"Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisis"という本を読んだ。J.D. Vanceさんという31歳の白人男性弁護士が、自らの半生を振り返った本です。
これだけだと、だからどうしたという話ですが、バンスさんはオハイオ州のミドルタウンというかつては鉄鋼業で栄えたものの、今はさびれつつある街で育ち、劣悪な家庭環境のなかから這い上がり、イエール大学のロースクール卒のエリート弁護士になったという経歴の持ち主です。そのアメリカン・ドリームの体現者が、かつては劣悪な環境を経験した者として、米国に存在する貧困の背景や、そうしたコミュニティーに育ったものたちが今の米国社会をどのようにみているのか、問題を解決するためには何が必要なのかという問題を論じています。
2016年6月28日に出版された本で、「多くの白人がドナルド・トランプ氏を支持する背景にはこういった事情がある」という文脈でたくさんのメディアで紹介されていました。インタビューに答えたバンスさんは、「私自身はトランプ氏を支持するわけではないが、支持している人たちの気持ちは理解できる」としています。
で、話はケンタッキー南東部の石炭の産地、ジャクソンから始まります。非常に緊密なコミュニティーで、見知らぬ人が雪道で車を動かせなくなっていると、住民たちがこぞって助けだそうとするような地域です。バンスさんの祖父母はこのジャクソンで育ちました。非常に心優しい人たちです。
ただし、こうしたアパラチア山脈のコミュニティーに住む人たちには、荒くれ者という一面もあります。祖母の兄の1人は建設業を営んでいたのですが、ビジネスの相手が"son of a bitch"と生意気な口をきいたときは、車のなかにいた相手を引きずり下ろしてチェーンソーで切りつけ、病院送りにしてしまうような人です。「家族に対する侮辱は絶対に許さない」という掟に従った行動だとのこと。別の兄は、自宅の裏庭でマリファナを育てています。祖母自身も、家族で育てている牛を盗もうとした男を見つけたときに、ライフルを持ち出して発砲し、脚をケガした相手の頭に向かってライフルをかまえ、とどめを刺そうとしたことがあるそうです。
祖母の家だけが荒くれ者だらけだったというわけではありません。ジャクソンがあるBrethitt Countyという地域は"Bloddy Breathitt"という異名があるほどで、とある強姦犯は裁判の数日前、背中に16発の銃弾を受けて殺されました。地元の警察はまともに捜査せず、新聞も「犯罪」があったようだと報じただけでした。真相は明らかではありませんが、被害者の家族が裁きを下したということのようです。祖母が少女時代にある男に侮辱された際にも、兄たちがその男を懲らしめたことがあったそうです。
で、子供のころにこうした話を親戚たちから聞いたバンスさんは、「家族のためなら法律でも犯す」といったカルチャーを誇りに感じていたそうです。親戚一同がこんなエピソードを面白おかしく話したりしていたら、「これが男というものだ」と思っていたということなのでしょう。
祖父母は1947年に17歳と14歳で結婚しました。そして第二次世界大戦での勝利に対する興奮がさめていくなかで、よりよい生活を求めて、オハイオ州ミドルタウンに引っ越します。ミドルタウンにはArmcoという鉄鋼会社が工場を構えていて、大量の労働者を雇うようになっていたからです。というと美しい話のようですが、実はできちゃった婚で、祖母の兄たちから懲らしめられることを恐れてミドルタウンに逃げていったという事情もあったようです。ちなみにこのときの子供は生後すぐに亡くなったとのこと。
ミドルタウンにはケンタッキー出身者が多く、"Middletucky"なんて呼ばれたりした。だから、ミドルタウンには、荒くれ者のカルチャーも持ち込まれて、元からオハイオにいた人たちとの間でトラブルも多かったそうです。祖母は、"You can take the boy out of Kentucky, but you can't take Kentucky out of the boy."なんて言っていた。アパラチアン魂百までってことでしょうか。
ただし生活が順調だったというわけではありません。祖父はジャクソンから離れたミドルタウンでの生活に馴染みきれないところがあったのか、バーから泥酔して帰宅したり、手にした給料を見栄をはるために浪費したりして、祖母を怒らせることも度々だった。祖母が泥水してソファーで眠っている祖父にガソリンをかけて、火をつけるということもあったらしい。バイオレントすぎるエピソードですが、家族の間ではそう伝えられているそうです。
で、そうした環境で育ったバンスさんの母親は、18歳で妊娠。19歳で離婚してシングルマザーになります。これが1980年ぐらいの話。母親の妹(バンスさんのおばさん)もその2年ほど前に16歳で高校を退学して、結婚しています。やはり結婚生活は厳しいものだったようです。こうした状況をなんとかせねばならないと決意したのか、祖父は1983年に禁酒し、別居状態だった祖母とも関係を修復するようになります。祖父は53歳、祖母は50歳ぐらいの計算ですね。祖父母は孫のケアや金銭的な援助を買って出るようになります。母親は1983年に再婚して、翌1984年にバンスさんが生まれます。
で、ここから先はバンスさん自身の話ですが、それはそれはなかなか過激なエピソードが満載です。
19歳でシングルマザーになってその4~5年後にバンスさんを生んだ母親は、その後も離婚と結婚を繰り返し、バンスさんが高校を卒業するまでに6人の男性と一緒に生活しています。バンスさんは、母親としては「子供たちに父親が必要だ」という思いで結婚相手を探していたのではないかと推測していますが、バンスさん自身の思いとしては「全く見知らぬ男が家の中に入ってきて、ようやく好きになったかなと思い始めたころに、離婚して家から出て行く」という状況が繰り返されることは子供時代の自分の心を深く傷つけていたとしています。また母親は看護師として働いてはいましたが、お酒におぼれ、バンスさんたちと大げんかをしては「ごめんなさい。もう二度とこんなことはしない」と謝罪するような生活を続けて来ました。バンスさんたちはそのたびに謝罪を受け入れるのですが、数日後には同じ状態に戻ってしまう。
バンスさんが12歳のときには、母親が反省の証としてバンスさんにフットボールカードを買ってくれると約束するのですが、車で高速道路を走っている最中にけんかになって、母親は「このまま車をクラッシュさせて、死んでやる」と言い出します。バンスさんは助手席から後部座席に移って、シートベルトを2つつければ生き延びられるんじゃないかと考えたりしましたが、母親はそうしたバンスさんの行為に怒りを増幅させて、車を止めてバンスさんに殴りかかります。止まった車から逃げ出したバンスさんは近くの民家にかけこんで、そこにいた女性に警察を呼ぶように依頼。母親は駆けつけた警察に逮捕されます。バンスさんはその後の裁判で、裁判官から日頃の母親の状況を聞かれ、「こうしたことは初めてのことです」と嘘をつききます。母親を刑務所には行かせたくないという思いからの嘘だったそうです。この後、バンスさんは、母親の家と祖父母の家の両方で暮らすようになります。自分の好きなときに、好きな方の家で暮らすことで、生活の安定と母親とのつながりを実現しようという狙いでした。
その後、バンスさんは実の父親と会うようになります。バンスさんは母親たちから父親が酒浸りになったから離婚したと聞かされて育ちましたが、実際にあった父親は敬虔なクリスチャンとして生活を立て直していました。ただ、既存の科学を否定するような極端なところもある信仰で、バンスさんも「2007年には世界が終わる」といった終末思想を信じるようになり、信仰と現実の狭間で悩んだりしたそうです。ただ、教会や父親のことも好きになったとのこと。信仰が人々の生活にあたえるポジティブな影響の大切さを感じるようになったといいます。
バンスさんが13歳のときには、心の支えの一人だった祖父が急死します。母親は動揺します。このころには看護師として働いていた病院にあった薬物に手を出したようで、奇行も目立つようになり、リハビリセンターの世話になるようになりました。バンスさんは実の父親と暮らそうとしたこともありましたが、母親に懇願されて家に戻ります。そこでは母親と当時の恋人とと一緒に暮らすのですが、「世界の終わりの最前線に座っている」ようなものだったそうです。2人の間のけっかは絶えません。しかも母親はこうした生活を続けるなかで、病院の上司の男性と結婚することを決めます。もうなんのこっちゃよく分かりません。
一方、いつもバンスさんを支えてくれた姉は祖父の急死の直後に結婚し、幸せな生活を送るようになります。しかしバンスさんは、荒れた母親と見知らぬ上司が暮らす家のなかに閉じ込められ、将来を見通すことができません。高校生になったころには、勤務先の病院から薬物検査のための尿の提出を求められた母親から、バンスさんの尿を提出することを頼まれます。自分の尿からは薬物が検出されるおそれがあるということのようでした。このときバンスさんは指示に従いましたが、「この朝、私のなかで何かが壊れた」と回想しています。高校2年生のとき、母親とバンスさんは上司の家を追い出されます。バンスさんは母親から離れて、祖母と一緒に暮らすことにします。
このころまでバンスさんの学校での成績は落第寸前でした。しかし祖母と暮らす生活を始めてからは、学校の宿題にも取り組むようになり、成績は上向くようになります。もともと祖父母は教育熱心なところがあったそうです。学校で良い先生とも出会い、SATで高得点をあげたりします。"I was happy --- I no longer feared the school bell at the end of the day, I knew where I'd be living the next month, and no one's romantic decisions affected my life. And out of that happiness came so many opportunities I've had for the past twelve years"という心境だったそうです。祖母の勧めでつきあう友達も変わり、大学進学も意識するようになり、オハイオ州立大学とマイアミ大学から合格通知を受け取ります。これまでの生活からの出口が見えたというわけですね。
でも、バンスさんは大学進学をとりやめます。「自分はまだ準備ができていない」と感じていたからです。成績は上向いていたけれど、十分だとはいえず、奨学金のための書類を理解するだけでも膨大な時間がかかるほどの世間知らずでもあります。結局、バンスさんが決断したのは海兵隊への入隊でした。1年前の米中枢同時テロも理由のひとつ。海兵隊のリクルーターはお金は稼げないだろうし、戦争に行かされるかもしれないと断りながらも、"They'll teach you about leadership, and they'll turn you into a disciplined young man."と説明したそうです。海兵隊で任務についた後で大学に入れば、学費の面でも大幅な援助が受けられることも魅力でした。
海兵隊でのエピソードもいろいろ紹介されていますが、ある海兵隊の教官はバンスさんに初めて3マイルを走らせた後、"If you're not puking, you're lazy! Stop being fucking lazy!"と怒鳴りつけて何度もダッシュをするように命じ、バンスさんが意識を失うんじゃないかと思ったころあいに、"That's how you should feel at the end of every run!"と怒鳴ったそうです。バンスさんは常に全力を尽くさなければならないことや、全力を尽くせば自分が思っている以上の成果を生み出せることを体で覚えるわけです。バンスさんは、白人の貧困層にもたらすべき変化について問われると、"The feeling that our choice don't matter"と答えるようにしているそうです。バンスさんはイラクにも派遣されました。海兵隊勤務中の2005年には最愛の祖母を喪っています。
この後は順風満帆な感じのエピソードです。2007年にオハイオ州立大学に入学したバンスさんは猛勉強して1年11カ月で2つの学位を優秀な成績で取得。その後、イエール大学のロースクールに進学します。そこで自分が育った環境と多くの同級生が育った環境の違いや認識のズレに驚いたりしながらも、楽しい生活を送ります。のちに結婚する彼女とも出会いました。一般の人たちが仕事を見つけようとしたら履歴書を埋めて会社に送るのに、彼らエリートたちは一流の企業や法律事務所で働いている家族や親戚、友人、先輩たちの紹介で面接を設定してもらい、高い給料の仕事についているといった社会の仕組みも学びます。就職の際には、イエール大教授のAmy Chuaからたくさんのアドバイスをもらったそうです。例の"The battle Hymn of the Tiger Mother"の著者ですね。もうこのころには、バンスさんは生まれ育ったミドルタウンを故郷だとは思えなくなります。
本の中でバンスさんはミドルタウンの経済状況や人々の感情についても描写しています。
バンスさんが大人になっていった時期はミドルタウンの経済を支えてきたArmcoの経営が悪化していった時期です。Armcoは1989年に川崎製鉄に吸収されて、Armco Kawasaki Steelと名称を変更。第二次世界大戦の敵国だった日本の企業に地元経済が救われたかたちで、米国の製造業の厳しい現実が明らかになっていきます。バンスさんの祖父は、かつては子供たちに「日本車を買ったら勘当する」と言っていたそうですが、川崎製鉄による救済後は「今となっては日本は友人だ。もしも戦う相手があるとすれば、それは中国の奴らだ」とバンスさんに話すようになったそうです。
最近、バンスさんがミドルタウンの高校の先生に話を聞いたところ、子供たちは自分たちがプロ野球選手になれないことに気づくと、「それならArmcoで働くよ。おじさんも働いているし」といったような返事をするそうです。実際には、Armcoはかつてのような安定的な職場ではないにも関わらず、子供たちはこうした厳しい現実に気づいていない。それでいて、勉強して生活をステップアップできるような仕事に就こうとも考えない。「成功できるのは幸運な人間か、生まれつき頭がいい人間だ」といったセンチメントが蔓延していて、まともに働こうという意識もないまま製造業が衰退していくミドルタウンに閉じ込められていく。
これは本の冒頭で紹介されているエピソードですが、バンスさんが数年前に学費を稼ぐためにミドルタウンの企業で重たいタイルを扱う仕事をしていたとき、経営者は人手不足で困っていたそうです。数年働けば時給は16ドルまで上がって、年収3万2000ドルにはなるような仕事で、景気が悪くなっていくミドルタウンでは悪い額じゃない。経営者が19歳の若者に仕事を与え、妊娠していた恋人にも事務職を割り当ててあげたことがあったそうですが、恋人の方は3日に1度は無断欠勤し、数カ月で辞めてしまった。若者の方も1週間に1度は欠勤し、遅刻も常習的で、1日に3度も4度も30分ほどのトイレ休憩をとるような態度だった。その結果、最終的には解雇を言い渡されるのですが、そのときこの若者は"How could you do this to me? Don't you know I've got a pregnant girlfriend?"と食ってかかったそうです。ダメな感じですよね。こういう、自分が怠け者であることにも気づかないようなムードが、米国の一部には存在するということです。
バンスさんは高校時代、祖父母から勧められてスーパーで働くようになり、そこで貧しい人から豊かな人までさまざまな人が暮らす社会の現実を目の当たりにします。貧しい人たちがフードスタンプで炭酸飲料を大量に買い込んで、ディスカウントストアで売って現金を手にする様子や、食品はフードスタンプで買って、現金で酒やタバコを買うといった様子も目撃します。バンスさんの給料からは税金が引かれていますが、フードスタンプでバンスさんには手が届かないようなステーキを買うような生活をしている「貧困層」もいます。一方で、こうした貧困層と自分たちの生活が似ていることにも気づきます。政府の補助を得て隣家に引っ越してきた家族は、バンスさんの一家と同じように、ケンタッキーからオハイオに移り住み、ケンタッキーなまりの英語を話し、夜中になれば家の中からケンカの声が聞こえてくるような家庭です。バンスさんの祖母は「あの女は怠け者の売女だ。強制的に仕事に就かせれば、あんな女にはならなかったろうに。政府があの女にカネを渡して、我が家の隣に引っ越させたと思うと腹がたって仕方がない」「私たちは懸命に働いても生活を切り詰めなければならないのに、ろくでなしどもが我々の税金で酒を買って、携帯電話を使っているのは許せない」と毒づいていたそうです。
一方で、バンスさんの内面にはこうした貧困層は自分の母親の姿であり、かつての自分でもあることを自覚しています。職が一切ないわけじゃないけれど、ひどい勤務態度で解雇される。子供がしっかりと勉強できるような家庭環境を与えず、「自分たちが働かないのは社会が不公平だからだ。オバマのせいで炭鉱は閉鎖され、工場の仕事は中国に行ってしまった」と言い訳する。朝ご飯にシナモンロールを食べ、昼ご飯にタコベルを食べ、晩ご飯にマクドナルドを食べるような生活を続け、ケンタッキーの一部での平均寿命は67歳でしかない地域もあるそうです。バンスさんには祖父母や姉という心の支えがあり、高校2年からは安定した生活が送れるようになった。でも、そうした環境が得られなかったら、どうなっていたか分かりません。
バンスさんはイエールに入った後も、自分が子供のころに負ったトラウマを背負っていることに気づきます。恋人との意見の違いに過剰に反応したり、運転中に割り込んできた車の運転手にケンカをふっかけようとしたり。自分の身を守るために、他人からの攻撃に身構えてしまうという生活習慣がついてしまっているわけです。こうした問題を克服していけているのも、恋人の存在があったからだとのことです。そして、バンスさんの母親も、子供のころは生活が乱れていた祖父母に育てられてきました。母親はバンスさんがイエール在学中、ヘロインに手を出し、今も薬物依存との戦いを続けているようです。
バンスさんは現在の政治状況について「ヒーローのいない時代だ」と指摘します。オバマ大統領は期待されたけど、多くの人からは懐疑的にみられている。ブッシュ前大統領の支持者は少なく、クリントン元大統領も倫理的な腐敗のシンボルだとみられている。レーガンは亡くなって久しい。米国は2つの戦争に多くの兵士を送り込んだけど、経済は安定した賃金を確保することもままならないとみられています。亡くなったとき72歳だったバンスさんの祖母が最も誇りにしていたのは、自分の家族が第二次世界大戦で戦ったことだったそうです。祖母にとっての神はイエス・キリストとアメリカ合衆国でした。しかしそのアメリカ合衆国は、多くの人からアメリカンドリームを体現する存在ではなくなってきているとみなされています。
多くの米国人はオバマ大統領に違和感を感じています。肌の色だけが原因ではなく、一流大学を優秀な成績で卒業し、聡明で、裕福で、憲法の教授のような完璧な英語を話す。親戚のなかに大卒者は一人もいない貧乏な家庭で、ケンタッキーなまりの英語を話し、酒や薬物におぼれる家族と暮らしているような生活を送っている人たちには何の共感もできない存在なのです。こうした人々は今の米国の社会は自分たちのための社会ではないと感じているし、自分たちの生活がうまくいっていないことも自覚しています。オバマ大統領はこうした人々の複雑な心情をかき乱します。
バンスさんはオバマ大統領について、こう書いています。
"He is a good father while many of us aren't. He wears suits to his job while we wear overalls, if we're lucky enough to have a job at all. His wife tells us that we shouldn't be feeding our children certain foods, and we hate her for it ---not because we think she's wrong but because we know she's right."
こうした人々は主要メディアも信用していません。保守系のFOXニュースでさえ、オバマ大統領はハワイ生まれだと言っているのに、世論調査では保守層の間では「オバマ大統領は外国生まれだ」との回答が32%に達し、19%は「定かではない」と答えています。一方で、インターネット上や保守系ラジオから流れる拠のない情報は信じ込みます。米中枢同時テロは米国政府の企み、オバマケアは米国民にマイクロチップを埋め込もうとしている、ニュータウンの乱射事件は銃規制に関心を向けるための政府の陰謀、オバマ大統領は戒厳令を発動して3期目を務めようとしている、といった情報です。どれだけの人がこうした情報を信じているかは定かでないですが、多くの人々がオバマ大統領が米国生まれでないと信じているなかでは、相当な数の人たちがこれらの情報を信じている可能性はあります。
一方で、保守系の政治家たちも、生活に苦しんでいる人々に一生懸命勉強して、真面目に働き、新しい生活を築くように訴えかけたりはしません。彼らの言説は"It's not your fault that you're a loser; it's the government fault."といったものです。
バンスさんは今の米国社会の仕組みや、貧しい人々が暮らす生活環境が厳しいものであることを否定するわけではありません。ただ、自身や姉のように生活を改善できる人もいることを踏まえて、"No person's childhood gives him or her a perpetual moral get-out-of-jail-free-card"だとしています。重要なのは身近にロールモデルがいることで、宗教上のコミュニティーがそうした役割を果たすことも指摘しています。またバンスさんのような家族にとっては、祖父母や親戚の役割が非常に大きともしています。そして、政府はコミュニテイーの問題を解決できるほど力があるわけではないとして、"Studies now show that working-class boys like me do much worse in school because they view schoolwork as a feminine endeavor. Can you change this with a new law or program? Probably not"とも疑問を投げかけます。
バンスさんは、自身の子供時代と同じような境遇にあるブライアンという15歳の少年について、このように考えたといいます。
"There are many cards left to deal: whether his community empowers him with a sense that he can control his own destiny or encourages him to take refuge in resentment at forces beyond his control; whether he can access a church that teaches him lessons of Christian love, family, and purpose; whether those people who do step uo to positively influence Brian find emotional and spiritual support from their neighbors"
まぁ、そうなんでしょうな。
このストーリーはあくまでバンスさん個人が経験した内容で、どこまで一般化できるかどうかは分かりません。バンスさんもこのことは冒頭で断っています。でも、実際にこうした生活を経験した本人が書いている話で、外部の人間はなかなか家庭内の事情までは踏み込んで知ることはできないだけに、傾聴に値する話なんだと思います。
家庭は大事だよね。
2016年8月31日水曜日
2016年8月28日日曜日
Bootlegeer's Daughter
"Bootlegger's Daughter"という本を読んだ。ミステリです。
この本を選んだきっかけは、英語で好きなジャンルである推理小説でも読んでみようかということだったのですが、英語圏の有名作家が誰なのかも知らないもので、どの本を選んでよいのか分からない。そこで「伝統的なミステリ」を対象とするアガサ賞受賞作から選んでみた次第です。
ウィキペディアによると、アガサ賞が対象とする伝統的なミステリとは、
あからさまな性描写や過激な流血、暴力シーンがないミステリ作品と緩やかに定義されていて、たいていは、警察官や私立探偵ではない一般の人が主人公となり、狭い地域を舞台として、お互い顔見知りの人々の中で起きる事件や謎を解決するミステリ
とのこと。映画化されるような「サスペンス+アクション」みたいなのではなく、プロット重視の「謎解き」みたいな感じなのではないでしょうか。
作者のMargaret Marronはアガサ賞の常連で、ほかにもいろんな賞をとっています。2013年には、Mystery Writers of Americaが授与する最高賞であるGrand Master Awardを取っています。そうそうたる面々が受賞している賞ですから、なかなか立派な作家なのでしょう。
で、読んでみた感想としては、面白かったです。派手なアクションもないうえ、不可能犯罪的なトリックもありませんが、きちんと意外な人物が犯人ですし、その動機も納得できるように思えました。オープニングもショッキングです。同性愛者が出てきます。あまりストーリーとは関係ないですが、双子も出てきます。
主人公はノースカロライナ州のDeborah Knottという女性弁護士で、民主党からDistrict Judgeに立候補しているという設定。その予備選で、Luther Parkerという黒人の弁護士と、候補者の座を争っています。その最中、18年前の未解決殺人事件の被害者の娘から、「18年前に母親が死んだときの真相を探ってほしい」と依頼されます。その調査の過程で、新たな殺人事件も発生します。つまり、選挙の話と、謎解きの話の2本立てでストーリーが進行するわけですね。だから、登場人物はやたらと多いです。ミステリなので、このやたらと多い登場人物の全員が怪しいように思えます。だから、最初のうちはやたらと読むのに時間がかかるのですが、だいたい「この人は悪い人じゃないな」とか「どう考えたって仲間だな」というのが分かってくると、スムーズに読めるようになりました。
正直、ミステリが読みたくで選んだ本ですから、選挙の話はややこしいばかりで面白くないようにも思えます。ただ、Deborahの父親のKezzie Knottという人が魅力的で、もともとは密造酒とかマリファナ栽培なんかに手を染めていた悪い人なうえ、脱税で起訴されて、8カ月ほど刑務所に入っていたこともあったけど、知事や上院議員の動きによって、この起訴と収監の記録は抹消されているという設定です。この本では、すべての謎が解決した後で、このお父さんがいろいろとなんやかんやして、選挙の話で、先に続くような展開が出てきます。この本は1992年に出版されたDeborah Knottシリーズの第1作で、2015年8月までに20作出ているみたいなので、今後は政治の方の話も大河ドラマ的な展開になっていくんじゃないでしょうか。間違っているかもしれませんけど。
次作も読んでみたいと思います。
この本を選んだきっかけは、英語で好きなジャンルである推理小説でも読んでみようかということだったのですが、英語圏の有名作家が誰なのかも知らないもので、どの本を選んでよいのか分からない。そこで「伝統的なミステリ」を対象とするアガサ賞受賞作から選んでみた次第です。
ウィキペディアによると、アガサ賞が対象とする伝統的なミステリとは、
あからさまな性描写や過激な流血、暴力シーンがないミステリ作品と緩やかに定義されていて、たいていは、警察官や私立探偵ではない一般の人が主人公となり、狭い地域を舞台として、お互い顔見知りの人々の中で起きる事件や謎を解決するミステリ
とのこと。映画化されるような「サスペンス+アクション」みたいなのではなく、プロット重視の「謎解き」みたいな感じなのではないでしょうか。
作者のMargaret Marronはアガサ賞の常連で、ほかにもいろんな賞をとっています。2013年には、Mystery Writers of Americaが授与する最高賞であるGrand Master Awardを取っています。そうそうたる面々が受賞している賞ですから、なかなか立派な作家なのでしょう。
で、読んでみた感想としては、面白かったです。派手なアクションもないうえ、不可能犯罪的なトリックもありませんが、きちんと意外な人物が犯人ですし、その動機も納得できるように思えました。オープニングもショッキングです。同性愛者が出てきます。あまりストーリーとは関係ないですが、双子も出てきます。
主人公はノースカロライナ州のDeborah Knottという女性弁護士で、民主党からDistrict Judgeに立候補しているという設定。その予備選で、Luther Parkerという黒人の弁護士と、候補者の座を争っています。その最中、18年前の未解決殺人事件の被害者の娘から、「18年前に母親が死んだときの真相を探ってほしい」と依頼されます。その調査の過程で、新たな殺人事件も発生します。つまり、選挙の話と、謎解きの話の2本立てでストーリーが進行するわけですね。だから、登場人物はやたらと多いです。ミステリなので、このやたらと多い登場人物の全員が怪しいように思えます。だから、最初のうちはやたらと読むのに時間がかかるのですが、だいたい「この人は悪い人じゃないな」とか「どう考えたって仲間だな」というのが分かってくると、スムーズに読めるようになりました。
正直、ミステリが読みたくで選んだ本ですから、選挙の話はややこしいばかりで面白くないようにも思えます。ただ、Deborahの父親のKezzie Knottという人が魅力的で、もともとは密造酒とかマリファナ栽培なんかに手を染めていた悪い人なうえ、脱税で起訴されて、8カ月ほど刑務所に入っていたこともあったけど、知事や上院議員の動きによって、この起訴と収監の記録は抹消されているという設定です。この本では、すべての謎が解決した後で、このお父さんがいろいろとなんやかんやして、選挙の話で、先に続くような展開が出てきます。この本は1992年に出版されたDeborah Knottシリーズの第1作で、2015年8月までに20作出ているみたいなので、今後は政治の方の話も大河ドラマ的な展開になっていくんじゃないでしょうか。間違っているかもしれませんけど。
次作も読んでみたいと思います。
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