2012年12月10日月曜日

fiscal cliff はどうなった。

このところfiscal cliffのことを気にしていなかったので、どうなってんのか調べておいた。

オバマ大統領は11月29日にガイトナー財務長官を「特使」として共和党に提案を行っています。この内容は文書では公開されていないみたいですが、報道によると内容は以下のようなものらしい。【CNNの記事】【CNBCの記事】【WSJの記事】


・10年間で1兆6000億ドルの税収増。このうち9600億ドルは年収25万ドル以上の富裕層向けの税率引き上げ、キャピタルゲインや配当への課税の強化でまかなう。さらに今後の税制改正で6000億ドルを捻出する。相続税を2009年の水準まで引き上げることや、控除などの見直しを含む。

・Budget Control Actで定められた財政支出の一律カットの1年延期。

・景気刺激策、失業保険の拡充などで500億ドルの支出増。

・債務上限問題が2011年のような混乱を起こすことを避けるため、大統領が債務上限を引き上げる権限を握る。

・メディケアなどへの支出を4000億ドル減らす。詳細は来年協議する。

この提案を行ったうえで、ガイトナー財務長官は12月2日のCNNの番組"State of the Union"でも、「税率引き上げがない限り、fiscal cliff問題での合意はない」と宣言したりしています。(参照) 妥協する気は全くないぞという感じですね。


これに対して共和党は12月3日、文書でオバマ大統領に遺憾の意を表明。(参照) それによると、

・1兆6000億ドルなんていう額は、大統領選で主張していた額の2倍じゃないか。

・歳出カットの4倍もの税収増を見込んでおり、とてもじゃないけど、大統領自身が主張してきた「バランスのとれたアプローチ」とは言えない。

・大統領側は「1ドルの税収増に対して、2.5ドルの歳出カットを行っている」と説明しているが、それは過去の歳出カットも含めた計算じゃないか。

・債務上限を取り払うとはどういうことだ。

・こんな不真面目な提案を出してくるようでは、我々は下院を通過した"Budget Resolution"に基づいた対応をとるしかない。


などと主張しています。で、その対応の内容はというと、


・メディケアの抜本的な改革で、受給者に保証内容の選択肢を与えるようにする。貧しい人や病気の人にはサポートを厚くし、富裕層へのサポートは削る。現在の高齢者には影響が出ないようにする。これによってメディケアの支出は抑制されて、維持可能なものになる。

・メディケイドも改革して、州政府の裁量を大きくする。受給者の状況を改善しながら、10年間で8000億ドル近くを節約できる。

・Federal employee compensationやSupplemental Nutrition Assistance Programの改革で数千億ドルを節約する。

とのこと。

さらに具体的には、オバマ大統領が作った"National Commission on Fiscal Responsibility and Reform"のErskine Bowles共同議長が2011年11月1日に行った提案を例に挙げています。この提案は、税率アップではなく控除などの見直しにより8000億ドルの税収増を確保し、mandatory spendingで9000億ドル、discretionary spendingで3000億ドルの歳出カットを行うとしたもので、共和党側は「完璧な解決策ではないけど、公平な妥協点だ」としています。


これに対してオバマ大統領側からは歩み寄りの姿勢はないようで、共和党のベイナー下院議長は8日の会見で協議について「進展はない」と表明しています。 (参照) ただ、10日になってオバマ大統領とベイナー下院議長が話し合いの機会をもっています。詳細は明らかにされていませんが、“the lines of communication remain open”ということのようです。

で、今後の行方について、ワシントンポストの記事がややこしくて面白い。(参照) 簡単にまとめてみると。

・最高税率は35%~39.6%の間で落ち着く可能性がある。

・増税の対象を25万ドル以上ではなくて、37万5000ドルとか50万ドルとかにするかも。

・民主党は税収増を1兆2000億ドルにまで妥協する用意があるようだ。

・共和党は8000億ドルに抑えたい。上院を通過したMiddle Class Tax Cut Actでも8310億ドルだったのだから。

・オバマ大統領は社会保障費のカットを3500億ドルにおさえたい。共和党は8000億ドルを狙っている。

・歳出一律カットを延期するための暫定的な歳出削減もやる。そのうえで抜本的な歳出カットを協議がまとまらなければ、歳出一律カットと増税をセットにしてやる。デッドラインは来年秋。(多分)

・世論調査によると、協議が決裂したとすれば、大半の国民が共和党に責任があると考えている。

・だから、共和党内にはMiddle Class Tax Cut Actを下院で通しちゃって、富裕層への税率アップを認めちゃえという声もある。ただし、この法律には緊急失業保険の延長とか債務上限の引き上げとかは含まれていない。増税さえ認めてしまえば、共和党側が民主党側に妥協を求めるという構図を作ることができる。

・ただし下院でMiddle Class tax Cut Actを通すというのはそれほど簡単ではない。共和党から30人ぐらいの賛同者を出さなければならないけれど、各議員にとって簡単に妥協しちゃうことは選挙対策上好ましくないからだ。


写真はベイナー下院議長。バスケットボールで有名なゼイビア(Xavier)大学を卒業後、中小企業経営を経て、1990年の下院選挙でオハイオ州8区から出馬して初当選。以来、下院一筋22年。2年ごとに選挙やって、ここまでたどり着くっていうのは偉いもんですなぁ。

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