2015年2月13日金曜日

Please Stop Helping Us

“Please Stop Helping Us: How Liberals Make It Harder for Blacks to Succeed”という本を読みました。ウォールストリート・ジャーナル紙の論説担当であるJason Reilyさんが黒人の生活がいつまでたっても改善しない理由を論じた本です。ライリーさん自身も黒人。2014年6月発売。200ページ足らずの本なので、ちゃっちゃと読めます。

米国で公民権法が成立したのは50年以上前の1964年。2008年の大統領選挙では初めての黒人大統領が誕生した。にも関わらず、黒人のおかれた経済状況は白人に比べて極めて悪い。失業率は一貫して白人の2倍の水準にあるし、貧困率も高い。リベラル派は経済上の理由で十分な教育を受けられない黒人は、安い賃金の仕事にしかつけず、貧困の連鎖が起きているとして、黒人や黒人が多い貧困層へのサポートが必要だとするわけです。

一方、ライリーさんはこうした現状の原因は政府が続けて来たリベラルな政策にあるとします。最低賃金引き上げのせいで、黒人に多いスキルが十分でない労働者向けの仕事が減るし、大学が黒人の比率を確保するために基準に満たない黒人学生の入学を認めることで、黒人学生は大学に入ってから自分より優秀な学生に囲まれて勉強するモチベーションを失うし、黒人が逮捕されることが多い薬物犯罪の刑罰を弱めることで黒人社会で薬物取引が助長されるといったことを理由に挙げています。また、オバマ大統領を含めたリベラルな政治家は公立学校の人種比率を維持することを理由として、私立学校に通うためのバウチャー制度に反対したりするけど、バウチャー制度を求めているのは、レベルの低い公立学校の学区に住んでいる黒人家庭だったりするわけです。ライリーさんはこうした現状を統計数値を引用しながら説明しています。

で、どうしてこうしたリベラルな政策がとられるかというと、公民権運動のなごりで一部の黒人が非常に熱心にリベラルな民主党を支持していることが理由だとのこと。黒人の指導者たちもリベラルな政策が黒人のためになっていないということは理屈の上では分かっているはずなのですが、これまで「白人の差別が黒人の苦境を作ってきた」と主張して活動資金を集めてきた手前、路線を変更できない。ライリーさんは「公民権運動は産業化してしまっている」と批判します。リベラル派のバウチャー制度への反対については、米国最大の労組である教職員組合が公立学校を守り、私立学校との競争を回避するために反対しているからだとしています。なるほど。

またライリーさんは、こうした黒人の現状の裏側には「黒人の文化」があるとします。オハイオ州クリーブランド近郊にある、黒人比例が3分1程度の裕福な地域を対象にした1990年代の研究によると、黒人の子供たちは一生懸命勉強することを嫌ったり、簡単な授業を取ったり、テレビばかりみて本を読まなかったりする傾向がある。「最小限の努力で済ませる」という発想や、「成功したり、努力したり、賢くみせることはクールじゃない」「バカっぽいことはキュートだ」「どうせ頑張っても、うまくできない」という認識があるともされている。こうした傾向は医者や弁護士といった裕福な家庭に生まれた黒人生徒にもみられるといいます。黒人の親はめったにPTAに参加せず、小学生向けの追加授業にも子供を行かせない。先生の方も黒人の子供の成績を付ける際にはハードルを低くしているので、子供の方も「どうせ落第しないから勉強しない」という発想になる。

ライリーさん自身も黒人なわけですが、父親の方針で白人が多い地域で住むことが多かったそうです。その結果、ライリーさんはニューヨーク州立大学バッファロー校を卒業して、ジャーナリストになり、今はWSJで社説を担当するまでになった。一方で、子供のころの友達なんかは、似たような経済状況だったにも関わらず、黒人文化にどっぷりと浸かった結果、ロクでもない人生を送ったりしている。ライリーさんの黒人文化批判の背景には、こうした個人的な体験もあるわけです。

つまり、黒人社会に向かっては、黒人大統領が誕生する時代になったんだから、いつまでも自分たちの苦境を白人社会のせいにするんじゃなくて、身なりをきちんとして、自分でしっかり努力することから始めろと呼びかけ、政治家に向かっては、本当に黒人のことを考えているんであればリベラルな政策を止めろと訴えているわけです。ザ・コンサーバティブですね。

人種間の格差解消をねらったリベラルな政策が必ずしも狙った通りの結果が得られていないというのはその通りなんだと思います。黒人の失業率が一貫して白人の2倍で推移しているというのは自分でも調べたことがありますが、何かしらの根深い問題があるんでしょう。また、リベラルな政策が逆に人種間の格差を「拡大させている」というのも、なんかありそうな気がする。ライリーさんは最低賃金はもともと南部からの黒人労働者の流入にさらされた北部の工業地帯で白人の雇用を守るために導入されたと指摘しています。スキルのない労働者が「低賃金でも働きます」という最大の武器を封じられるわけですから、そりゃ失業率も高くなるというわけです。教育バウチャーと組合の関係なんかも、もっと調べてみたいところです。

あと、「勉強嫌い」な黒人文化については実情を良く知っているわけじゃないので、「そういうイメージがあるんだな」というぐらいに解釈しておきます。引用されている研究内容も自身の経験もちょっと昔の話ですから、今でも実際に「勉強嫌い」な黒人文化があるのかどうかは分からないです。こちらで黒人の店員さんの働きぶりをみていると、「優雅」と言いたくなるぐらいゆっくりと動く人もいるのも確かですが、みんながみんなそうだというわけじゃないですからね。もしも本当に「勉強嫌い」な黒人文化があるというのなら、その理由も知りたい。

ちなみに表紙の男性はライリーさんじゃないです。