イランの核開発をめぐって、イランと安保理常任理事国+ドイツ(P-5+1)というメンバーによる協議がカザフスタンで行われていました。NYTに記事が出ていました。(参照) ちなみにホワイトハウスでの会見でも、取り上げられています。(参照)
この記事によると、
・イランへの経済制裁を一部だけ緩めることと引き替えに、イランの濃縮ウランを凍結(constrain)するという案について協議されている。
・3月18、19日に技術専門家による会合をイスタンブールで開く。
・4月5、6日に政治レベルでの会合をアルマティで開く。
・P-5+1は、イランがFordoのウラン濃縮施設を閉鎖するという提案を取り下げた。
・P-5+1は、イランがウラン濃縮を中止し、再開することが難しくなるような措置(低濃縮ウランを遠心分離器に運び入れる装置の一部を解体するとか)をとることを提案した。
・P-5+1とイランは、イランが20%濃縮ウランを医療目的のために保有することで合意した。
イラン交渉団のトップであるジャリリ最高安全保障委員会事務局長は会見で今回の協議について「現実的で、よりイランの主張に沿ったものだ」とし、「ターニングポイントになりえる」と話したらしい。いつもの攻撃的な口調は陰を潜めていたということです。
3月の技術専門家による会合は、イランに対して提案を再度説明するためのものです。P-5+1の側にはイランが4月の会合で、受け入れがたい反対提案をもって戻ってくるのではないかという警戒感もあるようです。また、イランに対する経済制裁の緩和には原油取引や金融取引は含まれないとのこと。
イラン経済は経済制裁によって大きなダメージを受けているわけで、イラン政府は国民に対して「きちんと交渉を有利に進めているぞ」とアピールする必要がある。P-5+1側がFordoのウラン濃縮施設の閉鎖提案を取り下げたことには、そうしたイラン政府の顔を立てるという意味あいもあるようです。そのうえで、イランがウラン濃縮を続けることを諦めて、今もっている分も医療用とするのであれば、経済制裁をちょっとだけ緩和してやってもいい、なんていう作戦なんでしょう。
厳しい経済制裁を課して、それの緩和と引き替えに相手から譲歩を引き出すという強硬戦略の重要なポイントなんだと思います。ここで上手くイランの譲歩を引き出せれば作戦成功。逆にイランの核開発に歯止めをかけられないようだったら、「経済制裁なんてやっても結局、イランは核保有国になったじゃないいか」なんていう北朝鮮みたいな話になっていく。
難しいですね。画像はイランのジャリリ事務局長。ケロロ軍曹みたいな名前ですが、アフマディネジャド大統領の100倍ぐらい男前な気がします。
2013年2月28日木曜日
2013年2月21日木曜日
ケリー国務長官が初めての主要演説
米国のケリー国務長官が就任後初めてのちゃんとした演説をバージニア大学で行いました。第3代大統領であり、初代国務長官でもあったジェファーソン様のお膝元であります。(参照)
ネット中継を見たのですが、ケリー国務長官は思っていたよりもおじいちゃんっぽい感じがしました。調べてみたら69歳。クリントン前国務長官よりも4歳年上です。民主党の大統領候補になったのは2004年。奥さんがケチャップで有名なハインツ社のオーナーの未亡人だなんていうことが話題になったりもした人です。顔が長いのは思っていた通りでした。
演説は「外交っていうのはあまり意味がないように思われがちだけど、実はとても大事なものなんだよ」っていう話のように思えました。「イラン許すまじ!!」「北朝鮮ぶったおす!!」みたいな話じゃなかったですが、私のように外交についてあまり知識がない人間にとっては、「アメリカってこんなこと考えて外交やってんのかぁ」と勉強になる内容だったと思います。
まぁ、なんで外交が大事かっていうと、
It’s important not just in terms of the threats that we face, but the products that we buy, the goods that we sell, and the opportunity that we provide for economic growth and vitality. It’s not just about whether we’ll be compelled to send our troops to another battle, but whether we’ll be able to send our graduates into a thriving workforce. That’s why I’m here today.
ということなんだそうです。
第二次世界大戦当時、日本やドイツが米国の主要な貿易相手になると考えた人はいなかった。ニクソン大統領が米中国交を樹立したとき、中国が2番目の貿易相手になるとは誰も考えていなかった。クリントン大統領がベトナムとの国交を正常化させたときも同じ。新たに外交関係を築いて米国にとっての市場を拡大していくことが、米国内で住んでいる人たちの雇用や生活にも大きな影響を与えている。EUとの自由貿易協定やTPPなんかにもそういう意味がある。中国も同じことを考えてアフリカに投資している。米国もアフリカとの関係を強化せねばならない。
そして、新興国の経済活動を支援することで、テロ活動を抑制することもできる。
But let me emphasize: Jobs and trade are not the whole story, and nor should they be. The good work of the State Department, of USAID, is measured not only in the value of the dollar, but it’s also measured in our deepest values. We value security and stability in other parts of the world, knowing that failed states are among our greatest security threats, and new partners are our greatest assets.
The investments that we make support our efforts to counter terrorism and violent extremism wherever it flourishes. And we will continue to help countries provide their own security, use diplomacy where possible, and support those allies who take the fight to terrorists.
And remember – boy, I can’t emphasize this enough; I’m looking at a soldier here in front of me with a ribbon on his chest – deploying diplomats today is much cheaper than deploying troops tomorrow. We need to remember that. (Applause.) As Senator Lindsey Graham said, “It’s national security insurance that we’re buying.”
なんていう風に説明したりしています。
あと、今、歳出の一律削減の可能性があるけれど、そんなことになったら大変だと。これについては外交予算は全体の1%しかないんだから、カットしなくてもいいじゃないかって力説していました。
When I talk about a small investment in foreign policy in the United States, I mean it. Not so long ago, someone polled the American people and asked, “How big is our international affairs budget?” Most pegged it at 25 percent of our national budget, and they thought it ought to be pared way back to ten percent of our national budget. Let me tell you, would that that were true. I’d take ten percent in a heartbeat, folks – (laughter) – because ten percent is exactly ten times greater than what we do invest in our efforts to protect America around the world.
In fact, our whole foreign policy budget is just over one percent of our national budget. Think about it a little bit. Over one percent, a little bit more, funds all of our civilian and foreign affairs efforts – every embassy, every program that saves a child from dirty drinking water, or from AIDS, or reaches out to build a village, and bring America’s values, every person. We’re not talking about pennies on the dollar; we’re talking about one penny plus a bit, on a single dollar.
なんか、誰にむけて演説しているんだかって感じですね。
オバマ大統領が2月12日にやった一般教書演説(参照)は、聞いていてびっくりするほど外交問題に触れなかった。で、ケリー国務長官の演説はびっくりするほど経済の話をしている。こんなもんなんでしょうか。とてもイランや北朝鮮に積極的に介入していこうって感じじゃないです。
そういえばこんな発言もありました。
When we join with other nations to reduce the nuclear threat, we build partnerships that mean we don’t have to fight those battles alone. This includes working with our partners around the world in making sure that Iran never obtains a weapon that would endanger our allies and our interests.
イランや北朝鮮が核開発をやっている間は他の国々と一緒に忍耐強く経済制裁を続けて、向こうが核廃棄や民主化に動き出すつもりになったら、外交的な投資として支援するとかいうつもりなんですかね。知らんけど。
ネット中継を見たのですが、ケリー国務長官は思っていたよりもおじいちゃんっぽい感じがしました。調べてみたら69歳。クリントン前国務長官よりも4歳年上です。民主党の大統領候補になったのは2004年。奥さんがケチャップで有名なハインツ社のオーナーの未亡人だなんていうことが話題になったりもした人です。顔が長いのは思っていた通りでした。
演説は「外交っていうのはあまり意味がないように思われがちだけど、実はとても大事なものなんだよ」っていう話のように思えました。「イラン許すまじ!!」「北朝鮮ぶったおす!!」みたいな話じゃなかったですが、私のように外交についてあまり知識がない人間にとっては、「アメリカってこんなこと考えて外交やってんのかぁ」と勉強になる内容だったと思います。
まぁ、なんで外交が大事かっていうと、
It’s important not just in terms of the threats that we face, but the products that we buy, the goods that we sell, and the opportunity that we provide for economic growth and vitality. It’s not just about whether we’ll be compelled to send our troops to another battle, but whether we’ll be able to send our graduates into a thriving workforce. That’s why I’m here today.
ということなんだそうです。
第二次世界大戦当時、日本やドイツが米国の主要な貿易相手になると考えた人はいなかった。ニクソン大統領が米中国交を樹立したとき、中国が2番目の貿易相手になるとは誰も考えていなかった。クリントン大統領がベトナムとの国交を正常化させたときも同じ。新たに外交関係を築いて米国にとっての市場を拡大していくことが、米国内で住んでいる人たちの雇用や生活にも大きな影響を与えている。EUとの自由貿易協定やTPPなんかにもそういう意味がある。中国も同じことを考えてアフリカに投資している。米国もアフリカとの関係を強化せねばならない。
そして、新興国の経済活動を支援することで、テロ活動を抑制することもできる。
But let me emphasize: Jobs and trade are not the whole story, and nor should they be. The good work of the State Department, of USAID, is measured not only in the value of the dollar, but it’s also measured in our deepest values. We value security and stability in other parts of the world, knowing that failed states are among our greatest security threats, and new partners are our greatest assets.
The investments that we make support our efforts to counter terrorism and violent extremism wherever it flourishes. And we will continue to help countries provide their own security, use diplomacy where possible, and support those allies who take the fight to terrorists.
And remember – boy, I can’t emphasize this enough; I’m looking at a soldier here in front of me with a ribbon on his chest – deploying diplomats today is much cheaper than deploying troops tomorrow. We need to remember that. (Applause.) As Senator Lindsey Graham said, “It’s national security insurance that we’re buying.”
なんていう風に説明したりしています。
あと、今、歳出の一律削減の可能性があるけれど、そんなことになったら大変だと。これについては外交予算は全体の1%しかないんだから、カットしなくてもいいじゃないかって力説していました。
When I talk about a small investment in foreign policy in the United States, I mean it. Not so long ago, someone polled the American people and asked, “How big is our international affairs budget?” Most pegged it at 25 percent of our national budget, and they thought it ought to be pared way back to ten percent of our national budget. Let me tell you, would that that were true. I’d take ten percent in a heartbeat, folks – (laughter) – because ten percent is exactly ten times greater than what we do invest in our efforts to protect America around the world.
In fact, our whole foreign policy budget is just over one percent of our national budget. Think about it a little bit. Over one percent, a little bit more, funds all of our civilian and foreign affairs efforts – every embassy, every program that saves a child from dirty drinking water, or from AIDS, or reaches out to build a village, and bring America’s values, every person. We’re not talking about pennies on the dollar; we’re talking about one penny plus a bit, on a single dollar.
なんか、誰にむけて演説しているんだかって感じですね。
オバマ大統領が2月12日にやった一般教書演説(参照)は、聞いていてびっくりするほど外交問題に触れなかった。で、ケリー国務長官の演説はびっくりするほど経済の話をしている。こんなもんなんでしょうか。とてもイランや北朝鮮に積極的に介入していこうって感じじゃないです。
そういえばこんな発言もありました。
When we join with other nations to reduce the nuclear threat, we build partnerships that mean we don’t have to fight those battles alone. This includes working with our partners around the world in making sure that Iran never obtains a weapon that would endanger our allies and our interests.
イランや北朝鮮が核開発をやっている間は他の国々と一緒に忍耐強く経済制裁を続けて、向こうが核廃棄や民主化に動き出すつもりになったら、外交的な投資として支援するとかいうつもりなんですかね。知らんけど。
2013年2月20日水曜日
太陽政策しかないんじゃないのっていう話
Foreign Affairsに載っていた、ジョージタウン大学のVictor Cha教授の文章も文教授が言うような太陽政策の効果を疑問視しています。(参照)
Cha教授によると、北朝鮮が民主化するかもなんていう期待は1994年に金正日体制ができたときにもあった。金正日は中国を何度か訪問して、中国による市場主義の導入と経済発展を目にしたし、その度にマスコミや学者は「民主化するぞ」なんて喜んだけど、その期待は裏切られ、北朝鮮はミサイル発射や核実験を繰り返してきた。しかも北朝鮮は2010年には韓国の哨戒艦を魚雷で沈め、延坪島を砲撃した。韓国政府や国民は北朝鮮との交渉に飽き飽きしているというわけです。
Cha教授はさらに、オバマ政権は北朝鮮に非核化を求め続け、中国は北朝鮮を本気で支援しなくなっていることを指摘します。また金正恩は軍部を完全には掌握しておらず、国民の間にも経済状況に対する不満があるため、何かしらの実績をもって自分の力を誇示する必要があり、そのため、原理的な主体思想に向かっているともしています。で、こうした状況の行き着く先は、
Toward a dead end for Kim, I think, and perhaps a nightmare loose-nukes scenario for the United States.
だそうです。
つまり、北朝鮮では軍部や国民の間に金正恩体制への不満が高まっているんだけど、度重なる挑発行為の結果、韓国からも米国からも中国からも支援を受けることが難しくなっている。だから金正恩は自らの力を誇示して国内を安定化させようとするんだけれど、それは若くて実績のない指導者には難しいことで、結局は金正恩体制が崩壊して、核技術が流出していく。文章は"if it does, Obama may find his pivot to Asia absorbed by a new crisis on the Korean peninsula."なんていう言葉で締めくくられています。こりゃ困ったことです。北朝鮮が韓国などからの太陽政策を政策を受け入れなかった結果、自らを追い詰めてしまって、朝鮮半島情勢が不安定化するというシナリオです。
で、こういう状態をなんとかできないかということで、Cate InstituteのTed Carpenterは、ワシントンポストで、「あまり北朝鮮を追い詰めるな」と言っています。Cate Instituteは小さな政府を追及するリバタリアンが集まるシンクタンクらしいです。
Carpenterは、経済制裁のような強硬策をとっても北朝鮮の核開発の野望は止められなかったと言います。北朝鮮は中国が本気にならない限り完全に孤立することはないし、中国は米国主導の東アジアとの緩衝地帯である北朝鮮を完全に見捨てることはない。北朝鮮はそのことを知っているので、いつまでも核開発を続けることができるというわけです。だから、米国は核保有国である北朝鮮とつきあっていくしかない。核保有国をほったらかしにするぐらいだったら、交渉によってコントロールの余地を残しておく方がいい。そのためには経済制裁を緩和してもいい。最終的な目標は、北朝鮮が核保有国として責任ある行動をとることに意義を見いださせることであるとのことです。
U.S. leaders should reverse course on economic sanctions, ending most unilateral measures — which bar virtually all economic contact except for U.S. humanitarian aid — and leading, together with Beijing, an effort to roll back multilateral sanctions. The ultimate goal should be to give North Korea a stake in behaving responsibly as a nuclear power.
まぁ、太陽政策が効くのかどうか分からないけど、強硬策は通用しないし、それどころか朝鮮半島の不安定化に結びつく可能性があるんだったら、太陽政策でいった方がマシだよねっていう議論は分からんでもないな。国際社会がこれ以上の経済制裁をとるっていっても、それほど新しい手段があるわけでもないだろうし、中国は北朝鮮を本気で支援するわけでないにしても、完全に見捨てるわけでもないわけだから、金正恩が国内へのアピールのために核開発を続ける可能性は高いんだと思う。だとしたら、変に体制が崩壊したりしないためにも北朝鮮との経済関係を築くのが得策かも。変に体制が崩壊して、北アフリカみたいになっても困るわけじゃないですか。あと、北朝鮮を追い詰めた結果、「金正恩が暴発」なんていう事態になったら目もあてられない。正直、北朝鮮が民主化してもしなくても、人権侵害があってもなくても、日本の平和が維持されるのが一番かなって。
まぁ、北朝鮮の挑発に屈するみたいでシャクだっていう気持ちもありますけど、名を捨てて実を取るって感じでしょうか。どうなんでしょう。
画像はTed Carpenterさん。
Cha教授によると、北朝鮮が民主化するかもなんていう期待は1994年に金正日体制ができたときにもあった。金正日は中国を何度か訪問して、中国による市場主義の導入と経済発展を目にしたし、その度にマスコミや学者は「民主化するぞ」なんて喜んだけど、その期待は裏切られ、北朝鮮はミサイル発射や核実験を繰り返してきた。しかも北朝鮮は2010年には韓国の哨戒艦を魚雷で沈め、延坪島を砲撃した。韓国政府や国民は北朝鮮との交渉に飽き飽きしているというわけです。
Cha教授はさらに、オバマ政権は北朝鮮に非核化を求め続け、中国は北朝鮮を本気で支援しなくなっていることを指摘します。また金正恩は軍部を完全には掌握しておらず、国民の間にも経済状況に対する不満があるため、何かしらの実績をもって自分の力を誇示する必要があり、そのため、原理的な主体思想に向かっているともしています。で、こうした状況の行き着く先は、
Toward a dead end for Kim, I think, and perhaps a nightmare loose-nukes scenario for the United States.
だそうです。
つまり、北朝鮮では軍部や国民の間に金正恩体制への不満が高まっているんだけど、度重なる挑発行為の結果、韓国からも米国からも中国からも支援を受けることが難しくなっている。だから金正恩は自らの力を誇示して国内を安定化させようとするんだけれど、それは若くて実績のない指導者には難しいことで、結局は金正恩体制が崩壊して、核技術が流出していく。文章は"if it does, Obama may find his pivot to Asia absorbed by a new crisis on the Korean peninsula."なんていう言葉で締めくくられています。こりゃ困ったことです。北朝鮮が韓国などからの太陽政策を政策を受け入れなかった結果、自らを追い詰めてしまって、朝鮮半島情勢が不安定化するというシナリオです。
で、こういう状態をなんとかできないかということで、Cate InstituteのTed Carpenterは、ワシントンポストで、「あまり北朝鮮を追い詰めるな」と言っています。Cate Instituteは小さな政府を追及するリバタリアンが集まるシンクタンクらしいです。
Carpenterは、経済制裁のような強硬策をとっても北朝鮮の核開発の野望は止められなかったと言います。北朝鮮は中国が本気にならない限り完全に孤立することはないし、中国は米国主導の東アジアとの緩衝地帯である北朝鮮を完全に見捨てることはない。北朝鮮はそのことを知っているので、いつまでも核開発を続けることができるというわけです。だから、米国は核保有国である北朝鮮とつきあっていくしかない。核保有国をほったらかしにするぐらいだったら、交渉によってコントロールの余地を残しておく方がいい。そのためには経済制裁を緩和してもいい。最終的な目標は、北朝鮮が核保有国として責任ある行動をとることに意義を見いださせることであるとのことです。
U.S. leaders should reverse course on economic sanctions, ending most unilateral measures — which bar virtually all economic contact except for U.S. humanitarian aid — and leading, together with Beijing, an effort to roll back multilateral sanctions. The ultimate goal should be to give North Korea a stake in behaving responsibly as a nuclear power.
まぁ、太陽政策が効くのかどうか分からないけど、強硬策は通用しないし、それどころか朝鮮半島の不安定化に結びつく可能性があるんだったら、太陽政策でいった方がマシだよねっていう議論は分からんでもないな。国際社会がこれ以上の経済制裁をとるっていっても、それほど新しい手段があるわけでもないだろうし、中国は北朝鮮を本気で支援するわけでないにしても、完全に見捨てるわけでもないわけだから、金正恩が国内へのアピールのために核開発を続ける可能性は高いんだと思う。だとしたら、変に体制が崩壊したりしないためにも北朝鮮との経済関係を築くのが得策かも。変に体制が崩壊して、北アフリカみたいになっても困るわけじゃないですか。あと、北朝鮮を追い詰めた結果、「金正恩が暴発」なんていう事態になったら目もあてられない。正直、北朝鮮が民主化してもしなくても、人権侵害があってもなくても、日本の平和が維持されるのが一番かなって。
まぁ、北朝鮮の挑発に屈するみたいでシャクだっていう気持ちもありますけど、名を捨てて実を取るって感じでしょうか。どうなんでしょう。
画像はTed Carpenterさん。
太陽政策は効くのかっていう話
前のエントリーで北朝鮮に対して経済制裁なんかやったってどうせ効かないんだから、もっと経済関係を深める方向でいくべきなんじゃないかという人もいることに触れましたが、もうちょっと調べておいた。
北朝鮮との経済関係を深めるといえば「太陽政策」っていう言葉が思いつく。1998~2008年にかけて韓国の金大中政権や盧武鉉政権でとられたりしたそうで、WSJのブログにその政策アドバイザーだった人のインタビュー記事的なものが載ってました。(参照) 延世大学教授の文正仁(Moon Chung-in)という人です。
金大中、盧武鉉時代の太陽政策に対しては「結局、北朝鮮による核開発を止められなかった」という評価があるのですが、文教授は「ブッシュ政権の誕生のせいで太陽政策の効果は弱まったし、李明博政権は太陽政策の成果を潰してしまった」と反論します。そのうえで、やっぱり北朝鮮と経済的な関係を強めることで、北朝鮮は自然と民主化への道を進むのだと説いています。実際、北朝鮮では以前に比べて「お金」が持つ意味が大きくなっているそうで、計画経済下では意味を持たないはずのお金が重要になっているのは、外国との交流の結果、北朝鮮が変化しつつあることの証拠だというわけです。
金正恩は、経済の疲弊で苦しんでいる国民を満足させないと、体制を維持できない。だから北朝鮮に対して、状況を克服するには外国との関係をもつことが重要だということを北朝鮮に分からせる。そうすれば、北朝鮮が経済協力の申し出を断ることはできないという読みです。
で、文教授は北朝鮮に対して、このように対話を持ちかけるべきだとします。
Our approach should be to say something like this to the North Korean leadership: ‘I don’t care about the North Korean dynasty. It’s your problem. You could be like Deng Xiaoping. We want that kind of leader. But you could wind up like Ceausescu. That’s your problem. For us, we want peace with you. We want economic cooperation. We will work hard to create a peaceful environment in which you can pursue that kind of project without worry and anxiety.’
つまり北朝鮮の国内体制については文句は言わない。北朝鮮が民主化せず、人権侵害を続けていたとしても、北朝鮮との平和的な関係を維持するためには目をつぶって経済関係の強化を持ちかける。「鄧小平になるかチャウシェスクになるかは、そちらにまかせるけど、こちらとは仲良くやりましょう」というわけですね。ほほぅ。
でも、こうした太陽政策に対しては、「そんなに上手くいくかいな」という声もある。American Enterprise InstituteのMichel AuslinはWSJで、"There is no indication that Pyongyang will seriously consider giving up its weapons programs for any amount of aid."と言っています。さらに米国は北朝鮮に対して、「米国や同盟国に大量破壊兵器なんか使いやがったら、ぶっつぶすぞ」と宣言したうえで、北朝鮮との非核化交渉を止め、北朝鮮が国内での人権侵害を止めることを条件に外交交渉を始めるように明言すべきだとしています。
making a clear declaration that any use of weapons of mass destruction by North Korea against America or its allies would be an act of war resulting in a devastating U.S. response to end the Kim regime's existence. Washington should end all further negotiations on denuclearization with Pyongyang, but it should also make public its willingness to engage in regular diplomatic discussions once the regime's human rights abuses stop.
文教授とは正反対ですね。米国にとって民主主義の拡大は非常に重要だということでしょう。
長いんで続きます。画像は文正仁教授。
北朝鮮との経済関係を深めるといえば「太陽政策」っていう言葉が思いつく。1998~2008年にかけて韓国の金大中政権や盧武鉉政権でとられたりしたそうで、WSJのブログにその政策アドバイザーだった人のインタビュー記事的なものが載ってました。(参照) 延世大学教授の文正仁(Moon Chung-in)という人です。
金大中、盧武鉉時代の太陽政策に対しては「結局、北朝鮮による核開発を止められなかった」という評価があるのですが、文教授は「ブッシュ政権の誕生のせいで太陽政策の効果は弱まったし、李明博政権は太陽政策の成果を潰してしまった」と反論します。そのうえで、やっぱり北朝鮮と経済的な関係を強めることで、北朝鮮は自然と民主化への道を進むのだと説いています。実際、北朝鮮では以前に比べて「お金」が持つ意味が大きくなっているそうで、計画経済下では意味を持たないはずのお金が重要になっているのは、外国との交流の結果、北朝鮮が変化しつつあることの証拠だというわけです。
金正恩は、経済の疲弊で苦しんでいる国民を満足させないと、体制を維持できない。だから北朝鮮に対して、状況を克服するには外国との関係をもつことが重要だということを北朝鮮に分からせる。そうすれば、北朝鮮が経済協力の申し出を断ることはできないという読みです。
で、文教授は北朝鮮に対して、このように対話を持ちかけるべきだとします。
Our approach should be to say something like this to the North Korean leadership: ‘I don’t care about the North Korean dynasty. It’s your problem. You could be like Deng Xiaoping. We want that kind of leader. But you could wind up like Ceausescu. That’s your problem. For us, we want peace with you. We want economic cooperation. We will work hard to create a peaceful environment in which you can pursue that kind of project without worry and anxiety.’
つまり北朝鮮の国内体制については文句は言わない。北朝鮮が民主化せず、人権侵害を続けていたとしても、北朝鮮との平和的な関係を維持するためには目をつぶって経済関係の強化を持ちかける。「鄧小平になるかチャウシェスクになるかは、そちらにまかせるけど、こちらとは仲良くやりましょう」というわけですね。ほほぅ。
でも、こうした太陽政策に対しては、「そんなに上手くいくかいな」という声もある。American Enterprise InstituteのMichel AuslinはWSJで、"There is no indication that Pyongyang will seriously consider giving up its weapons programs for any amount of aid."と言っています。さらに米国は北朝鮮に対して、「米国や同盟国に大量破壊兵器なんか使いやがったら、ぶっつぶすぞ」と宣言したうえで、北朝鮮との非核化交渉を止め、北朝鮮が国内での人権侵害を止めることを条件に外交交渉を始めるように明言すべきだとしています。
making a clear declaration that any use of weapons of mass destruction by North Korea against America or its allies would be an act of war resulting in a devastating U.S. response to end the Kim regime's existence. Washington should end all further negotiations on denuclearization with Pyongyang, but it should also make public its willingness to engage in regular diplomatic discussions once the regime's human rights abuses stop.
文教授とは正反対ですね。米国にとって民主主義の拡大は非常に重要だということでしょう。
長いんで続きます。画像は文正仁教授。
2013年2月18日月曜日
米国の対北朝鮮経済制裁
じゃぁ、米国による北朝鮮への経済制裁ってどんなものなのか。対イランの場合、米国が2012年2月にやった経済制裁がイラン経済にダメージを与えているなんていう話もあった(参照)ので、ちょっと調べておいた。
米国の北朝鮮に対する経済制裁っていうのは歴史が長い。国務省のサイトには、
The United States imposed a near total economic embargo on North Korea in 1950 when North Korea attacked the South. Over the following years, some U.S. sanctions were eased, but others were imposed. U.S. economic interaction with North Korea remains minimal.
なんて書いてあって、随分とざっくりとした説明しかしていない。
ただ、財務省のサイトのこのページにあるSanctions BrochuresというPDFファイルをみると、
2008年6月26日のExecutive Order 13466(参照)
2010年8月30日のExecutive Order 13551(参照)
2011年4月18日のExecutive Order 13570(参照)
なんかが大切なんじゃないかという気がするので、このあたりのことについて調べることにする。
まず、最初のE.O.13466(2008)ですけど、国連安保理の1度目の経済制裁決議の約2年後に当時のブッシュ大統領が出したものです。内容は、
・2000年6月16日に凍結され、この大統領令直前まで凍結されていた、北朝鮮および北朝鮮人が保有する全ての資産と利息を凍結する。
・米国の個人や団体は北朝鮮籍の船を保有してはならない。
ぐらいのもんです。資産の凍結は2000年6月16日からやってたみたいですね。
で、次のE.O.13551(2010)ですが、これは国連安保理の2度目の経済制裁決議の約1年後、オバマ大統領が出したものです。2度にわたる核実験や2010年3月の韓国哨戒艦沈没事件、国連安保理による2度の経済制裁決議を踏まえ、先のE.O.13466(2008)を強化するものです。内容は、
・Annexで示された個人や団体、北朝鮮との武器取引に関する助言や金融取引を行っているとみなされる個人や団体、北朝鮮によるマネーロンダリングや通貨偽造、現金密輸、麻薬取引などに関わっているとみなされる個人や団体の資産や利息を凍結
というものです。
さらに次のE.O.13570(2011)は、前回のE.O.13551(2010)の約8カ月後にオバマ大統領が出したもので、
・あらゆる物品、サービス、技術を北朝鮮から米国に輸入することを禁止
するものです。
で、どんな個人や団体が資産凍結などの対象になっているかは、Specially Designated Nationals and Blocked Persons List(SDN List)に出ているそうです。(参照) sanction program別のリストで"DPRK"を検索してみると、46件ほどヒットします。
こうした対北朝鮮経済制裁を対イラン経済制裁と比べてみたいんですが、
対イラン経済制裁の強化を決めたE.O.13599では、資産凍結の対象は、
・the Government of Iran
・any Iranian financial institution, including the Central Bank of Iran
・any person determined by the Secretary of the Treasury, in consultation with the Secretary of State, to be owned or controlled by, or to have acted or purported to act for or on behalf of, directly or indirectly, any person whose property and interests in property are blocked pursuant to this order.
こんな感じ。あらゆる金融機関とかイラン中央銀行とかが明記されているところが対北朝鮮経済制裁と違うような気もしますが、そのあたりはSDNリストでカバーされているみたいな気もするので、あまり差がないような気もする。超自信なさ気な表現になっていますが。2012年2月の対イラン経済制裁が話題になったのは、日本のエネルギー企業や銀行がイランと取引関係があったからで、別に経済制裁の度合いが(対北朝鮮に比べて)すごく強くなったからというわけではないのではないか。
そういえば、ファリード・ザカリアがCNNの「GPS」で、「イランやキューバをみれば経済制裁は効かないことが分かる。またミャンマーは(ASEAN加盟国として)アジア経済とのつながりをもつなかで、民主化への道を踏み出した。だから北朝鮮に対しても経済的なつながりを強める方向をとるべきだ」とかいって、シラキュース大学と北朝鮮の大学との間で続けられているdigital information library開発について触れていました。(CNNの以前の報道) そんなことやってたのか。
なるほど。
米国の北朝鮮に対する経済制裁っていうのは歴史が長い。国務省のサイトには、
The United States imposed a near total economic embargo on North Korea in 1950 when North Korea attacked the South. Over the following years, some U.S. sanctions were eased, but others were imposed. U.S. economic interaction with North Korea remains minimal.
なんて書いてあって、随分とざっくりとした説明しかしていない。
ただ、財務省のサイトのこのページにあるSanctions BrochuresというPDFファイルをみると、
2008年6月26日のExecutive Order 13466(参照)
2010年8月30日のExecutive Order 13551(参照)
2011年4月18日のExecutive Order 13570(参照)
なんかが大切なんじゃないかという気がするので、このあたりのことについて調べることにする。
まず、最初のE.O.13466(2008)ですけど、国連安保理の1度目の経済制裁決議の約2年後に当時のブッシュ大統領が出したものです。内容は、
・2000年6月16日に凍結され、この大統領令直前まで凍結されていた、北朝鮮および北朝鮮人が保有する全ての資産と利息を凍結する。
・米国の個人や団体は北朝鮮籍の船を保有してはならない。
ぐらいのもんです。資産の凍結は2000年6月16日からやってたみたいですね。
で、次のE.O.13551(2010)ですが、これは国連安保理の2度目の経済制裁決議の約1年後、オバマ大統領が出したものです。2度にわたる核実験や2010年3月の韓国哨戒艦沈没事件、国連安保理による2度の経済制裁決議を踏まえ、先のE.O.13466(2008)を強化するものです。内容は、
・Annexで示された個人や団体、北朝鮮との武器取引に関する助言や金融取引を行っているとみなされる個人や団体、北朝鮮によるマネーロンダリングや通貨偽造、現金密輸、麻薬取引などに関わっているとみなされる個人や団体の資産や利息を凍結
というものです。
さらに次のE.O.13570(2011)は、前回のE.O.13551(2010)の約8カ月後にオバマ大統領が出したもので、
・あらゆる物品、サービス、技術を北朝鮮から米国に輸入することを禁止
するものです。
で、どんな個人や団体が資産凍結などの対象になっているかは、Specially Designated Nationals and Blocked Persons List(SDN List)に出ているそうです。(参照) sanction program別のリストで"DPRK"を検索してみると、46件ほどヒットします。
こうした対北朝鮮経済制裁を対イラン経済制裁と比べてみたいんですが、
対イラン経済制裁の強化を決めたE.O.13599では、資産凍結の対象は、
・the Government of Iran
・any Iranian financial institution, including the Central Bank of Iran
・any person determined by the Secretary of the Treasury, in consultation with the Secretary of State, to be owned or controlled by, or to have acted or purported to act for or on behalf of, directly or indirectly, any person whose property and interests in property are blocked pursuant to this order.
こんな感じ。あらゆる金融機関とかイラン中央銀行とかが明記されているところが対北朝鮮経済制裁と違うような気もしますが、そのあたりはSDNリストでカバーされているみたいな気もするので、あまり差がないような気もする。超自信なさ気な表現になっていますが。2012年2月の対イラン経済制裁が話題になったのは、日本のエネルギー企業や銀行がイランと取引関係があったからで、別に経済制裁の度合いが(対北朝鮮に比べて)すごく強くなったからというわけではないのではないか。
そういえば、ファリード・ザカリアがCNNの「GPS」で、「イランやキューバをみれば経済制裁は効かないことが分かる。またミャンマーは(ASEAN加盟国として)アジア経済とのつながりをもつなかで、民主化への道を踏み出した。だから北朝鮮に対しても経済的なつながりを強める方向をとるべきだ」とかいって、シラキュース大学と北朝鮮の大学との間で続けられているdigital information library開発について触れていました。(CNNの以前の報道) そんなことやってたのか。
なるほど。
2013年2月17日日曜日
国連安保理決議による北朝鮮への経済制裁
北朝鮮がロケットを発射してミサイル技術の実験をしたり、核実験をやったりしている。で、国際社会としては経済制裁でプレッシャーをかけたいんだけど、いくらやってもあんまり効果がないらしい。なんだかよく分らないので、北朝鮮に対してどんな経済制裁が行われているのか調べておいた。国連安保理ベースで。
国連安保理は1月22日の安保理決議2087で対北朝鮮経済制裁の強化を決めています。(参照)
このなかに、
4. Reaffirms its current sanctions measures contained in resolutions 1718(2006) and 1874 (2009);
というパラグラフがありまして、現在の経済制裁は2006年の安保理決議1718と、2009年の安保理決議1874が元になっていると分ります。で、この二つの安保理決議がどういう内容だったかを調べてみた。
まず安保理決議1718。(参照) 2006年10月14日の決議です。北朝鮮はこの年の7月5日にミサイル発射実験、10月9日に初めての核実験を行っています。
決議は国連憲章7章(ACTION WITH RESPECT TO THREATS TO THE PEACE, BREACHES OF THE PEACE, AND ACTS OF AGGRESSION)の41条に基づいたものです。
41条は、
"The Security Council may decide what measures not involving the use of armed force are to be employed to give effect to its decisions, and it may call upon the Members of the United Nations to apply such measures. These may include complete or partial interruption of economic relations and of rail, sea, air, postal, telegraphic, radio, and other means of communication, and the severance of diplomatic relations."
という文言で、決議の実効性を高めるために、軍事力行使以外の、経済関係や交通、運輸、通信、放送などの封鎖や外交圧力といった方法をとることができるというものです。
で、安保理決議1718でどんな経済制裁をやるのかは8パラ以降に書かれていまして、
・加盟国は北朝鮮への物品の供給や販売、輸送を行わないよう行動する。禁止される物品は、戦車、戦闘機、ヘリ、艦船、ミサイル、関連部品など。および贅沢品
・北朝鮮は、上記の物品の輸出を止め、加盟国は上記の物品を北朝鮮から調達することを禁止する。
・加盟国は、上記の物品の製造、メンテナンスに関連する技術や訓練などを北朝鮮に供給したり、北朝鮮から調達することを禁止する。
・加盟国は、北朝鮮の核兵器や大量破壊兵器などに関連すると認められる個人や団体などが保有している金融資産などを凍結する。
・加盟国は、北朝鮮の核兵器や大量破壊兵器などに関連すると認められる個人や家族が、自国内に入ることを妨げるための必要な措置をとる。ただし、自国民が自国に入ることは妨げない。
・加盟国が、上記の項目が遵守されるようにするため、必要に応じて北朝鮮に持ち込まれる貨物や、北朝鮮から運び出される貨物に対する検査を行うために協調するよう求める。
・金融資産などの凍結については、食糧や医薬品など基本的な生活に関わるものなどは除外。
・北朝鮮関連の個人や家族の入国禁止については、人道的活動や宗教活動などと認められるものは除外。
・輸出入禁止の対象となる物品や、金融資産凍結の対象となる個人や団体の詳細は、安保理か新たに設立される委員会で決める。
ざっとこんな感じです。結構いろいろやってます。
で、次は2009年6月12日の安保理決議1874。(参照) 北朝鮮が4月5日にミサイル発射、5月25日に核実験を行ったことを受けたものです。これも国連憲章7章41条に基づいています。
内容は、
・北朝鮮による物品輸出や、北朝鮮からの物品輸入の禁止の対象を、あらゆる武器や関連品、送金、技術的な訓練などに拡大。
・北朝鮮への物品供給や販売の禁止の対象を、あらゆる武器や関連品、送金、技術的な訓練などに拡大。ただし小型の武器などは例外。
・加盟国に対して、禁止されている物品が含まれていると疑われるあらゆる荷物を検査するよう求める。
・加盟国に対して、禁止されている物品を運んでいると疑われるあらゆる船を検査するよう求める。
・加盟国が、禁止されている物品を押収し、破壊することを認める。
・加盟国は、禁止されている物品を運んでいると疑われる北朝鮮の船に対して、燃料補給などを行うことを禁じる。ただし、合法的な経済活動に影響を与えることを目的とはしない。
・加盟国に対して、北朝鮮の核開発などに使われる可能性がある金融資産に関連する金融サービスや送金を禁止するよう求める。
・加盟国に対して、北朝鮮への新たな経済支援を行わないように求める。人道的支援は例外。
という感じ。禁輸される物品が拡大されて、検査体制が強化されて、送金なども停止されたといった内容です。
で、次が冒頭で書いた国連決議2087。北朝鮮が2012年12月12日にミサイル発射実験を行ったことを受け、13年1月22日に採択されました。北朝鮮はその後、2月12日に3度目の核実験もやっています。
内容は、
・禁輸品や資産凍結の対象となる個人や組織を追加。
・船に対する検査を拒否された場合の対応策を決めるための委員会を新設する。
・金融取引の禁止措置をのがれて現金(bulk cash)が北朝鮮に持ち込まれていることを残念に思う。
ぐらい。なんかあまり内容がないです。もうやれることは言っちゃったし、やろうといったことは守られていないし、っていう気分なんでしょうか。この決議は国連憲章7章には基づいていないです。なんか無力感。
ちなみに、安保理決議1718で設立が決まった委員会はこちらです。禁輸品とか、資産凍結の対象となっている組織なんかのリストもこのサイトからリンクが張られている。もっと沢山の個人や団体がリストアップされているのかと思っていたのですが、なんかあんまり多くないような気がします。
画像は北朝鮮が2012年12月12日に打ち上げたロケット。
国連安保理は1月22日の安保理決議2087で対北朝鮮経済制裁の強化を決めています。(参照)
このなかに、
4. Reaffirms its current sanctions measures contained in resolutions 1718(2006) and 1874 (2009);
というパラグラフがありまして、現在の経済制裁は2006年の安保理決議1718と、2009年の安保理決議1874が元になっていると分ります。で、この二つの安保理決議がどういう内容だったかを調べてみた。
まず安保理決議1718。(参照) 2006年10月14日の決議です。北朝鮮はこの年の7月5日にミサイル発射実験、10月9日に初めての核実験を行っています。
決議は国連憲章7章(ACTION WITH RESPECT TO THREATS TO THE PEACE, BREACHES OF THE PEACE, AND ACTS OF AGGRESSION)の41条に基づいたものです。
41条は、
"The Security Council may decide what measures not involving the use of armed force are to be employed to give effect to its decisions, and it may call upon the Members of the United Nations to apply such measures. These may include complete or partial interruption of economic relations and of rail, sea, air, postal, telegraphic, radio, and other means of communication, and the severance of diplomatic relations."
という文言で、決議の実効性を高めるために、軍事力行使以外の、経済関係や交通、運輸、通信、放送などの封鎖や外交圧力といった方法をとることができるというものです。
で、安保理決議1718でどんな経済制裁をやるのかは8パラ以降に書かれていまして、
・加盟国は北朝鮮への物品の供給や販売、輸送を行わないよう行動する。禁止される物品は、戦車、戦闘機、ヘリ、艦船、ミサイル、関連部品など。および贅沢品
・北朝鮮は、上記の物品の輸出を止め、加盟国は上記の物品を北朝鮮から調達することを禁止する。
・加盟国は、上記の物品の製造、メンテナンスに関連する技術や訓練などを北朝鮮に供給したり、北朝鮮から調達することを禁止する。
・加盟国は、北朝鮮の核兵器や大量破壊兵器などに関連すると認められる個人や団体などが保有している金融資産などを凍結する。
・加盟国は、北朝鮮の核兵器や大量破壊兵器などに関連すると認められる個人や家族が、自国内に入ることを妨げるための必要な措置をとる。ただし、自国民が自国に入ることは妨げない。
・加盟国が、上記の項目が遵守されるようにするため、必要に応じて北朝鮮に持ち込まれる貨物や、北朝鮮から運び出される貨物に対する検査を行うために協調するよう求める。
・金融資産などの凍結については、食糧や医薬品など基本的な生活に関わるものなどは除外。
・北朝鮮関連の個人や家族の入国禁止については、人道的活動や宗教活動などと認められるものは除外。
・輸出入禁止の対象となる物品や、金融資産凍結の対象となる個人や団体の詳細は、安保理か新たに設立される委員会で決める。
ざっとこんな感じです。結構いろいろやってます。
で、次は2009年6月12日の安保理決議1874。(参照) 北朝鮮が4月5日にミサイル発射、5月25日に核実験を行ったことを受けたものです。これも国連憲章7章41条に基づいています。
内容は、
・北朝鮮による物品輸出や、北朝鮮からの物品輸入の禁止の対象を、あらゆる武器や関連品、送金、技術的な訓練などに拡大。
・北朝鮮への物品供給や販売の禁止の対象を、あらゆる武器や関連品、送金、技術的な訓練などに拡大。ただし小型の武器などは例外。
・加盟国に対して、禁止されている物品が含まれていると疑われるあらゆる荷物を検査するよう求める。
・加盟国に対して、禁止されている物品を運んでいると疑われるあらゆる船を検査するよう求める。
・加盟国が、禁止されている物品を押収し、破壊することを認める。
・加盟国は、禁止されている物品を運んでいると疑われる北朝鮮の船に対して、燃料補給などを行うことを禁じる。ただし、合法的な経済活動に影響を与えることを目的とはしない。
・加盟国に対して、北朝鮮の核開発などに使われる可能性がある金融資産に関連する金融サービスや送金を禁止するよう求める。
・加盟国に対して、北朝鮮への新たな経済支援を行わないように求める。人道的支援は例外。
という感じ。禁輸される物品が拡大されて、検査体制が強化されて、送金なども停止されたといった内容です。
で、次が冒頭で書いた国連決議2087。北朝鮮が2012年12月12日にミサイル発射実験を行ったことを受け、13年1月22日に採択されました。北朝鮮はその後、2月12日に3度目の核実験もやっています。
内容は、
・禁輸品や資産凍結の対象となる個人や組織を追加。
・船に対する検査を拒否された場合の対応策を決めるための委員会を新設する。
・金融取引の禁止措置をのがれて現金(bulk cash)が北朝鮮に持ち込まれていることを残念に思う。
ぐらい。なんかあまり内容がないです。もうやれることは言っちゃったし、やろうといったことは守られていないし、っていう気分なんでしょうか。この決議は国連憲章7章には基づいていないです。なんか無力感。
ちなみに、安保理決議1718で設立が決まった委員会はこちらです。禁輸品とか、資産凍結の対象となっている組織なんかのリストもこのサイトからリンクが張られている。もっと沢山の個人や団体がリストアップされているのかと思っていたのですが、なんかあんまり多くないような気がします。
画像は北朝鮮が2012年12月12日に打ち上げたロケット。
2013年2月14日木曜日
オバマケアの合憲性
最高裁のことを調べていて、「そういえば去年の6月ごろになんか大きな判決があったな」と思い出した。でも何の裁判だったか覚えていない。で、ちょっと検索してみたら、2012年6月28日にPatient Protection and Affordable Care Act(ACA)の合憲性を問う裁判がありました。そうそう、それそれ。オバマケアのやつでした。ということで改めて調べておいた。
これは、National Federation of Independent Business v. Sebeliusという裁判。判決文はこちら。
オバマ政権は2010年、医療保険に入っていないせいで医療費を払えない無保険者をなくそうとして、ACAを成立させます。オバマ政権1期目の最大の成果とされるこの法律ですけど、2つの点で合憲性が問われました。
ひとつめは、個人に医療保険への加入を義務づけ、2014年以降、保険に入っていない個人に対して"shared responsibility payment"の支払いを求めるという点。ACAでは「罰金」として位置づけられています。連邦議会が個人に医療保険加入を強制するような法律を作ることができんのかよ、っていう問題があります。
ふたつめは医療保険制度「メディケイド」の拡大。メディケイドは低所得者や障害者、妊娠している女性、子供などを対象とした医療保険制度で、連邦政府と州政府が資金を出し合って、州が運営する仕組みになっている。ACAは州に対してメディケイドがカバーする対象を、収入が貧困レベルの133%よりも少ない成人にまで引き上げるよう求めています。多くの州はもっと収入の低い層しかメディケイドの対象にしていなかったり、そもそも子供のいない成人は対象にしていなかったりしているので、ACAの規定に従えばメディケイドがカバーする人の数は増える。ACAは対象拡大に必要な資金は連邦政府が出すことにしていますが、もしも州が対象を拡大しない場合は、拡大に必要な資金を出さないばかりか、もともと出していた連邦政府の資金負担も止めてしまうと定めています。
こうしたACAに対して26州と個人、National Federation of Independent Businessが訴訟を起こします。第11区巡回区の控訴裁判所は、個人に対する医療保険加入の義務化について「連邦議会にそのようなことを決める権限はない」として違憲判決を下し、メディケイドの拡大については合憲との判断を下した。では、最高裁はどう判断するのっていうことですよ、問題は。判決の内容によっては、オバマ政権1期目の最大の成果がチャラになってしまうことになりかねません。
で、判決の内容なんですが、まず判決は、ACAが決めた個人に対する医療保険加入の義務化が、合衆国憲法が連邦政府に与えた「商取引を規制する権限」によって認められるという考え方を否定します。商取引を規制する権限というのは、合衆国憲法第1条8節3項で連邦議会の権限として定められている"To regulate Commerce with foreign Nations, and among the several States, and with the Indian tribes"のことです。
判決は過去の最高裁判例に従えば、この商取引を規制する権限は「すでに存在している商取引を制限する権限」のことだとします。ところが、医療保険加入の義務化は、「商取引をしていない」個人に「(医療保険加入という)商取引をする」よう強制することになり、連邦議会の権限を超えている。そんなことを認めてしまえば、連邦議会の権限は際限なく拡大してしまう恐れがあるとしています。
また判決は、医療保険加入の義務化が、合衆国憲法のNecessary and Proper Clause(第1条8節18項)によって容認されるという考え方も否定します。18項は"To make all Laws which shall be necessary and proper for carrying into Execution the foregoing Powers, and all other Powers vested by this Constitution in the Government of the United States, or in any Department or Officer thereof"という文言で、「第8節で示された権限や憲法で付与された権限を実行するために必要かつ適切な法律を作ることができる」という内容です。
判決は、18項について「連邦議会に対して憲法に付随する権限を認める」という内容であって、「憲法に列挙されている以上の独立した権限を認める」ものではないと判断します( Although the Clause gives Congress authority to “legislate on that vast mass of incidental powers which must be involved in the constitution,” it does not license the exercise of any “great substantive and independent power[s]” beyond those specifically enumerated)。医療保険加入の義務化は憲法の精神に照らして必要な措置とはいえないとして、Necessary and Proper Clauseに基づいて合憲だということはできないとします。
一方、判決は、医療保険加入の義務化は「健康保険未加入者に対して税金を課す」ことだと解釈されなければならないとします。合衆国憲法第1条8節1項で連邦議会は徴税権を認められていますから、「医療保険加入を義務づけるんじゃなくて、医療保険未加入者にshared responsibility paymentを払えと言っているだけだよ」という解釈だったら認められるかもしれないね、ということです。
で、判決はshared responsibility paymentを税金とみなせると判断します。このpaymentは「医療保険加入以外に選択肢がないというほど高額に設定されているわけではない」「医療保険への加入を忘れていたような、意図的ではない未加入者に対しても支払いが求められる」「IRSを通じて税金と同じように政府に対して支払われる」などの特徴があり、「医療保険に加入していないことを違法とみなすものではない」という判断で、ACAで「罰金」と位置づけられているものの、実際には罰金という性格からは遠く、むしろ「医療保険未加入者に対する課税」とみることができるということです。
また判決は、メディケイドの拡大について、州がメディケイドの対象を拡大しなければ、連邦政府が全ての資金負担を止めてしまうことについては違憲だと判断します。
合衆国憲法の1条8節1項は徴税権と同時に、連邦議会が合衆国の福祉のためにお金を使うことを認めていて、この権限に基づいてメディケイドのような連邦政府と州による共同の制度を作ることができる。ただ過去の判例では、州が自発的に連邦政府との共同制度に協力するかどうかという点が問題になることはある。今回の判決は、連邦議会が、州が共同制度を受け入れるよう圧力をかける目的で連邦政府の負担を止めてしまうぞと脅すことは、フェデラリズムに反することになる(When Congress threatens to terminate other grants as a means of pressuring the States to accept a Spending Clause program, the legislation runs counter to this Nation’s system of federalism)として、ACAの仕組みを批判。さらに連邦政府の負担を止めてしまうことは州にとって影響が大きく、メディケイドの拡大を受け入れざるをえない状況に追い込まれてしまう。また、ACAが求めるメディケイドの拡大は、これまでは限定的だった対象者を貧困レベルの133%未満の成人全体に拡大する劇的なものであり、それを負担停止をちらつかせて州に強制するのは違憲であるということです。ただし、ACA全体が違憲だというわけではなく、連邦政府の負担停止の部分だけが違憲だということです。
この判決については、ACAの「医療保険加入の義務化」に関する部分が合憲とされ、「メディケイド」も負担停止のところを修正すれば合憲だとみなされたわけですから、全体としては「オバマケアは合憲」と言えるんだとも思います。
ただ、最高裁の判断は「『医療保険加入の義務化』って言っても、強制するっていう意味で義務化するわけじゃなくて、『入らない人にはそれほど高くない税金をかけますよ』っていう意味なわけだし、メディケイドの拡大も州が拒否できる余地を作るんだったら、合憲って考えてもいいよ」というぐらいの内容です。shared responsibility paymentがどのぐらいの額かは知らないですけど、ACAは成立したものの、実際には医療保険に加入する人は増えないし、メディケイドの拡大に取り組む州も増えないっていう結末になるような気もする。違うんだろうか。
銃規制の話もそうですが、個人のことは個人で決めるという原則が尊重されている米国では、大統領が社会の仕組みやあり方について口出しする余地は小さいんじゃないだろうか。外交とか安全保障とかでは大きな権限があるんだろうけど。まぁ、よく分りませんが。
画像は「オバマケア」で画像検索して出てきたやつ。
これは、National Federation of Independent Business v. Sebeliusという裁判。判決文はこちら。
オバマ政権は2010年、医療保険に入っていないせいで医療費を払えない無保険者をなくそうとして、ACAを成立させます。オバマ政権1期目の最大の成果とされるこの法律ですけど、2つの点で合憲性が問われました。
ひとつめは、個人に医療保険への加入を義務づけ、2014年以降、保険に入っていない個人に対して"shared responsibility payment"の支払いを求めるという点。ACAでは「罰金」として位置づけられています。連邦議会が個人に医療保険加入を強制するような法律を作ることができんのかよ、っていう問題があります。
ふたつめは医療保険制度「メディケイド」の拡大。メディケイドは低所得者や障害者、妊娠している女性、子供などを対象とした医療保険制度で、連邦政府と州政府が資金を出し合って、州が運営する仕組みになっている。ACAは州に対してメディケイドがカバーする対象を、収入が貧困レベルの133%よりも少ない成人にまで引き上げるよう求めています。多くの州はもっと収入の低い層しかメディケイドの対象にしていなかったり、そもそも子供のいない成人は対象にしていなかったりしているので、ACAの規定に従えばメディケイドがカバーする人の数は増える。ACAは対象拡大に必要な資金は連邦政府が出すことにしていますが、もしも州が対象を拡大しない場合は、拡大に必要な資金を出さないばかりか、もともと出していた連邦政府の資金負担も止めてしまうと定めています。
こうしたACAに対して26州と個人、National Federation of Independent Businessが訴訟を起こします。第11区巡回区の控訴裁判所は、個人に対する医療保険加入の義務化について「連邦議会にそのようなことを決める権限はない」として違憲判決を下し、メディケイドの拡大については合憲との判断を下した。では、最高裁はどう判断するのっていうことですよ、問題は。判決の内容によっては、オバマ政権1期目の最大の成果がチャラになってしまうことになりかねません。
で、判決の内容なんですが、まず判決は、ACAが決めた個人に対する医療保険加入の義務化が、合衆国憲法が連邦政府に与えた「商取引を規制する権限」によって認められるという考え方を否定します。商取引を規制する権限というのは、合衆国憲法第1条8節3項で連邦議会の権限として定められている"To regulate Commerce with foreign Nations, and among the several States, and with the Indian tribes"のことです。
判決は過去の最高裁判例に従えば、この商取引を規制する権限は「すでに存在している商取引を制限する権限」のことだとします。ところが、医療保険加入の義務化は、「商取引をしていない」個人に「(医療保険加入という)商取引をする」よう強制することになり、連邦議会の権限を超えている。そんなことを認めてしまえば、連邦議会の権限は際限なく拡大してしまう恐れがあるとしています。
また判決は、医療保険加入の義務化が、合衆国憲法のNecessary and Proper Clause(第1条8節18項)によって容認されるという考え方も否定します。18項は"To make all Laws which shall be necessary and proper for carrying into Execution the foregoing Powers, and all other Powers vested by this Constitution in the Government of the United States, or in any Department or Officer thereof"という文言で、「第8節で示された権限や憲法で付与された権限を実行するために必要かつ適切な法律を作ることができる」という内容です。
判決は、18項について「連邦議会に対して憲法に付随する権限を認める」という内容であって、「憲法に列挙されている以上の独立した権限を認める」ものではないと判断します( Although the Clause gives Congress authority to “legislate on that vast mass of incidental powers which must be involved in the constitution,” it does not license the exercise of any “great substantive and independent power[s]” beyond those specifically enumerated)。医療保険加入の義務化は憲法の精神に照らして必要な措置とはいえないとして、Necessary and Proper Clauseに基づいて合憲だということはできないとします。
一方、判決は、医療保険加入の義務化は「健康保険未加入者に対して税金を課す」ことだと解釈されなければならないとします。合衆国憲法第1条8節1項で連邦議会は徴税権を認められていますから、「医療保険加入を義務づけるんじゃなくて、医療保険未加入者にshared responsibility paymentを払えと言っているだけだよ」という解釈だったら認められるかもしれないね、ということです。
で、判決はshared responsibility paymentを税金とみなせると判断します。このpaymentは「医療保険加入以外に選択肢がないというほど高額に設定されているわけではない」「医療保険への加入を忘れていたような、意図的ではない未加入者に対しても支払いが求められる」「IRSを通じて税金と同じように政府に対して支払われる」などの特徴があり、「医療保険に加入していないことを違法とみなすものではない」という判断で、ACAで「罰金」と位置づけられているものの、実際には罰金という性格からは遠く、むしろ「医療保険未加入者に対する課税」とみることができるということです。
また判決は、メディケイドの拡大について、州がメディケイドの対象を拡大しなければ、連邦政府が全ての資金負担を止めてしまうことについては違憲だと判断します。
合衆国憲法の1条8節1項は徴税権と同時に、連邦議会が合衆国の福祉のためにお金を使うことを認めていて、この権限に基づいてメディケイドのような連邦政府と州による共同の制度を作ることができる。ただ過去の判例では、州が自発的に連邦政府との共同制度に協力するかどうかという点が問題になることはある。今回の判決は、連邦議会が、州が共同制度を受け入れるよう圧力をかける目的で連邦政府の負担を止めてしまうぞと脅すことは、フェデラリズムに反することになる(When Congress threatens to terminate other grants as a means of pressuring the States to accept a Spending Clause program, the legislation runs counter to this Nation’s system of federalism)として、ACAの仕組みを批判。さらに連邦政府の負担を止めてしまうことは州にとって影響が大きく、メディケイドの拡大を受け入れざるをえない状況に追い込まれてしまう。また、ACAが求めるメディケイドの拡大は、これまでは限定的だった対象者を貧困レベルの133%未満の成人全体に拡大する劇的なものであり、それを負担停止をちらつかせて州に強制するのは違憲であるということです。ただし、ACA全体が違憲だというわけではなく、連邦政府の負担停止の部分だけが違憲だということです。
この判決については、ACAの「医療保険加入の義務化」に関する部分が合憲とされ、「メディケイド」も負担停止のところを修正すれば合憲だとみなされたわけですから、全体としては「オバマケアは合憲」と言えるんだとも思います。
ただ、最高裁の判断は「『医療保険加入の義務化』って言っても、強制するっていう意味で義務化するわけじゃなくて、『入らない人にはそれほど高くない税金をかけますよ』っていう意味なわけだし、メディケイドの拡大も州が拒否できる余地を作るんだったら、合憲って考えてもいいよ」というぐらいの内容です。shared responsibility paymentがどのぐらいの額かは知らないですけど、ACAは成立したものの、実際には医療保険に加入する人は増えないし、メディケイドの拡大に取り組む州も増えないっていう結末になるような気もする。違うんだろうか。
銃規制の話もそうですが、個人のことは個人で決めるという原則が尊重されている米国では、大統領が社会の仕組みやあり方について口出しする余地は小さいんじゃないだろうか。外交とか安全保障とかでは大きな権限があるんだろうけど。まぁ、よく分りませんが。
画像は「オバマケア」で画像検索して出てきたやつ。
2013年2月13日水曜日
2010年のMcDonald v. Chicago
で、今度こそMcDonald v. Chicagoの内容になります。判決は2010年6月28日に下されました。(判決文)
判決ではまず、銃を持つ権利を訴える人たちの主張について、
・修正第14条に従えば、修正第2条に定められた銃を持つ権利を州が否定することはできない。Slaughter-House Casesに基づいた「合衆国民の権利」と「州民の権利」を分ける考え方は否定されるべきだ。
・それに修正第14条のデュープロセス条項は、修正第2条に定められた銃を持つ権利も対象としている。
と要約しています。
デュープロセス条項というのは修正第14条の「州は合衆国民の権利を侵害するような法律をつくってはだめだよ」という文言の後にセミコロンで区切って続けられている部分のこと。" nor shall any State deprive any person of life, liberty, or property, without due process of law"となっていて、「州はデュープロセス(適正な法手続き)なしに、個人の生命や平和や財産を奪ってはならない」という内容です。だから、シカゴ市は銃を持つ権利を奪ってはならないということですね。
「シカゴの場合はきちんと法律を作っているんだから、適正な法の手続きを踏んでいるんじゃないの?」っていう気もするのですが、このデュープロセス条項には「実体的デュープロセス」という考え方があって、その考え方によると、「デュープロセス条項が保証する権利の内容は手続き的なものだけではなく、立法によっても奪うことができない実体的なものだ」ということになるんだそうです。阿川尚之の「憲法で読むアメリカ史(下)」の106ページにそんなことが書いてあります。
一方、判決は、シカゴ市側の主張については、
・権利章典(修正第1~10条)で定められた権利は、それが文明的な法制度に不可欠である場合にのみ、州にも適用される。もしも銃を持つ権利を認めない文明国家を想像することが可能ならば、銃を持つ権利は修正第14条のデュープロセス条項によって保護されるものではないということだ。そして、銃の保有を厳しく制限している国家が実際に存在しているのだから、デュープロセス条項は銃を持つ権利を保護するものではない。
とまとめています。
次に判決は、この問題をめぐる過去の最高裁判決について概観します。そのなかで過去の判決を引用するかたちで、
・判断基準となるのは、権利章典で保護される内容が、米国の法秩序や司法制度の基盤に関わるようなものであるかどうかということだ(the governing standard is whether a particular Bill of Rights protection is fundamental to our Nation’s particular scheme of ordered liberty and system of justice.)
と判断。
さらに、銃を持つ権利がfundamentalなものかどうかについて検討する必要があるとし、これについては、2008年のDistrict of Columbia v. Hellerでの判断や、解放奴隷が白人の襲撃を受けるなどしてきた過去の歴史を踏まえて、
・銃による自衛は基本的な権利である
として、
・銃を持つ権利は実体的に保証されているとみなすべきであり、州が公正な手続きで法律を作れば無視できる禁止事項だと考えるべきではない(The right to keep and bear arms must be regarded as a substantive guarantee, not a prohibition that could be ignored so long as the States legislated in an evenhanded manner)
として、実体的デュープロセスの考え方を支持します。
で、結論は、
Held: The judgment is reversed, and the case is remanded.
ということ。控訴裁判所の判決は棄却されて、差し戻しです。
ちなみに判決はSlaughter-House Casesでの判断については、見直す必要がないとしています。そこは見直さないんだけれど、そもそもデュープロセス条項があるから、州が適正な法の手続きなしに銃を持つ権利を奪うことはできないよね、っていう判断なんだと思います。
採決は5対4。判決を支持したのはロバーツ長官、スカリア、ケネディ、トーマス、アリート。DCの裁判のときと同じメンバーです。反対はスティーブンス(10年6月退任)、ギンズバーグ、ブライヤー、ソトマイヤー。
要は「銃を持つ権利はfundamentalなものだから州においても保証される」と言っているということでいいんでしょうか。単純な話じゃないか。
でも、Slaughter-House Casesの判断を元にした控訴裁判所の判断は、銃を持つ権利はfundamentalなものだから、州民として認められる権利であり、それは州による侵害から修正第14条によって守られるものではないという結論だったわけです。これが実体的デュープロセスの考え方をとった最高裁では、「銃を持つ権利はfundamentalなものである」という同じ事実から逆の結論が導かれてしまったわけです。これは単純な話じゃない。
まぁ5対4の判決ですから、どっちに転んだっておかしくない話ではあります。オバマ政権が続くあと4年のうちに、判決を支持した5人の判事のいずれかが引退して、代わりにリベラル系の判事が任命されたりしたら、別の判決が出る可能性だってある。5人のうち高齢なのはスカリアとケネディで、いずれも76歳。この2人のうちどちらかが引退を表明したとき、銃規制の流れが本格的に動き出すのかもしれません。
画像は裁判の原告、Otis McDonaldさん。渋い。モーガン・フリーマンか藤村俊二かっていうぐらい渋い。
判決ではまず、銃を持つ権利を訴える人たちの主張について、
・修正第14条に従えば、修正第2条に定められた銃を持つ権利を州が否定することはできない。Slaughter-House Casesに基づいた「合衆国民の権利」と「州民の権利」を分ける考え方は否定されるべきだ。
・それに修正第14条のデュープロセス条項は、修正第2条に定められた銃を持つ権利も対象としている。
と要約しています。
デュープロセス条項というのは修正第14条の「州は合衆国民の権利を侵害するような法律をつくってはだめだよ」という文言の後にセミコロンで区切って続けられている部分のこと。" nor shall any State deprive any person of life, liberty, or property, without due process of law"となっていて、「州はデュープロセス(適正な法手続き)なしに、個人の生命や平和や財産を奪ってはならない」という内容です。だから、シカゴ市は銃を持つ権利を奪ってはならないということですね。
「シカゴの場合はきちんと法律を作っているんだから、適正な法の手続きを踏んでいるんじゃないの?」っていう気もするのですが、このデュープロセス条項には「実体的デュープロセス」という考え方があって、その考え方によると、「デュープロセス条項が保証する権利の内容は手続き的なものだけではなく、立法によっても奪うことができない実体的なものだ」ということになるんだそうです。阿川尚之の「憲法で読むアメリカ史(下)」の106ページにそんなことが書いてあります。
一方、判決は、シカゴ市側の主張については、
・権利章典(修正第1~10条)で定められた権利は、それが文明的な法制度に不可欠である場合にのみ、州にも適用される。もしも銃を持つ権利を認めない文明国家を想像することが可能ならば、銃を持つ権利は修正第14条のデュープロセス条項によって保護されるものではないということだ。そして、銃の保有を厳しく制限している国家が実際に存在しているのだから、デュープロセス条項は銃を持つ権利を保護するものではない。
とまとめています。
次に判決は、この問題をめぐる過去の最高裁判決について概観します。そのなかで過去の判決を引用するかたちで、
・判断基準となるのは、権利章典で保護される内容が、米国の法秩序や司法制度の基盤に関わるようなものであるかどうかということだ(the governing standard is whether a particular Bill of Rights protection is fundamental to our Nation’s particular scheme of ordered liberty and system of justice.)
と判断。
さらに、銃を持つ権利がfundamentalなものかどうかについて検討する必要があるとし、これについては、2008年のDistrict of Columbia v. Hellerでの判断や、解放奴隷が白人の襲撃を受けるなどしてきた過去の歴史を踏まえて、
・銃による自衛は基本的な権利である
として、
・銃を持つ権利は実体的に保証されているとみなすべきであり、州が公正な手続きで法律を作れば無視できる禁止事項だと考えるべきではない(The right to keep and bear arms must be regarded as a substantive guarantee, not a prohibition that could be ignored so long as the States legislated in an evenhanded manner)
として、実体的デュープロセスの考え方を支持します。
で、結論は、
Held: The judgment is reversed, and the case is remanded.
ということ。控訴裁判所の判決は棄却されて、差し戻しです。
ちなみに判決はSlaughter-House Casesでの判断については、見直す必要がないとしています。そこは見直さないんだけれど、そもそもデュープロセス条項があるから、州が適正な法の手続きなしに銃を持つ権利を奪うことはできないよね、っていう判断なんだと思います。
採決は5対4。判決を支持したのはロバーツ長官、スカリア、ケネディ、トーマス、アリート。DCの裁判のときと同じメンバーです。反対はスティーブンス(10年6月退任)、ギンズバーグ、ブライヤー、ソトマイヤー。
要は「銃を持つ権利はfundamentalなものだから州においても保証される」と言っているということでいいんでしょうか。単純な話じゃないか。
でも、Slaughter-House Casesの判断を元にした控訴裁判所の判断は、銃を持つ権利はfundamentalなものだから、州民として認められる権利であり、それは州による侵害から修正第14条によって守られるものではないという結論だったわけです。これが実体的デュープロセスの考え方をとった最高裁では、「銃を持つ権利はfundamentalなものである」という同じ事実から逆の結論が導かれてしまったわけです。これは単純な話じゃない。
まぁ5対4の判決ですから、どっちに転んだっておかしくない話ではあります。オバマ政権が続くあと4年のうちに、判決を支持した5人の判事のいずれかが引退して、代わりにリベラル系の判事が任命されたりしたら、別の判決が出る可能性だってある。5人のうち高齢なのはスカリアとケネディで、いずれも76歳。この2人のうちどちらかが引退を表明したとき、銃規制の流れが本格的に動き出すのかもしれません。
画像は裁判の原告、Otis McDonaldさん。渋い。モーガン・フリーマンか藤村俊二かっていうぐらい渋い。
2013年2月12日火曜日
修正第14条とSlaughter-House Cases
前回の続きです。もうひとつの「決着がついた感」を作った判決というのが、2010年のMcDonald v. Chicagoの最高裁判決です。
シカゴ市ではワシントンDCと同様に「拳銃を保有するには、登録せねばなりません」ルールと「拳銃を登録してはなりません」ルールを組み合わせて拳銃の保有を禁じてきました。そして2009年、第7巡回区の控訴裁判所はこのルールについて、シカゴ市の銃規制は「合憲」との判断を下します。合衆国憲法の修正第2条は「武器を保有する権利」を認めているのですが、その権利は州が制限することができるという考え方です。
この判決はワシントンDCでの銃規制が違憲とされた後のものですが、州と特別区は違うという考えだったようです。(参照)
この判断の背景にあるのが、合衆国憲法修正第14条と1873年のSlaughter-House Casesにおける最高裁判決です。
合衆国憲法修正第14条というのは、
All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the State wherein they reside. No State shall make or enforce any law which shall abridge the privileges or immunities of citizens of the United States; nor shall any State deprive any person of life, liberty, or property, without due process of law; nor deny to any person within its jurisdiction the equal protection of the laws.
という文言。2文目のところで「州は合衆国民の権利や免責を侵害してはならない」としています。これだけだと州は「銃を持つ権利を侵害できない」ということになって、シカゴ市の銃規制は違法だということになりそうです。
ところが、この条文の解釈について、Slaughter-House Casesにおける最高裁判決がありまして、この判決では「州が侵害してはならないのは合衆国民としての権利であって、州民としての権利ではない」とされています。(判決文)
何を言うとんねんという感じですが、
このSlaughter-House Casesの判決はまず、修正第14条の1文目には、「合衆国で生まれたり、帰化したり、管轄地域に属したりしている全ての人は合衆国民であり、住んでいる州の州民である」と書かれているので、合衆国民としての権利と州民としての権利を区別しているのは明確とします。
It is quite clear, then, that there is a citizenship of the United States, and a citizenship of a State, which are distinct from each other, and which depend upon different characteristics or circumstances in the individual.
さらに2文目で「the privileges or immunities of citizens of the United States」という言葉を使っていることを指摘して、州が侵害してはならないと規定されているのは「合衆国民としての権利である」とします。逆に言うと、州民としての権利は州によって制限されることもありえるということです。
Of the privileges and immunities of the citizen of the United States, and of the privileges and immunities of the citizen of the State, and what they respectively are, we will presently consider; but we wish to state here that it is only the former which are placed by this clause under the protection of the Federal Constitution, and that the latter, whatever they may be, are not intended to have any additional protection by this paragraph of the amendment.
そして制限されうる州民としての権利について、fundamentalなものとします。この際、以下のような別の判決での判断を引用したりしています。
what are the privileges and immunities of citizens of the several States? We feel no hesitation in confining these expressions to those privileges and immunities which are fundamental; which belong of right to the citizens of all free governments, and which have at all times been enjoyed by citizens of the several States which compose this Union, from the time of their becoming free, independent, and sovereign.
でまぁ、Slaughter-House Casesでは、職業選択の自由というのはfundamentalな州民としての権利であるから州によって制限されることもあると続くわけですが、McDonald v. Chicagoの控訴裁判所での判決では、職業選択の自由が銃を持つ権利に置き換わる。つまり、銃を持つ権利は修正第14条によって保護されるものではなく、シカゴ市が銃の保有を禁止することは合憲だという判断になります。
当然、主張を退けられた側は最高裁に持ち込みます。で、ようやく2010年のMcDonald v. Chicagoの判決につながります。
長くなったので続きます。画像は修正第14条。
シカゴ市ではワシントンDCと同様に「拳銃を保有するには、登録せねばなりません」ルールと「拳銃を登録してはなりません」ルールを組み合わせて拳銃の保有を禁じてきました。そして2009年、第7巡回区の控訴裁判所はこのルールについて、シカゴ市の銃規制は「合憲」との判断を下します。合衆国憲法の修正第2条は「武器を保有する権利」を認めているのですが、その権利は州が制限することができるという考え方です。
この判決はワシントンDCでの銃規制が違憲とされた後のものですが、州と特別区は違うという考えだったようです。(参照)
この判断の背景にあるのが、合衆国憲法修正第14条と1873年のSlaughter-House Casesにおける最高裁判決です。
合衆国憲法修正第14条というのは、
All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the State wherein they reside. No State shall make or enforce any law which shall abridge the privileges or immunities of citizens of the United States; nor shall any State deprive any person of life, liberty, or property, without due process of law; nor deny to any person within its jurisdiction the equal protection of the laws.
という文言。2文目のところで「州は合衆国民の権利や免責を侵害してはならない」としています。これだけだと州は「銃を持つ権利を侵害できない」ということになって、シカゴ市の銃規制は違法だということになりそうです。
ところが、この条文の解釈について、Slaughter-House Casesにおける最高裁判決がありまして、この判決では「州が侵害してはならないのは合衆国民としての権利であって、州民としての権利ではない」とされています。(判決文)
何を言うとんねんという感じですが、
このSlaughter-House Casesの判決はまず、修正第14条の1文目には、「合衆国で生まれたり、帰化したり、管轄地域に属したりしている全ての人は合衆国民であり、住んでいる州の州民である」と書かれているので、合衆国民としての権利と州民としての権利を区別しているのは明確とします。
It is quite clear, then, that there is a citizenship of the United States, and a citizenship of a State, which are distinct from each other, and which depend upon different characteristics or circumstances in the individual.
さらに2文目で「the privileges or immunities of citizens of the United States」という言葉を使っていることを指摘して、州が侵害してはならないと規定されているのは「合衆国民としての権利である」とします。逆に言うと、州民としての権利は州によって制限されることもありえるということです。
Of the privileges and immunities of the citizen of the United States, and of the privileges and immunities of the citizen of the State, and what they respectively are, we will presently consider; but we wish to state here that it is only the former which are placed by this clause under the protection of the Federal Constitution, and that the latter, whatever they may be, are not intended to have any additional protection by this paragraph of the amendment.
そして制限されうる州民としての権利について、fundamentalなものとします。この際、以下のような別の判決での判断を引用したりしています。
what are the privileges and immunities of citizens of the several States? We feel no hesitation in confining these expressions to those privileges and immunities which are fundamental; which belong of right to the citizens of all free governments, and which have at all times been enjoyed by citizens of the several States which compose this Union, from the time of their becoming free, independent, and sovereign.
でまぁ、Slaughter-House Casesでは、職業選択の自由というのはfundamentalな州民としての権利であるから州によって制限されることもあると続くわけですが、McDonald v. Chicagoの控訴裁判所での判決では、職業選択の自由が銃を持つ権利に置き換わる。つまり、銃を持つ権利は修正第14条によって保護されるものではなく、シカゴ市が銃の保有を禁止することは合憲だという判断になります。
当然、主張を退けられた側は最高裁に持ち込みます。で、ようやく2010年のMcDonald v. Chicagoの判決につながります。
長くなったので続きます。画像は修正第14条。
2013年2月7日木曜日
銃の規制を強化できないっていう話
昨年12月のニュータウンでの事件以降、アメリカで銃規制強化についての議論が続いています。せっかくなので、遅ればせながら、いろいろと調べておいた。
今年の1月16日、オバマ大統領が銃規制強化策を提案しています。(参照)
内容は、
・認可店での銃取引にはバックグラウンドチェックが義務づけられているが、銃取引全体の40%はバックグラウンドチェックが不必要なprivateな取引だという調査もある。犯罪に使われた銃のうち認可店で買われたものは12%でしかないともいう。だから全ての取引でバックグラウンドチェックが行われるようにする法律を成立させるべきだ。ただし、家族間とか一時的な貸与は例外とする。
・バックグラウンドチェックに使うことができる精神病歴のデータは増えてはきているが、GAOの最近の調査ではデータの活用が十分にできない州も多い(参照)ので、システムを強化する。
・オーロラの事件でもニュータウンの事件でも、1994年から2004年まで施行されたPublic Safety and Recreational Firearms Use Protection Act(Federal Assault Weapons Ban (AWB))の規制対象だったセミオートマチックライフルが使われた。なのでこの規制を強化したうえで再導入するような法律を成立させるべきだ。
・AWBの規制対象だった10超の弾薬を入れられる弾倉を再び禁止できるような法律を成立させるべきだ。
・軍や警察での使用目的以外でのarmor-piercing ammunitionの製造と輸入は禁じられているけど、保有や取引は禁じられていない。議会はこれを禁じる法律を成立させるべきだ。
・犯罪者の手に銃がわたらないようするため、警察活動への制限を緩和するなどする法律を成立させるべきだ。
・Centers for Disease Controlなどの組織は研究費用を銃規制強化のための調査に使うことが議会によって禁じられている。でも大統領としてCDCなどに対して銃犯罪の原因と抑止に関する調査を行うよう指示する。
・学校の安全性強化のための取り組みを議会に要請する。
・精神病治療の強化を提案する。
ってことになっています。
なんか「これだけ?」って感じですね。どう考えたって、こんな規制で悲惨な事件が防げるわけがない。「銃の取引は全面禁止!」とかにすればいいのに。
ただ、まぁ、武器保有の権利を認めた有名な合衆国憲法修正第2条ってのがあって、そうはできないっていうことなんだと思います。修正第2条っていうのは、"A well regulated militia being necessary to the security of a free state, the right of the people to keep and bear arms shall not be infringed."という文言ですね。統制のとれた民兵が州の安全を保つために必要であることと、武器を持つ権利は侵害されてはならないということが示されています。
しかも修正第2条と銃規制の関係については、2008年と2010年の最高裁判決で決着がついた感がある。
2008年のDistrict of Columbia v. Hellerの判決では、ワシントンDCの法律、Firearms Control Regulations Act of 1975の一部が修正第2条に違反していると認定された。(判決文)
このDCの法律は、登録されていない拳銃(hand gun)を持つこと(1975年以前に登録されたものなどを除く)と拳銃を登録することの両方を禁止することで、拳銃の保持を禁止しています。あと、銃は弾を抜いて、分解して、引き金にカギ(trigger lock)をかけて保管することも義務づけている。
で、最高裁はこの法律について、
・修正第2条の前半部分(A well regulated militia being necessary to the security of a free state)は、条項の目的を示したものではあるけれど、後半部分(the right of the people to keep and bear arms shall not be infringed)の対象を限定したり、拡大したりするものではない。つまり「民兵が必要だから、民兵が武器を持つ権利は侵害されてはならない」というのではなく、「州の安全のために民兵は必要だし、人々が武器を持つ権利は侵害されてはならない」と解釈されるべきだということだと思います。多分。
・「民兵」というのは共同防衛に従事できる健康な全ての男性のこと。アンチフェデラリストたちは、連邦政府が民兵を武装解除して、正規軍や一部の民兵だけが統治を行えるようになることを恐れていた。つまり武器を持つ権利を制限する議会の権限を否定したということで、民兵という理想が維持された。
・こうした最高裁の解釈は各州の憲法とも合致している。
・修正第2条が起草される過程でも、個人が武器を持つ権利は明確に規定されてきた。
・過去の学者や裁判所や議員の判断も、こうした最高裁の解釈と合致している。
・こうした最高裁の解釈は過去の最高裁の解釈とも合致している。
・ただし修正第2条に制限がないわけではない。犯罪歴がある者や精神病患者による武器保有の禁止、学校や政府庁舎への武器の持ち込みの禁止、武器売買の際の規制などは認められる。
・ワシントンDCの法律が拳銃の保有を禁じていることは違憲である。銃から弾を抜いて、分解して、引き金にカギをかけたうえで保有するよう求めていることも、個人が自衛のために銃を使うことをできなくすることから、違憲である。
とのことです。
つまりワシントンDCでは1975年から、事実上、拳銃の保有が禁止されていた。オバマ大統領が提案しているような「セミオートマッチックライフルを規制しましょうよ」とか「弾倉の容量を制限しましょうよ」なんていうのではなく、「拳銃持っちゃだめ」っていう厳しい内容でした。日本人の感覚からすれば、「オバマ大統領も米国全体がこういうルールになるような提案をすればいいのに」なんて思ってしまうわけですが、この2008年の最高裁判決があるため、そんな提案をしたところで修正第2条違反になってしまうことは明白なわけです。
ちなみにこのときの判断は5対4。惜しい。判断を支持したのは、ロバーツ長官、スカリア、ケネディ、トーマス、アリート。反対したのはスティーブンス(10年6月退任)、スーター(09年6月退任)、ギンズバーグ、ブライヤー。中間派のケネディが支持に回ったのがポイントなんでしょう。
ただ、このときの判決では、「州や特別区がどんな法律作ったっていいじゃんかよ。連邦政府の憲法が口を出す筋合いじゃねーよ」っている論点が積み残しになりました。この主張が認められれば、修正2条違反であったとしても、州や特別区による厳格な銃規制が認められる可能性もあるわけですが、その可能性も2010年の判決で閉ざされてしまうことになります。
長くなったので続きます。
画像は引き金にかけるカギ。
今年の1月16日、オバマ大統領が銃規制強化策を提案しています。(参照)
内容は、
・認可店での銃取引にはバックグラウンドチェックが義務づけられているが、銃取引全体の40%はバックグラウンドチェックが不必要なprivateな取引だという調査もある。犯罪に使われた銃のうち認可店で買われたものは12%でしかないともいう。だから全ての取引でバックグラウンドチェックが行われるようにする法律を成立させるべきだ。ただし、家族間とか一時的な貸与は例外とする。
・バックグラウンドチェックに使うことができる精神病歴のデータは増えてはきているが、GAOの最近の調査ではデータの活用が十分にできない州も多い(参照)ので、システムを強化する。
・オーロラの事件でもニュータウンの事件でも、1994年から2004年まで施行されたPublic Safety and Recreational Firearms Use Protection Act(Federal Assault Weapons Ban (AWB))の規制対象だったセミオートマチックライフルが使われた。なのでこの規制を強化したうえで再導入するような法律を成立させるべきだ。
・AWBの規制対象だった10超の弾薬を入れられる弾倉を再び禁止できるような法律を成立させるべきだ。
・軍や警察での使用目的以外でのarmor-piercing ammunitionの製造と輸入は禁じられているけど、保有や取引は禁じられていない。議会はこれを禁じる法律を成立させるべきだ。
・犯罪者の手に銃がわたらないようするため、警察活動への制限を緩和するなどする法律を成立させるべきだ。
・Centers for Disease Controlなどの組織は研究費用を銃規制強化のための調査に使うことが議会によって禁じられている。でも大統領としてCDCなどに対して銃犯罪の原因と抑止に関する調査を行うよう指示する。
・学校の安全性強化のための取り組みを議会に要請する。
・精神病治療の強化を提案する。
ってことになっています。
なんか「これだけ?」って感じですね。どう考えたって、こんな規制で悲惨な事件が防げるわけがない。「銃の取引は全面禁止!」とかにすればいいのに。
ただ、まぁ、武器保有の権利を認めた有名な合衆国憲法修正第2条ってのがあって、そうはできないっていうことなんだと思います。修正第2条っていうのは、"A well regulated militia being necessary to the security of a free state, the right of the people to keep and bear arms shall not be infringed."という文言ですね。統制のとれた民兵が州の安全を保つために必要であることと、武器を持つ権利は侵害されてはならないということが示されています。
しかも修正第2条と銃規制の関係については、2008年と2010年の最高裁判決で決着がついた感がある。
2008年のDistrict of Columbia v. Hellerの判決では、ワシントンDCの法律、Firearms Control Regulations Act of 1975の一部が修正第2条に違反していると認定された。(判決文)
このDCの法律は、登録されていない拳銃(hand gun)を持つこと(1975年以前に登録されたものなどを除く)と拳銃を登録することの両方を禁止することで、拳銃の保持を禁止しています。あと、銃は弾を抜いて、分解して、引き金にカギ(trigger lock)をかけて保管することも義務づけている。
で、最高裁はこの法律について、
・修正第2条の前半部分(A well regulated militia being necessary to the security of a free state)は、条項の目的を示したものではあるけれど、後半部分(the right of the people to keep and bear arms shall not be infringed)の対象を限定したり、拡大したりするものではない。つまり「民兵が必要だから、民兵が武器を持つ権利は侵害されてはならない」というのではなく、「州の安全のために民兵は必要だし、人々が武器を持つ権利は侵害されてはならない」と解釈されるべきだということだと思います。多分。
・「民兵」というのは共同防衛に従事できる健康な全ての男性のこと。アンチフェデラリストたちは、連邦政府が民兵を武装解除して、正規軍や一部の民兵だけが統治を行えるようになることを恐れていた。つまり武器を持つ権利を制限する議会の権限を否定したということで、民兵という理想が維持された。
・こうした最高裁の解釈は各州の憲法とも合致している。
・修正第2条が起草される過程でも、個人が武器を持つ権利は明確に規定されてきた。
・過去の学者や裁判所や議員の判断も、こうした最高裁の解釈と合致している。
・こうした最高裁の解釈は過去の最高裁の解釈とも合致している。
・ただし修正第2条に制限がないわけではない。犯罪歴がある者や精神病患者による武器保有の禁止、学校や政府庁舎への武器の持ち込みの禁止、武器売買の際の規制などは認められる。
・ワシントンDCの法律が拳銃の保有を禁じていることは違憲である。銃から弾を抜いて、分解して、引き金にカギをかけたうえで保有するよう求めていることも、個人が自衛のために銃を使うことをできなくすることから、違憲である。
とのことです。
つまりワシントンDCでは1975年から、事実上、拳銃の保有が禁止されていた。オバマ大統領が提案しているような「セミオートマッチックライフルを規制しましょうよ」とか「弾倉の容量を制限しましょうよ」なんていうのではなく、「拳銃持っちゃだめ」っていう厳しい内容でした。日本人の感覚からすれば、「オバマ大統領も米国全体がこういうルールになるような提案をすればいいのに」なんて思ってしまうわけですが、この2008年の最高裁判決があるため、そんな提案をしたところで修正第2条違反になってしまうことは明白なわけです。
ちなみにこのときの判断は5対4。惜しい。判断を支持したのは、ロバーツ長官、スカリア、ケネディ、トーマス、アリート。反対したのはスティーブンス(10年6月退任)、スーター(09年6月退任)、ギンズバーグ、ブライヤー。中間派のケネディが支持に回ったのがポイントなんでしょう。
ただ、このときの判決では、「州や特別区がどんな法律作ったっていいじゃんかよ。連邦政府の憲法が口を出す筋合いじゃねーよ」っている論点が積み残しになりました。この主張が認められれば、修正2条違反であったとしても、州や特別区による厳格な銃規制が認められる可能性もあるわけですが、その可能性も2010年の判決で閉ざされてしまうことになります。
長くなったので続きます。
画像は引き金にかけるカギ。
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