Foreign Affairsに載っていた、ジョージタウン大学のVictor Cha教授の文章も文教授が言うような太陽政策の効果を疑問視しています。(参照)
Cha教授によると、北朝鮮が民主化するかもなんていう期待は1994年に金正日体制ができたときにもあった。金正日は中国を何度か訪問して、中国による市場主義の導入と経済発展を目にしたし、その度にマスコミや学者は「民主化するぞ」なんて喜んだけど、その期待は裏切られ、北朝鮮はミサイル発射や核実験を繰り返してきた。しかも北朝鮮は2010年には韓国の哨戒艦を魚雷で沈め、延坪島を砲撃した。韓国政府や国民は北朝鮮との交渉に飽き飽きしているというわけです。
Cha教授はさらに、オバマ政権は北朝鮮に非核化を求め続け、中国は北朝鮮を本気で支援しなくなっていることを指摘します。また金正恩は軍部を完全には掌握しておらず、国民の間にも経済状況に対する不満があるため、何かしらの実績をもって自分の力を誇示する必要があり、そのため、原理的な主体思想に向かっているともしています。で、こうした状況の行き着く先は、
Toward a dead end for Kim, I think, and perhaps a nightmare loose-nukes scenario for the United States.
だそうです。
つまり、北朝鮮では軍部や国民の間に金正恩体制への不満が高まっているんだけど、度重なる挑発行為の結果、韓国からも米国からも中国からも支援を受けることが難しくなっている。だから金正恩は自らの力を誇示して国内を安定化させようとするんだけれど、それは若くて実績のない指導者には難しいことで、結局は金正恩体制が崩壊して、核技術が流出していく。文章は"if it does, Obama may find his pivot to Asia absorbed by a new crisis on the Korean peninsula."なんていう言葉で締めくくられています。こりゃ困ったことです。北朝鮮が韓国などからの太陽政策を政策を受け入れなかった結果、自らを追い詰めてしまって、朝鮮半島情勢が不安定化するというシナリオです。
で、こういう状態をなんとかできないかということで、Cate InstituteのTed Carpenterは、ワシントンポストで、「あまり北朝鮮を追い詰めるな」と言っています。Cate Instituteは小さな政府を追及するリバタリアンが集まるシンクタンクらしいです。
Carpenterは、経済制裁のような強硬策をとっても北朝鮮の核開発の野望は止められなかったと言います。北朝鮮は中国が本気にならない限り完全に孤立することはないし、中国は米国主導の東アジアとの緩衝地帯である北朝鮮を完全に見捨てることはない。北朝鮮はそのことを知っているので、いつまでも核開発を続けることができるというわけです。だから、米国は核保有国である北朝鮮とつきあっていくしかない。核保有国をほったらかしにするぐらいだったら、交渉によってコントロールの余地を残しておく方がいい。そのためには経済制裁を緩和してもいい。最終的な目標は、北朝鮮が核保有国として責任ある行動をとることに意義を見いださせることであるとのことです。
U.S. leaders should reverse course on economic sanctions, ending most unilateral measures — which bar virtually all economic contact except for U.S. humanitarian aid — and leading, together with Beijing, an effort to roll back multilateral sanctions. The ultimate goal should be to give North Korea a stake in behaving responsibly as a nuclear power.
まぁ、太陽政策が効くのかどうか分からないけど、強硬策は通用しないし、それどころか朝鮮半島の不安定化に結びつく可能性があるんだったら、太陽政策でいった方がマシだよねっていう議論は分からんでもないな。国際社会がこれ以上の経済制裁をとるっていっても、それほど新しい手段があるわけでもないだろうし、中国は北朝鮮を本気で支援するわけでないにしても、完全に見捨てるわけでもないわけだから、金正恩が国内へのアピールのために核開発を続ける可能性は高いんだと思う。だとしたら、変に体制が崩壊したりしないためにも北朝鮮との経済関係を築くのが得策かも。変に体制が崩壊して、北アフリカみたいになっても困るわけじゃないですか。あと、北朝鮮を追い詰めた結果、「金正恩が暴発」なんていう事態になったら目もあてられない。正直、北朝鮮が民主化してもしなくても、人権侵害があってもなくても、日本の平和が維持されるのが一番かなって。
まぁ、北朝鮮の挑発に屈するみたいでシャクだっていう気持ちもありますけど、名を捨てて実を取るって感じでしょうか。どうなんでしょう。
画像はTed Carpenterさん。
北朝鮮の今後の行動を予測し外交政策を議論しないといけないなんて、International Affairsって大変な学問ですね...不確実要素多すぎ!金正恩の気持ちを一番理解した人が勝ちという、感覚的な領域を多分に持つ学問な気がします。
返信削除どうせ金正恩が考えていることなんて分からないんだから、無視するしかないんじゃないのという気もするんですが、それだと北朝鮮が暴発するかもしれないというリスクから目をそらすことになりますからねぇ。分かるわけないんじゃんと思いつつも、金正恩の行動を注視したうえで働きかけていくしかないんでしょう。特に日本は北朝鮮から地理的に近いですから、韓国の次ぐらいには真剣に取り組まねばならないんだと思います。
返信削除高校時代に鈍感男子ランキング一位に選ばれた自分がやってはいけない学問領域ですね...日本のためにも鋭い人間観察眼を持つ方に北朝鮮外交政策を担って頂きたいです!
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