"Bringing Up Bebe"という本を読みました。
サブタイトルは、One American Mother Discovers the Wisdom of French Parenting ということで、Pamela Druckerman という米国人女性がフランスでの子育てで気づいた、フランス流子育てとアメリカ流子育ての違いについて書いた本です。車のなかで聞いていたラジオでこの本を取り上げていて、「フランスの子供は生後数カ月で一晩中夜泣きをせずに寝るようになるんです」という言葉を聞いたのがきっかけで購入。うちの長男は大変に夜泣きがひどくて、かなり大きくなってからも夜中に泣いて嫁さんにだっこされたりしていたもんですから、「どういうことだ?」という思いで読んでみた次第です。それはそれは大変に面白かったです。
米国の子育て事情は日本(我が家)と似ているところがあるらしい。Pamelaさんの長女も3カ月のころに1晩に7、8回は起きていたらしく、Pamelaさんはそのたびに15分ほど抱っこしてたそうです。アメリカではそれが当たり前で、子供が1晩通して眠れるようになるのは8カ月とか9カ月はたってから。ひどければもっとかかる。ところがフランスの母親たちは、自分の子供が4カ月で1晩中眠るようになっても、「他の子たちよりも随分と遅いのよ!」とボヤくらしい。
その違いの理由が、子育てに対する考え方の違いだというのです。例えばフランスでは、子育ての専門家は母親たちに「たとえ生まれて間もない時期でも、子供が泣いたときにすぐに抱っこするようなことはしてはいけない。子供たちが眠り方を覚える機会を与えてあげるべきだ」と教える。人間の睡眠には浅い眠りと深い眠りのサイクルがあって、子供が夜泣きをするのは浅い眠りのとき。子供たちは経験を重ねるうちに眠りが浅くなっても再び深い眠りに落ちることができるようになるのだけれど、初めのうちは眠り方が分らないものだから泣いてしまう。そのとき、親が子供を抱き上げてしまえば、かえって眠りを覚ますことになって、子供たちは深い眠りに落ちることができない。だから、泣いている子供を抱っこするのは子供たちから眠り方を覚える機会を取り上げているようなものだ! これがフランス流なんだそうです。素晴らしい。8年ほど前に嫁さんに教えてあげたかった。
アメリカでも似たような"Sleep Training"という考え方はあるんだけれど、母親たちは「なんか子供に対して残酷なことをしている」と感じてしまう。だからついつい抱っこする。でもフランスでは「眠り方を覚えさせる」というのはスタンダードな育児法なので、母親たちは自責の念を感じることはない。その結果、子供たちが早い時期に眠り方を覚えられるようになるというわけ。
もちろんフランス流も、「子供が泣いても放っておけばいい」というのではなくて、「すぐには抱っこせずに、じっくりと待って、子供の様子を観察していなさい」ということだそうです。本当に具合が悪いとかいうときだと何分経っても泣き止まないこともあるので、そのときは抱っこして様子を確認せねばならないわけです。
このほか、フランスの子供はレストランで食事が出てくるまでの間、行儀よく待っていられるとか、ベビーカーから出たいといって泣き喚いたりしないとか、いろんな話が出てきます。これらの秘密も「子供の要求にはすぐには反応せずに、待たせる」という点にある。夜中に泣いてもすぐには抱っこしないのと同じです。
例えば、フランスでは食事は決まった時間に与える。間食の時間も決まっている。それらの時間外で子供が「おなかがすいた」と言っても、間食は与えないのが当たり前だそうです。まぁ、そうすると、子供たちは初めのうちは泣いたり叫んだりするんでしょうけど、何ももらえないことがわかると我慢することを覚える。フランスの母親の感覚は「確かにおなかはすいているんだろうけど、それで死ぬわけじゃない。それよりも待つことを覚えるほうが大事だ」といったものなんだそう。そうして子供が待つことを覚えると、レストランでも行儀よくしていられる。その結果、家族全員が幸せに食事を楽しむことができて、そのことによって子供自身も幸せな時間をすごせる。
その一方で、親も食事を無理強いしたりはしない。子供が何か初めての食材を食べたがらないときは、「最低でも一口はかじりなさい。それもいやなら、においだけでもかぎなさい」というのがフランス流。アメリカでは泣いて嫌がる子供を怒鳴りつけて食べさせるような母親がいるわけですが、そんなことをしたら食事が楽しいものでなくなってしまう。それは家族全員にとって不幸なことだというわけですね。その代わり、母親は次に同じ食材をだす時には、調理法やソースを変えたりして、子供が食べる気になるように仕向ける。
なんか、身につまされる話ですねぇ。うちの次男なんて嫁さんがトイレから出てくるのさえ待っていられなくて、トイレのドアの前で大泣きしますからね。可愛いんですけど、困ったもんです。親がヘトヘトになるまで、癒してきますからね、あいつは。
あとこの他にも「あるある」エピソードは満載です。フランスでも日本と同様に、働く母親にとって保育所を確保するのは大問題。Pamelaさんはフランスで子供を公立の保育所に入れようとするんですが、なかなか競争率が高い。そこで役所に対して手紙を書くんですね。「これこれこんな事情で、うちは子供を保育所に入れられないと大変なことになっちゃうんです」って訴えるわけです。あるよねぇ~、日本でもそういう手紙書くよねぇ。あとフランスの母親は子供を公園で遊ばせているとき、ベンチかなんかに座って母親同士の会話で大人の時間を楽しんだりするらしい。でも、アメリカのスタンダードでは一緒に滑り台も滑るし、ジャングルジムにも登る。子供の後をついてまわって、なんだかんだと声をかけたりする。フランスで子育てしているアメリカ人のPamelaさんはそんなことをしている自分がすごく余裕のない必死の子育てをしているような気分になるんだそうですが、日本だったら別にそんな気分にならなかったでしょうね。日本の母親も子供たちと一緒に遊ぶ派が多数でしょうから。
とまぁ、こうしたフランス流子育てが定着すると、母親の負担も少なくなって、いわゆる「子育てしやすい環境」っていうのが整うんだと思います。で、女性の社会進出も進む。2009年のOECDのデータによると、フランスの出生率は1.99で、日本の1.37とは比べ物にならない。そしてオランド大統領の内閣は半数が女性です。ただしこの本では、男性の育児参加の話はあまりでてきません。フランスの母親は男性の育児参加にはあまり期待していないらしく、「男たちには子育てなんていう繊細な仕事はできやしないのよ」ってな感じだそうです。
というわけで面白い話がありすぎて、ここでは書ききれません。フランス流子育てに何の問題もないということはないんでしょうが、アメリカ流や日本流の子育てで辛い思いをすることがあるのなら、フランス流に目を向けてみるのも一案かと思います。Pamelaさんによると、こうしたフランス流子育ての起源はルソーの「エミール」にあるそうです。あと、1970年代にラジオ番組の子育て相談で人気を博したFrancois Dolto(フランソワーズ・ドルト)さんという女性がいて、この方の教育法にも大きな影響を受けている。なるほどねぇ。子育ては文化ですな。
写真はPamelaさんと、長女と双子の弟たち。
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