2013年3月22日金曜日

オバマ大統領のかっこいい演説@エルサレム

中東歴訪中のオバマ大統領がかっこいい演説をしています。

オバマ大統領は1期目にイスラエルを訪問しなかったこともあって、「イスラエルに冷たいんじゃないの」と言われています。21日にエルサレムで若者を前にして行った演説は全面的にイスラエルの肩を持つという感じもない。ただ、「平和が大事なんだ」と熱く訴えてる感じは流石のかっこよさです。(参照) (動画)


演説の最初の方は、「イスラエルとアメリカはずっと仲良しだよね」とか「ハマスはひどいよね」とか「ヒズボラはテロ組織だよね」なんていういつもの話。イランの核開発についても「外交による平和的な解決が一番だけど、テーブルの上にはあらゆる選択肢がある」なんていう、どっかで聞いたことのあるような話。

で、かっこいいのはパレスチナ問題に関する部分。イスラエルの人たちが平和を愛しているのに、パレスチナ人がイスラエルに対するテロを繰り返していることを認め、アメリカはいつでもイスラエルの味方であることを強調しつつ、

Politically, given the strong bipartisan support for Israel in America, the easiest thing for me to do would be to put this issue aside -- just express unconditional support for whatever Israel decides to do -- that would be the easiest political path. But I want you to know that I speak to you as a friend who is deeply concerned and committed to your future, and I ask you to consider three points.

と切り出します。政治的には、イスラエルと仲良しだということを強調するだけで問題を脇に追いやってしまうことが簡単だけど、イスラエルの未来を真剣に考えている友人として、イスラエルの人々に3つの点について考えて欲しいというわけです。

まず平和が重要であるということ。そのためには、パレスチナを国家として認めることが大事だと。

First, peace is necessary. (Applause.) I believe that. I believe that peace is the only path to true security. (Applause.) You have the opportunity to be the generation that permanently secures the Zionist dream, or you can face a growing challenge to its future. Given the demographics west of the Jordan River, the only way for Israel to endure and thrive as a Jewish and democratic state is through the realization of an independent and viable Palestine. (Applause.) That is true.

で、そのためには相手の立場になって考えることが重要だと。パレスチナの人が自分たちの国で生きられないのは公正じゃない。今の世代だけでなく、その両親や祖父母の世代でも、毎日、人々の行動を制限しようとする外国の軍隊が存在する土地で生きなければならないのは公正じゃない。イスラエルの入植者によるパレスチナ人への暴行が処罰されなかったり、パレスチナ人が自らの土地を耕作できなかったり、ヨルダン川西岸で移動の自由が制限されたり、自分たちの家から追い出されたりするのは公正じゃない。占領や排除は答えではなくて、イスラエルの人たちが自分たちの国を作ったように、パレスチナの人たちにも自分たちの国で自由に生きる権利がある、と訴えます。以前のエントリで勉強したのでよく分かります。オバマ大統領はイスラエルによるヨルダン川西岸への入植活動が不当であることを、イスラエルの若者たちに直接訴えているわけです。

Put yourself in their shoes. Look at the world through their eyes. It is not fair that a Palestinian child cannot grow up in a state of their own. (Applause.) Living their entire lives with the presence of a foreign army that controls the movements not just of those young people but their parents, their grandparents, every single day. It’s not just when settler violence against Palestinians goes unpunished. (Applause.) It’s not right to prevent Palestinians from farming their lands; or restricting a student’s ability to move around the West Bank; or displace Palestinian families from their homes. (Applause.) Neither occupation nor expulsion is the answer. (Applause.) Just as Israelis built a state in their homeland, Palestinians have a right to be a free people in their own land. (Applause.)


そして話は「平和は実現可能だ」と続きます。

Peace is possible. It is possible. (Applause.)

で、ここから聴衆の若者をあおります。政治家は人々の支持がないとリスクをとれないから、変化を導くのは君たちなんだと。恐怖に捕らわれるよりも希望を抱け。この聖なる地でユダヤ教徒とキリスト教徒とイスラム教徒が平和に暮らす未来を信じろ。不可能だなんて思うな。イスラエルは強い国で、アメリカだって味方だ。イスラエルは現実を冷静に見つめる知恵があるけど、理想を見つめる勇気だってある、と。

And let me say this as a politician -- I can promise you this, political leaders will never take risks if the people do not push them to take some risks. You must create the change that you want to see. (Applause.) Ordinary people can accomplish extraordinary things.

I know this is possible. Look to the bridges being built in business and civil society by some of you here today. Look at the young people who've not yet learned a reason to mistrust, or those young people who've learned to overcome a legacy of mistrust that they inherited from their parents, because they simply recognize that we hold more hopes in common than fears that drive us apart. Your voices must be louder than those who would drown out hope. Your hopes must light the way forward.

Look to a future in which Jews and Muslims and Christians can all live in peace and greater prosperity in this Holy Land. (Applause.) Believe in that. And most of all, look to the future that you want for your own children -- a future in which a Jewish, democratic, vibrant state is protected and accepted for this time and for all time. (Applause.)

There will be many who say this change is not possible, but remember this -- Israel is the most powerful country in this region. Israel has the unshakeable support of the most powerful country in the world. (Applause.) Israel is not going anywhere. Israel has the wisdom to see the world as it is, but -- this is in your nature -- Israel also has the courage to see the world as it should be. (Applause.)


そして、

Sometimes, the greatest miracle is recognizing that the world can change. That's a lesson that the world has learned from the Jewish people.

最大の奇跡は世界は変えられると信じること。これは世界がユダヤの人々から学んだことだ。


かっこいい。

ただ、演説の動画をみてみると、聴衆がそんなに熱狂的に反応しているわけでもないです。実際にテロの恐怖にさらされている人たちと、私のように外野からみている人間では受け止め方が違うのかもしれません。パレスチナ問題はそんなに甘いもんじゃないんでしょうか。あと、イスラエルによるヨルダン川西岸への入植に対する批判も含めて、特段新しいことを言っているわけでもないような気がします。

そう考えると、そんなにかっこよくない気も。

2013年3月1日金曜日

イランの核開発が思うように進んでない疑惑

Foreign Affairsのサイトを眺めていたら、「イランはまだ核開発にもたついている」(Iran Is Still Botching the Bomb)という記事を見つけた。(参照) それによると、イランが核爆弾を持つことになるのは早くても2015~16年ぐらいだという報道が1月下旬に出ていたらしい。知らんかった。

イランといえば、昨年9月にイスラエルのネタニヤフ首相が「イランは2013年夏ごろには核爆弾製造に向けた最終段階に入るので、しっかりとレッドラインを引いて対応せねばならない!」と熱弁をふるったわけですが、その分析は間違っていたというわけです。へぇ。

ということで、元記事をみてみたら、McClatchyという米カリフォルニア州サクラメントを拠点とするメディアグループのサイトで、そこの取材によると、

Intelligence briefings given to McClatchy over the last two months have confirmed that various officials across Israel’s military and political echelons now think it’s unrealistic that Iran could develop a nuclear weapons arsenal before 2015. Others pushed the date back even further, to the winter of 2016.

ということらしいです。Intelligence briefingsって何だよという気はしますが、まぁ、2015年より前に核兵器を持つことは非現実的で、一部には2016年冬になるだろうという人もいるらしい。

さらにはイスラエルでは、「西側やIAEAは、『イランは核開発は継続しているんだけど、後戻りできないような状態にならないようにゆっくり進めている』と考えている」という報道もあるということです。

Writing in Israel’s Hebrew-language daily newspaper Yediot Ahronot, military correspondent Alex Fishman said, "Officials responsible for assessing the state of the Iranian nuclear program, both in the West and in the International Atomic Energy Agency, believe that while the Iranians have continued to pursue their nuclear program, they have been doing so cautiously and slowly, making sure not to cross the point of no return."

イスラエルの外交筋が「経済制裁が効いているから、核開発をゆっくり進めているんだ」と分析しているという記述もあります。


で、この記事を元にして、Foreign Affairsでは、南カリフォルニア大学のJacques Hymans准教授が核開発の遅れの理由について、

・経済制裁でダメージを受けたイランが意図的に開発のスピードを遅らせたというのなら、イラン側がその見返りを要求しないとおかしい。

・ネタニヤフ首相が今年1月の選挙を意識して、意図的にイランの核開発のスピードを速めに見積もって危機感をあおり、自らへの支持を集めようとしたんだいう説もあるかもしれないが、イスラエルがイランの核開発のスピードを速く見積もるというのは今に始まった話ではない。

・一番可能性が高いのは、イスラエルや米国の諜報機関の分析が失敗していたということだ。イランのような国にはまともに計画通りに核兵器を開発できるような体制がとれないという現実を把握すべきだ。

なんていう風に分析しています。

で、そのうえで、

イランの核開発は挑発的で、戦争の危機は現実にあるわけだから、イスラエルはきちんと状況を分析して発信せねばならない。いつもいつも「オオカミが来るぞ!」と騒いでいたら、信頼を失ってしまいますよ。

といったことを書いています。

Hymans氏によると、1992年にはイスラエルのペレス外相が「イランは1999年までに核兵器を持つだろう」なんていう風に言ったこともあったらしい。あと、米国のイラク攻撃の理由となった「イラクは大量破壊兵器を持っている」という説は間違いだったことが明らかになっている。諜報機関の分析が間違っているっていうのは珍しいことではないのかもしれません。


ただ、ちょっと前には、IAEAが「イランがIR-2mと呼ばれる遠心分離機を設置した。核開発のスピードが格段に上がる可能性がある」という内容の報告書を発表しているわけで(参照)、元記事の信憑性がどうなのかなという気もします。米国がイラクを攻撃したという事例は、「イランの核開発がどの段階であろうとも、攻撃されるときは攻撃される」という話なのかもしれません。


画像はハインマンス准教授のサイトにアップされていたもの。画像のファイル名の最後が"harajuku%20girls.jpeg"となっているので、原宿で撮影したもののようです。おもしろい人なんでしょうか。