2012年11月26日月曜日

Pivot to Asia

オバマ政権はアジアシフトを志向しているとかいうんだけど、なんでそんなことをしているのかよく知らない。TPPなんかは成長著しいアジア市場向けの輸出を増やして景気を回復させようっていうことらしいけど、それだけが理由なのか不安なので調べておいた。

クリントン国務長官がForeign Policyの2011年11月号のに寄稿した論文"America's Pacific Century"によると、米国はこれまでイラクとかアフガンにリソースをつぎ込んできたけど、イラクの戦争は落ち着いて、米軍はアフガニスタンから撤退することになった。そこでこれからはリソースを効率的に使っていかなければならないんだそうです。その意味で、アジア太平洋地域に、外交面でも経済面でも関与していくことが大事だという判断らしい。

As the war in Iraq winds down and America begins to withdraw its forces from Afghanistan, the United States stands at a pivot point. Over the last 10 years, we have allocated immense resources to those two theaters. In the next 10 years, we need to be smart and systematic about where we invest time and energy, so that we put ourselves in the best position to sustain our leadership, secure our interests, and advance our values. One of the most important tasks of American statecraft over the next decade will therefore be to lock in a substantially increased investment -- diplomatic, economic, strategic, and otherwise -- in the Asia-Pacific region.

なんでアジアが大事かというと、アジア市場への参入によって米国の輸出が増やすことができるからです。だからアジア太平洋地域の安全を確保することが重要になる。南シナ海の航行の自由の確保や、北朝鮮の核開発を阻止、アジア太平洋地域における軍事活動の透明性を高めることが大切なわけです。

Harnessing Asia's growth and dynamism is central to American economic and strategic interests and a key priority for President Obama. Open markets in Asia provide the United States with unprecedented opportunities for investment, trade, and access to cutting-edge technology. Our economic recovery at home will depend on exports and the ability of American firms to tap into the vast and growing consumer base of Asia. Strategically, maintaining peace and security across the Asia-Pacific is increasingly crucial to global progress, whether through defending freedom of navigation in the South China Sea, countering the proliferation efforts of North Korea, or ensuring transparency in the military activities of the region's key players.

なんかそのまんまですね。アメリカは財政的に厳しくて、Budget Control Actなんかでは国防費も含めて一律削減ってこともありえる。米国内では「海外に関与すべきじゃない」という声もあるわけですが、それでもヒラリーは「関与しないわけにはいかない」(we cannot afford not to)としています。その理由は、やっぱり、米国企業にとって新しい市場を開拓し、核拡散を防止し、商取引や航行のためにシーレーンの安全を確保することが米国の繁栄と安全の確保にとって重要だからです。

With Iraq and Afghanistan still in transition and serious economic challenges in our own country, there are those on the American political scene who are calling for us not to reposition, but to come home. They seek a downsizing of our foreign engagement in favor of our pressing domestic priorities. These impulses are understandable, but they are misguided. Those who say that we can no longer afford to engage with the world have it exactly backward -- we cannot afford not to. From opening new markets for American businesses to curbing nuclear proliferation to keeping the sea lanes free for commerce and navigation, our work abroad holds the key to our prosperity and security at home. For more than six decades, the United States has resisted the gravitational pull of these "come home" debates and the implicit zero-sum logic of these arguments. We must do so again.

だからこそ、安定化してきたイラクやアフガニスタンから、今後重要性が増してくるアジア太平洋にリソースを移していこうということです。南シナ海では中国が周辺国と領有権争いをしているし、東シナ海では日本との尖閣問題もあるわけですしね。


でも、こうしたアメリカのスタンスは間違っているんじゃないのという指摘もあります。Foreign Affairsの2012年11・12月号にボストン大学のローバト・ロス(Robert Ross)教授のThe Problem Wiht the Pivotという文書が載っていますが、これは、中国が南シナ海や東シナ海で軍事活動を活発化せているのは国内のナショナリズムを落ち着かせるためで、中国の軍事的な野心や脅威が高まっているわけではないのに、アメリカが軍事力のアジア太平洋シフトを加速させてしまった結果、かえって中国との緊張関係を強めてしまっているという内容です。

Beijing’s tough diplomacy stemmed not from confidence in its might -- China’s leaders have long understood that their country’s military remains significantly inferior to that of the United States -- but from a deep sense of insecurity born of several nerve-racking years of financial crisis and social unrest. Faced with these challenges, and no longer able to count on easy support based on the country’s economic growth, China’s leaders moved to sustain their popular legitimacy by appeasing an increasingly nationalist public with symbolic gestures of force.

Consider China’s behavior in such a light, and the risks of the pivot become obvious. The new U.S. policy unnecessarily compounds Beijing’s insecurities and will only feed China’s aggressiveness, undermine regional stability, and decrease the possibility of cooperation between Beijing and Washington. Instead of inflating estimates of Chinese power and abandoning its long-standing policy of diplomatic engagement, the United States should recognize China’s underlying weaknesses and its own enduring strengths. The right China policy would assuage, not exploit, Beijing’s anxieties, while protecting U.S. interests in the region.


中国と米国の動きとして挙げられている具体例はこんな感じです。

■中国の実力とナショナリズム抑制のための対外強硬姿勢
・中国はこの10年、米国の脅威となるような艦船を配備していない。中国がアメリカに対抗する手段は1990年半ば以降に配備されたディーゼル潜水艦ぐらいのものだ。

・中国の陸軍、空軍の装備のうち現代的といえるものは30%未満。潜水艦でも55%しか現代的といえない。中国軍は米軍には対抗しえない。

・中国はリーマンショック後の世界経済の低迷と無縁ではない。

・中国国内の暴動は2008年の12万件から、2010年には18万件に増えている。

・中国政府はこうした中国の実力や問題点を認識しているが、多くの中国人はこれまでの経済成長で西側に対抗できるという自信を深め、ナショナリズムが高まっている。

・2010年1月に米国が台湾に武器を売った際、中国はこの取引に関連する米国企業に経済制裁を実施した。

・2010年9月の尖閣諸島周辺で中国漁船が海保の船に衝突した際も、反日活動が強まった。

・こうした対外的な強硬姿勢はナショナリズムを抑えることを目的としている。


■中国の対外強硬姿勢に対する米国の対応
・米国は1997年に初めて潜水艦をヨーロッパからグアムに移したときからアジア太平洋シフトを進めている。

・2009、10年の中国の対外強硬姿勢で、アジアの国々は「米国は中国に対抗できるのか」と疑問に思い始めた。

・オバマ政権は過去の政権によるアジア太平洋シフトを加速させた。例えば、日本との合同演習の拡大、フィリピンへの武器売却、オーストラリアへの海軍配備、インドネシア、ニュージーランドとの協力関係の改善とか。

・これまでの政権は、米国が航行の自由を重視することを明確にするだけでアジア太平洋の紛争悪化を抑制できたけど、クリントン国務長官は2010年にハノイで、フィリピンやベトナムをサポートすることを宣言した。

・ブッシュ政権は在韓米軍の40%を引き上げるなど、韓国の米軍を縮小したけど、オバマ政権は韓国との軍事演習の拡充や新たな防衛協定の締結、在韓米軍の増強などの対応をとっている。

・米国はこれまで中国を刺激しないためにベトナムとの協力関係拡大には慎重だったが、オバマ政権はベトナムとの軍事演習や防衛協定締結の動きを進めている。


■米国の対応への中国の反応
・こうした米国の動きを中国政府は快く思っていない。

・その結果、中国は北朝鮮の非核化に消極的になり、北朝鮮への経済支援を強めるようになった。

・2011年、中国はベトナムによる海底調査を妨害した。

・中国は南シナ海での原油採掘を発表している。

・中国は2006年~10年の間、国連安保理での対イラン制裁決議に賛成しているが、2012年の決議では拒否権行使をちらつかせ、日米欧がイランへの経済制裁を強めるなか、イランとの間で新たなイラン産原油購入契約を結んだ。


こういう分析が的を得たものかどうかは分かりませんが、こんな風に考える人もいるということで。

写真はクリントン国務長官。最近、三輪明宏化している気がします。

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