面での関係強化なんかの必要性について話しています。
まぁ、米中は経済的なつながりは強まっているんだけど、対立点もいっぱいあるわけです。人権問題とかサイバーセキュリティとか南シナ・東シナ海での航行の自由の確保とか、チベット問題、台湾問題なんかについては意見の相違は大きい。ただ、そういった問題点について対立の道を進むのではなく、お互いの利益を尊重しつつ、解決の道を探っていくということでしょう。
一方、オバマ大統領は、
I think President Xi identified the essence of our discussions in which we shared our respective visions for our countries' futures and agreed that we're more likely to achieve our objectives of prosperity and security of our people if we are working together cooperatively, rather than engaged in conflict.
としている。「衝突を避け、協力しあえば、人々の繁栄と安全という目的を達成できる」ということです。
またドニロン大統領補佐官は8日のプレスブリーフィングで、
the observation and the view by many people, particularly in the international relations field and some people in the United States and some people in China, that a rising power and an existing power are in some manner destined for conflict; that in fact this just an inexorable dynamic between an arising power and an existing power. We reject that, and the Chinese government rejects that. And the building out of the so-called new relationships, new model of relation between great powers is the effort to ensure that doesn’t happen; is an effort to ensure that we don’t succumb to the idea that somehow relations between countries are some immutable law of physics -- that, in fact, this is about leadership, it’s about conscious decisions and it’s about doing what’s best for your respective people.
と述べています。こちらも「衝突を避ける」ということを強調しています。オバマ大統領やドニロン補佐官が「お互いの国益を守る」というあたりに触れていないのは、人権とかサイバーセキュリティ、航行の自由なんかの対立点について口をつぐむわけじゃないという意思表示かもしれない。それでも新型の大国関係を目指すことで合意したとは認めているわけですから、対立点はあるけれど、協力できるところから協力していきましょうなんていうことかもしれません。
ちなみにオバマ政権の初期にあったG2論とは違うのかっていう話もあるわけですけど、Wikipediaによると、G2論というのは「世界1位、2位の経済大国である米中が話し合えば、世界金融危機とか気候変動問題とか北朝鮮やイランの核問題とか、いろんな問題を解決できて、新たな冷戦を回避できるんじゃないの?」っていう話のようです。経済学者のフレッド・バーグステンが提唱して、カーター大統領の補佐官だったブレジンスキーや世界銀行総裁だったゼーリックなんかが支持した。(参照)
バーグステンのForeign Affairsへの寄稿(参照)によると、中国はWTOに加盟したものの交渉の阻害要因となり、APEC全体での自由貿易圏構想に反対したり、資源の囲い込みを謀ったり、為替レートを操作したりして、世界2位の大国としての責任感に欠けている。だから、
To deal with the situation, Washington should make a subtle but basic change to its economic policy strategy toward Beijing. Instead of focusing on narrow bilateral problems, it should seek to develop a true partnership with Beijing so as to provide joint leadership of the global economic system. Only such a "G-2" approach will do justice, and be seen to do justice, to China's new role as a global economic superpower and hence as a legitimate architect and steward of the international economic order.
ということです。「お行儀の悪い中国を国際ルールに従わせるため、米国が中国と2つの大国として協調する」というコンセプトですかね。
あと、米国はこれまで中国を国際ルールに従わせるために「従わないとペナルティがあるぞ」という方針で臨んできたけど、米国にも他の国にも中国との関係から恩恵を受けている人は沢山いるので、そんな強行姿勢をとっても中国は本気にしない。だから、
Abandoning the present position and adopting a less confrontational approach might be the only way to persuade China to start cooperating.
なんていうことも言っています。
あと、
At a minimum, creating a G-2 would limit the risk of bilateral disputes escalating and disrupting the U.S.-Chinese relationship and the broader global economy. At a maximum, it could start a process that might, over time, generate sufficient trust and mutual understanding to produce active cooperation on crucial issues.
とも。
G2論も新型の大国関係も米中が協調するという点には変わりはないですが、G2論の最終的な目標は「最終的に中国を国際ルールに従わせる」という点にあるのに対して、新型の大国関係の目標は「衝突を避ける」という点であって、中国が国際ルールに従うかどうかは棚上げされているというイメージですかね。
本当かよ。
このフレーズは習近平国家主席が持ち出した言葉のようで、6月7日の会談前のちょっとした会見(参照)で、
We need to think creatively and act energetically so that working together we can build a new model of major country relationship.
なんていう風に言っています。
で、この発言には前段があって、そこの部分を読むと、
And at present, the China-U.S. relationship has reached a new historical starting point. Our two countries have vast convergence of shared interests, from promoting our respective economic growth at home to ensuring the stability of the global economy; from addressing international and regional hotspot issues to dealing with all kinds of global challenges. On all these issues, our two countries need to increase exchanges and cooperation.
And under the new environment, we need to take a close look at our bilateral relationship: What kind of China-U.S. relationship do we both want? What kind of cooperation can our two nations carry out for mutual benefit? And how can our two nations join together to promote peace and development in the world? These are things that not just the people in our two countries are watching closely, but the whole world is also watching very closely.
Both sides should proceed from the fundamental interests of our peoples and bear in mind human development and progress.
と言っている。
まぁ、今から作り上げていこうというものですけど、
・双方が納得のいく関係
・お互いの国益のために協調する関係
・世界の平和と発展に資する関係
・両国の基本的な国益を出発点として、人間的な発展や進歩も考慮する関係
ってことですかね。
で、この新型の大国関係については、会談後の共同会見(参照)でも触れられている。
習近平国家主席によると、
President Obama and I both believe that in the age of economic globalization and facing the objective need of countries sticking together in the face of difficulties, China and the United States must find a new path -- one that is different from the inevitable confrontation and conflict between the major countries of the past. And that is to say the two sides must work together to build a new model of major country relationship based on mutual respect and win-win cooperation for the benefit of the Chinese and American peoples, and people elsewhere in the world.
ということらしいです。昔は2つの大国があれば衝突は必至だったけれど、そういうことにならないように協力しあいましょうということですね。この後の発言では、経済での連係や人的交流、軍事面での関係強化なんかの必要性について話しています。
まぁ、米中は経済的なつながりは強まっているんだけど、対立点もいっぱいあるわけです。人権問題とかサイバーセキュリティとか南シナ・東シナ海での航行の自由の確保とか、チベット問題、台湾問題なんかについては意見の相違は大きい。ただ、そういった問題点について対立の道を進むのではなく、お互いの利益を尊重しつつ、解決の道を探っていくということでしょう。
一方、オバマ大統領は、
I think President Xi identified the essence of our discussions in which we shared our respective visions for our countries' futures and agreed that we're more likely to achieve our objectives of prosperity and security of our people if we are working together cooperatively, rather than engaged in conflict.
としている。「衝突を避け、協力しあえば、人々の繁栄と安全という目的を達成できる」ということです。
またドニロン大統領補佐官は8日のプレスブリーフィングで、
the observation and the view by many people, particularly in the international relations field and some people in the United States and some people in China, that a rising power and an existing power are in some manner destined for conflict; that in fact this just an inexorable dynamic between an arising power and an existing power. We reject that, and the Chinese government rejects that. And the building out of the so-called new relationships, new model of relation between great powers is the effort to ensure that doesn’t happen; is an effort to ensure that we don’t succumb to the idea that somehow relations between countries are some immutable law of physics -- that, in fact, this is about leadership, it’s about conscious decisions and it’s about doing what’s best for your respective people.
と述べています。こちらも「衝突を避ける」ということを強調しています。オバマ大統領やドニロン補佐官が「お互いの国益を守る」というあたりに触れていないのは、人権とかサイバーセキュリティ、航行の自由なんかの対立点について口をつぐむわけじゃないという意思表示かもしれない。それでも新型の大国関係を目指すことで合意したとは認めているわけですから、対立点はあるけれど、協力できるところから協力していきましょうなんていうことかもしれません。
ちなみにオバマ政権の初期にあったG2論とは違うのかっていう話もあるわけですけど、Wikipediaによると、G2論というのは「世界1位、2位の経済大国である米中が話し合えば、世界金融危機とか気候変動問題とか北朝鮮やイランの核問題とか、いろんな問題を解決できて、新たな冷戦を回避できるんじゃないの?」っていう話のようです。経済学者のフレッド・バーグステンが提唱して、カーター大統領の補佐官だったブレジンスキーや世界銀行総裁だったゼーリックなんかが支持した。(参照)
バーグステンのForeign Affairsへの寄稿(参照)によると、中国はWTOに加盟したものの交渉の阻害要因となり、APEC全体での自由貿易圏構想に反対したり、資源の囲い込みを謀ったり、為替レートを操作したりして、世界2位の大国としての責任感に欠けている。だから、
To deal with the situation, Washington should make a subtle but basic change to its economic policy strategy toward Beijing. Instead of focusing on narrow bilateral problems, it should seek to develop a true partnership with Beijing so as to provide joint leadership of the global economic system. Only such a "G-2" approach will do justice, and be seen to do justice, to China's new role as a global economic superpower and hence as a legitimate architect and steward of the international economic order.
ということです。「お行儀の悪い中国を国際ルールに従わせるため、米国が中国と2つの大国として協調する」というコンセプトですかね。
あと、米国はこれまで中国を国際ルールに従わせるために「従わないとペナルティがあるぞ」という方針で臨んできたけど、米国にも他の国にも中国との関係から恩恵を受けている人は沢山いるので、そんな強行姿勢をとっても中国は本気にしない。だから、
Abandoning the present position and adopting a less confrontational approach might be the only way to persuade China to start cooperating.
なんていうことも言っています。
あと、
At a minimum, creating a G-2 would limit the risk of bilateral disputes escalating and disrupting the U.S.-Chinese relationship and the broader global economy. At a maximum, it could start a process that might, over time, generate sufficient trust and mutual understanding to produce active cooperation on crucial issues.
とも。
G2論も新型の大国関係も米中が協調するという点には変わりはないですが、G2論の最終的な目標は「最終的に中国を国際ルールに従わせる」という点にあるのに対して、新型の大国関係の目標は「衝突を避ける」という点であって、中国が国際ルールに従うかどうかは棚上げされているというイメージですかね。
本当かよ。
2012年9月29日土曜日
こうなのか尖閣
サンフランシスコ平和条約から沖縄返還協定までの流れを中国側の主張に沿ってみると、
1951年9月のサンフランシスコ平和条約では釣魚島は米国の委託統治地域に含まれていなかった。
1952年2月の68号令、1953年12月の27号令で、琉球列島米国民政府は勝手に委任管理の範囲を拡大し、釣魚島を管轄下に組み込んだ。
1971年6月の沖縄返還協定で釣魚島が日本に返還された際、中国は抗議した。
となります。
で、ちょっと疑問に思ったのですが、中国は1952、53年に米国が尖閣諸島を管轄下に組み入れた際に何の抗議もしなかったのかという点。白書では「1958年に領海に関する声明を発表し、台湾およびその周辺諸島は中国に属すると宣言した」とは書いてありますが、随分と時間があいている。中国が本当に尖閣諸島を自国領土だと認識していたのだったら、68号令、27号令が出た時点ですぐに猛烈に抗議していたはずじゃなかったのか。
あと、中国は下関条約で日本に割譲された尖閣諸島はカイロ宣言やポツダム宣言で中国に返還されたという立場のようですが、それだったら、その時点で尖閣諸島への実効支配を進めるような手段をとっているはずではなかったのか。
まぁ、そんなことを考えていると、外務省サイトのQ&Aのなかにある「1968年秋、日本、台湾、韓国の専門家が中心となって国連アジア極東経済委員会(ECAFE:UN Economic Commission for Asia and Pacific)の協力を得て行った学術調査の結果、東シナ海に石油埋蔵の可能性ありとの指摘がなされ、尖閣諸島に対し注目が集まった」ことを背景として、1971年の沖縄返還協定を機に中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのかなという気がします。
一方、昔の話については、14、15世紀ごろに尖閣諸島を実効支配していたのは中国だったんだけれど、その後、誰も利用していない無人島になっちゃって、それを1895年1月に日本政府が管轄下においたということなんだと思う。ただ、この手続きが国際法上有効なのかどうかは分りません。でも、有効じゃなかったからといって、「尖閣は中国のもの」という結論になるわけでもない気がする。そんなこと言い出したら、世界中の国境がガタガタになっちゃうんじゃないのか。
ただ、領土をめぐる問題というのは今に始まったことではないわけです。にもかかわらず、日中間の経済的、文化的な交流は拡大してきたわけで、まぁ、しばらくすれば仲直りの機運が出てくるんじゃないですかね。中国人だって日本車や日本企業の建物を壊したところで何のメリットもないことは気づくでしょう。あんな映像みせられたら、どんな外国企業だって「中国に投資することのリスク」を再認識するだろうし、「最近、中国の賃金も高くなってきたこともあるから、次の工場はベトナムかミャンマーに建てようかな」と思うかもしれない。
日本としては政治的には闘いつつ、あと中国の暴動のひどさを国際社会に訴えつつ、ユニクロ着て中華料理を食っていればいいんだと思います。
1951年9月のサンフランシスコ平和条約では釣魚島は米国の委託統治地域に含まれていなかった。
1952年2月の68号令、1953年12月の27号令で、琉球列島米国民政府は勝手に委任管理の範囲を拡大し、釣魚島を管轄下に組み込んだ。
1971年6月の沖縄返還協定で釣魚島が日本に返還された際、中国は抗議した。
となります。
で、ちょっと疑問に思ったのですが、中国は1952、53年に米国が尖閣諸島を管轄下に組み入れた際に何の抗議もしなかったのかという点。白書では「1958年に領海に関する声明を発表し、台湾およびその周辺諸島は中国に属すると宣言した」とは書いてありますが、随分と時間があいている。中国が本当に尖閣諸島を自国領土だと認識していたのだったら、68号令、27号令が出た時点ですぐに猛烈に抗議していたはずじゃなかったのか。
あと、中国は下関条約で日本に割譲された尖閣諸島はカイロ宣言やポツダム宣言で中国に返還されたという立場のようですが、それだったら、その時点で尖閣諸島への実効支配を進めるような手段をとっているはずではなかったのか。
まぁ、そんなことを考えていると、外務省サイトのQ&Aのなかにある「1968年秋、日本、台湾、韓国の専門家が中心となって国連アジア極東経済委員会(ECAFE:UN Economic Commission for Asia and Pacific)の協力を得て行った学術調査の結果、東シナ海に石油埋蔵の可能性ありとの指摘がなされ、尖閣諸島に対し注目が集まった」ことを背景として、1971年の沖縄返還協定を機に中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのかなという気がします。
一方、昔の話については、14、15世紀ごろに尖閣諸島を実効支配していたのは中国だったんだけれど、その後、誰も利用していない無人島になっちゃって、それを1895年1月に日本政府が管轄下においたということなんだと思う。ただ、この手続きが国際法上有効なのかどうかは分りません。でも、有効じゃなかったからといって、「尖閣は中国のもの」という結論になるわけでもない気がする。そんなこと言い出したら、世界中の国境がガタガタになっちゃうんじゃないのか。
ただ、領土をめぐる問題というのは今に始まったことではないわけです。にもかかわらず、日中間の経済的、文化的な交流は拡大してきたわけで、まぁ、しばらくすれば仲直りの機運が出てくるんじゃないですかね。中国人だって日本車や日本企業の建物を壊したところで何のメリットもないことは気づくでしょう。あんな映像みせられたら、どんな外国企業だって「中国に投資することのリスク」を再認識するだろうし、「最近、中国の賃金も高くなってきたこともあるから、次の工場はベトナムかミャンマーに建てようかな」と思うかもしれない。
日本としては政治的には闘いつつ、あと中国の暴動のひどさを国際社会に訴えつつ、ユニクロ着て中華料理を食っていればいいんだと思います。
どうなんだ尖閣
尖閣問題についての日本の主張を調べてみました。まぁ、外務省のサイトをみただけですけど。
ちなみに前回、中国側の主張をまとめるために読んだ「釣魚島は中国固有の領土である白書」は、人民日報日本語版のサイトにあります。
で、日本側の主張なんですが、
・日本は国際法の手続きに則って尖閣諸島が無主地であることを確認し、1895年1月に尖閣諸島を領土に編入した。(←中国は「釣魚島は古来から中国の領土だった」「日本は釣魚島編入の手続きを秘密裏に進めており、国際法上の効力はない」と主張)
・なので1895年5月の下関条約(馬関条約)によって、中国から日本に割譲されたものではない。(←中国は「馬関条約で中国から日本に割譲された」「(馬関条約を否定した)『カイロ宣言』『ポツダム宣言』『日本降伏文書』に基づき、釣魚島は台湾の付属島嶼として台湾といっしょに中国に返還されるべきもの」と主張)
・1951年のサンフランシスコ平和条約で日本が放棄した領土に尖閣諸島は含まれておらず、南西諸島の一部としてアメリカの施政下に置かれた。(←中国は「アメリカの施政下におかれた南西諸島に釣魚島は含まれていない」「アメリカは52年2月の68号令、53年12月の27号令で、釣魚島を管轄下に組み込んだ」と主張)
・1971年の沖縄返還協定で尖閣諸島は日本に返還された。(←中国は「沖縄返還協定には声明を発表して抗議している」と主張)
・中国は1970年後半に尖閣諸島周辺で石油開発の動きが出てきたことを受けて、尖閣諸島の領有権を問題とし始めた。(←中国は「中国はサンフランシスコ平和条約に反対。1958年には領海に関する声明を発表して、釣魚島の領有を主張している」と主張)
ということです。意見があいませんなぁ。
まず「日本は尖閣諸島は無主地であることを確認のうえで領土に編入した」という日本の主張が正しいかどうかですけど、中国は「順風相送」「中山世鑑」とかいった古い文献を持ち出したり、手続きの正当性に疑問を投げかけて否定しています。これに対して、日本側はさっきの外務省サイトからリンクされているQ&Aで、「(中国の指摘は)いずれも尖閣諸島に対する中国の領有権の主張を裏付けるに足る国際法上有効な論拠とは言えません」とだけ反論しています。でも、これだけじゃ日本の主張が正しいのかどうかよく分りません。
次は「尖閣諸島は下関条約で中国から日本に割譲されたものではない」という日本の主張について。下関条約第2条では「奉天省南部」「台湾と付属島嶼」「澎湖列島」が日本に割譲されることになっています。で、中国は魚釣島は白書で「台湾の付属島嶼としてともに日本に割譲された」と主張している。下関条約は台湾の付属島嶼がどの島であるかは明示していなくて、細かい範囲は両国から選出した境界共同画定委員が決めるとなっています。この画定委員がどんな判断を下したかは、ちょっとインターネットで検索してみたぐらいでは分りません。多分。ちなみに下関条約はこちら。
「サンフランシスコ平和条約で日本が放棄した領土に尖閣諸島は含まれていない」という日本の主張については、サンフランシスコ平和条約を読めば分るんじゃないか。で、読んでみると、放棄する地域について定めた第2条に「台湾および澎湖諸島」が含まれている。中国的には釣魚島は台湾の付属島嶼なわけだから、「台湾と書いてあるんだから、その付属島嶼である釣魚島も含まれているに決まっている」と言いたいのかもしれません。日本にすれば「付属島嶼なんてどこにも書いていないじゃんかよ」ということでしょう。で、アメリカが委託統治する地域を定めた第3条には「北緯29度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む)」というのが入っている。尖閣諸島は北緯25~26度ぐらいですから、まぁ、尖閣は南西諸島に含まれているのかなという気もします。サンフランシスコ平和条約はこちら。
沖縄返還協定で尖閣諸島が日本に返還されたことについては、中国も認めています。白書によると、1971年12月30日に「米日両国政府が沖縄『返還』協定で、中国の釣魚島などの島嶼を『返還地域』に組み入れたことは、まったく不法なことであり、これは中華人民共和国の釣魚島などの島嶼に対する領土主権をいささかも改変し得るものではない」と抗議したとしています。つまり、1951年のサンフランシスコ平和条約で米国に統治委託された地域に魚釣島は含まれていなかったので抗議しなかったけど、71年の沖縄返還協定の範囲には魚釣島が含まれていたので抗議したということじゃないでしょうか。
このあたりの経緯が日本からすれば、「中国は尖閣周辺で石油が出るかもという話になったので急に領有権を主張し始めたのではないか」という主張につながるんだと思います。
長いので、続きます。
ちなみに前回、中国側の主張をまとめるために読んだ「釣魚島は中国固有の領土である白書」は、人民日報日本語版のサイトにあります。
で、日本側の主張なんですが、
・日本は国際法の手続きに則って尖閣諸島が無主地であることを確認し、1895年1月に尖閣諸島を領土に編入した。(←中国は「釣魚島は古来から中国の領土だった」「日本は釣魚島編入の手続きを秘密裏に進めており、国際法上の効力はない」と主張)
・なので1895年5月の下関条約(馬関条約)によって、中国から日本に割譲されたものではない。(←中国は「馬関条約で中国から日本に割譲された」「(馬関条約を否定した)『カイロ宣言』『ポツダム宣言』『日本降伏文書』に基づき、釣魚島は台湾の付属島嶼として台湾といっしょに中国に返還されるべきもの」と主張)
・1951年のサンフランシスコ平和条約で日本が放棄した領土に尖閣諸島は含まれておらず、南西諸島の一部としてアメリカの施政下に置かれた。(←中国は「アメリカの施政下におかれた南西諸島に釣魚島は含まれていない」「アメリカは52年2月の68号令、53年12月の27号令で、釣魚島を管轄下に組み込んだ」と主張)
・1971年の沖縄返還協定で尖閣諸島は日本に返還された。(←中国は「沖縄返還協定には声明を発表して抗議している」と主張)
・中国は1970年後半に尖閣諸島周辺で石油開発の動きが出てきたことを受けて、尖閣諸島の領有権を問題とし始めた。(←中国は「中国はサンフランシスコ平和条約に反対。1958年には領海に関する声明を発表して、釣魚島の領有を主張している」と主張)
ということです。意見があいませんなぁ。
まず「日本は尖閣諸島は無主地であることを確認のうえで領土に編入した」という日本の主張が正しいかどうかですけど、中国は「順風相送」「中山世鑑」とかいった古い文献を持ち出したり、手続きの正当性に疑問を投げかけて否定しています。これに対して、日本側はさっきの外務省サイトからリンクされているQ&Aで、「(中国の指摘は)いずれも尖閣諸島に対する中国の領有権の主張を裏付けるに足る国際法上有効な論拠とは言えません」とだけ反論しています。でも、これだけじゃ日本の主張が正しいのかどうかよく分りません。
次は「尖閣諸島は下関条約で中国から日本に割譲されたものではない」という日本の主張について。下関条約第2条では「奉天省南部」「台湾と付属島嶼」「澎湖列島」が日本に割譲されることになっています。で、中国は魚釣島は白書で「台湾の付属島嶼としてともに日本に割譲された」と主張している。下関条約は台湾の付属島嶼がどの島であるかは明示していなくて、細かい範囲は両国から選出した境界共同画定委員が決めるとなっています。この画定委員がどんな判断を下したかは、ちょっとインターネットで検索してみたぐらいでは分りません。多分。ちなみに下関条約はこちら。
「サンフランシスコ平和条約で日本が放棄した領土に尖閣諸島は含まれていない」という日本の主張については、サンフランシスコ平和条約を読めば分るんじゃないか。で、読んでみると、放棄する地域について定めた第2条に「台湾および澎湖諸島」が含まれている。中国的には釣魚島は台湾の付属島嶼なわけだから、「台湾と書いてあるんだから、その付属島嶼である釣魚島も含まれているに決まっている」と言いたいのかもしれません。日本にすれば「付属島嶼なんてどこにも書いていないじゃんかよ」ということでしょう。で、アメリカが委託統治する地域を定めた第3条には「北緯29度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む)」というのが入っている。尖閣諸島は北緯25~26度ぐらいですから、まぁ、尖閣は南西諸島に含まれているのかなという気もします。サンフランシスコ平和条約はこちら。
沖縄返還協定で尖閣諸島が日本に返還されたことについては、中国も認めています。白書によると、1971年12月30日に「米日両国政府が沖縄『返還』協定で、中国の釣魚島などの島嶼を『返還地域』に組み入れたことは、まったく不法なことであり、これは中華人民共和国の釣魚島などの島嶼に対する領土主権をいささかも改変し得るものではない」と抗議したとしています。つまり、1951年のサンフランシスコ平和条約で米国に統治委託された地域に魚釣島は含まれていなかったので抗議しなかったけど、71年の沖縄返還協定の範囲には魚釣島が含まれていたので抗議したということじゃないでしょうか。
このあたりの経緯が日本からすれば、「中国は尖閣周辺で石油が出るかもという話になったので急に領有権を主張し始めたのではないか」という主張につながるんだと思います。
長いので、続きます。
2012年9月27日木曜日
なんなんだ尖閣
尖閣問題がよく分らないので、中国政府が9月25日に発表した「釣魚島は中国固有の領土である白書」というのを読んでみた。中国の基本的な立場をまとめたものらしい。
それによると、
1)釣魚島は中国固有の領土である
2)日本は釣魚島を窃取した
3)米日が釣魚島をひそかに授受したことは不法かつ無効である
4)釣魚島の主権に対する日本の主張にはまったく根拠がない
5)中国は釣魚島の主権を守るために断固として闘う
ということのようです。
それぞれのポイントを簡単に要約してみると、
1)釣魚島は中国固有の領土である
明代の1403年に完成した「順風相送」という本に釣魚島などの地名が記載されている。また1372~1866年にかけて明、清の朝廷が琉球王国に使節(冊封使)を派遣する際、釣魚島は中継地点として使われていた。1650年の琉球王国最初の正史「中山世鑑」には、「久米島が琉球王国の西端である」という趣旨の記述があり、釣魚島は琉球王国の領土に含まれていない。明代、清代の地図では釣魚島が海防範囲に組み入れられており、1871年の「重纂福建通史」は、釣魚島が台湾府クバラン庁(現・宜蘭県)に属していたとしている。また、日本で最も早く釣魚島について記述した1785年の「三国通覧図説」では、釣魚島は中国大陸と同じ色で表示されている。
2)日本は釣魚島を窃取した
日本は1879年に琉球を併呑して、沖縄県と改名。さらに甲午戦争(日清戦争)の最中である1895年1月に釣魚島を沖縄県の管轄下に編入した。しかし日本が釣魚島の調査を始めた1885年から95年の編入までの過程は秘密裏に行われており、釣魚島の主権に対する日本の主張は国際法に定められた効力をもたない。95年4月の馬関条約(下関条約)で「台湾と付属島嶼」が日本に割譲されたが、釣魚島はこの付属島嶼に含まれていた。
3)米日が釣魚島をひそかに授受したことは不法かつ無効である
1941年12月に中国政府は日本に宣戦布告し、43年12月の「カイロ宣言」で、日本が窃取した東北四省や台湾などを中華民国に返還すると定めた。45年7月のポツダム宣言は、「カイロ宣言の条件は必ず実施されなければならない」としている。日本はこのポツダム宣言は45年9月に受諾した。45年10月、台湾が中国政府に回復され、72年9月に中日共同声明で日本は台湾が中国の不可分の一部であることを理解し、尊重することに合意した。1951年9月に日本が米国と結んだサンフランシスコ講和条約では、米国が委任管理する南西諸島のなかに釣魚島は含まれていない。しかし琉球列島米国民政府は52年2月、53年12月に公布した68号令(琉球政府章典)と27号令(琉球列島の地理的境界に関する布告)で、釣魚島を管轄下に組み込んだ。71年6月、米国は日本と沖縄返還協定を結び、琉球諸島と釣魚島の施政権を日本に返還したが、これに対して中国は「釣魚島などの島嶼を返還地域に組み入れたことは全く不法なことだ」と指摘。台湾当局も断固たる反対の意を示した。71年11月、米国務省は声明で、中日双方の相反する領土権の主張においては、米国は中立的な立場をとることを表明した。
4)釣魚島の主権に対する日本の主張にはまったく根拠がない
日本は72年3月の「尖閣諸島の領有権についての基本見解」で、釣魚島は元々「無主地」であって、馬関条約で清国から割譲されたわけではなく、サンフランシスコ講和条約で南西諸島の一部として米国の施政下におかれ、沖縄返還協定で日本に返還されたとしている。また、中国はサンフランシスコ講和条約で米国の施政下に釣魚島が含まれていた事実になんら異議を唱えてこなかったとしている。しかし、これらは間違いだ。
5)中国は釣魚島の主権を守るために断固として闘う
中国は1951年8月、サンフランシスコ講話会議が開催される前に、「その内容と結果のいかんに関わらず、すべて不法であり、無効であるとみなす」との声明を発表している。71年の沖縄返還協定の採択に際しても、釣魚島は昔から中国の領土であるとの声明を出した。58年、中国は領海に関する声明を発表し、釣魚島が中国に属することを宣言。92年の「中華人民共和国領海および隣接区法」では、「台湾および釣魚島を含むその付属諸島」が中国の領土であると定めている。2000年代に入ってからも、主張を続けている。1970年代の中日国交正常化の際には、両国の先代の指導者たちは「釣魚島の問題を棚上げし、将来の解決にゆだねる」ことについて共通認識に達した。
ということなんだそうです。
つまり、中国は、
・釣魚島は14、15世紀ごろから中国の領土として認識され、使用されてきた
・それが1895年の馬関条約で日本に割譲された
・しかし1945年に日本がポツダム宣言を受諾したことで、馬関条約は無効となり、釣魚島は中国に返還されたはずだ
・51年のサンフランシスコ平和条約によって米国が委任管理した南西諸島のなかに釣魚島は含まれていなかった(釣魚島は中国に返還されているのだから、当然ということか?)
・琉球列島米国民政府は52~53年の布告で釣魚島を管轄下に組み込み、71年の沖縄返還協定で釣魚島も日本に返還したというが、中国は反対の意を示してきた。米国も領土問題に関しては中立であることを認めている
との主張のようです。
日本の主張はまた調べてみます。
それによると、
1)釣魚島は中国固有の領土である
2)日本は釣魚島を窃取した
3)米日が釣魚島をひそかに授受したことは不法かつ無効である
4)釣魚島の主権に対する日本の主張にはまったく根拠がない
5)中国は釣魚島の主権を守るために断固として闘う
ということのようです。
それぞれのポイントを簡単に要約してみると、
1)釣魚島は中国固有の領土である
明代の1403年に完成した「順風相送」という本に釣魚島などの地名が記載されている。また1372~1866年にかけて明、清の朝廷が琉球王国に使節(冊封使)を派遣する際、釣魚島は中継地点として使われていた。1650年の琉球王国最初の正史「中山世鑑」には、「久米島が琉球王国の西端である」という趣旨の記述があり、釣魚島は琉球王国の領土に含まれていない。明代、清代の地図では釣魚島が海防範囲に組み入れられており、1871年の「重纂福建通史」は、釣魚島が台湾府クバラン庁(現・宜蘭県)に属していたとしている。また、日本で最も早く釣魚島について記述した1785年の「三国通覧図説」では、釣魚島は中国大陸と同じ色で表示されている。
2)日本は釣魚島を窃取した
日本は1879年に琉球を併呑して、沖縄県と改名。さらに甲午戦争(日清戦争)の最中である1895年1月に釣魚島を沖縄県の管轄下に編入した。しかし日本が釣魚島の調査を始めた1885年から95年の編入までの過程は秘密裏に行われており、釣魚島の主権に対する日本の主張は国際法に定められた効力をもたない。95年4月の馬関条約(下関条約)で「台湾と付属島嶼」が日本に割譲されたが、釣魚島はこの付属島嶼に含まれていた。
3)米日が釣魚島をひそかに授受したことは不法かつ無効である
1941年12月に中国政府は日本に宣戦布告し、43年12月の「カイロ宣言」で、日本が窃取した東北四省や台湾などを中華民国に返還すると定めた。45年7月のポツダム宣言は、「カイロ宣言の条件は必ず実施されなければならない」としている。日本はこのポツダム宣言は45年9月に受諾した。45年10月、台湾が中国政府に回復され、72年9月に中日共同声明で日本は台湾が中国の不可分の一部であることを理解し、尊重することに合意した。1951年9月に日本が米国と結んだサンフランシスコ講和条約では、米国が委任管理する南西諸島のなかに釣魚島は含まれていない。しかし琉球列島米国民政府は52年2月、53年12月に公布した68号令(琉球政府章典)と27号令(琉球列島の地理的境界に関する布告)で、釣魚島を管轄下に組み込んだ。71年6月、米国は日本と沖縄返還協定を結び、琉球諸島と釣魚島の施政権を日本に返還したが、これに対して中国は「釣魚島などの島嶼を返還地域に組み入れたことは全く不法なことだ」と指摘。台湾当局も断固たる反対の意を示した。71年11月、米国務省は声明で、中日双方の相反する領土権の主張においては、米国は中立的な立場をとることを表明した。
4)釣魚島の主権に対する日本の主張にはまったく根拠がない
日本は72年3月の「尖閣諸島の領有権についての基本見解」で、釣魚島は元々「無主地」であって、馬関条約で清国から割譲されたわけではなく、サンフランシスコ講和条約で南西諸島の一部として米国の施政下におかれ、沖縄返還協定で日本に返還されたとしている。また、中国はサンフランシスコ講和条約で米国の施政下に釣魚島が含まれていた事実になんら異議を唱えてこなかったとしている。しかし、これらは間違いだ。
5)中国は釣魚島の主権を守るために断固として闘う
中国は1951年8月、サンフランシスコ講話会議が開催される前に、「その内容と結果のいかんに関わらず、すべて不法であり、無効であるとみなす」との声明を発表している。71年の沖縄返還協定の採択に際しても、釣魚島は昔から中国の領土であるとの声明を出した。58年、中国は領海に関する声明を発表し、釣魚島が中国に属することを宣言。92年の「中華人民共和国領海および隣接区法」では、「台湾および釣魚島を含むその付属諸島」が中国の領土であると定めている。2000年代に入ってからも、主張を続けている。1970年代の中日国交正常化の際には、両国の先代の指導者たちは「釣魚島の問題を棚上げし、将来の解決にゆだねる」ことについて共通認識に達した。
ということなんだそうです。
つまり、中国は、
・釣魚島は14、15世紀ごろから中国の領土として認識され、使用されてきた
・それが1895年の馬関条約で日本に割譲された
・しかし1945年に日本がポツダム宣言を受諾したことで、馬関条約は無効となり、釣魚島は中国に返還されたはずだ
・51年のサンフランシスコ平和条約によって米国が委任管理した南西諸島のなかに釣魚島は含まれていなかった(釣魚島は中国に返還されているのだから、当然ということか?)
・琉球列島米国民政府は52~53年の布告で釣魚島を管轄下に組み込み、71年の沖縄返還協定で釣魚島も日本に返還したというが、中国は反対の意を示してきた。米国も領土問題に関しては中立であることを認めている
との主張のようです。
日本の主張はまた調べてみます。
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