2013年1月31日木曜日

サンタ計画

サンタクロースになれるんじゃないだろうか。

もちろんトナカイとか煙突といった要素は無理かもしれないけれど、クリスマスに子供にプレゼントを配るというだけだったら誰でもできる。12月ぐらいになったらコツコツと手作りのおもちゃを用意して、クリスマスイブの夜に近所の子供の家の郵便受けに投函して回るのだ。対象年齢を3~5歳ぐらいの子供に絞れば、そんなに手の込んでいないおもちゃでも喜んでもらえるはずだ。彼らはどんぐりを集めたって喜ぶのだから。

ただ、これを一人でやっても広がりがないので、インターネットか何かで同士を募って地域で展開する。プロジェクトネームは「サンタ計画」だ。参加資格はクリスマスイブの夜に手作りのおもちゃを近所の子供に配れる人で、絶対に正体を子供たちに知られちゃいけない。サンタたちはクリスマスの朝、近所の子供が郵便受けを開けて喜ぶのを陰から見守ることを至上の喜びとする心優しき人たちなのだ。

近所にサンタが複数住んでいる子供はクリスマスの朝にいくつものプレゼントを見つけることになる。超うれしいに違いない。逆に近くにサンタがいない子供はプレゼントをもらえないことになるけれど、それはそれで「来年はもらえるかな」ってことになるし、ミステリアスな感じが強くなってていいじゃないか。クリスマスイブの夜はサンタ同士が郵便受けの前で鉢合わせするかもしれない。「あぁ、どうも」なんて言って、思わず一緒に飲みに行きたくなるだろうけれど、ここは我慢して子供たちのためにプレゼントを配り続ける。すばらしいことだ。

「誰かは分らないけど、サンタはいるんだよ。マジで」っていう世の中になれば面白いと思う。

2013年1月27日日曜日

アラブの春ってどうよ。

マリがややこしいなって書いた数日後にアルジェリアで日本人が巻き込まれた人質事件がありました。マリに対するフランスの軍事支援を止めされることが目的のひとつだと報じられています。犯行を主導したグループがリビアで武器を調達して犯行に及んでいるということで、「アラブの春以降、北アフリカの国々がイスラム過激派を押さえきれなくなっている」っていう解説をよく見かけます。

つまり、リビアでカダフィ大佐が独裁政権を維持しているころはイスラム過激派が好き勝手できる余地はなかったのに、アラブの春でカダフィ政権が倒れた後は国内を統治する力が弱くなって、イスラム過激派が武器を調達などのテロの準備をしやすくなっているということです。

となると、「アラブの春って結局いいことだったの?」っていう疑問も出てくるわけで、民主化した結果、地域で戦乱が始まりましたっていうんじゃ、民主化なんかしない方がマシだったっていう理屈だって成り立つ。エジプトでもムバラク政権が倒れた後、選挙でモルシ大統領が誕生したものの、軍部との対立など政治的な混乱が続き、経済活動が落ち込んでいる。そうなるとムバラク政権の方がよかったっていう人も出てくる。シリアなんかはアサド政権打倒を目指して反政府勢力が立ち上がったわけですが、内戦状態が長期化しているわけです。そうなると、アサド政権のままの方がよかったんじゃないのっていう話にもなる。そんな感じのテーマについて、Foreign Affairsに2つのエッセイが載っていました。

ひとつめが、"The Promise of the Arab Spring"というタイトルで、コロンビア大学のSheri Berman教授が書いたもの。それでもアラブの春は重要なステップだという内容です。

Berman教授によると、独裁国家が民主化した後、政治的に混乱が起こるのはよくあることで、18世紀のフランス革命や20世紀初頭のイタリアの民主化、同時期のドイツにおけるワイマール共和国の成立なんかの後にも同様の混乱の時期があった。そうしたことを考えると、アラブの春の後ですぐに戦乱が収まらないからといって、特定の国や地域や宗教のもとでは民主主義は成立しない、独裁主義でやった方がいいんだなんて決めるつけることは、歴史的な視点を無視した暴論だということになります。

まぁ、欧州の歴史には全く詳しくないですが、1789年に民衆がバスチーユ監獄を襲って始まったフランス革命はなんだかんだと国内の混乱を生み出して、1799年にはナポレオンによる独裁政権の樹立に至ります。イタリアの民主化も結局はムッソリーニによるファシズム政権に至り、ワイマール共和国もナチスドイツの台頭を許すことになる。"In fact, stable liberal democracy usually emerges only at the end of long, often violent struggles, with many twists, turns, false starts, and detours"というわけです。

あと、Berman教授は、こうした民主化後の混乱というのは民主化自体に問題があったから起こったのではなく、民主化前の独裁政権時代の統治手法に問題があったのだと指摘しています。つまり独裁政権は国内の一部の勢力を庇護しながら別の勢力を搾取の対象とすることで、国内の勢力を拮抗させて統治を実現していたのが、民主化によって独裁政権が消滅してしまうと、国内の対立関係だけが残ってしまって戦乱が起こるtということ。分ったような分らんような話ですが、Berman教授は欧州の独裁政権の歴史が専門なんだそうで、それはまぁ、そういうことなんでしょう。エッセイではこのあたりの説明も、歴史をたどりながらきちんと説明しています。米国だって英国からの独立を勝ち取った後、南北戦争になっているわけだし。

となると、長い目でみるとアラブの春のような民主化はやはり望ましいものだ。最後のパラグラフはこんな具合になっています。

The widespread pessimism about the fate of the Arab Spring is almost certainly misplaced. Of course, the Middle East has a unique mix of cultural, historical, and economic attributes. But so does every region, and there is little reason to expect the Arab world to be a permanent exception to the rules of political development. The year 2011 was the dawn of a promising new era for the region, and it will be looked on down the road as a historical watershed, even though the rapids downstream will be turbulent. Conservative critics of democracy will be wrong this time, just as they were about France, Italy, Germany, and every other country that supposedly was better off under tyranny.


で、Foreign Affairsに載っていたもう一つのエッセイは、"The Mirage of the Arab Spring"というタイトルで、Seth G. Jonesというランド研究所のAssociate Directorが書いたものです。内容としては、アラブの春の是非を問うわけではなく、米国としてどうやって対処していくべきかということを論じたもの。結論は、まだ民主化運動が強いかたちでは波及していない湾岸の王政国家での民主化を米国があえて後押しする必要もないよね、となっています。

アラブの春は2011年12月にチュニジアで起こった暴動で始まり、チュニジア、リビア、エジプト、イエメンで政権が打倒されました。いずれも数十年単位の長期にわたる独裁政治が続いていた国ですが、民主化を求める人々の運動によって、あっさりと政権が倒れてしまったわけです。それをみていた湾岸の王政国家は「うちでも民主化運動が起きるんじゃないか」と心配している。Jonesによると、サウジ、UAE、クウェート、オマーン、バーレーン、カタールで作る湾岸協力会議(GCC)がヨルダンやモロッコをメンバーに加える形で拡大の動きをみせていたり、エジプトに資金援助して影響力を持とうとしているのは、そうした警戒感の表れだということです。

ただまぁ、こうした湾岸王政国家は裕福な資源国であることもあって、民主化を求める動きはそれほど強くなっていない。サウジなんて「税金がない」とさえ言われる国ですから、国民が不満を持ちようもない。米国の独立戦争は「代表なくして課税なし」がスローガンの一つだったわけですが、サウジなんかは「課税がないんだから代表もなくていいよね」ってなもんです。また、東欧の民主化はソ連の弱体化が背景にあったわけですが、サウジなんかはまだまだ裕福で、金の力で民主化運動を押さえることができる。サウジではイスラム教の指導者たちがデモや反乱を禁じる宗教解釈も出ていて、宗教指導者も王家によってコントロールされているという見立てです。

で、問題なのは、こういう湾岸の状況に対して米国はどのように対処していくべきかという点です。米国は根本的に民主主義と自由主義経済の拡大を目指しているわけで、その理屈に沿えば、湾岸王政国家で民主化運動が起こるならばそれを支援する立場を取るのが筋です。

ただ、湾岸王政国家で民主化運動が起これば、それは世界のエネルギー供給を賄っている地域で長い戦乱が始まることを意味します。また、アラブの春で民主化した国々では反米感情が強まる傾向にあります。そうなると、こうした国々が反米テロ活動の温床になってしまう可能性は少なからずあるわけで、米国の安全保障にとって好ましい事態ではありません。

ということで、結論部分はこうなっています。

The uprisings of the last two years have represented a significant challenge to authoritarian rule in the Arab world. But structural conditions appear to be preventing broader political liberalization in the region, and war, corruption, and economic stagnation could undermine further progress. Although the United States can take some steps to support democratization in the long run, it cannot force change. Middle Eastern autocrats may eventually fall, and the spread of liberal democracy would be welcomed by most Americans, even if it would carry certain risks. Yet until such changes occur because of the labor of Arabs themselves, U.S. policy toward the Middle East should focus on what is attainable. As former U.S. Secretary of Defense Donald Rumsfeld might put it, Washington should conduct its foreign policy with the Arab world it has, not the Arab world it might want or wish to have at a later time.


湾岸王政国家で民主化運動が拡大したとき、オバマ政権はどうするんですかね。いまさら「民主化は支援しません」というわけにもいかないし、だからといって民主化支援で「パンドラの箱」を開けるわけにもいかない。湾岸王政国家で民主化運動が起きないような努力をしているか、それとも懸命に祈っているかっていう感じなんでしょうか。


写真はサウジのアブドラ国王。責任重大な人です。

オバマの就任式演説と世論調査

オバマ大統領が2期目の就任式で演説しました。(参照)

不勉強なもので大統領の就任式の演説を聴いたのは初めてなんですが、「なんか選挙戦のときも言ってたようなことを言っているんじゃないのか」という気がしました。同性愛とか移民とか、個別の政策について沢山話していたので、そんな気がしたのかもしれません。それに「あんまり盛り上がってないなぁ」という感じもした。あんなもんなんでしょうか。

あと、「2人の娘のうちの妹(サーシャ)の方はなんか退屈そうだなぁ」という印象も強い。お姉ちゃん(マリア)の方はしっかりした子だなって感じでしたけどね。14歳だけど身長5フィート11インチ(180センチ)なんだって。(参照) 流石です。

で、この演説についてギャラップが世論調査をやっています。(参照)

演説を見たり聴いたりして「今後の4年間に希望を持てるようになった」と思ったは、全体の37%で、1期目のときの62%から大きく減っています。ブッシュ前大統領の2期目のときの43%よりも低い。民主党支持層に限れば66%だそうですが、これも1期目の87%から減っている。共和党支持層はオバマ1期目の演説のときは、肯定的な答えと否定的な答えが同じぐらいの割合だったですが、今回はほとんどが否定的な反応をしている。

ギャラップの分析は、

It certainly would be understandable for Americans to be less excited about a president's second inauguration than his first, with the novelty of his being president long since passed. That is especially likely to be the case for Obama, whose first inauguration was historic as the first black U.S. president. Further, Obama took office in 2009 at a time when many Americans were yearning for better days as the country remained in an economic recession, and were looking to the young, energetic, and inspiring Obama to provide that hope. Four years later, conditions in the United States have improved in many respects, but there remain many signs -- most notably, a still-high unemployment rate -- of a nation not fully recovered.

とのこと。

まぁ、そうですわな。


写真は2期目の就任式に出席した強そうな嫁さんとしっかりしてそうな長女とあくびしちゃっている次女。

2013年1月15日火曜日

ジャック・ルーって誰?

2期目のオバマ政権の財務長官にジャック・ルー大統領首席補佐官が就くことになりました。おかしなサインをすることが話題になってますが(参照)、他のことも調べておいた。

この記事ウィキペディアホワイトハウスのページによると、ニューヨーク出身のルーさんはミネソタ州のチャールトン大学在学中にニューヨーク州選出のベラ・アブザグ下院議員(民主党)のもとで1年間働いた後で大学をやめ、1974年からはマサチューセッツ州選出のジョー・モークリー下院議員(民主党)のもとで働き、さらに23歳のとき(1973年ごろ)、同じくマサチューセッツ州選出のティップ・オニール下院議長(民主党)の政策アドバイザーになります。その後、クリントン大統領時代の行政管理予算局(OMB)ディレクターとして財政均衡の実現に貢献。オバマ政権下では、クリントン国務長官の国務副長官をやり、2010年11月からは再びOMBのディレクターを勤め、さらに2012年1月から大統領首席補佐官をしています。

ちなみに最終学歴がチャールトン大学中退っていうわけではなく、その後、働きながらハーバードとジョージタウンで学位をとっているみたいです。あとシティグループなど民間で働いていたこともある。

つまりはバリバリの民主党員で、普通の家庭に対して政府が果たすべき役割を重視しているっていう人ですね。若いころには低所得者用住宅の建設や、国際的な飢餓問題のためのファンド設立に奔走したこともあるらしい。そのうえ数字に強く、タフなネゴシエイターでもある。敬虔なユダヤ教徒で金曜日は日が沈む前に仕事を切り上げてしまうそうです。あと、12弦ギターも弾く。ギター以外は見た目通りって感じ。

ただ、オニール下院議長の政策アドバイザーだった当時、グリーンスパン委員会との連絡役として、Social Securityの健全性を維持するために、支給年齢を65歳から67歳に引き上げるなどする法律の成立に貢献したそうです。民主党員の中にはこの法律を不本意に思う人もいたようですが、ルーさんはこの法律が議会を通過したときに使われた小槌をオフィスに飾っているらしい。あと、ルーさんはメディケアの支給年齢を65歳から67歳に引き上げることについても、賛成しているとの証言もある。バリバリの民主党員なんだけど、プラグマティストでもあるということです。

そんなルーさんの財務長官就任に対して、共和党の一部では反発があります。(参照) 理由は要するにルーさんが頑固な民主党員で、交渉で数字を並べ立てて煙に巻こうとするような奴だからっていうことみたいですけど、まぁ、気に入らないんでしょうね。

2013年1月14日月曜日

アフリカで1人あたりGDPが最も高い国

アフリカで1人あたりGDPが最も高い国は赤道ギニア。

このページを参照しました。1万4500ドルで、世界ランキングでも45位。人口135万人という小さい国で、石油や天然ガスが出るみたいですね。

ちなみにマリは669ドルで162位。へえ。

マリがややこしい

西アフリカのマリ共和国のイスラム武装勢力に対してフランス軍が空爆を行っています。よく分らないので調べておいた。

マリでは2012年3月にクーデターがあったのですが、このときの流れは外務省のサイトにある各トピックスの中身をのぞいていくと、それまでの経緯がまとめられたりしています。それによると、

3月21日にマリの国軍の一部が武器の調達を要求して騒乱を起こします。マリ国軍は北部におけるトゥアレグ族の独立運動グループと戦ってきたのですが、「武器が足りないぞ」との不満があったようです。で、翌22日には民主主義再建・国家復興のための国家委員会(CNRDRE)が国家の指揮権を掌握して憲法の停止を宣言します。

これを受けた4月2日、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)はマリに対する経済制裁を発動。6日にはECOWASとCNRDREの交渉の結果、憲法秩序回復に向けた枠組みが合意されます。この合意に基づいてトゥーレ大統領は辞任し、12日にはトラオレ国民議会議長が暫定大統領に就任します。

これでクーデター騒動は落ち着くわけなんですが、憲法秩序回復に向けた合意がなされた6日、マリ国軍の混乱に乗じるかたちで、トゥアレグ族の武装勢力アザワド地方開放国民運動(MNLA)が北部の主要都市に信仰して、北部の独立を宣言をしちゃう。

で、ここから先がごちゃごちゃするんですが、このあと北部ではトゥアレグ族によるMNLAとイスラム武装勢力「アンサール・ディーン」(Ansar Dine)の対立が激しくなって、6月下旬にはアンサール・ディーン側が「MNLAをやっつけた。北部を制圧しているのは我々だ」と宣言するに至ります。(参照、ロイター) アンサール・ディーンはイスラム法を全土に広めようとするイスラム武装勢力で、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM。AQMIとも)とも関係が深い。このAQIMはマリ北部を拠点にしてアルジェリア政府の打倒を目指しているアルカイダ系の組織です。ちなみにマリ北部にはMUJWA(Movement for Unity and Jihad in West Africa)という組織もあって、これは活動範囲を西アフリカ全域に広げたAQIMの分派だそうです。各組織の概要はウィキペディアを参照。(アンサール・ディーン AQIM MUJWA

国際社会の対応としては3月のクーデター後にECOWASがマリに対する経済制裁を発動したほか、米国もそれまで行ってきたマリへの支援をストップしています。それまでのマリと米国の関係はエクセレントで民主主義の強化と経済成長を通じた貧困撲滅という共通のゴールを持っていたのに、クーデターとは何事だというわけです。米国はトラオレ暫定政権に対して大統領選挙の実施を求め、北部の反政府勢力に対してもテロリスト集団との関係を断ち切って、法に基づいた政治的な解決の道をとるよう求めています。(参照) 

国連も7月に安保理決議2056を全会一致で採択し、クーデターを批判するとともに、さらにMNLAによる独立宣言も無効であるとし、AQIMによるテロ活動にも懸念を示しています。10月の安保理決議2071では、安保理決議に基づいた軍の派遣を求めるマリ暫定政権からの要望に留意するとしたうえで、マリ情勢は国際社会の平和と安全への脅威だとの認識を示して、加盟国に対してマリ国軍に対するサポートを要請(calls upon)。さらに12月の安保理決議2085では、マリの安定確保にはマリ国軍の再配備が重要であるとして、マリ全土での安定確保とテロリストの脅威を取り除くため、加盟国に対してマリ国軍へのサポートを促している(urges)。

で、フランスはこの国連決議に基づいて2013年1月10日からマリへの空爆をやっているそうです。ただ、これであっさりと安定を回復できればいいですが、イスラム武装勢力を敵に回すっていうのは思い切った決断だという気もします。砂漠での戦闘は泥沼化するわ、フランス国内でもテロリストが暗躍するわっていう展開にもなりかねない。どうなるんでしょう。


画像はウィキペディアにのっていた2012年4月時点のマリの地図。


追記(1月17日)
12月の安保理決議2085では、アフリカ諸国主導の"International Support Mission in Mali"を派遣することを承認。その目的として、マリ政府が北部の支配権を回復することをサポートすることなどを挙げて、軍事介入にお墨付きを与えています。肝心なところが抜けていました。

2013年1月10日木曜日

チャック・ヘーゲルって誰?

2期目のオバマ政権の国防長官はチャック・ヘーゲルに決まりました。たれ目で一重まぶたの普通のおじさんです。ネブラスカ州出身でベトナム戦争に従軍。下院議員のスタッフをしたり、ファイヤーストーン社のロビイストをしたり、携帯電話会社を起業して成功した後、1996年に上院議員に初当選し、外交畑を歩んできた人です。

共和党ですが、ブッシュ政権をおおっぴらに批判したりもしている。イラク戦争の決議には賛成したものの、 “Actions in Iraq must come in the context of an American-led, multilateral approach to disarmament, not as the first case for a new American doctrine involving the preemptive use of force.”なんて言ったりしている。(参照) あと、イラク増派に反対したり、対イラン制裁に反対したり、アンチ・イスラエルな言動をみせたりすることでも知られている。(参照)

このページによると、 “We are each a product of our experiences, and my time in combat very much shaped my opinions about war. I’m not a pacifist; I believe in using force, but only after following a very careful decision-making process.”なんていう言葉もあって、なんかカッコイイです。ただ、共和党からのウケはよくないらしい。

で、このページに、ヘーゲル自身が寄稿したForeign Affairs誌の記事というのが紹介されていたので読んでおいた。8年ほど前に書かれたものですが、参考になるんだと思います。(参照)

まず目に付くのは、軍事力だけじゃなくて、その軍事力で何を達成しようとしているのかという理念が大事なんだという主張ですね。米国が他国から信頼されるような国であることが重要だということです。

A wise foreign policy recognizes that U.S. leadership is determined as much by our commitment to principle as by our exercise of power. Foreign policy is the bridge between the United States and the world, and between the past, the present, and the future. The United States must grasp the forces of change, including the power of a restless and unpredictable new generation that is coming of age throughout the world. Trust and confidence in U.S. leadership and intentions are critical to shaping a vital global connection with this next generation.

そのためには現実を直視することが大事で、「神から与えられた使命だ」的な教条主義的な考え方では失敗しますよと。ひとりよがりになっちゃいけないということですね。

a Republican foreign policy for the twenty-first century will require more than traditional realpolitik and balance-of-power politics. The success of our policies will depend not only on the extent of our power, but also on an appreciation of its limits. History has taught us that foreign policy must not succumb to the distraction of divine mission. It must inspire our allies to share in the enterprise of making a better world.

ただ、軍事力の行使を否定するわけでもない。アメリカだもの。

Traditionally, a Republican foreign policy has been anchored by a commitment to a strong national defense. The world's problems will not be solved by the military alone, but force remains the first and last line of defense of U.S. freedom and security. When used judiciously, it is an essential instrument of U.S. power and foreign policy. Terrorists or states that attack the United States should expect a swift and violent response.

そのうえでヘーゲルは、外交で守るべき7つの原則というのを列挙していきます。

・法治国家、所有権の尊重、科学技術の開発、自由貿易、人的資本への投資といった理念を大事にして、世界経済のリーダーであり続けること。

・エネルギー安全保障の重要性を確認すること。たとえ原油の中東依存度が下がったとしても、中東の不安定化は原油価格の上昇と通じて米国経済に影響する。

・国連やNATOを重視する。国連には問題も多いけれど、昔よりはマシになっている。米国が主導権を握らねばならないときもあるが、権限やコストやリスクを分担することも必要だ。

・中東の民主化、経済改革を支援する。理念での勝負で負けるわけにはいかない。イスラエルとパレスチナの紛争も解決せねばならなし。中東の安定は米国とイランの対話や、イランのテロ支援や核開発といった問題へのアプローチとなる。リビアのカダフィ大佐が核開発を放棄したことは良い例だ。

・NAFTAなど西半球諸国との経済連携の重視。

・世界中の貧困や病気と戦っていく。途上国の安定につながる。

・public diplomacyの強化。

さらに重要な連係相手として、EU、ロシア、インド、中国を挙げています。ロシアについてはエネルギー調達での連係を強化することが必要だとし、インドは人口を背景とした潜在力があるが、パキスタンとのカシミール問題の解決を進めねばならないと指摘。あと中国との関係は、北朝鮮の核開発問題への影響力、ミサイル技術やdual-use technology(軍事、民生の両方に使える技術)の拡散、中台問題の解決において、特に重要だとしています。


外交政策に詳しいわけじゃないですが、まぁ、普通の穏健な内容って感じなんでしょうか。ただ、どうしてもイランが核開発を止めないっていうことになって、イスラエルが怒り始めたりしたとき、どんな対応をとろうとするのか分りませんけど。

2013年1月5日土曜日

fiscal cliff は決着+先送り

年末年始も米国議会の方々は一生懸命仕事をなさって、fiscal cliff(財政の崖)は一旦は回避されたということみたいです。ただ、歳出の一律削減については2カ月先送りということですし、債務上限の引き上げ問題もありますから、まだまだ議論せねばならないことは山積しているんだと思います。

で、1月1日、American Taxpayer Relief Act of 2012が上院、下院を通過して、2日のオバマ大統領の署名を経て成立しました。リンク先のサマリーによると、

Makes permanent the tax reduction provisions of the Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act of 2001 for individual taxpayers whose taxable income does not exceed $400,000 ($450,000 for married couples filing a joint return)

ということですから、個人で40万ドル未満、夫婦で45万ドル未満に対する減税は恒久化されるということですね。オバマ大統領は選挙戦中、Cut the deficit by $1.5 trillion over the next decade through tax reform, including the expiration of tax cuts for single taxpayers making over $200,000 and married couples making over $250,000.(参照)としてきましたから、個人、夫婦ともに20万ドルずつは譲歩したというかたちになります。

あと、相続税の最高税率は従来の35%から40%に引き上げ。相続税率は何もしなければ55%まで上がるはずだったので、民主、共和の双方が妥協したという感じですか。40万ドル以上の所得層に対するキャピタルゲイン税率は従来の15%から20%に引き上げ。

また、失業保険については、

Extends unemployment provisions, including: (1) emergency unemployment compensation payments for eligible individuals through January 1, 2014, and (2) requirements that federal payments to states cover 100% of such payments until December 31, 2013.

ということです。emergency unemployment compensation(EUC)っていうのは、通常の失業保険を26週間受け取った後でも仕事が見つからない場合に受けられる失業保険のことで、これをあと1年間延長する。(参照) で、そのための資金は連邦政府が面倒をみるということですね。

一方、歳出の一律削減については、

Amends the Balanced Budget and Emergency Deficit Control Act of 1985 to reduce the required amount of deficit reduction calculated for FY2013 by $24 billion.

Postpones to March 1, 2013, the allocation by the Office of Management and Budget (OMB) and order by the President of total reductions to budget functions (half from the defense function). Implements the FY2013 sequester on March 27, 2013.

Reduces FY2013 discretionary spending limits to those applicable for FY2012. Reduces FY2014 limits from $1.066 trillion to $1.058 trillion.

つまり、

FY2013で削減するはずだった$24 billionについてはキャンセル。
一律削減の実施は3月27日まで延期。
FY2013の裁量的支出の上限はFY2012の水準まで引き下げ、FY2014については$1.058 trillionまで引き下げ。

ということですね。まぁ要は先送りです。

この法律については、ホワイトハウスによるサマリーもあります。

Social Securityの給付額決定にchained-CPIを使うかどうかという問題も先送りみたいですね。ティーパーティなんていう人たちがいる米国でさえ、歳出削減っていうのは政治的に難しいんでしょう。もちろん日本も社会保障制度の圧縮の議論は進んでいない。消費税増税の道筋は一応ついたのかもしれませんが。