2011年5月14日土曜日
Battle Hymn of the Tiger Mother
"Battle Hymn of the Tiger Mother"を読んでみた。大変面白い。
ブッシュ前大統領もご卒業されたイェール大学の教授で中国系アメリカ人女性Amy Chuaが「中国式子育て」をつづった本です。これがまた引いてしまうほどのスパルタ式教育ということで、アメリカで物議をかもしたことが日本でも少しニュースになりました。
で、彼女の子育ての背景にある信念というのが、「数学でも、ピアノでも、野球でも、バレエでも、子供が何かひとつにでも成功すれば、子供は褒められて、満足し、自分に自信を持つようになり、楽しくなかったものを楽しめるようになる」というもの。まぁ、日本人でもそんな考え方をする人もいる。KANの「すばらしい人生」にだって、「あれほど逃げまわっていたピアノを弾きながら」という歌詞がありますよね。知りませんか、そうですか。
ただ、Amyさんのすごいところは、その方針が徹底していること。曰く、「Aマイナスは悪い成績である」「数学の授業ではクラスメイトより2年先をいっていなければならない」「子供が先生に従わなかったら、親は必ず先生の側に立つ」「友達の家でのお泊まり会なんて許さない」「子供は親の命令には絶対服従」「西洋の子育ては子供の自尊心に気を遣いすぎ」なんていった具合です。私がAmyさんの息子だったら、殺されているところです。
Amyさんには2人の娘がいます。長女のSophiaはピアノを習わせた。思惑通りに練習に励み、ピアノもどんどん上達していく。なんせ旅行先でもホテルやバーのピアノを借りて、必ず毎日練習させたというからそりゃあもう上達するわけです。
で、次女のLuluにもピアノを習わせた。ところが、このLuluさんが相当な頑固者。幼稚園の入園試験で、Luluはブロックを数えるように言われた。でも、彼女は一言も口にしない。慌てたAmyさんが「何やってんのよ」と囁くと、Luluは「頭の中で数えたの」。Amyさんは自分の信念を曲げて、「ちゃんとできたらキャンディーを買ってあげるから」と買収。すると、もう1度4個のブロックを数えるように言われたLuluは、「11,6,10,4」と数える。次は8個のブロックを前にして、「6,4,1,3,0,12,10,8」。なんという漢気。完全に大人をなめきっている。そんなLuluとAmyさんは、この後も繰り返しバトルを繰り広げることになります。
ピアノの練習をしろと言われた、LuluはAmyさんにパンチ、キック、かみつき。さらには楽譜をつかんで破り捨てる。するとAmyさんは楽譜をテープでつなげて破られないようにプラスチックのケースにいれて、「あなた大事なお人形さんの家を寄付しちゃうわよ」と脅迫。これに対してLuluは「本気だったら、さっさとサルベーションアーミー(慈善団体みたいなもん)に行けばいいじゃない!」と反撃する。
Amyさんは、Luluが上手にピアノを弾けないときは、「失敗するのが怖いから、わざと失敗している」と感じるタイプの人だそうです。ユダヤ系アメリカ人で、Amyさんとおなじくイェール大教授かつベストセラー作家の旦那さんは娘たちがいないときに、「いい加減にしないか。子供を傷つけるのはやめろ」と言うらしいですが、Amyさんは「傷つけてなんかいない。モチベーションを高めているだけ」と言い返す。旦那さんは「Luluはまだ小さいから、難しいことはできないんだ。君はそんなことを考えたことがあるの?」と切り返すわけですが、「あなたはLuluの可能性を信じてないのよ」と猛反論。読んでいるだけで、疲れてしまうような生活です。
こんな生活を繰り返していても、Amyさんはめげない。「私の子育ての副産物は、SophiaとLuluが仲良しになったこと。2人が『おかあさん、狂ってる』と囁きあっているのを聞いたことがある」と明かしながらも、「でも、私は気にしない。私は西洋の母親のように傷つきやすくなんかない。私の子育ての目的は子供たちの未来に備えることで、私を好きになってもらうことではない」と言ってのける。漢です。漢のなかの漢なのです。
とまぁ、こんな感じの生活が日々つづられています。Luluはピアノをやめて、バイオリンを弾くようになるのですが、まぁ基本的には同じ感じ。でも、この後、旦那さんのお母さんの死とか、Amyさん自身の妹の闘病なんていう話も出てくるとAmyさんにも心境の変化がでてくる。「本当は、私は人生を楽しむことが得意ではない。これは私の強みではない」「中国式の子育ては、成果が上がらなくなると脆い」なんていう文章も出てきます。
で、最終的にどうなるかっていう話ですが、Luluはバイオリンを止めることになります。Luluはますます反抗的になり、ついには部屋に閉じこもって自分の髪の毛を自分でぐちゃぐちゃに切ってしまったりもする。そのときAmyさんは心臓バクバクで、思うように言葉が出てないほど動揺しますが、それでも問題はコントロールできるとLuluと対決姿勢を貫く。するとLuluは人前でもAmyさんに反抗するようになり、旅行先のモスクワのレストランでブチ切れ。クライマックスです。
「お母さんなんて嫌い! 私のことを愛してないわ。自分ではそう思っているかもしれないけれど、絶対に違う。一緒にいるといつでも気分が悪くなる。私の人生台無し。そばにいたくない。お母さんはそれでいいの? 最悪の母親だわ。自己中心的で、自分以外のことなんて気にもしない。どれだけ私が嫌な思いをしてるか分かる? 全部自分のためにやってるんでしょ。私のためにやって言っているけど、全部自分のためじゃない! バイオリンなんて嫌い。生きているのも嫌い。お母さんも嫌い。家族も嫌い!」
グラスを床にたたきつける。ガラスが飛び散って、周りの視線が集まる。
「私を1人にしてくれないなら、次のグラスを割る!」
Amyさんはその場から逃げ出して、赤の広場の行き止まりで立ちつくします。
私が旦那さんなら泣いてるな。
現在は家族関係は良好のようです。この本も、家族みんなが目を通して、何度も何度も買い直したらしい。Luluはテニスを始める。ジュリアードの入学試験を受けたほどの腕前だったバイオリンに比べると、まったく上手ではないようですが、自分でモチベーションをもって頑張っている。一度、Amyさんが良いテニスのコーチを見つけようと画策したらしいですが、Luluに拒否されて諦めたらしい。なんとなく、ほのぼのとしたハッピーエンド。
まぁ、自分の子育ての参考になるかどうかというと、ならないです。ただ、優秀な夫婦でも子育てには苦労するんだなと。ほのぼのハッピーエンドのせいもあって、お昼の連ドラを見たかのような読後感でもあります。
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