2013年6月13日木曜日

棚上げすればいいんじゃないか論

ちょっと昔の話なんですが、Jonathan TeppermanというForeign Affairsの編集者の文章を読んだ。"Asian Tensions and the Problem of History"というタイトルで、なんで日中韓の三国は歴史問題でケンカばかりしているのかねぇという内容です。(参照)

Teppermanさんは、安倍首相が「731」ナンバーの戦闘機の操縦席で撮った写真が中韓の反発を招いた話で日中韓のややこしい関係を紹介。日中は尖閣問題で対立するし、日韓には竹島問題がある。「朴大統領はオバマ大統領との会談のかなりの部分を安倍首相をこきおろすことに費やした」なんていう表現もある。で、もちろん対立の根源は第二次世界大戦に遡るわけですが、Teppermanさんは、

Why can’t these countries just let the past lie, especially when doing so would be so clearly in their interests? Yes, there are plenty of ugly traumas to overcome. But Japan has been a pacifist, liberal democracy for nearly 70 years now, and it’s hard to imagine it threatening anyone.

と疑問を呈します。そうそう。私もそう思う。

Teppermanさんは「ベストの解決法は、西ドイツのブラント首相が1970年にやったように、日本が全面的に第二次世界大戦時の行為について謝罪すること」と指摘します。「大日本帝国とナチは違う」ことにも理解は示すわけですけど、ドイツは謝罪によって膨大な利益があったわけだから、日本だって同様にするべきだというわけです。日本の政治家たちが「これまでに何度も謝罪しているし、賠償金だって払っている」と主張していることについては、「その通りだ」と認めます。でも、日本の政治家たちが保守的で謝罪疲れした支持者を満足させるために、その謝罪を台無しにするような発言を繰り返していることも事実だと。うん。確かにそうだ。

一方、中韓に対しては、「現在の目的のために歴史を利用しようとしている点で罪深い」(Japan’s neighbors, meanwhile, are just as guilty of exploiting the past for present ends.)と論評。中国が尖閣の領有権を主張し始めたのは周辺海域で資源が見つかったことと無関係ではないことや、国内の不満をそらそうとして愛国心をあおっていることにも注目します。

つまり、確かに日本は謝罪はしているんだけど、中韓は資源獲得とか国内の不満をそらそうなんていう気持ちがあるから謝罪を受け入れようとしない。それなら日本はもう一度謝罪した方がいいんだけど、せっかくの最初の謝罪を台無しにするような発言で事態を混乱させていると。つまり日中韓が何故過去のことを水に流せないのかという疑問に対する答えについては、"The answer is that no one will go first."というわけです。まぁ、当たり前の話なんですが、的を得た簡潔な説明である気がします。

じゃぁ、どうすればいいのかというと、Teppermanさんは" simply shelve the thorniest issues and work around them"と主張します。中国と台湾だって難しい問題は棚上げしているし、日中だって国交正常化から中国が台頭する最近までは尖閣問題を事実上棚上げしていたじゃないかと。確かに簡単な話ではないんだけど、棚上げすれば、

it would cool the region’s boiling waters while letting all sides save face. And it might just be the only way to avoid an actual shooting war that no side, despite the overheated talk, wants or could afford.

ということです。


まぁ、当事者以外の立場からみればそうなんでしょう。ということは日中韓の3カ国以外の立場の人はみんなそう思っているわけですな。じゃ、そうするのが正解だな。


写真はTeppermanさん。頭良さそうな顔ですね。

2013年6月11日火曜日

「新型の大国関係」とG2論

中国の習近平国家主席が米国のオバマ大統領と会談しました。そのなかで、"new model of major country relationship"(新型の大国関係)という言葉が出てくるので、どういう考え方なのか調べてみた。

このフレーズは習近平国家主席が持ち出した言葉のようで、6月7日の会談前のちょっとした会見(参照)で、

We need to think creatively and act energetically so that working together we can build a new model of major country relationship.

なんていう風に言っています。

で、この発言には前段があって、そこの部分を読むと、

And at present, the China-U.S. relationship has reached a new historical starting point. Our two countries have vast convergence of shared interests, from promoting our respective economic growth at home to ensuring the stability of the global economy; from addressing international and regional hotspot issues to dealing with all kinds of global challenges. On all these issues, our two countries need to increase exchanges and cooperation.

And under the new environment, we need to take a close look at our bilateral relationship: What kind of China-U.S. relationship do we both want? What kind of cooperation can our two nations carry out for mutual benefit? And how can our two nations join together to promote peace and development in the world? These are things that not just the people in our two countries are watching closely, but the whole world is also watching very closely.

Both sides should proceed from the fundamental interests of our peoples and bear in mind human development and progress.

と言っている。

まぁ、今から作り上げていこうというものですけど、

・双方が納得のいく関係
・お互いの国益のために協調する関係
・世界の平和と発展に資する関係
・両国の基本的な国益を出発点として、人間的な発展や進歩も考慮する関係

ってことですかね。


で、この新型の大国関係については、会談後の共同会見(参照)でも触れられている。

習近平国家主席によると、

President Obama and I both believe that in the age of economic globalization and facing the objective need of countries sticking together in the face of difficulties, China and the United States must find a new path -- one that is different from the inevitable confrontation and conflict between the major countries of the past. And that is to say the two sides must work together to build a new model of major country relationship based on mutual respect and win-win cooperation for the benefit of the Chinese and American peoples, and people elsewhere in the world.

ということらしいです。昔は2つの大国があれば衝突は必至だったけれど、そういうことにならないように協力しあいましょうということですね。この後の発言では、経済での連係や人的交流、軍事面での関係強化なんかの必要性について話しています。

まぁ、米中は経済的なつながりは強まっているんだけど、対立点もいっぱいあるわけです。人権問題とかサイバーセキュリティとか南シナ・東シナ海での航行の自由の確保とか、チベット問題、台湾問題なんかについては意見の相違は大きい。ただ、そういった問題点について対立の道を進むのではなく、お互いの利益を尊重しつつ、解決の道を探っていくということでしょう。

一方、オバマ大統領は、

I think President Xi identified the essence of our discussions in which we shared our respective visions for our countries' futures and agreed that we're more likely to achieve our objectives of prosperity and security of our people if we are working together cooperatively, rather than engaged in conflict.

としている。「衝突を避け、協力しあえば、人々の繁栄と安全という目的を達成できる」ということです。

またドニロン大統領補佐官は8日のプレスブリーフィングで、

the observation and the view by many people, particularly in the international relations field and some people in the United States and some people in China, that a rising power and an existing power are in some manner destined for conflict; that in fact this just an inexorable dynamic between an arising power and an existing power. We reject that, and the Chinese government rejects that. And the building out of the so-called new relationships, new model of relation between great powers is the effort to ensure that doesn’t happen; is an effort to ensure that we don’t succumb to the idea that somehow relations between countries are some immutable law of physics -- that, in fact, this is about leadership, it’s about conscious decisions and it’s about doing what’s best for your respective people.

と述べています。こちらも「衝突を避ける」ということを強調しています。オバマ大統領やドニロン補佐官が「お互いの国益を守る」というあたりに触れていないのは、人権とかサイバーセキュリティ、航行の自由なんかの対立点について口をつぐむわけじゃないという意思表示かもしれない。それでも新型の大国関係を目指すことで合意したとは認めているわけですから、対立点はあるけれど、協力できるところから協力していきましょうなんていうことかもしれません。


ちなみにオバマ政権の初期にあったG2論とは違うのかっていう話もあるわけですけど、Wikipediaによると、G2論というのは「世界1位、2位の経済大国である米中が話し合えば、世界金融危機とか気候変動問題とか北朝鮮やイランの核問題とか、いろんな問題を解決できて、新たな冷戦を回避できるんじゃないの?」っていう話のようです。経済学者のフレッド・バーグステンが提唱して、カーター大統領の補佐官だったブレジンスキーや世界銀行総裁だったゼーリックなんかが支持した。(参照)

バーグステンのForeign Affairsへの寄稿(参照)によると、中国はWTOに加盟したものの交渉の阻害要因となり、APEC全体での自由貿易圏構想に反対したり、資源の囲い込みを謀ったり、為替レートを操作したりして、世界2位の大国としての責任感に欠けている。だから、

To deal with the situation, Washington should make a subtle but basic change to its economic policy strategy toward Beijing. Instead of focusing on narrow bilateral problems, it should seek to develop a true partnership with Beijing so as to provide joint leadership of the global economic system. Only such a "G-2" approach will do justice, and be seen to do justice, to China's new role as a global economic superpower and hence as a legitimate architect and steward of the international economic order.

ということです。「お行儀の悪い中国を国際ルールに従わせるため、米国が中国と2つの大国として協調する」というコンセプトですかね。

あと、米国はこれまで中国を国際ルールに従わせるために「従わないとペナルティがあるぞ」という方針で臨んできたけど、米国にも他の国にも中国との関係から恩恵を受けている人は沢山いるので、そんな強行姿勢をとっても中国は本気にしない。だから、

Abandoning the present position and adopting a less confrontational approach might be the only way to persuade China to start cooperating.

なんていうことも言っています。

あと、

At a minimum, creating a G-2 would limit the risk of bilateral disputes escalating and disrupting the U.S.-Chinese relationship and the broader global economy. At a maximum, it could start a process that might, over time, generate sufficient trust and mutual understanding to produce active cooperation on crucial issues.

とも。


G2論も新型の大国関係も米中が協調するという点には変わりはないですが、G2論の最終的な目標は「最終的に中国を国際ルールに従わせる」という点にあるのに対して、新型の大国関係の目標は「衝突を避ける」という点であって、中国が国際ルールに従うかどうかは棚上げされているというイメージですかね。

本当かよ。