2012年4月18日水曜日

The Fortune Tellers


"The Fortune Tellers"を読み終わった。

どっかのサイトで「米国の経済報道の実態を描いた本」として引用されていたので買ってみた。実際には米国のITバブル期のドタバタぶりを、金融市場とマスコミ報道の関係から振り返ってみたという趣旨の本です。ジム・クレイマーがワーワー吠えているのはこれまでにも読んだ金融市場モノと同じですが、ウォールストリートジャーナルの記者とかCNBCのキャスターとか著名アナリストなんかも扱っているところが私には目新しかった。仕事がバタバタして読むのに時間がかかったけど、面白かった。

ただねぇ、登場人物が多すぎ。それに関する固有名詞もたくさん出てくる。CNBCだけだったら分かるけれど、それがやっている番組の名前、それに出てくるキャスターの名前、CNBCの社長の名前と、CNNがやっている番組とキャスターと社長の名前までがきちんと区別されていないと、「あれ? この人はCNBCの人だっけ、CNNの人だっけ」ってことになる。同じようなことが紙媒体の記者とコラムの名前とか、インターネットサイトの名前と筆者の名前とか、そういうのがゴチャゴチャになってしまってなかなかスムーズに理解が進まない。「テレビ朝日で久米宏がニュースステーションをやっていたとき隣に座っていたのは小宮悦子」っていうのは日本のおじさんには常識なわけですが、米国におけるそういう常識が頭に入っていないのでちょっと辛い。もちろん、初出のところでは説明があるのですが、しばらくして出てきたら忘れてますもんね。登場人物が多いので読み返す気にならない。

米国で経済ニュースが注目されるようになったのは、1973年のオイルショックとか1979年のクライスラー救済なんていうニュースが出てから。1980年にはCNNが出来て、夜の経済ニュース”Moneyline"が始まる。キャスターはLou Dobbsというおじさんです。1989年にはCNBCが出来て、経済ニュースに軸足を置いた放送を始める。そんななか朝の番組"Squawk Box"で、証券取引所からその日の取引材料をレポートするMaria Bartiromoという綺麗なお姉さんがアイドル的な人気を博したりする。彼女は番組の前にいくつかの投資銀行のアナリストたちに電話して情報を入手。番組のなかで「本日、ナントカ投資銀行が、ホニャホニャ株式会社の格付けを引き上げることが分かりました」なんてスクープすると、ホニャホニャ株式会社の株価がぐーんと上がったりする。視聴者はそういった情報を手に入れたくて、Bartiromoのレポートに釘付けになるわけです。CNBCは番組作りの際にESPNのスポーツ番組を参考にしていたそうで、金融ニュースはショーになっていた。

記者としてはウォールストリートジャーナルのSteve Lipinが活躍します。1998年5月にダイムラーとクライスラーの合併をスクープした人です。ちょっとした噂話にとびついて「スクープだ!」なんて騒ぐことを嫌って、実際に企業が行動を起こすまでギリギリまで引きつけて、発表当日にパッスーンと書くのが信条なんだそうです。Lipinは合併を支援する投資銀行や法律事務所にネットワークがあって、そこからネタをとって企業側でウラを取る。企業側も、Lipinに合併に事前に知らせれば、記事の扱いは大きく、好意的になるし、スクープの日と発表当日とで2日連続で紙面を独占できる。まぁ、WIN-WINの関係ですな。Lipinのライバルは、CNBCのDavid Faber。彼らは特ダネ競争に勝ち抜くため、深夜、休日をいとわず働きます。彼らにとって特ダネをとった時の快感は、クセになるものだったんだって。へぇ。

ただ、投資銀行のアナリストが取引先の企業の悪口を言ったことで解雇されてしまうなんていうケースもあった。経済誌のコラムなんかでも、イケイケドンドンな内容が人気を博す。ITバブルの時期は、企業にとって都合の良いニュースや分析しか流れなくなって、それを材料に一斉に株価が上がるという状況が続いていた。IPO銘柄だと、「株式公開からたった3カ月で株価が10倍になった!」みたいな話がゴロゴロあったんだそうです。偽のブルームバーグのサイトが作られて、そこに出た偽ニュースを材料にとある企業の株価が高騰したなんていることもあった。

まぁ、そういった信じられないような浮かれっぷりがずーっと書かれています。最後に書かれていた例え話が面白かったので引用してみます。


例えば、あなたがSchlock.comという会社に投資したいと思ったとして、その会社の戦略とか将来性とか過去の株価とかをいろいろ調べて、思い切って1株50ドルで100株を買ったとする。2週間後、Maria Bartiromoが番組で、聞いたこともないモルガンスタンレーのアナリストがSchlock.comを格下げしそうだと言って株価が5ドル下がり、1週間後にGene Marcialがビジネスウィーク誌でSchlock.comが買収のターゲットになっていると書いて株価が10ドル上がり、さらに実際にはそんな買収はなかったことで株価が15ドル下落。で、インターネットサイトで「BarronsがSchlock.comについてネガティブな記事を書くようだ」という噂が流れて株ががさらに3ドル下がる(実際にはちょっとポジティブな記事だった)。2カ月後、Schlock.comは1年前の2倍にあたる1億ドルの利益があったと発表するけど、とっても賢いウォールストリートのアナリストたちの予想を下回ったということで株価は12ドル下がる。で、Jim Cramerがウェブサイト”Street.com”で、「俺はSchlock.comのCEOが嫌いだから、持ち株を全部売ってやった」と書く。CNBCがSchlock.comについてのニュースを出すときはいつでも株価下落を示すチャートが画面に出ている。あなたはたまりかねて、2500ドルの損を抱えて持ち株を全部売ることになる。そしたら次の週になって、ウォールストリートジャーナルのコラム"Heard on the Street"が、Schlock.comが次世代製品を出すと書いて、株価が14ドル上がる。歯ぎしりしたって、遅いんだけどね。


現実に起こったことは、Schlock.comが利益が2倍になったと発表しただけ。なのに、外野が勝手にゴチャゴチャ騒いで株価が乱高下するというわけです。

2000年、ナスダック株式指数4500ドルを突破しましたが、2002年には1100ドルぐらいまで下落しました。ちなみに今は3000ドルぐらい。上昇基調にあります!


写真はもちろん、Maria Bartiromoさん。