"The Global War on Morris"を読んだ。スティーブ・イスラエル下院議員が書いた小説です。米国の政治家は選挙前に自分をアピールするために出版する自伝的な本を出したりして、私もそうした本を面白がって読んできたわけですが、ワシントンポストの今年5月の記事で「イスラエル議員は政治風刺小説を書くという同僚たちとは違った道をとった」というのをみかけて、読んでみました。2014年末に出版された本です。
面白いかどうかと問われれば面白いですけど、別にそんなに滅茶苦茶面白いというわけでもないです。
ストーリーは2004年の米国が舞台。とにかく周囲ともめごとを起こすのが嫌いな、控えめで大人しいモリス・フェルドスタインという医薬品のセールスマンが、ひょんなことからテロリストとして誤認逮捕されてグアンタナモに収容されるのですが、2009年にオバマ政権が誕生した後で疑いが解かれて釈放されるというもの。こう書くとシリアスな話のようにも思えますが、基本的にはコミカルなタッチで、つまらないジョークを交えながらストーリは進展します。しかもモリスが逮捕されるのは物語が始まってから9割ほど過ぎたところで、ストーリーのほとんどは、いかに対テロ戦争にたずさわる政治家や官僚組織がくだらないもので、米国内に潜むテロリスト集団もつまんない平凡な組織であるかという描写に費やされています。
もうちょっと具体的に書くと、テロ対策の強化を主張するチェイニー副大統領は「2004年の大統領選でブッシュ大統領を再選させるため、大したことのないテロの脅威を過剰に煽って国民の危機感を高めようとしているだけの人物」として描かれます。NSAやらCIAやらの対テロ戦の前線にたつ工作員たちは「巨大な連邦政府のなかのあらゆる官庁のなかに作られた数多の対テロ組織のなかで、なんとかして手柄を挙げようと些細な出来事に目を光らせるつまんない官僚たち」ですし、NSAが情報分析のために開発した巨大コンピューターシステム"NICK"は「的外れな情報と的外れな情報を結びつけて、的外れな警告を発するヘボコンピューター」といった具合です。さらに、米国内に潜むテロリスト集団は「米国内に潜り込んだはいいものの、3年以上も組織からテロ実行の指令は降りず、そのうちアメリカの生活になじんで愛着までもってしまった純粋な人々」となります。そういう人たちの行動がなんとなくからみあった結果、極めて平凡なモリスという男が誤認逮捕されて、グアンタナモに送られてしまう。で、ブッシュ政権がオバマ政権に変わった途端、政府は「やっぱり誤認逮捕だったわ」と認めて釈放される。そんな雰囲気の話です。テロを防止する方も、テロを起こす方も、誰もシリアスになっているわけじゃないのに、ひどい結果が起こってしまうわけです。
終わりの方にこんな文章が出てきます。
"Sure there were a few times when the Feds may have inadvertently spied on the harmless phone conversations of innocent Americans. Few, as in thousands. Or hundreds of thousands. Maybe millions. No one knew. The whole matter was classified. But that was a small price to pay for freedom, wasn't it?"
まぁ、そんな連邦政府内のムードを皮肉っているんだと思います。
ただ、この本は現役の下院議員が書いたとはいえフィクションですからね。「へぇ、そうなんだぁ」と納得するわけにもいきません。しかもバカ売れした本でもないですから、「世の中の連邦政府に対するイメージはこんなもんなんだぁ」と思うわけにもいきません。「ちょっと変わった下院議員もいるんだな」ぐらいの感想ですかね。
連邦政府が過剰反応するから、テロが止まない、あるいは、過激化するという側面はありますよね。テロをする側もアメリカ政治が騒いでくれないなら、やっても意味がないですし...
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返信削除全くコメントをチェックしていませんでした。申し訳ない。やっぱり911の影響は大きいですよね。ニューヨークのど真ん中に旅客機で突っ込まれたら、騒がないほうがおかしいし。また、同じことが起きるのではないかという不安は常につきまとっているんだと思います。イスラム国とかがイラクとかシリアの領域でぬくぬくと4年、5年間ほど活動を続けさせていたら、米国本土に向けた作戦を練り始めるかもしれない。
返信削除だからといって、軍事攻撃でイスラム国を叩けば問題の根本が解決されるといえるわけじゃないんだろうけれど、ノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領でさえ、イスラム国を放置しておくわけにもいかないというのが現実。難しいね。
個人的には、オバマ大統領好きです。彼はアメリカ政治における軍事行動への強いプレッシャーの中で、できる限り平和的な道を模索し続けたと思います。11/2にうちのキャンパスで、今後の犯罪防止というテーマで講演(panel discussion)に来ていました...日本にいて見れなかったのは本当に残念です(T-T)
返信削除個人的には、オバマ大統領好きです。彼はアメリカ政治における軍事行動への強いプレッシャーの中で、できる限り平和的な道を模索し続けたと思います。11/2にうちのキャンパスで、今後の犯罪防止というテーマで講演(panel discussion)に来ていました...日本にいて見れなかったのは本当に残念です(T-T)
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