"The Paper Menagerie and other stories"を読んだ。中国出身のSF・ファンタジー作家、Ken Liu(ケン・リュウ)の短編集です。米国版は2016年3月出版。日本版の短編集「紙の動物園」は2015年4月に出ています。短編集ですから、それぞれの作品はそれより先に発表されていて、日本の方で先に短編集が出たってことなんでしょうね。
表題作の"The Paper Menagerie"は2011年発表。この年のヒューゴー賞ショート・ストーリー部門、ネビュラ賞ショート・ストーリー部門、世界幻想文学大賞短編部門賞の三冠を獲得しました。これが日本のSFマガジン2013年3月号に掲載されています。
いつもチェックしている前川淳という折り紙作家のブログで2014年6月と2015年5月に「紙の動物園」が紹介されていて、読んでみたいなと思っていました。そしたら英語の短編集も最近になって出たということで、早速購入してみた次第です。
日本語版、英語版とも15編の収録ですが、作品は異なっています。同じなのは7作品。
The Paper Menagerie(紙の動物園)
Good Hunting(良い狩りを)
Mono No Aware(もののあわれ)
A Brief History of The Trans-Pacific Tunnel(太平洋横断海底トンネル小史)
The Waves(波)
The Bookmaking Habits of Select Species(選抜宇宙種族の本づくり習性)
The Literomancer(文字占い師)
英語版だけに載っている8作品は以下の通り。
State Change
The Perfect Match
Simulacrum
The Regular
An Advanced Readers' Picture Book of Comparative Cognition
All the Flavors
The Litigation Master and the Monkey King
The Man Who Ended History: A Documentary
どの作品も面白いです。
日本語版と共通作品のなかでは、「紙の動物園」「もののあわれ」「波」「文字占い師」、
英語版のみの作品のなかでは、
インターネットの検索を牛耳る企業による情報統制が常態化した社会を描く"The Perfect Match"
サイボーグ化した中国系米国人の女性のアクション活劇"The Regular"、
19世紀のゴールドラッシュで西海岸にやってきた中国人労働者の集団と三国志の関羽雲長のストーリーをごちゃませにした"All the Flavors"、
不都合な歴史を押し隠そうとする清王朝とそれに抵抗する詭弁家の男の話を西遊記で味付けした"The Litigation Master and the Monkey King"、
意識だけをタイムトリップさせて過去を観察する技術を開発した日系女性物理学者と、その夫で第二次世界大戦中の日本の731部隊の実体を世に知らしめようとする歴史家の男性の行動をとりあげながら、歴史と現在の関係性について考察した"The Man Who Ended History: A Documentary"
なんかが印象的です。
ケン・リュウさんは中国の甘粛省蘭州市生まれで11歳で渡米したということです。中国、台湾、日本の文化や歴史にも詳しいのでしょう。「もののあわれ」では典型的な日本人観に基づいた日本人を描いています。一方、"The Man Who Ended History: A Documentary"では、第二次世界大戦中の日本人による残虐な行為を中国視点で描きつつ、日本としての「歴史的な過ちは認めるんだけれど、過去の行為を否定しきってしまうこともできない」という悩ましい内面も描いています。
また別の本も読んでみたい。