2018年3月13日火曜日

"The Shortest History Of Europe"

“THE SHORTEST HISTORY OF EUROPE”という本を読んだ。

John Hirstというオーストラリアの歴史学者が2009年に出した本です。ウィキペディアによると、9カ国語に翻訳されているとのこと。米国を離れたもので、ちょっと欧州のことでも勉強してみよう、そのためにはまずは歴史からということで、読んでみました。この本を選んだのは、アマゾンで星がたくさんついていたからです。

イントロダクションの冒頭が素晴らしいです。

If you like to skip to the end of a book to see what happens, you will enjoy this book. The endings start soon after it begins. It tells the history of Europe six times, each from a different angle.

読む気になります。つまり、科学の発展について古代から現代まで、宗教の広がりについて古代から現代まで、政治制度の発展について古代から現代まで、といった具合に、個別のテーマにそって歴史を簡潔に振り返っていきますよということです。

で、その前に、欧州の歴史や文化を形づくる重要な3つの要素についての説明や、おおざっぱな古代と近代と現代の区別についての説明がついています。

欧州の歴史や文化を形づくる重要な3つの要素というのは、古代ギリシャ・ローマの文化、キリスト教、ゲルマン民族の戦士たちです。

古代ギリシャ・ローマの文化は、論理を重ねていけばシンプルな答えがみつかるはずだという信念に基づいています。こうした思考法は現在に至るまで、科学の発展の礎になっています。アリストテレスやプラトン、ソクラテスといった哲学者が積み重ねた思考であるとか、アルキメデスやピタゴラスが生み出した数学の基礎となる考え方は、ローマ帝国のもとでも絶対的な教養として受け継がれていきました。

キリスト教は、その前にあったユダヤ教の一神教という形式を受け継ぎつつ、ユダヤ人以外でも入信できるスタイルをとりました。それにキリスト教というのは「隣人を愛せよ」「頬を打たれたら、反対側の頬を差し出せ」といった風に、基本的には平和的な宗教というのも特徴的です。ひとつの神のもとで人々が平和に暮らすことが理想だというわけで、欧州で多くの人に信じられるようになりました。

そしてゲルマン民族の戦士たちは、ローマ帝国を侵略します。で、面白いのは、ゲルマン民族は侵略して略奪することはしても、統治するという能力には欠けていたということ。このためローマ帝国後の欧州には中国のように巨大な帝国が生まれることはありませんでした。

欧州の歴史は、この3つの要素がからみあって、展開していきます。

最初のころ、ローマ帝国はキリスト教を弾圧します。ローマ皇帝は各国が帝国に従う限りは各国の自治に寛容でしたが、キリスト教徒は神にしか従いません。これがユダヤ教であればユダヤ人だけの話で済むわけですが、キリスト教は万人に対して開かれているので放っておくと、どんどん信者が広がっていくやっかいな存在です。

ところが313年、ローマ皇帝のコンスタンチンが自らキリスト教徒になるという、奇跡が起きます。キリスト教はローマ帝国の国教になりました。ローマ帝国の庇護のもとで、キリスト教は法王をトップとして各地の教区に司教や神父を配置するヒエラルキー型の統治システムを築きあげていきます。キリスト教のルールは結婚や相続といった生活上の問題にも適用されるようになり、さらにお布施のような形での徴税システムもつくられていきます。

で、このローマ帝国がゲルマン民族の進入を受けて分裂し、西ローマ帝国が滅びます。でもゲルマン民族は統治には関心がないですから、キリスト教の統治システムは生き残る。一方、ローマ帝国のもとで発展したキリスト教の統治システムは、古代ギリシャ・ローマの文化の影響も強く受けています。例えば、キリスト教の正当性を示すための説明は、古代ギリシャで発達した論理的な考え方に基づいてなされています。こうした古代ギリシャ・ローマの思考法は、キリスト教を通じて、ローマ帝国が滅んだ後も欧州に広がっていきます。

で、ゲルマン民族の戦士たちなんですが、自分たちの力では税金を集めることもできません。なので各地を侵略したゲルマン民族のリーダーたちは王となったうえで、侵略した土地を仲間たちに分け与えます。そのうえで、戦争の必要があれば、兵隊を出すことを約束させます。ゲルマン民族の戦士たちというのは、戦うことが好きで戦士であることに誇りを感じているけれど、それ以外のことはどうでもいいのです。こうした約束をした仲間たちは、分け与えられた土地を統治して、貴族になっていきます。彼らは土地を私有財産のように扱うようになり、王の統治を絶対的なものとは受け止めないようになっていきます。こうした「支配者の力は限定されるべきだ」というものの考え方は、欧州の政治文化のバックボーンとなりました。

そして当然ながら、ゲルマン民族の戦士たちはキリスト教徒になります。統治のためにはキリスト教のシステムに頼るしかないのです。平和的な宗教であるはずのキリスト教も少しずつ変質します。戦うことに誇りを感じるゲルマン民族の戦士たちは、キリスト教のもとで良い行いのために戦う騎士になり、異教徒から聖地を取り戻すため、騎士団がつくられたりします。騎士は弱い者、特に高貴な女性を守ることにも誇りを持ちます。これも欧州文化のひとつの要素として受け継がれていきます。

西ローマ帝国の滅亡(476年)から1400年ごろまでを中世というそうです。

まぁ、このあたりが第1章ですね。

こうしたバックグラウンドを頭に入れたうえで、この後に続く、ルネサンスとか宗教革命とか産業革命とかフランス革命とかロシア革命とか、第一次世界大戦から第二次世界大戦までの流れとかについての説明を読んでいくと、「なるほど」と思わせられるという仕掛けの本です。いずれも簡潔に大変面白く書かれているのですが、それでもいちいち紹介していると大変な分量になるので割愛。

こうした内容は日本でも高校の世界史なんかで習ったりするのかもしれませんが、私には新鮮でした。ギリシャ・ローマの文化は絶対的な教養、ゲルマン民族は野蛮な人たち、キリスト教の権威というのは統治システムに基づいたもの、といったイメージも、この本を読まなければ持つことがなかったように思います。いちいち説明するまでもない常識なのかもしれません。

これからは個別のテーマについての本を読んでいきたいと思います。

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