2014年1月15日水曜日

Glenn Beck’s Common Sense

ラジオやテレビ番組の司会者で、ティーパーティー支持者から熱烈な支持を受ける(参照)ベストセラー作家でもあるグレン・ベッグが2009年に書いた本。米国は個人の自由を尊重した小さな政府であるべきだと主張する本です。タイトルは、米国独立戦争時に植民地を一方的に支配しようとする英国からの独立は「常識だ」と主張したトーマス・ペインの著書”Common Sense”にのっかっています。

ティーパーティー運動がリーマン・ショック後のオバマ政権による債務者救済策の表明をきっかけに火がついたことは知っていたのですが、それがどうして「妊娠中絶反対」とか「同性婚反対」といったキリスト教的な価値観と結びつくのがよく分からなかったので読んでみた。

で、この本のなかでは声高に「妊娠中絶反対!」とか「同性婚反対!」とか訴えているわけではなかったです。Abortionという言葉は2回、marriageという言葉は1回しか出てこない。ただ、割と最初の方から”Our Founding Fathers understood that our rights and liberties are gifts from God”なんていう言葉が繰り返し出てきます。要は、米国は神から与えられた個人の人権を大切にする国だという考え方ですね。で、政府であっても神から与えられた個人の人権を侵害してはいけないから、米国は小さな政府であるべきだっていうことだと思います。そう考えれば、妊娠中絶反対とか同性婚反対といった価値観とつながるのもうなずけます。「神はそんなこと許していない」っていうのが支持者の主張でしょう。

財政問題についても主張はシンプルです。世の中には良い借金もある。住宅ローンとか、みんな使っている。常識ですね。ただ、”what most people ignore is that debt works only in the context of an otherwise financially responsible lifestyle”というわけです。つまり謝金するんだったら、返済のために節度ある生活をせねばならないということ。これも常識。”the result of preventing failure in a country rooted in freedom is a country that is no longer rooted in logic”なんていう言葉も出てきて、「自分が失敗すれば自分の責任だ」っていう考え方にも肯定的なんだと思う。

そうなってくると、財政赤字が拡大するなかでさらに政府の規模を大きくしようなんていう考えや、サブプライムローンで借金を返せなくなった人たちを救済しようなんていう考えには納得できないことになる。Social Security is a great example of a “legal Ponzi scheme”. なんていう文章も出てきますし、その後にはメディケアも「コストなしでの国民皆保険」なんていうのも嘘っぱちだと位置づけられています。

グレン・ベックの批判の矛先は「大きな政府」を標榜する民主党だけでなく、財政赤字を拡大させてきたワシントン全体に向けられています。多くの議員がゲリマンダーで選挙区をガチガチに固めて再選を繰り返していることにも批判的で、「議員の任期を制限せよ」と主張したりもする。ワシントンの政治エリートの「個人の権利は政府の権力に従属するもので、公益よりも大切な個人の権利なんてない」という考え方を”Progressivism”と批判して、共産主義やファシズムや社会主義や帝国主義や国家主義と同じだとします。右のプログレッシビズムは米国の海外での軍事活動を拡大させ、左のプログレッシビズムは国連なんかの役割を拡大させる、という記述もある。もちろん、政府は銃を持っていいけど、個人は銃を持っちゃいけないなんていう考え方にも反対です。公的教育のなかで教師が子供たちの友達のように振る舞ったり、テストの点数よりも「みんな平等で仲良くしよう」なんていう考え方を教えたりすることにも否定的です。学校では建国以来の価値観である競争原理を教えなければ米国は弱くなってしまうという発想です。

とまぁ、ちょっと過激なところはあります。あと、ティーパーティーの人たちがよく批判されるように対案は示されていません。とにかく政府の拡大は問題なので国民は立ち上がるべきだというだけですね。

ただ、「あんまり政府をあてにするもんじゃないよ。自分のことは自分で守るのが常識だ」っていう感覚には納得できます。経済低迷で生活への不安が広がるなかで、増税や弱者救済のための負担増という考え方に反発する気持ちも分かる。さらに神を重視する人たちであれば、その他の社会問題にも過剰に反応したりするのでしょう。

なんとなくティーパーティーの気分が分かりました。要は不安なんだと思います。

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