No.85
自動改札機には魔物が棲んでいる。
電車を降りた乗客が順番に自動改札機をすり抜けていく。私だって通常ならこの自動改札機に惑わされることはないが、問題は自分の前の人がひっかかった時だ。ひっかかった本人は、「あ。乗り越し分の清算を忘れていた」なんて思いながら、その場を立ち去ればいいが、すぐに切符を入れられない状態のままで放置された私には大きな問題が生じる。
「前の人に続いて、隣の自動改札機の列に割り込むべきか」
「否。それでは隣の列の秩序を乱してしまうことになる」
「その場で立ち尽くして、自動改札機が切符を入れられる状態になるのを待つか」
「否。それではまるで、私がトラブルを起こして後続に迷惑をかけているみたいではないか」
そんなことで悩んでいるうちに、後続の列から隣の列に移る輩が出てくる。そいつにつられて、私が並んでいる列は人が少なくなる一方だ。
「先頭で待ち続けている私は的確に状況を判断できない愚か者だと思われているのではないだろうか」
「否。こういう時こそ泰然自若であることを心がけて、静かに時を待つのが一番なのではないか」
「否。むしろこういう時こそスムーズに隣の列に移るのが大人のたしなみ」
「否。それでは、最初から隣の列に移ればよかったことになる。隣の列の秩序を乱さないという最初の心がけを尊重すべきだ」
「あぁっ。でも後続の視線に耐えられない」
悩んだ末に隣の列に移ろうと決めた瞬間、自動改札機が受け入れ可能な状態となる。
「ここで引き返して何食わぬ顔で元の自動改札機を通るか」
「否。それではあまりに自分勝手ではないか。自分の判断に責任をとるべきなのではないか」
「こんなどちらの列に並んでいるともいえない中途半端な場所で立ち止まっていては、混乱を拡大してしまう」
「早く決断しなければ。早く決断しなければ。視線が。視線がぁぁ」
この間3秒ぐらいだろうか。否。5秒?10秒? あぁ、また惑わされている。
悪魔め。
2005/11/2
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