2012年12月30日日曜日

fiscal cliff 協議は続く

28日(金)のfiscal cliff(財政の崖)に関する協議後、オバマ大統領が声明を出しています。民主・共和両党の協議は最後まで続くし、合意は可能だと強調する内容ですが、一方で、協議が合意に至らなかった場合、民主党のリードSenate Majority Leaderに対して、中間層に対する増税の回避、求職中の200万人に対する失業保険の延長、将来的な協調を目指した協議の継続を目的とした法案を提出するように求めるとも述べて、予防線を張っています。

I just had a good and constructive discussion here at the White House with Senate and House leadership about how to prevent this tax hike on the middle class, and I’m optimistic we may still be able to reach an agreement that can pass both houses in time. Senators Reid and McConnell are working on such an agreement as we speak.

But if an agreement isn’t reached in time between Senator Reid and Senator McConnell, then I will urge Senator Reid to bring to the floor a basic package for an up-or-down vote –- one that protects the middle class from an income tax hike, extends the vital lifeline of unemployment insurance to two million Americans looking for a job, and lays the groundwork for future cooperation on more economic growth and deficit reduction.

で、民主・共和の両党は引き続き協議をしております。ロイター通信によると、

・1月2日(水)に実施される1090億ドルの歳出一律削減を数カ月延長することやブッシュ減税の1年延期などが話し合われている。
・年収25万ドル以上の家族に対する増税の是非については意見の隔たりが大きい。
・オバマ大統領が求めている長期失業保険の延長についても合意には至っていない。
・相続税の減税打ち切りも決着していない。このままだと、1月1日(火)に税率が55%(現行35%)に上がり、控除額が100万ドル(現行500万ドル)に下がってしまう。

ということのようです。

なんか全然ダメっぽいんですけど、そうでもないんでしょうか。

2012年12月28日金曜日

fiscal cliff の協議が大詰め

いわゆる財政の崖(fiscal cliff)問題に関する協議が大詰めを迎えています。オバマ大統領はハワイでのクリスマス休暇を早めに切り上げて共和党側との協議に臨むようです。まぁ、そもそもクリスマス休暇をとっている場合かよ、っていう気はしますが、前回のエントリ以降の動きについてまとめておきます。

ちょっと前のCNNの報道によると、オバマ大統領は17日の月曜日に増税される家族の年収を40万ドル以上にしてもいいよという提案をしています。これまでは25万ドル以上としていたわけだから、増税の対象となる家族は減ることになって、共和党的には嬉しいでしょ? というわけです。

詳しい内容はWSJのこのページが、随時アップデートされるみたいなので、ここにコピペ。

Obama’s Latest Proposal

Revenue
$1.2 trillion to $1.3 trillion: New revenue raised over 10 years under Mr. Obama’s latest offer. Key features:

Raise tax rates on income above $400,000
Increase tax rate on capital gains and dividends to 20% from 15% for income over $250,000
Increase estate-tax rate to 45% from 35% (exempting first $3.5 million of assets per person, down from first $5.12 million)
Limit top value of some tax deductions
Permanently extend the alternative-minimum tax relief

Spending Cuts

$400 billion: Health-care spending cuts through changes to programs

$200 billion: Spending cuts to nonmandatory health

$200 billion: Discretionary spending cuts, including $100 billion from defense

$130 billion: Chained CPI savings

一番最後に出てくるchained CPIによる歳出削減というのもミソらしい。さきほどのCNNの記事などによると、Social Securityの受給額は物価に連動するようになっているのですが、chained-CPIを採用すれば、物価変動の幅が従来の方法よりも小さめに見積もられるようになる。chainde-CPIの場合、ある商品の物価が上がった場合、消費者はその商品ではなく、代わりのもっと安価な商品を買うようになることを考慮にいれるからだそうです。ということで、Social Securityの支給額も小さくなって、歳出削減の効果がある。これまた共和党にとっては嬉しいでしょ? というわけです。

これに対して、共和党のベイナー下院議長は18日の会見で、「オバマ大統領の提案は1.3兆ドルの税収増に対して、8500億ドルの歳出カットしか想定しておらず、バランスのとれたアプローチとはいえない」と批判。そのうえで、、「年収100万ドル以上に対する増税だったら認めてもいいよ」という提案を行います。いわゆる「プランB」とよばれるやつで、ベイナー下院議長は20日に下院で法案を投票にかけると宣言しました。

この記事によると、プランBはBudget Control Actに基づく歳出の一律削減や社会保障制度の改革には触れていない不完全なものなようですが、副大統領候補だったライアン下院議員や影響力のある反増税活動家のGrover Norquist氏らの支持を獲得。共和党的にはこのプランBを下院で通過させてしまえば、「次は歳出カットでオバマ大統領と民主党が妥協する番ですよ」と迫れるとの皮算用もあったようです。あと、歳出一律カットの問題については、「国防費のカットは一律じゃないよ」という別の法律を作って対処するという作戦もとった。でも結局は共和党内から十分な支持を得られず、ベイナー下院議長はプランBを投票にかけることを断念します。共和党内には「増税は絶対に嫌」という議員が多いうえに、早くからオバマ大統領や民主党がプランBへの反対を表明していたため、「上院を通るわけがない」という判断があったようです。ちなみに、国防費のカットは一律じゃないよ法案は投票にかけられて、215-219で可決されています。(参照)

このプランBの失敗を受け、オバマ大統領は21日の会見で、「あと残り10日しかない。98%の米国民に対する減税の継続に関しては誰も反対していないんだから、それをやらない理由はない」と強調してハワイへ出発。そのオバマ大統領が27日、ワシントンに帰ってきたというわけです。

CNNの記事によると、28日午後3時から、オバマ大統領、バイデン副大統領、ベイナー下院議長、ペロシHouse Minority Leader、リードSenato Majority Leader、マッコーネルSenato Minority Leaderによる協議が行われるそうです。


なんか共和党内にいる「増税絶対反対派」を納得させるために、一旦、財政の崖から落ちて税率を現状よりも上げたうえで、そこから税率をちょっと引き下げて「減税を実現したんだ」というロジックを展開するなんていう話もあるみたいです。めんどくさい話ですね。

写真はハワイから戻ってきたオバマ大統領。

2012年12月11日火曜日

income mobility

以前、このエントリーの最後で、「低所得者が高所所得者になったり、低所得者の子供が高所得者になる割合が少なくなっているんだっけ?」みたいなことを書いて、また調べときますとしていたんですが、Foreign Affairsに丁度いいエッセイが出てました。

It's Hard to Make It in America (How the United States Stopped Being the Land of Opportunity)というタイトルで、Lane Kenworthyというアリゾナ大学の教授が書いたものです。ちなみにRobert DenhardtとJanet Denhardtのコンビはアリゾナ州立大学です。どうでもいいですが。

これによると、この50年で女性は男性よりも大学を卒業するようになり、収入面でも男性に追いついているし、白人と黒人の差は徐々にではあるが縮まっている。でも、生まれた家庭環境による差は広がりつつあるということのようです。

つまり、米国内の家族を所得の多い方から順番に並べて5つのグループに分けたとして、1960~80年代に一番下の所得グループの家庭に生まれた子供は、大人になったときに真ん中以上の3つのグループにいる確率は30%でしかない。完全に機会が均等であれば、確率は60%であるはずだから、一番下の所得グループに生まれた子供は人生における機会が少ないということになる。逆に一番上の所得グループに生まれた子供は、80%の確率で真ん中以上のグループにいることができる。また、こうした機会の格差は1970年代までは縮まっていたが、最近は広がっている。さらに米国での機会の格差はオーストラリア、カナダ、デンマーク、フィンランド、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、イギリスよりも大きい。フランスやイタリアとは同程度。

there is general consensus among social scientists on a few basic points. First, an American born into a family in the bottom fifth of incomes between the mid-1960s and the mid-1980s has roughly a 30 percent chance of reaching the middle fifth or higher in adulthood, whereas an American born into the top fifth has an 80 percent chance of ending up in the middle fifth or higher. (In a society with perfectly equal opportunity, every person would have the same chance -- 20 percent -- of landing on each of the five rungs of the income ladder and a 60 percent chance of landing on the middle rung or a higher one.) This discrepancy means that there is considerable inequality of opportunity among Americans from different family backgrounds.

Second, inequality of opportunity has increased in recent decades. The data do not permit airtight conclusions. Still, available compilations of test scores, years of schooling completed, occupations, and incomes of parents and their children strongly suggest that the opportunity gap, which was narrowing until the 1970s, is now widening.

Third, in a sharp reversal of historical trends, there is now less equality of opportunity in the United States than in most other wealthy democratic nations. Data exist for ten of the United States' peer countries (rich long-standing democracies). The United States has less relative intergenerational mobility than eight of them; Australia, Canada, Denmark, Finland, Germany, Norway, Sweden, and the United Kingdom all do better. The United States is on par with France and Italy.

その理由としては、高所得グループの子供は両親ともにそろっていて、親が勉強の面倒をみてくれたり、学校以外での活動に時間をとって充実した生活を送れるけれど、低所得グループの子供は両親がそろっていないことも多くて勉強に専念できないことや、高所得者層が住む地域の学校は総じて低所得者層が住む地域の学校よりもレベルが高いこと、低所得グループの子供は大学の学費が払えないこと、製造業の海外流出で限定的なスキルでも安定的に収入を得られるチャンスが減ったこと、低所得グループの子供は低所得グループの子供と結婚する傾向が高く、高所得グループの子供は高所得グループの子供と結婚する傾向が高いので、格差が世代間で引き継がれていくこと、などが挙げられています。

解決策として提示されているのは、

・0~4歳の5年間における親の収入が3000ドル増えれば、子供が大人になったときの所得は20%増えるという調査結果があるので、米国でも子供手当てを導入するべきだ。ちなみにカナダ子供2人の家庭で年間3000ドル、低所得だったら6000ドル。

・あまり若いうちにできちゃった結婚しても収入が不安定だから、子供たちにはまず勉強して、安定的な収入のある仕事について、その後で結婚して子供を作るように教育する。

・育児休暇や公的な幼児教育の充実。こうした分野での州政府の活動を連邦政府として支援する。

・低所得グループの子供でも大学に入りやすくする。一番下の所得グループに生まれた子供でも、4年制大学を卒業した場合は、53%の確率で真ん中以上の所得グループに入ることができる。(機会均等な社会での確率である60%に近い) 北欧では公立の4年制大学の授業料はタダだ。

・子供のいる家庭だけでなく、子供がいない人にも税控除を拡大する。そうすれば自分が教育を受ける余裕ができる。

・すべての世帯に対して増税して、得られた税収を教育にあてる。収入の格差は解消しないけど、機会の格差は解消できる。高所得者にだけ増税して収入の格差を縮めても、低所得者の機会が増えるわけではない。

・affirmative actionの対象を人種や性別から家庭環境にシフトさせる。例えば、大学が入学者を選ぶ際に、厳しい家庭環境で育ってきた高校生を優先する。

といった感じ。

で、エッセイの最後の部分は、

Fortunately, the United States' experience and that of other affluent nations suggest that the country is not helpless in the face of economic and social changes. There is no silver bullet; a genuine solution is likely to include an array of shifts in policy and society. Even so, a fix is not beyond the United States' reach.

となってます。


うんうん。そうだよね。


ところで、income mobilityについて書かれたこんな本を見つけました。

surprising conclusionsって何なんでしょう。気になる。

2012年12月10日月曜日

fiscal cliff はどうなった。

このところfiscal cliffのことを気にしていなかったので、どうなってんのか調べておいた。

オバマ大統領は11月29日にガイトナー財務長官を「特使」として共和党に提案を行っています。この内容は文書では公開されていないみたいですが、報道によると内容は以下のようなものらしい。【CNNの記事】【CNBCの記事】【WSJの記事】


・10年間で1兆6000億ドルの税収増。このうち9600億ドルは年収25万ドル以上の富裕層向けの税率引き上げ、キャピタルゲインや配当への課税の強化でまかなう。さらに今後の税制改正で6000億ドルを捻出する。相続税を2009年の水準まで引き上げることや、控除などの見直しを含む。

・Budget Control Actで定められた財政支出の一律カットの1年延期。

・景気刺激策、失業保険の拡充などで500億ドルの支出増。

・債務上限問題が2011年のような混乱を起こすことを避けるため、大統領が債務上限を引き上げる権限を握る。

・メディケアなどへの支出を4000億ドル減らす。詳細は来年協議する。

この提案を行ったうえで、ガイトナー財務長官は12月2日のCNNの番組"State of the Union"でも、「税率引き上げがない限り、fiscal cliff問題での合意はない」と宣言したりしています。(参照) 妥協する気は全くないぞという感じですね。


これに対して共和党は12月3日、文書でオバマ大統領に遺憾の意を表明。(参照) それによると、

・1兆6000億ドルなんていう額は、大統領選で主張していた額の2倍じゃないか。

・歳出カットの4倍もの税収増を見込んでおり、とてもじゃないけど、大統領自身が主張してきた「バランスのとれたアプローチ」とは言えない。

・大統領側は「1ドルの税収増に対して、2.5ドルの歳出カットを行っている」と説明しているが、それは過去の歳出カットも含めた計算じゃないか。

・債務上限を取り払うとはどういうことだ。

・こんな不真面目な提案を出してくるようでは、我々は下院を通過した"Budget Resolution"に基づいた対応をとるしかない。


などと主張しています。で、その対応の内容はというと、


・メディケアの抜本的な改革で、受給者に保証内容の選択肢を与えるようにする。貧しい人や病気の人にはサポートを厚くし、富裕層へのサポートは削る。現在の高齢者には影響が出ないようにする。これによってメディケアの支出は抑制されて、維持可能なものになる。

・メディケイドも改革して、州政府の裁量を大きくする。受給者の状況を改善しながら、10年間で8000億ドル近くを節約できる。

・Federal employee compensationやSupplemental Nutrition Assistance Programの改革で数千億ドルを節約する。

とのこと。

さらに具体的には、オバマ大統領が作った"National Commission on Fiscal Responsibility and Reform"のErskine Bowles共同議長が2011年11月1日に行った提案を例に挙げています。この提案は、税率アップではなく控除などの見直しにより8000億ドルの税収増を確保し、mandatory spendingで9000億ドル、discretionary spendingで3000億ドルの歳出カットを行うとしたもので、共和党側は「完璧な解決策ではないけど、公平な妥協点だ」としています。


これに対してオバマ大統領側からは歩み寄りの姿勢はないようで、共和党のベイナー下院議長は8日の会見で協議について「進展はない」と表明しています。 (参照) ただ、10日になってオバマ大統領とベイナー下院議長が話し合いの機会をもっています。詳細は明らかにされていませんが、“the lines of communication remain open”ということのようです。

で、今後の行方について、ワシントンポストの記事がややこしくて面白い。(参照) 簡単にまとめてみると。

・最高税率は35%~39.6%の間で落ち着く可能性がある。

・増税の対象を25万ドル以上ではなくて、37万5000ドルとか50万ドルとかにするかも。

・民主党は税収増を1兆2000億ドルにまで妥協する用意があるようだ。

・共和党は8000億ドルに抑えたい。上院を通過したMiddle Class Tax Cut Actでも8310億ドルだったのだから。

・オバマ大統領は社会保障費のカットを3500億ドルにおさえたい。共和党は8000億ドルを狙っている。

・歳出一律カットを延期するための暫定的な歳出削減もやる。そのうえで抜本的な歳出カットを協議がまとまらなければ、歳出一律カットと増税をセットにしてやる。デッドラインは来年秋。(多分)

・世論調査によると、協議が決裂したとすれば、大半の国民が共和党に責任があると考えている。

・だから、共和党内にはMiddle Class Tax Cut Actを下院で通しちゃって、富裕層への税率アップを認めちゃえという声もある。ただし、この法律には緊急失業保険の延長とか債務上限の引き上げとかは含まれていない。増税さえ認めてしまえば、共和党側が民主党側に妥協を求めるという構図を作ることができる。

・ただし下院でMiddle Class tax Cut Actを通すというのはそれほど簡単ではない。共和党から30人ぐらいの賛同者を出さなければならないけれど、各議員にとって簡単に妥協しちゃうことは選挙対策上好ましくないからだ。


写真はベイナー下院議長。バスケットボールで有名なゼイビア(Xavier)大学を卒業後、中小企業経営を経て、1990年の下院選挙でオハイオ州8区から出馬して初当選。以来、下院一筋22年。2年ごとに選挙やって、ここまでたどり着くっていうのは偉いもんですなぁ。