昨年12月のニュータウンでの事件以降、アメリカで銃規制強化についての議論が続いています。せっかくなので、遅ればせながら、いろいろと調べておいた。
今年の1月16日、オバマ大統領が銃規制強化策を提案しています。(参照)
内容は、
・認可店での銃取引にはバックグラウンドチェックが義務づけられているが、銃取引全体の40%はバックグラウンドチェックが不必要なprivateな取引だという調査もある。犯罪に使われた銃のうち認可店で買われたものは12%でしかないともいう。だから全ての取引でバックグラウンドチェックが行われるようにする法律を成立させるべきだ。ただし、家族間とか一時的な貸与は例外とする。
・バックグラウンドチェックに使うことができる精神病歴のデータは増えてはきているが、GAOの最近の調査ではデータの活用が十分にできない州も多い(参照)ので、システムを強化する。
・オーロラの事件でもニュータウンの事件でも、1994年から2004年まで施行されたPublic Safety and Recreational Firearms Use Protection Act(Federal Assault Weapons Ban (AWB))の規制対象だったセミオートマチックライフルが使われた。なのでこの規制を強化したうえで再導入するような法律を成立させるべきだ。
・AWBの規制対象だった10超の弾薬を入れられる弾倉を再び禁止できるような法律を成立させるべきだ。
・軍や警察での使用目的以外でのarmor-piercing ammunitionの製造と輸入は禁じられているけど、保有や取引は禁じられていない。議会はこれを禁じる法律を成立させるべきだ。
・犯罪者の手に銃がわたらないようするため、警察活動への制限を緩和するなどする法律を成立させるべきだ。
・Centers for Disease Controlなどの組織は研究費用を銃規制強化のための調査に使うことが議会によって禁じられている。でも大統領としてCDCなどに対して銃犯罪の原因と抑止に関する調査を行うよう指示する。
・学校の安全性強化のための取り組みを議会に要請する。
・精神病治療の強化を提案する。
ってことになっています。
なんか「これだけ?」って感じですね。どう考えたって、こんな規制で悲惨な事件が防げるわけがない。「銃の取引は全面禁止!」とかにすればいいのに。
ただ、まぁ、武器保有の権利を認めた有名な合衆国憲法修正第2条ってのがあって、そうはできないっていうことなんだと思います。修正第2条っていうのは、"A well regulated militia being necessary to the security of a free state, the right of the people to keep and bear arms shall not be infringed."という文言ですね。統制のとれた民兵が州の安全を保つために必要であることと、武器を持つ権利は侵害されてはならないということが示されています。
しかも修正第2条と銃規制の関係については、2008年と2010年の最高裁判決で決着がついた感がある。
2008年のDistrict of Columbia v. Hellerの判決では、ワシントンDCの法律、Firearms Control Regulations Act of 1975の一部が修正第2条に違反していると認定された。(判決文)
このDCの法律は、登録されていない拳銃(hand gun)を持つこと(1975年以前に登録されたものなどを除く)と拳銃を登録することの両方を禁止することで、拳銃の保持を禁止しています。あと、銃は弾を抜いて、分解して、引き金にカギ(trigger lock)をかけて保管することも義務づけている。
で、最高裁はこの法律について、
・修正第2条の前半部分(A well regulated militia being necessary to the security of a free state)は、条項の目的を示したものではあるけれど、後半部分(the right of the people to keep and bear arms shall not be infringed)の対象を限定したり、拡大したりするものではない。つまり「民兵が必要だから、民兵が武器を持つ権利は侵害されてはならない」というのではなく、「州の安全のために民兵は必要だし、人々が武器を持つ権利は侵害されてはならない」と解釈されるべきだということだと思います。多分。
・「民兵」というのは共同防衛に従事できる健康な全ての男性のこと。アンチフェデラリストたちは、連邦政府が民兵を武装解除して、正規軍や一部の民兵だけが統治を行えるようになることを恐れていた。つまり武器を持つ権利を制限する議会の権限を否定したということで、民兵という理想が維持された。
・こうした最高裁の解釈は各州の憲法とも合致している。
・修正第2条が起草される過程でも、個人が武器を持つ権利は明確に規定されてきた。
・過去の学者や裁判所や議員の判断も、こうした最高裁の解釈と合致している。
・こうした最高裁の解釈は過去の最高裁の解釈とも合致している。
・ただし修正第2条に制限がないわけではない。犯罪歴がある者や精神病患者による武器保有の禁止、学校や政府庁舎への武器の持ち込みの禁止、武器売買の際の規制などは認められる。
・ワシントンDCの法律が拳銃の保有を禁じていることは違憲である。銃から弾を抜いて、分解して、引き金にカギをかけたうえで保有するよう求めていることも、個人が自衛のために銃を使うことをできなくすることから、違憲である。
とのことです。
つまりワシントンDCでは1975年から、事実上、拳銃の保有が禁止されていた。オバマ大統領が提案しているような「セミオートマッチックライフルを規制しましょうよ」とか「弾倉の容量を制限しましょうよ」なんていうのではなく、「拳銃持っちゃだめ」っていう厳しい内容でした。日本人の感覚からすれば、「オバマ大統領も米国全体がこういうルールになるような提案をすればいいのに」なんて思ってしまうわけですが、この2008年の最高裁判決があるため、そんな提案をしたところで修正第2条違反になってしまうことは明白なわけです。
ちなみにこのときの判断は5対4。惜しい。判断を支持したのは、ロバーツ長官、スカリア、ケネディ、トーマス、アリート。反対したのはスティーブンス(10年6月退任)、スーター(09年6月退任)、ギンズバーグ、ブライヤー。中間派のケネディが支持に回ったのがポイントなんでしょう。
ただ、このときの判決では、「州や特別区がどんな法律作ったっていいじゃんかよ。連邦政府の憲法が口を出す筋合いじゃねーよ」っている論点が積み残しになりました。この主張が認められれば、修正2条違反であったとしても、州や特別区による厳格な銃規制が認められる可能性もあるわけですが、その可能性も2010年の判決で閉ざされてしまうことになります。
長くなったので続きます。
画像は引き金にかけるカギ。
乱射事件後もアメリカ全体で銃規制の議論はされていても、銃全面禁止なんて議論はほとんど見受けられません。国民の大半が望まない限り憲法改正なんて無理ですよね...今後アメリカの教育機関で働く予定のか弱い日本人にとっては笑えない話です(T-T)
返信削除ニュータウンの犠牲者の家族だって「全面禁止」とは言っていないみたいですね。サムライソードを腰にぶら下げてキャンパスを闊歩するってのはどうでしょうか?
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