米国の最高裁が6月にも同性婚に関する判決を出すらしいです。3月26、27日には最高裁がヒアリングをやったりして、なかなかの盛り上がりを見せているようです。(26日分)、(27日分)
問題のひとつとなっているのは、カリフォルニア州のProposition 8が違憲であるかどうかという点。Proposition 8といえば、以前のブログでも書いたことがあるのですが、2008年11月にカリフォルニア州憲法に盛り込まれた同性婚を禁じる条項のことです。懐かしい。このブログでは"Provision 8"って書いているけど、多分これがProposition 8のことだと思います。なんで間違えてるんですかね。ということで、おさらい。
2012年2月7日、第9巡回区の控訴裁判所はProposition 8は違憲であるとの判決を下しています。(参照)
控訴裁判所の判決は、Proposition 8の効力は同性のカップルから結婚というステータスを取り上げるものであり、それ以上でもそれ以下でもないとしています。つまり、Proposition 8があるからといって、同性のカップルが子供(養子)を育てることができなくなるわけじゃないし、他のカップルの出産に影響を与えるわけでもない。信教の自由とか子供の教育とも関係がないということ。
なるほど。そう言われると、「同性婚を認めたら、おかしな社会になっちゃうじゃないか」というような主張は通用しないわけですね。だって、同性婚が認められようが認められまいが、同性のカップルが一緒に暮らして、子供を育てることが禁じられるわけじゃないですからね。
控訴裁判所の判決はさらに、結婚というステータスにはカップルの継続的な関係を法的に社会的に保証するという効果があることをふまえて、Proposition 8は同性のカップルから結婚というステータスを奪うことで、同性のカップルの尊厳を貶める効果しか持たないとしています。で、憲法はそんなことを認めていないので、違憲だというわけです。
All that Proposition 8 accomplished was to take away from same-sex couples the right to be granted marriage licenses and thus legally to use the designation of ‘marriage,’ which symbolizes state legitimization and societal recognition of their committed relationships. Proposition 8 serves no purpose, and has no effect, other than to lessen the status and human dignity of gays and lesbians in California, and to officially reclassify their relationships and families as inferior to those of opposite-sex couples. The Constitution simply does not allow for “laws of this sort.”
もちろんPropositon 8の支持者たちはこの判決に反発して、7月31日、連邦最高裁に上告します。(参照)
上告の理由のなかでProposition 8の支持者たちは、
・結婚は異性間でしか子供をつくれないという生物学的な前提に基づいた制度である。責任を持って子供を産み、育てることは社会や人類の繁栄につながる一方、無責任な出産や子育ては社会的なコストとなる。結婚制度の目的は、異性間の性的な関係を規制することで、子供たちが安定した環境で育つことができるようにすることだ。
・異性間の性交渉によって子供ができてしまうことはあっても、同性間の性交渉で子供ができてしまうことはない。
・同性婚を認める最近の流れができる前は、結婚が責任ある出産と子育てという社会の重要な利益に基づいた制度であるということは何の疑いもなく受け入れられてきた。これこそが最高裁が結婚を「我々の生存と存続にとって根本的な問題だ」と認識してきた理由だ。
Indeed, prior to the recent movement to redefine marriage to include same-sex relationships, it was commonly understood, without a hint of controversy, that the institution of marriage owed its very existence to society’s vital interest in responsible procreation and
childrearing. That is why, no doubt, this Court has repeatedly recognized marriage as “fundamental to our very existence and survival.”
・同性婚を認める判決は、伝統的な結婚の定義を認めたネブラスカ州の憲法改正を支持した2006年の第8巡回区の裁判所の判決と食い違う。この判決では、「出産を結婚と結びつけて考えれば、結婚によって得られる社会的な認知や利益を異性間のカップルに与え、同性間のカップルに与えないことが正当化される。異性間のカップルは子供ができてしまうことがあるが、同性間のカップルではそのようなことがないからだ」とされた。
Indeed, the decision below collides directly with the Eighth Circuit’s 2006 decision upholding Nebraska’s constitutional amendment affirming the traditional definition of marriage. The State’s interest in “ ‘steering procreation into marriage,’ ” the Eighth Circuit held, “justifies conferring the inducements of marital recognition and benefits on opposite-sex couples, who can otherwise produce children by accident, but not on samesex couples, who cannot.”
・1974年の判決では、「あるグループを追加することが正当な目的を達成することにつながり、他のグループを追加することでは同様の効果が得られない場合」、区別をつけることは正当化されるとしている。(中略) だから、第9巡回区の控訴裁判所が行ったような、伝統的な結婚の定義を修復することが結婚制度を傷つけないようにするために必要かどうかという問いかけは、正しい問いかけではない。問うべきなのは、異性間の結婚を認めることが、同性間の結婚を認めることでは達成できないような利益をもたらすかどうか、ということだ。
It follows, then, that a classification will be upheld when “the inclusion of one group promotes a legitimate governmental purpose, and the addition of other groups would not,” Johnson v. Robison, 415 U.S. 361, 383 (1974),(中略)Thus, the relevant inquiry is not, as the Ninth Circuit would in effect have it, whether restoring the traditional definition of marriage was necessary to avoid harm to that institution. Rather, the question is whether recognizing opposite-sex relationships as marriages furthers interests that would not be furthered, or would not be furthered to the same degree, by recognizing same-sex relationships as marriages.
・かつてカリフォルニア州が異性婚と同性婚を区別したことが合理的であったのならば、現在においても同じような区別を付けることは合理的であるはずだ。また、他の41州で異性婚と同性婚を区別することが合理的であるとされるのならば、カリフォルニア州でも同様であるべきだ。
・Proposition 8に反対する人たちも認めるように、同性婚を認めることは社会的に大きなインパクトがある。学者のグループからは、同性婚を認めれば結婚と出産の結びつける考え方が弱くなり、男性が子供に対して持つ責任感を弱くするかもしれないという懸念も出ている。だからカリフォルニア州がこの難しい問題を慎重に取り扱おうとしていることは合理的だ。
・Proposition 8の目的はちゃんとした出産や子育てを守るための結婚制度を守ることにあり、第9巡回区の控訴裁判所が主張するような、同性のカップルを差別することにあるのではない。控訴裁判所の主張は、多くのカリフォルニア州民や他の41州の州民、federal Defense of Marriage Actを支持した議員や裁判官の名誉を傷つけるものだ。
The Ninth Circuit’s charge thus defames over seven million California voters and countless other Americans who believe that traditional marriage continues to serve society’s legitimate interests, including the citizens and lawmakers of at least 41 other States, the Members of Congress and President who supported enactment of the federal Defense of Marriage Act, the large majority of state and federal judges who have addressed the issue,
なんていう風に主張するわけです。
簡単にまとめると、
控訴裁判所は、
・同性婚を認めないことで得られる利益はない。Proposition 8の目的は同性のカップルを差別的に扱うことにあり、違憲。
と主張し、
Proposition 8の支持者は、
・異性間の結婚を認めることで、ちゃんとした出産や子育てを促すことができる。
・同性間の結婚を認めても、ちゃんとした出産や子育てが促されるわけではない。
・同性間の結婚を認めることは、社会的に大きな影響を与える。ちゃんとした出産や子育てに対する意識が弱まるかもしれない。
・同性間の結婚がもたらす影響は未知数であり、カリフォルニア州が慎重に行動することは合理的だ。
・Proposition 8は合憲
と主張している、という感じですかね。
最高裁はこのProposition 8の裁判と、同性のカップルにDefense of Marriage Actに対する裁判の両方をまとめて判決を出します。どんな判決を出すかについては、例によって中間派のケネディ判事の判断が注目されているようですが、ケネディ判事はヒアリングで同性のカップルに同情的な発言もしつつ、「未知の領域」に踏み込むことに慎重であるべきだとしたりもしているので、判決の行方はよく分かりません。さすが中間派。同性婚を全50州で認めるような判決はでないだろうとか、カリフォルニア州の知事や司法長官がProposition 8は違憲であると認めていることから、最高裁は「上告する必要がない」なんていう判断を下すのではという見方もあります。(参照、ロイター)、(参照、WSJ)
ちなみにオバマ政権はProposition 8に反対する姿勢を明確にしています。(参照、NYT) 米国の最高裁では、裁判と関係のない人が意見を述べることができるルールがあるようで(参照、Wikipedia)、それに基づいて司法省がamicus curiae briefなる文書を最高裁に提出したということらしいです。
原文はこれ。
エリック・ホルダー司法長官のコメントはこちら。
画像は最高裁の前でアピールする同性婚支持者たち。
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