No.73
駅にあるコインロッカーの前に革靴が一組落ちていた。
スーツ姿のサラリーマンが履くような、なんの変哲もない黒の革靴。コインロッカーの方向につまさきを向けるようなかたちで転がっていた。きっちりと揃えられているわけではなく、「脱ぎ捨てられた」という感じだ。
何があったのか知らないが、この靴の持ち主が相当あわてていたことは確かだろう。スーツ姿で駅に着いたはいいが、突然何かが起こったか、思い出したかして、靴を脱ぎ、駅から去っていったということになる。コインロッカーの前ということを重視すれば、なんらかの都合でコインロッカーの中に入らなければならない事情が発生して、とりあえず靴を脱いでコインロッカーの中に身を潜めたのかもしれない。それなら、靴のつま先がコインロッカーの方向を向いていることの説明もつく。問題はそのサラリーマンに何が起こったかだが、私の頭ではさっぱり分からない。
当分の間、駅のコインロッカーを見るたびに、革靴を思い出すことになりそうだ。
2005/10/14
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