2013年2月13日水曜日

2010年のMcDonald v. Chicago

で、今度こそMcDonald v. Chicagoの内容になります。判決は2010年6月28日に下されました。(判決文) 

判決ではまず、銃を持つ権利を訴える人たちの主張について、

・修正第14条に従えば、修正第2条に定められた銃を持つ権利を州が否定することはできない。Slaughter-House Casesに基づいた「合衆国民の権利」と「州民の権利」を分ける考え方は否定されるべきだ。

・それに修正第14条のデュープロセス条項は、修正第2条に定められた銃を持つ権利も対象としている。

と要約しています。

デュープロセス条項というのは修正第14条の「州は合衆国民の権利を侵害するような法律をつくってはだめだよ」という文言の後にセミコロンで区切って続けられている部分のこと。" nor shall any State deprive any person of life, liberty, or property, without due process of law"となっていて、「州はデュープロセス(適正な法手続き)なしに、個人の生命や平和や財産を奪ってはならない」という内容です。だから、シカゴ市は銃を持つ権利を奪ってはならないということですね。

「シカゴの場合はきちんと法律を作っているんだから、適正な法の手続きを踏んでいるんじゃないの?」っていう気もするのですが、このデュープロセス条項には「実体的デュープロセス」という考え方があって、その考え方によると、「デュープロセス条項が保証する権利の内容は手続き的なものだけではなく、立法によっても奪うことができない実体的なものだ」ということになるんだそうです。阿川尚之の「憲法で読むアメリカ史(下)」の106ページにそんなことが書いてあります。


一方、判決は、シカゴ市側の主張については、

・権利章典(修正第1~10条)で定められた権利は、それが文明的な法制度に不可欠である場合にのみ、州にも適用される。もしも銃を持つ権利を認めない文明国家を想像することが可能ならば、銃を持つ権利は修正第14条のデュープロセス条項によって保護されるものではないということだ。そして、銃の保有を厳しく制限している国家が実際に存在しているのだから、デュープロセス条項は銃を持つ権利を保護するものではない。

とまとめています。


次に判決は、この問題をめぐる過去の最高裁判決について概観します。そのなかで過去の判決を引用するかたちで、

・判断基準となるのは、権利章典で保護される内容が、米国の法秩序や司法制度の基盤に関わるようなものであるかどうかということだ(the governing standard is whether a particular Bill of Rights protection is fundamental to our Nation’s particular scheme of ordered liberty and system of justice.)

と判断。

さらに、銃を持つ権利がfundamentalなものかどうかについて検討する必要があるとし、これについては、2008年のDistrict of Columbia v. Hellerでの判断や、解放奴隷が白人の襲撃を受けるなどしてきた過去の歴史を踏まえて、

・銃による自衛は基本的な権利である

として、

・銃を持つ権利は実体的に保証されているとみなすべきであり、州が公正な手続きで法律を作れば無視できる禁止事項だと考えるべきではない(The right to keep and bear arms must be regarded as a substantive guarantee, not a prohibition that could be ignored so long as the States legislated in an evenhanded manner)

として、実体的デュープロセスの考え方を支持します。

で、結論は、

Held: The judgment is reversed, and the case is remanded.

ということ。控訴裁判所の判決は棄却されて、差し戻しです。

ちなみに判決はSlaughter-House Casesでの判断については、見直す必要がないとしています。そこは見直さないんだけれど、そもそもデュープロセス条項があるから、州が適正な法の手続きなしに銃を持つ権利を奪うことはできないよね、っていう判断なんだと思います。

採決は5対4。判決を支持したのはロバーツ長官、スカリア、ケネディ、トーマス、アリート。DCの裁判のときと同じメンバーです。反対はスティーブンス(10年6月退任)、ギンズバーグ、ブライヤー、ソトマイヤー。


要は「銃を持つ権利はfundamentalなものだから州においても保証される」と言っているということでいいんでしょうか。単純な話じゃないか。

でも、Slaughter-House Casesの判断を元にした控訴裁判所の判断は、銃を持つ権利はfundamentalなものだから、州民として認められる権利であり、それは州による侵害から修正第14条によって守られるものではないという結論だったわけです。これが実体的デュープロセスの考え方をとった最高裁では、「銃を持つ権利はfundamentalなものである」という同じ事実から逆の結論が導かれてしまったわけです。これは単純な話じゃない。

まぁ5対4の判決ですから、どっちに転んだっておかしくない話ではあります。オバマ政権が続くあと4年のうちに、判決を支持した5人の判事のいずれかが引退して、代わりにリベラル系の判事が任命されたりしたら、別の判決が出る可能性だってある。5人のうち高齢なのはスカリアとケネディで、いずれも76歳。この2人のうちどちらかが引退を表明したとき、銃規制の流れが本格的に動き出すのかもしれません。

画像は裁判の原告、Otis McDonaldさん。渋い。モーガン・フリーマンか藤村俊二かっていうぐらい渋い。

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