オバマ政権の1期目でアフガニスタン・パキスタン問題の担当特使を務めたリチャード・ホルブルックの右腕として働き、今でも国務省のForeign Affairs Policy Boardのメンバーである、Vali Nasrの本です。読み終えたのはちょっと前ですけど、面白かったです。門外漢の私には知らないことばかりで勉強になりました。
Nasrは冒頭から、オバマ政権内には外交で問題を解決しようとする国務省と、軍事行動に重きをおく国防総省などの間に対立関係があると指摘して、側近に囲まれたオバマ大統領は多くの場合は国防総省側の意見をとりいれたことを嘆いています。政権内にいたのは2年ほどだったようですが、オバマ外交には批判的です。
2009年春ごろにホルブルックはアフガンの治安を安定させて米軍撤退をスムーズに進めるというシナリオを描いて、タリバンとアフガニスタンのカルザイ大統領との和平交渉を始めようとした。でも国防総省やCIAなんかは、タリバンと交渉するなんてテロを容認するようなものだとかいって反対する。で、そのとき就任したばかりのオバマは対外的に「弱腰だ」とみられることを恐れてホルブルックの意見に賛成しない。クリントン国務長官はホルブルックを信頼していたので、なんとかオバマを説得しようとするんだけれど、「ベルリンの壁」と呼ばれるオバマの側近グループが邪魔をする。クリントンはオバマあてのペーパーを書いて「これを承認してくれ」と頼み込み、オバマもうなずいたらしいんですが、それも棚上げになってしまう。そんなこんなとしているうちに、ホルブルックは2010年12月に心臓の病気で亡くなってしまいます。69歳。
ホワイトハウスがタリバンとの対話を検討し始めたのはこの後で、クリントンは2011年2月の演説でようやく、オバマ政権を代表してタリバンとの対話を表明することができた。ただ、ホルブルックの構想では、アフガンに駐留している米兵の数が最大の時期こそが米国の交渉力が一番強いわけだから、この状態をなるべく維持しておくという方針だったのに、オバマは6月には早々にアフガンからの撤退計画を発表してしまう。ホルブルックが死んでからホワイトハウスにどういう心境の変化があったのかは分かりませんが、ホルブルックとともに働いてきたNasrにすれば、なんという下手くそな外交なんだというところでしょう。
このほかパキスタンのムシャラフが密かにタリバンを支援しているんだとか、2011年のNATO軍によるパキスタンの検問所の誤爆の後、オバマは「タフ」に見られたいからパキスタンとの関係修復に後ろ向きだったとか、オバマはイランに圧力をかけるばかりだという意味ではブッシュ政権と大差ないとか、いろいろと面白いエピソードも。ただ、ウィキペディアをざっとみたところ、ホルブルックは毀誉褒貶がある人らしいのでNasrの評価がどれだけ的を得ているのかは分かりません。ただ、米国の政権内にはいろんな考え方をもった人がいて、なんとかそれを実現しようとあーだこーだとやっているんだなという実態は面白いと思います。
あと、中東をめぐる情勢分析も、いろいろと。イランはイスラエルと敵対することでアラブのリーダーになろうとしているけど、サウジやトルコほどの経済力がないから支持を得られないとか、イランはパキスタンやインドや北朝鮮が核兵器保有を黙認されているんだから、自分たちも認められるだろうと考えているとか、米国からすればイスラエルへのテロ活動を支援するイランに核兵器保有を許すことはテロリストに核の傘を与えることになるから認められない面があるんだとか、経済制裁は便利な方法だけれどもそれだけでは問題の根源は解決できないとか、いろいろと門外漢にとっては面白い知見が出てきます。へぇ。
面白いのはNasrはイランについて、核兵器保有を許してしまったうえで封じ込めと抑止で対応した方がいいんじゃないのかと考えているところ。ロシアや中国が核兵器を持っていても世界が核戦争に向かっているわけじゃないし、北朝鮮やパキスタン、インドが核兵器を保有しているからといって、日本や韓国、バングラディシュ、スリランカなんかが核兵器保有を目指しているわけじゃない。米国には冷戦期に豊富な経験があるんだから、イランの核保有を阻止することにこだわらなくてもいいという見方です。へぇ。以前に書いたこのエントリの話に似ています。Nasrみたいに政権内にいるような人にも、そんな考え方をする人がいるんですね。
それと中国についても力点が置かれています。長すぎるんで、ざっと書いちゃうと、中国と米国の対立はなにも太平洋を挟んで起きるわけでなく、経済成長に不可欠な原油などの供給源である中東を舞台に起きるのだから、米国はきちんと準備をしておかなければならない。中国はアラブ世界やパキスタンやイランやトルコへの影響力確保を狙っている。だから米国もこうした地域にきちんと関与していかないと、中国にいいようにやられてしまう。というのが、Nasrの心配するところであったりします。
面白い本でした。
2013年12月14日土曜日
2013年6月13日木曜日
棚上げすればいいんじゃないか論
ちょっと昔の話なんですが、Jonathan TeppermanというForeign Affairsの編集者の文章を読んだ。"Asian Tensions and the Problem of History"というタイトルで、なんで日中韓の三国は歴史問題でケンカばかりしているのかねぇという内容です。(参照)
Teppermanさんは、安倍首相が「731」ナンバーの戦闘機の操縦席で撮った写真が中韓の反発を招いた話で日中韓のややこしい関係を紹介。日中は尖閣問題で対立するし、日韓には竹島問題がある。「朴大統領はオバマ大統領との会談のかなりの部分を安倍首相をこきおろすことに費やした」なんていう表現もある。で、もちろん対立の根源は第二次世界大戦に遡るわけですが、Teppermanさんは、
Why can’t these countries just let the past lie, especially when doing so would be so clearly in their interests? Yes, there are plenty of ugly traumas to overcome. But Japan has been a pacifist, liberal democracy for nearly 70 years now, and it’s hard to imagine it threatening anyone.
と疑問を呈します。そうそう。私もそう思う。
Teppermanさんは「ベストの解決法は、西ドイツのブラント首相が1970年にやったように、日本が全面的に第二次世界大戦時の行為について謝罪すること」と指摘します。「大日本帝国とナチは違う」ことにも理解は示すわけですけど、ドイツは謝罪によって膨大な利益があったわけだから、日本だって同様にするべきだというわけです。日本の政治家たちが「これまでに何度も謝罪しているし、賠償金だって払っている」と主張していることについては、「その通りだ」と認めます。でも、日本の政治家たちが保守的で謝罪疲れした支持者を満足させるために、その謝罪を台無しにするような発言を繰り返していることも事実だと。うん。確かにそうだ。
一方、中韓に対しては、「現在の目的のために歴史を利用しようとしている点で罪深い」(Japan’s neighbors, meanwhile, are just as guilty of exploiting the past for present ends.)と論評。中国が尖閣の領有権を主張し始めたのは周辺海域で資源が見つかったことと無関係ではないことや、国内の不満をそらそうとして愛国心をあおっていることにも注目します。
つまり、確かに日本は謝罪はしているんだけど、中韓は資源獲得とか国内の不満をそらそうなんていう気持ちがあるから謝罪を受け入れようとしない。それなら日本はもう一度謝罪した方がいいんだけど、せっかくの最初の謝罪を台無しにするような発言で事態を混乱させていると。つまり日中韓が何故過去のことを水に流せないのかという疑問に対する答えについては、"The answer is that no one will go first."というわけです。まぁ、当たり前の話なんですが、的を得た簡潔な説明である気がします。
じゃぁ、どうすればいいのかというと、Teppermanさんは" simply shelve the thorniest issues and work around them"と主張します。中国と台湾だって難しい問題は棚上げしているし、日中だって国交正常化から中国が台頭する最近までは尖閣問題を事実上棚上げしていたじゃないかと。確かに簡単な話ではないんだけど、棚上げすれば、
it would cool the region’s boiling waters while letting all sides save face. And it might just be the only way to avoid an actual shooting war that no side, despite the overheated talk, wants or could afford.
ということです。
まぁ、当事者以外の立場からみればそうなんでしょう。ということは日中韓の3カ国以外の立場の人はみんなそう思っているわけですな。じゃ、そうするのが正解だな。
写真はTeppermanさん。頭良さそうな顔ですね。
Teppermanさんは、安倍首相が「731」ナンバーの戦闘機の操縦席で撮った写真が中韓の反発を招いた話で日中韓のややこしい関係を紹介。日中は尖閣問題で対立するし、日韓には竹島問題がある。「朴大統領はオバマ大統領との会談のかなりの部分を安倍首相をこきおろすことに費やした」なんていう表現もある。で、もちろん対立の根源は第二次世界大戦に遡るわけですが、Teppermanさんは、
Why can’t these countries just let the past lie, especially when doing so would be so clearly in their interests? Yes, there are plenty of ugly traumas to overcome. But Japan has been a pacifist, liberal democracy for nearly 70 years now, and it’s hard to imagine it threatening anyone.
と疑問を呈します。そうそう。私もそう思う。
Teppermanさんは「ベストの解決法は、西ドイツのブラント首相が1970年にやったように、日本が全面的に第二次世界大戦時の行為について謝罪すること」と指摘します。「大日本帝国とナチは違う」ことにも理解は示すわけですけど、ドイツは謝罪によって膨大な利益があったわけだから、日本だって同様にするべきだというわけです。日本の政治家たちが「これまでに何度も謝罪しているし、賠償金だって払っている」と主張していることについては、「その通りだ」と認めます。でも、日本の政治家たちが保守的で謝罪疲れした支持者を満足させるために、その謝罪を台無しにするような発言を繰り返していることも事実だと。うん。確かにそうだ。
一方、中韓に対しては、「現在の目的のために歴史を利用しようとしている点で罪深い」(Japan’s neighbors, meanwhile, are just as guilty of exploiting the past for present ends.)と論評。中国が尖閣の領有権を主張し始めたのは周辺海域で資源が見つかったことと無関係ではないことや、国内の不満をそらそうとして愛国心をあおっていることにも注目します。
つまり、確かに日本は謝罪はしているんだけど、中韓は資源獲得とか国内の不満をそらそうなんていう気持ちがあるから謝罪を受け入れようとしない。それなら日本はもう一度謝罪した方がいいんだけど、せっかくの最初の謝罪を台無しにするような発言で事態を混乱させていると。つまり日中韓が何故過去のことを水に流せないのかという疑問に対する答えについては、"The answer is that no one will go first."というわけです。まぁ、当たり前の話なんですが、的を得た簡潔な説明である気がします。
じゃぁ、どうすればいいのかというと、Teppermanさんは" simply shelve the thorniest issues and work around them"と主張します。中国と台湾だって難しい問題は棚上げしているし、日中だって国交正常化から中国が台頭する最近までは尖閣問題を事実上棚上げしていたじゃないかと。確かに簡単な話ではないんだけど、棚上げすれば、
it would cool the region’s boiling waters while letting all sides save face. And it might just be the only way to avoid an actual shooting war that no side, despite the overheated talk, wants or could afford.
ということです。
まぁ、当事者以外の立場からみればそうなんでしょう。ということは日中韓の3カ国以外の立場の人はみんなそう思っているわけですな。じゃ、そうするのが正解だな。
写真はTeppermanさん。頭良さそうな顔ですね。
2013年6月11日火曜日
「新型の大国関係」とG2論
中国の習近平国家主席が米国のオバマ大統領と会談しました。そのなかで、"new model of major country relationship"(新型の大国関係)という言葉が出てくるので、どういう考え方なのか調べてみた。
このフレーズは習近平国家主席が持ち出した言葉のようで、6月7日の会談前のちょっとした会見(参照)で、
We need to think creatively and act energetically so that working together we can build a new model of major country relationship.
なんていう風に言っています。
で、この発言には前段があって、そこの部分を読むと、
And at present, the China-U.S. relationship has reached a new historical starting point. Our two countries have vast convergence of shared interests, from promoting our respective economic growth at home to ensuring the stability of the global economy; from addressing international and regional hotspot issues to dealing with all kinds of global challenges. On all these issues, our two countries need to increase exchanges and cooperation.
And under the new environment, we need to take a close look at our bilateral relationship: What kind of China-U.S. relationship do we both want? What kind of cooperation can our two nations carry out for mutual benefit? And how can our two nations join together to promote peace and development in the world? These are things that not just the people in our two countries are watching closely, but the whole world is also watching very closely.
Both sides should proceed from the fundamental interests of our peoples and bear in mind human development and progress.
と言っている。
まぁ、今から作り上げていこうというものですけど、
・双方が納得のいく関係
・お互いの国益のために協調する関係
・世界の平和と発展に資する関係
・両国の基本的な国益を出発点として、人間的な発展や進歩も考慮する関係
ってことですかね。
で、この新型の大国関係については、会談後の共同会見(参照)でも触れられている。
習近平国家主席によると、
President Obama and I both believe that in the age of economic globalization and facing the objective need of countries sticking together in the face of difficulties, China and the United States must find a new path -- one that is different from the inevitable confrontation and conflict between the major countries of the past. And that is to say the two sides must work together to build a new model of major country relationship based on mutual respect and win-win cooperation for the benefit of the Chinese and American peoples, and people elsewhere in the world.
ということらしいです。昔は2つの大国があれば衝突は必至だったけれど、そういうことにならないように協力しあいましょうということですね。この後の発言では、経済での連係や人的交流、軍事面での関係強化なんかの必要性について話しています。
まぁ、米中は経済的なつながりは強まっているんだけど、対立点もいっぱいあるわけです。人権問題とかサイバーセキュリティとか南シナ・東シナ海での航行の自由の確保とか、チベット問題、台湾問題なんかについては意見の相違は大きい。ただ、そういった問題点について対立の道を進むのではなく、お互いの利益を尊重しつつ、解決の道を探っていくということでしょう。
一方、オバマ大統領は、
I think President Xi identified the essence of our discussions in which we shared our respective visions for our countries' futures and agreed that we're more likely to achieve our objectives of prosperity and security of our people if we are working together cooperatively, rather than engaged in conflict.
としている。「衝突を避け、協力しあえば、人々の繁栄と安全という目的を達成できる」ということです。
またドニロン大統領補佐官は8日のプレスブリーフィングで、
the observation and the view by many people, particularly in the international relations field and some people in the United States and some people in China, that a rising power and an existing power are in some manner destined for conflict; that in fact this just an inexorable dynamic between an arising power and an existing power. We reject that, and the Chinese government rejects that. And the building out of the so-called new relationships, new model of relation between great powers is the effort to ensure that doesn’t happen; is an effort to ensure that we don’t succumb to the idea that somehow relations between countries are some immutable law of physics -- that, in fact, this is about leadership, it’s about conscious decisions and it’s about doing what’s best for your respective people.
と述べています。こちらも「衝突を避ける」ということを強調しています。オバマ大統領やドニロン補佐官が「お互いの国益を守る」というあたりに触れていないのは、人権とかサイバーセキュリティ、航行の自由なんかの対立点について口をつぐむわけじゃないという意思表示かもしれない。それでも新型の大国関係を目指すことで合意したとは認めているわけですから、対立点はあるけれど、協力できるところから協力していきましょうなんていうことかもしれません。
ちなみにオバマ政権の初期にあったG2論とは違うのかっていう話もあるわけですけど、Wikipediaによると、G2論というのは「世界1位、2位の経済大国である米中が話し合えば、世界金融危機とか気候変動問題とか北朝鮮やイランの核問題とか、いろんな問題を解決できて、新たな冷戦を回避できるんじゃないの?」っていう話のようです。経済学者のフレッド・バーグステンが提唱して、カーター大統領の補佐官だったブレジンスキーや世界銀行総裁だったゼーリックなんかが支持した。(参照)
バーグステンのForeign Affairsへの寄稿(参照)によると、中国はWTOに加盟したものの交渉の阻害要因となり、APEC全体での自由貿易圏構想に反対したり、資源の囲い込みを謀ったり、為替レートを操作したりして、世界2位の大国としての責任感に欠けている。だから、
To deal with the situation, Washington should make a subtle but basic change to its economic policy strategy toward Beijing. Instead of focusing on narrow bilateral problems, it should seek to develop a true partnership with Beijing so as to provide joint leadership of the global economic system. Only such a "G-2" approach will do justice, and be seen to do justice, to China's new role as a global economic superpower and hence as a legitimate architect and steward of the international economic order.
ということです。「お行儀の悪い中国を国際ルールに従わせるため、米国が中国と2つの大国として協調する」というコンセプトですかね。
あと、米国はこれまで中国を国際ルールに従わせるために「従わないとペナルティがあるぞ」という方針で臨んできたけど、米国にも他の国にも中国との関係から恩恵を受けている人は沢山いるので、そんな強行姿勢をとっても中国は本気にしない。だから、
Abandoning the present position and adopting a less confrontational approach might be the only way to persuade China to start cooperating.
なんていうことも言っています。
あと、
At a minimum, creating a G-2 would limit the risk of bilateral disputes escalating and disrupting the U.S.-Chinese relationship and the broader global economy. At a maximum, it could start a process that might, over time, generate sufficient trust and mutual understanding to produce active cooperation on crucial issues.
とも。
G2論も新型の大国関係も米中が協調するという点には変わりはないですが、G2論の最終的な目標は「最終的に中国を国際ルールに従わせる」という点にあるのに対して、新型の大国関係の目標は「衝突を避ける」という点であって、中国が国際ルールに従うかどうかは棚上げされているというイメージですかね。
本当かよ。
このフレーズは習近平国家主席が持ち出した言葉のようで、6月7日の会談前のちょっとした会見(参照)で、
We need to think creatively and act energetically so that working together we can build a new model of major country relationship.
なんていう風に言っています。
で、この発言には前段があって、そこの部分を読むと、
And at present, the China-U.S. relationship has reached a new historical starting point. Our two countries have vast convergence of shared interests, from promoting our respective economic growth at home to ensuring the stability of the global economy; from addressing international and regional hotspot issues to dealing with all kinds of global challenges. On all these issues, our two countries need to increase exchanges and cooperation.
And under the new environment, we need to take a close look at our bilateral relationship: What kind of China-U.S. relationship do we both want? What kind of cooperation can our two nations carry out for mutual benefit? And how can our two nations join together to promote peace and development in the world? These are things that not just the people in our two countries are watching closely, but the whole world is also watching very closely.
Both sides should proceed from the fundamental interests of our peoples and bear in mind human development and progress.
と言っている。
まぁ、今から作り上げていこうというものですけど、
・双方が納得のいく関係
・お互いの国益のために協調する関係
・世界の平和と発展に資する関係
・両国の基本的な国益を出発点として、人間的な発展や進歩も考慮する関係
ってことですかね。
で、この新型の大国関係については、会談後の共同会見(参照)でも触れられている。
習近平国家主席によると、
President Obama and I both believe that in the age of economic globalization and facing the objective need of countries sticking together in the face of difficulties, China and the United States must find a new path -- one that is different from the inevitable confrontation and conflict between the major countries of the past. And that is to say the two sides must work together to build a new model of major country relationship based on mutual respect and win-win cooperation for the benefit of the Chinese and American peoples, and people elsewhere in the world.
ということらしいです。昔は2つの大国があれば衝突は必至だったけれど、そういうことにならないように協力しあいましょうということですね。この後の発言では、経済での連係や人的交流、軍事面での関係強化なんかの必要性について話しています。
まぁ、米中は経済的なつながりは強まっているんだけど、対立点もいっぱいあるわけです。人権問題とかサイバーセキュリティとか南シナ・東シナ海での航行の自由の確保とか、チベット問題、台湾問題なんかについては意見の相違は大きい。ただ、そういった問題点について対立の道を進むのではなく、お互いの利益を尊重しつつ、解決の道を探っていくということでしょう。
一方、オバマ大統領は、
I think President Xi identified the essence of our discussions in which we shared our respective visions for our countries' futures and agreed that we're more likely to achieve our objectives of prosperity and security of our people if we are working together cooperatively, rather than engaged in conflict.
としている。「衝突を避け、協力しあえば、人々の繁栄と安全という目的を達成できる」ということです。
またドニロン大統領補佐官は8日のプレスブリーフィングで、
the observation and the view by many people, particularly in the international relations field and some people in the United States and some people in China, that a rising power and an existing power are in some manner destined for conflict; that in fact this just an inexorable dynamic between an arising power and an existing power. We reject that, and the Chinese government rejects that. And the building out of the so-called new relationships, new model of relation between great powers is the effort to ensure that doesn’t happen; is an effort to ensure that we don’t succumb to the idea that somehow relations between countries are some immutable law of physics -- that, in fact, this is about leadership, it’s about conscious decisions and it’s about doing what’s best for your respective people.
と述べています。こちらも「衝突を避ける」ということを強調しています。オバマ大統領やドニロン補佐官が「お互いの国益を守る」というあたりに触れていないのは、人権とかサイバーセキュリティ、航行の自由なんかの対立点について口をつぐむわけじゃないという意思表示かもしれない。それでも新型の大国関係を目指すことで合意したとは認めているわけですから、対立点はあるけれど、協力できるところから協力していきましょうなんていうことかもしれません。
ちなみにオバマ政権の初期にあったG2論とは違うのかっていう話もあるわけですけど、Wikipediaによると、G2論というのは「世界1位、2位の経済大国である米中が話し合えば、世界金融危機とか気候変動問題とか北朝鮮やイランの核問題とか、いろんな問題を解決できて、新たな冷戦を回避できるんじゃないの?」っていう話のようです。経済学者のフレッド・バーグステンが提唱して、カーター大統領の補佐官だったブレジンスキーや世界銀行総裁だったゼーリックなんかが支持した。(参照)
バーグステンのForeign Affairsへの寄稿(参照)によると、中国はWTOに加盟したものの交渉の阻害要因となり、APEC全体での自由貿易圏構想に反対したり、資源の囲い込みを謀ったり、為替レートを操作したりして、世界2位の大国としての責任感に欠けている。だから、
To deal with the situation, Washington should make a subtle but basic change to its economic policy strategy toward Beijing. Instead of focusing on narrow bilateral problems, it should seek to develop a true partnership with Beijing so as to provide joint leadership of the global economic system. Only such a "G-2" approach will do justice, and be seen to do justice, to China's new role as a global economic superpower and hence as a legitimate architect and steward of the international economic order.
ということです。「お行儀の悪い中国を国際ルールに従わせるため、米国が中国と2つの大国として協調する」というコンセプトですかね。
あと、米国はこれまで中国を国際ルールに従わせるために「従わないとペナルティがあるぞ」という方針で臨んできたけど、米国にも他の国にも中国との関係から恩恵を受けている人は沢山いるので、そんな強行姿勢をとっても中国は本気にしない。だから、
Abandoning the present position and adopting a less confrontational approach might be the only way to persuade China to start cooperating.
なんていうことも言っています。
あと、
At a minimum, creating a G-2 would limit the risk of bilateral disputes escalating and disrupting the U.S.-Chinese relationship and the broader global economy. At a maximum, it could start a process that might, over time, generate sufficient trust and mutual understanding to produce active cooperation on crucial issues.
とも。
G2論も新型の大国関係も米中が協調するという点には変わりはないですが、G2論の最終的な目標は「最終的に中国を国際ルールに従わせる」という点にあるのに対して、新型の大国関係の目標は「衝突を避ける」という点であって、中国が国際ルールに従うかどうかは棚上げされているというイメージですかね。
本当かよ。
2013年5月13日月曜日
議会調査局
ちょっと前に米国の議会調査局(Congressional Research Service)が出した日本に関するレポートで、安倍政権のナショナリズムっぷりが懸念されているというニュースがあった。
この日本に関するレポートというのは5月1日に出たもので、このサイトで原文を読むことができます。確かにサマリーの部分を読んだだけでも、
Comments and actions on controversial historical issues by Prime Minister Abe and his cabinet have raised concern that Tokyo could upset regional relations in ways that hurt U.S. interests. Abe is known as a strong nationalist. Abe’s approach to issues like the so-called “comfort women” sex slaves from the World War II era, history textbooks, visits to the Yasukuni Shrine that honors Japan’s war dead, and statements on a territorial dispute with South Korea will be closely monitored by Japan’s neighbors as well as the United States.
なんていう文章が出てくる。
ただ、この日本に関するレポートっていうのは頻繁に出ているもので、今年の2月にも同種のレポートが出ている。(参照) このレポートのサマリーにも同じ文章が出てくるので、別に今なって騒ぐ話でもないような気がします。
というわけで、この報告書を読んだところで日本でも報じられていることばかりだとは思うのですが、この議会調査局のレポートが非常に便利なことに気付きました。だって、日米関係のレポートが日米関係の諸問題について網羅的に記しているわけですから、他のテーマについてもレポートを読めば、どんな問題が懸念されているのかが網羅的に分かるってことじゃないですか。便利。ちなみにウィキペディアによると、CRSは議会予算局(CBO)や会計検査院(GAO)なんかと同じように、議会をサポートするための中立的な組織として知られているようです。
で、試しにこのページから、最近の報告書をあさってみると、4月26日に米韓関係についてのレポートが出ている。で、サマリーを読んでみると、「米韓関係はオバマ大統領と李明博前大統領の時代に最良の状態にあり、朴槿恵大統領に代わってからも良好な関係が続くと思われるが、朴大統領が北朝鮮との対決姿勢と柔軟姿勢のバランスをどのようにとるかは注視せねばならないよ。朝鮮半島の非核化や人権問題という米国の最優先事項をどのぐらい重視するかが問題だ」みたいなことが書いてある。なるほど。
Dealing with North Korea is the dominant strategic element of the U.S.-South Korean relationship. The two countries’ coordination over North Korea was exceptionally close under the Lee and Obama Administrations. Bilateral cooperation is expected to work well under President Park, but it remains to be seen whether her calls for a new combination of toughness and flexibility toward Pyongyang will challenge Washington and Seoul’s ability to coordinate their policies. Perhaps most notably, Park has proposed a number of confidence-building measures with Pyongyang in order to create a “new era” on the Korean Peninsula. Two key questions will be the extent to which her government will link these initiatives to progress on denuclearization, which is the United States’ top concern, and how much emphasis she will give to North Korea’s human rights record. Likewise, an issue for the Obama Administration and Members of Congress is to what extent they will support—or, not oppose—initiatives by Park to expand inter-Korean relations.
4月24日には対イラン制裁に関するレポートが出ている。「イランに対する経済制裁は効いているんだけど、イランに核開発を諦めされるまでのダメージを与えているわけじゃない。イランが経済制裁の抜け穴を突くようになり、経済制裁がイラン国民に及ぼす非人道的な効果を宣伝するようになれば、経済制裁の効果は薄れていくかもしれない」なんて分析されています。なるほど、なるほど。
まぁ、詳しい人たちから見れば「当たり前の話じゃん」ってなもんかもしれませんが、私にとっては便利なことこのうえないです。
この日本に関するレポートというのは5月1日に出たもので、このサイトで原文を読むことができます。確かにサマリーの部分を読んだだけでも、
Comments and actions on controversial historical issues by Prime Minister Abe and his cabinet have raised concern that Tokyo could upset regional relations in ways that hurt U.S. interests. Abe is known as a strong nationalist. Abe’s approach to issues like the so-called “comfort women” sex slaves from the World War II era, history textbooks, visits to the Yasukuni Shrine that honors Japan’s war dead, and statements on a territorial dispute with South Korea will be closely monitored by Japan’s neighbors as well as the United States.
なんていう文章が出てくる。
ただ、この日本に関するレポートっていうのは頻繁に出ているもので、今年の2月にも同種のレポートが出ている。(参照) このレポートのサマリーにも同じ文章が出てくるので、別に今なって騒ぐ話でもないような気がします。
というわけで、この報告書を読んだところで日本でも報じられていることばかりだとは思うのですが、この議会調査局のレポートが非常に便利なことに気付きました。だって、日米関係のレポートが日米関係の諸問題について網羅的に記しているわけですから、他のテーマについてもレポートを読めば、どんな問題が懸念されているのかが網羅的に分かるってことじゃないですか。便利。ちなみにウィキペディアによると、CRSは議会予算局(CBO)や会計検査院(GAO)なんかと同じように、議会をサポートするための中立的な組織として知られているようです。
で、試しにこのページから、最近の報告書をあさってみると、4月26日に米韓関係についてのレポートが出ている。で、サマリーを読んでみると、「米韓関係はオバマ大統領と李明博前大統領の時代に最良の状態にあり、朴槿恵大統領に代わってからも良好な関係が続くと思われるが、朴大統領が北朝鮮との対決姿勢と柔軟姿勢のバランスをどのようにとるかは注視せねばならないよ。朝鮮半島の非核化や人権問題という米国の最優先事項をどのぐらい重視するかが問題だ」みたいなことが書いてある。なるほど。
Dealing with North Korea is the dominant strategic element of the U.S.-South Korean relationship. The two countries’ coordination over North Korea was exceptionally close under the Lee and Obama Administrations. Bilateral cooperation is expected to work well under President Park, but it remains to be seen whether her calls for a new combination of toughness and flexibility toward Pyongyang will challenge Washington and Seoul’s ability to coordinate their policies. Perhaps most notably, Park has proposed a number of confidence-building measures with Pyongyang in order to create a “new era” on the Korean Peninsula. Two key questions will be the extent to which her government will link these initiatives to progress on denuclearization, which is the United States’ top concern, and how much emphasis she will give to North Korea’s human rights record. Likewise, an issue for the Obama Administration and Members of Congress is to what extent they will support—or, not oppose—initiatives by Park to expand inter-Korean relations.
4月24日には対イラン制裁に関するレポートが出ている。「イランに対する経済制裁は効いているんだけど、イランに核開発を諦めされるまでのダメージを与えているわけじゃない。イランが経済制裁の抜け穴を突くようになり、経済制裁がイラン国民に及ぼす非人道的な効果を宣伝するようになれば、経済制裁の効果は薄れていくかもしれない」なんて分析されています。なるほど、なるほど。
まぁ、詳しい人たちから見れば「当たり前の話じゃん」ってなもんかもしれませんが、私にとっては便利なことこのうえないです。
2013年4月30日火曜日
歳出強制削減と2014年度予算
また古い話なんですが、オバマ大統領が2014年度の予算案を提出しました。で、これが例の歳出強制削減(Sequestration)とどんな関係になっているのか分からないので、調べてみた。
オバマ大統領が予算案を提出したのは4月10日。オバマ大統領は同じ日に2014年度予算にも歳出強制削減が適用されますよという文書を出している。(参照)
このなかで歳出強制削減の内容については行政管理予算局(OMB)が同じ日に出したレポートに基づいて行われますということになっている。そのレポートがこちらです。
で、このレポートの中の Table 1. "OVERVIEW OF CHANGES TO DISCRETIONARY SPENDING LIMITS AND THE PRESIDENT'S PROPOSED LIMITS IN THE 2014 BUDGET"(Discretionary budget authority in billions of dollars)というのが、歳出強制削減と予算案の関係を示しているんだと思います。
一番上のOriginal limits set in Title I of the Budget Control Act of 2011というところ。2014年は1,066 bnとなっている。で、2コ下のRedefinition of limits pursuant to section 251A of BBEDCAのところに、その1,066 bn をDefense(556 bn)とNon-Defense(510 bn)に分けた数字が出ている。これはBudget Control Act of 2011の251Aに出ている数字と同じです。(参照) つまり、2014年度の予算では、裁量的経費(Discretionary Spending)の上限は1兆660億ドルで、このうち国防費が5560億ドル、非国防費が5100億ドルということです。
4つ目のAdjustments pursuant to section 901(d) of the ATRAの項目の、2014年のところにあるDefenseで-4.0、Non-Defenseで-4.0とあるのは、今年1月のAmerican Taxpayer Relief Actにある、
(3) for fiscal year 2014—
(A) for the security category, $552,000,000,000 in
budget authority; and
(B) for the nonsecurity category, $506,000,000,000 in
budget authority;
という記述を反映したものだと思います。つまり、さきほどのDefense(556 bn)から4を引いたら552になるし、Non-Defense(510 bn)から4を引いたら506になります。
その次、Joint Select Committee on Deficit Reduction Enforcementの項目。実はこれについてはよく分からない。分からないんだけれど、Defenseで53.9 bn、Non-Defenseで37.2 bnだけ、予算の上限がカットされて、その結果がさらに1コ下のRevised Limits Included in the OMB Preview Reportの数字になっているんだと思う。つまりBCAで定められた裁量的経費の上限は国防費5560億ドル、非国防費5100億ドルだったけど、いろいろと見なおしが重ねられた結果、現状では国防費で4981億ドル、非国防費で4688億ドルになっている。
で、この上限に基づいてオバマ大統領が予算案を提案することになるわけですが、次の項目はPresident's Proposed Changes to Discretionary Limits in the 2014 Budgetとなっている。つまり2014年度予算については、この裁量的経費の上限について見なおしを提案しますよと。で、その下にごちゃごちゃと数字が出ている。特にOCO/GWOT(Oversea Contingency Operations/Global War On Terror)の項目では、Defenseに88.5 bnの積み増しをやっている。その結果、President's proposed limits in the 2014 Budgetの裁量的経費の内訳は、国防費で6405億ドル、非国防費で5146億ドルになっている。
なんでしょう。こんなにいきなり見なおしを提案されちゃぁ、歳出強制削減の意味がないような気がするんですが。違うんでしょうか。
で、オバマ大統領の予算案に関するデータはこちらにあるんですが、このうちの一番下のファイル(Summary Tables)の中にあるTable S–5. Proposed Budget by Categoryというのを見てみると、一番最後の項目にMemorandum, budget authority for appropriated programsというのがあって、そこに出ている数字が先ほどのレポートにある国防費6405億ドル、非国防費5146億ドルという数字と一致しています。つまり裁量的経費に関する予算の枠はこれだけですよ、ということなんだと思う。
でも、同じ表の一番上の項目をみると、裁量的経費のうち国防費は6180億ドル、非国防費は6240億ドルとなっている。非国防費が枠を超えちゃっているような気がするんですけど。
私が重大な勘違いをしているんでしょうか、それとも「どっちにしたって民主党と共和党が合意すりゃいいわけだから、とりあえずは枠なんて無視しちゃえばいいんじゃないの。結局、BCAの枠を超えて国防費も非国防費も出すんだから、合意しやすい内容でしょ」ってことなんでしょうか。
変なの。
オバマ大統領が予算案を提出したのは4月10日。オバマ大統領は同じ日に2014年度予算にも歳出強制削減が適用されますよという文書を出している。(参照)
このなかで歳出強制削減の内容については行政管理予算局(OMB)が同じ日に出したレポートに基づいて行われますということになっている。そのレポートがこちらです。
で、このレポートの中の Table 1. "OVERVIEW OF CHANGES TO DISCRETIONARY SPENDING LIMITS AND THE PRESIDENT'S PROPOSED LIMITS IN THE 2014 BUDGET"(Discretionary budget authority in billions of dollars)というのが、歳出強制削減と予算案の関係を示しているんだと思います。
一番上のOriginal limits set in Title I of the Budget Control Act of 2011というところ。2014年は1,066 bnとなっている。で、2コ下のRedefinition of limits pursuant to section 251A of BBEDCAのところに、その1,066 bn をDefense(556 bn)とNon-Defense(510 bn)に分けた数字が出ている。これはBudget Control Act of 2011の251Aに出ている数字と同じです。(参照) つまり、2014年度の予算では、裁量的経費(Discretionary Spending)の上限は1兆660億ドルで、このうち国防費が5560億ドル、非国防費が5100億ドルということです。
4つ目のAdjustments pursuant to section 901(d) of the ATRAの項目の、2014年のところにあるDefenseで-4.0、Non-Defenseで-4.0とあるのは、今年1月のAmerican Taxpayer Relief Actにある、
(3) for fiscal year 2014—
(A) for the security category, $552,000,000,000 in
budget authority; and
(B) for the nonsecurity category, $506,000,000,000 in
budget authority;
という記述を反映したものだと思います。つまり、さきほどのDefense(556 bn)から4を引いたら552になるし、Non-Defense(510 bn)から4を引いたら506になります。
その次、Joint Select Committee on Deficit Reduction Enforcementの項目。実はこれについてはよく分からない。分からないんだけれど、Defenseで53.9 bn、Non-Defenseで37.2 bnだけ、予算の上限がカットされて、その結果がさらに1コ下のRevised Limits Included in the OMB Preview Reportの数字になっているんだと思う。つまりBCAで定められた裁量的経費の上限は国防費5560億ドル、非国防費5100億ドルだったけど、いろいろと見なおしが重ねられた結果、現状では国防費で4981億ドル、非国防費で4688億ドルになっている。
で、この上限に基づいてオバマ大統領が予算案を提案することになるわけですが、次の項目はPresident's Proposed Changes to Discretionary Limits in the 2014 Budgetとなっている。つまり2014年度予算については、この裁量的経費の上限について見なおしを提案しますよと。で、その下にごちゃごちゃと数字が出ている。特にOCO/GWOT(Oversea Contingency Operations/Global War On Terror)の項目では、Defenseに88.5 bnの積み増しをやっている。その結果、President's proposed limits in the 2014 Budgetの裁量的経費の内訳は、国防費で6405億ドル、非国防費で5146億ドルになっている。
なんでしょう。こんなにいきなり見なおしを提案されちゃぁ、歳出強制削減の意味がないような気がするんですが。違うんでしょうか。
で、オバマ大統領の予算案に関するデータはこちらにあるんですが、このうちの一番下のファイル(Summary Tables)の中にあるTable S–5. Proposed Budget by Categoryというのを見てみると、一番最後の項目にMemorandum, budget authority for appropriated programsというのがあって、そこに出ている数字が先ほどのレポートにある国防費6405億ドル、非国防費5146億ドルという数字と一致しています。つまり裁量的経費に関する予算の枠はこれだけですよ、ということなんだと思う。
でも、同じ表の一番上の項目をみると、裁量的経費のうち国防費は6180億ドル、非国防費は6240億ドルとなっている。非国防費が枠を超えちゃっているような気がするんですけど。
私が重大な勘違いをしているんでしょうか、それとも「どっちにしたって民主党と共和党が合意すりゃいいわけだから、とりあえずは枠なんて無視しちゃえばいいんじゃないの。結局、BCAの枠を超えて国防費も非国防費も出すんだから、合意しやすい内容でしょ」ってことなんでしょうか。
変なの。
2013年4月25日木曜日
スーチーさんがやってきた。
この前、ミャンマーのアウンサンスーチーさんが来日して、東京大学で講演していました。(動画)
スーチーさんは言わずと知れたミャンマー民主化運動の指導者で、1991年にはノーベル平和賞も受賞した人です。自宅軟禁されたり、開放されたりといったことを繰り返してきた人ですね。そうしたなかで、ミャンマーの軍事政権は2010年11月にスーチーさんを解放し、11年3月には民政移行もやってしまった。長年にわたるスーチーさんの戦いは実を結びつつあるわけです。
私はそんなニュースを聞く度に、「スーチーさん、これから何するんだろう」って思っていたわけです。「民主化しろ!」って言い続けてきた人ですから、実際に民主化が実現したら、やることなくなっちゃうんじゃないかって。それに日本なんかじゃ、ずっと野党だった政党が政権についたら期待されたほどの仕事をできないなんていうことがあるわけですけど、スーチーさんもそんな風になっちゃうんじゃないかと。
で、この講演をちょっと前に聴いた。うろ覚えのところもありますが、のっけから「自由には責任が伴う」なんていう硬派な発言しています。しまいにはケネディの有名な言葉を引用して、「国家が何を与えてくれるのかを問うのではなく、国家にどんな貢献ができるかを問うべきだ」なんていうことまで言う。こういったことは、何も日本の東京大学の学生を対象とした講演だから言っているわけじゃなくて、ミャンマーの若い人たちにも言っているんだそうです。へぇ。なんかイメージ違いますね。もっと、「軍政反対! なんでも反対! だめなものはだめー! 援助ちょーだーい!」みたいな人かと思っていました。失礼な話ですね。いや、まぁ、なんの根拠もなく思っていたんですけどね。
あと、聴衆から「軍との関係をどうするのか?」と問われて、「そう尋ねられるといつも戸惑うんですが、」とかなんとか切り出していたのが印象的。スーチーさんは民主化運動を始めた当初から、「国民が軍を愛していた時代に戻る」ということを目標としていたということで、何も「軍を追い出せ!」と言っているわけじゃないんだそうです。長年、軍事政権に拘束・軟禁されてきた人ですから、もっと軍自体を嫌悪しているのかと思っていましたが、理想とするのは、「軍と国民がともに国の安全のために行動できる」という状況なんだとのこと。だから軍との関係については、「良い関係を築きたい」ということになるんですね。まぁ、アウンサン将軍の娘ということですから、当然かも知れませんが。
そういえば、スーチーさんがミャンマー中部の銅鉱山開発を支持して、地元の住民から怒号を浴びるなんていうニュースもありました。(参照)
この記事の最後に出てくるスーチーさんの言葉は、
“I have never done anything just for popularity,” she said. “Sometimes politicians have to do things that people dislike.”
です。
かっこいー。
あと、ミャンマーの民主化っていってもまだまだなんですね。スーチーさん自身が講演で説明していますけど、ミャンマーの憲法は議席の4分の1を軍人に割り当てることが決まっているんですね。なんかよく分からん制度ですが。で、この憲法改正には4分の3以上の賛成が必要。ということで、軍の同意を得られなければ、議席の4分の1を軍に割り当てるという軍優位の規定を変えることができない。
しかもスーチーさん解放直前の軍政下で行われた2010年11月の総選挙は、スーチーさんの政党である国民民主連盟(NLD)のメンバーの多くが立候補を禁止されたため、NLDは選挙をボイコット。その結果、軍の支援を受ける連邦団結発展党(USDP)が上下院の選挙議席の8割近くを占める大勝を収めました。(参照) NLDはスーチーさんも立候補した2011年4月の補選で大勝して、上下院あわせて44議席を獲得していますけど、軍人割り当て分も考慮した全議席に占める割合は10%程度です。(参照) それでも「最大野党」って呼ばれるわけですから、民主化への道のりはまだ始まったばかりという感じでしょう。
どうなるんですかね。ミャンマーとスーチーさん。
画像はどっかで拾ったスーチーさん。綺麗な人ですね。
スーチーさんは言わずと知れたミャンマー民主化運動の指導者で、1991年にはノーベル平和賞も受賞した人です。自宅軟禁されたり、開放されたりといったことを繰り返してきた人ですね。そうしたなかで、ミャンマーの軍事政権は2010年11月にスーチーさんを解放し、11年3月には民政移行もやってしまった。長年にわたるスーチーさんの戦いは実を結びつつあるわけです。
私はそんなニュースを聞く度に、「スーチーさん、これから何するんだろう」って思っていたわけです。「民主化しろ!」って言い続けてきた人ですから、実際に民主化が実現したら、やることなくなっちゃうんじゃないかって。それに日本なんかじゃ、ずっと野党だった政党が政権についたら期待されたほどの仕事をできないなんていうことがあるわけですけど、スーチーさんもそんな風になっちゃうんじゃないかと。
で、この講演をちょっと前に聴いた。うろ覚えのところもありますが、のっけから「自由には責任が伴う」なんていう硬派な発言しています。しまいにはケネディの有名な言葉を引用して、「国家が何を与えてくれるのかを問うのではなく、国家にどんな貢献ができるかを問うべきだ」なんていうことまで言う。こういったことは、何も日本の東京大学の学生を対象とした講演だから言っているわけじゃなくて、ミャンマーの若い人たちにも言っているんだそうです。へぇ。なんかイメージ違いますね。もっと、「軍政反対! なんでも反対! だめなものはだめー! 援助ちょーだーい!」みたいな人かと思っていました。失礼な話ですね。いや、まぁ、なんの根拠もなく思っていたんですけどね。
あと、聴衆から「軍との関係をどうするのか?」と問われて、「そう尋ねられるといつも戸惑うんですが、」とかなんとか切り出していたのが印象的。スーチーさんは民主化運動を始めた当初から、「国民が軍を愛していた時代に戻る」ということを目標としていたということで、何も「軍を追い出せ!」と言っているわけじゃないんだそうです。長年、軍事政権に拘束・軟禁されてきた人ですから、もっと軍自体を嫌悪しているのかと思っていましたが、理想とするのは、「軍と国民がともに国の安全のために行動できる」という状況なんだとのこと。だから軍との関係については、「良い関係を築きたい」ということになるんですね。まぁ、アウンサン将軍の娘ということですから、当然かも知れませんが。
そういえば、スーチーさんがミャンマー中部の銅鉱山開発を支持して、地元の住民から怒号を浴びるなんていうニュースもありました。(参照)
この記事の最後に出てくるスーチーさんの言葉は、
“I have never done anything just for popularity,” she said. “Sometimes politicians have to do things that people dislike.”
です。
かっこいー。
あと、ミャンマーの民主化っていってもまだまだなんですね。スーチーさん自身が講演で説明していますけど、ミャンマーの憲法は議席の4分の1を軍人に割り当てることが決まっているんですね。なんかよく分からん制度ですが。で、この憲法改正には4分の3以上の賛成が必要。ということで、軍の同意を得られなければ、議席の4分の1を軍に割り当てるという軍優位の規定を変えることができない。
しかもスーチーさん解放直前の軍政下で行われた2010年11月の総選挙は、スーチーさんの政党である国民民主連盟(NLD)のメンバーの多くが立候補を禁止されたため、NLDは選挙をボイコット。その結果、軍の支援を受ける連邦団結発展党(USDP)が上下院の選挙議席の8割近くを占める大勝を収めました。(参照) NLDはスーチーさんも立候補した2011年4月の補選で大勝して、上下院あわせて44議席を獲得していますけど、軍人割り当て分も考慮した全議席に占める割合は10%程度です。(参照) それでも「最大野党」って呼ばれるわけですから、民主化への道のりはまだ始まったばかりという感じでしょう。
どうなるんですかね。ミャンマーとスーチーさん。
画像はどっかで拾ったスーチーさん。綺麗な人ですね。
2013年4月7日日曜日
ランド・ポールって誰?
ちょっと古い話なんですが、3月に米国でConservative Political Action Conference 2013というイベントがありました。米国の保守系の人たちが集まって盛り上がろうっていうイベントで、その一貫としてstraw pollっていう参加者を対象にしたアンケートが名物企画になっています。で、そのアンケートで「次の共和党の大統領候補は誰がいい?」と聞いたところ、ケンタッキー州選出のランド・ポール(Rand Paul)上院議員がトップになった。(参照)
毎年恒例のこのアンケートでトップに選ばれた人には、大統領就任前のロナルド・レーガンやジョージ・ブッシュ(子)、昨年の大統領選挙で共和党候補となったミット・ロムニーなんかがいるわけで、これはランド・ポールについても調べておかねばならないなと。
ランド・ポールは、有名なロン・ポール前下院議員の息子です。この親父さんは2008年や2012年の大統領選での共和党候補に名乗りを上げたり、2大政党が浸透している米国で「リバタリアン党」として活動したりといった何かと騒がしい人。私はなんとなく「ドン・キホーテ」的なイメージを持っていたりしたのですが、2010年、2011年にはCPACのstraw pollでトップ候補に選ばれたりもしている。割とちゃんとした人気がある人みたいです。
で、私はこの「リバタリアン」っていう考え方についてよく知らないもので、ウィキペディアでもうちょっと調べておきますと、とにかく「小さな政府を目指す」っていうことを徹底させた考え方のようです。増税には反対、歳出削減には賛成、公的な健康保険の拡大を目指すオバマケアには反対って感じですかね。それだったら共和党と変わらないんじゃないかっていうことにもなりそうなもんですが、徹底的に小さな政府を志向するわけですから、米国が海外紛争に介入することにも反対するし、同性婚についても「自由にやれば?」ってな感じで容認姿勢をとっている。小さい政府好きの人にとっては、分かりやすい主張です。
ただ、ロン・ポール自身については、過去に「黒人の95%は犯罪者予備軍か、犯罪者だ」とか「ホモは日陰で暮らしていた方が幸せなんだ」なんていう趣旨の過激な文章を書いていたようです。本人は「ゴーストライターが書いたんだ。内容については知らなかった」なんて言い訳しているようですけどね。まぁ、77歳ですから、若い頃にはいろいろと書いちゃったりもしていたんでしょう。
で、ようやくランド・ポールの話なんですが、この方は50歳。ウィキペディアによると、大学では薬学を勉強して、卒業後も医療関係の仕事をしていたわけですが、その一方で1994年にケンタッキーで反課税運動を組織したりして政治活動も行ってきた人です。親父さんの選挙選に参加したりしながら、2010年のケンタッキー州の上院選挙に満を持して立候補して、当選。そして今では「共和党大統領候補」の呼び声も高いというわけです。自分の政治信条について「小さな政府がいいと思うけれど、完全なリバタリアンではない」としているようで、親父さんとは違って米軍が海外に介入することには賛成らしい。あと、ブレナンCIA長官の承認に関しては、13時間のフィリバスター演説をやったりもしている。
ランド・ポールのCPACでのスピーチを聞いてみると(参照)、こんなことを言っています。
・自由を拡大させるなら、政府は小さくならねばならない
・経済を成長させるには、政府は手を引かねばならない
・エジプトにくれてやる金なんてない。奴らは米国の旗を燃やして、「アメリカに死を」と叫ぶような奴らだ
・唯一の景気刺激策は、稼いだお金を稼いだ本人の手に留めておくことだ
・法人税は半分にする
・所得税は一律17%
・規制緩和で企業活動を活性化
・教育省(Department of Education)は廃止する
・銃を持つ権利は守るべき
なかなか過激なことを言っています。連邦政府は縮小して、細かいことは州政府にまかせればいいって感じなんでしょうか。
まぁ、要注目っていうことで。
毎年恒例のこのアンケートでトップに選ばれた人には、大統領就任前のロナルド・レーガンやジョージ・ブッシュ(子)、昨年の大統領選挙で共和党候補となったミット・ロムニーなんかがいるわけで、これはランド・ポールについても調べておかねばならないなと。
ランド・ポールは、有名なロン・ポール前下院議員の息子です。この親父さんは2008年や2012年の大統領選での共和党候補に名乗りを上げたり、2大政党が浸透している米国で「リバタリアン党」として活動したりといった何かと騒がしい人。私はなんとなく「ドン・キホーテ」的なイメージを持っていたりしたのですが、2010年、2011年にはCPACのstraw pollでトップ候補に選ばれたりもしている。割とちゃんとした人気がある人みたいです。
で、私はこの「リバタリアン」っていう考え方についてよく知らないもので、ウィキペディアでもうちょっと調べておきますと、とにかく「小さな政府を目指す」っていうことを徹底させた考え方のようです。増税には反対、歳出削減には賛成、公的な健康保険の拡大を目指すオバマケアには反対って感じですかね。それだったら共和党と変わらないんじゃないかっていうことにもなりそうなもんですが、徹底的に小さな政府を志向するわけですから、米国が海外紛争に介入することにも反対するし、同性婚についても「自由にやれば?」ってな感じで容認姿勢をとっている。小さい政府好きの人にとっては、分かりやすい主張です。
ただ、ロン・ポール自身については、過去に「黒人の95%は犯罪者予備軍か、犯罪者だ」とか「ホモは日陰で暮らしていた方が幸せなんだ」なんていう趣旨の過激な文章を書いていたようです。本人は「ゴーストライターが書いたんだ。内容については知らなかった」なんて言い訳しているようですけどね。まぁ、77歳ですから、若い頃にはいろいろと書いちゃったりもしていたんでしょう。
で、ようやくランド・ポールの話なんですが、この方は50歳。ウィキペディアによると、大学では薬学を勉強して、卒業後も医療関係の仕事をしていたわけですが、その一方で1994年にケンタッキーで反課税運動を組織したりして政治活動も行ってきた人です。親父さんの選挙選に参加したりしながら、2010年のケンタッキー州の上院選挙に満を持して立候補して、当選。そして今では「共和党大統領候補」の呼び声も高いというわけです。自分の政治信条について「小さな政府がいいと思うけれど、完全なリバタリアンではない」としているようで、親父さんとは違って米軍が海外に介入することには賛成らしい。あと、ブレナンCIA長官の承認に関しては、13時間のフィリバスター演説をやったりもしている。
ランド・ポールのCPACでのスピーチを聞いてみると(参照)、こんなことを言っています。
・自由を拡大させるなら、政府は小さくならねばならない
・経済を成長させるには、政府は手を引かねばならない
・エジプトにくれてやる金なんてない。奴らは米国の旗を燃やして、「アメリカに死を」と叫ぶような奴らだ
・唯一の景気刺激策は、稼いだお金を稼いだ本人の手に留めておくことだ
・法人税は半分にする
・所得税は一律17%
・規制緩和で企業活動を活性化
・教育省(Department of Education)は廃止する
・銃を持つ権利は守るべき
なかなか過激なことを言っています。連邦政府は縮小して、細かいことは州政府にまかせればいいって感じなんでしょうか。
まぁ、要注目っていうことで。
2013年4月1日月曜日
同性婚に関する最高裁判決が出るらしい
米国の最高裁が6月にも同性婚に関する判決を出すらしいです。3月26、27日には最高裁がヒアリングをやったりして、なかなかの盛り上がりを見せているようです。(26日分)、(27日分)
問題のひとつとなっているのは、カリフォルニア州のProposition 8が違憲であるかどうかという点。Proposition 8といえば、以前のブログでも書いたことがあるのですが、2008年11月にカリフォルニア州憲法に盛り込まれた同性婚を禁じる条項のことです。懐かしい。このブログでは"Provision 8"って書いているけど、多分これがProposition 8のことだと思います。なんで間違えてるんですかね。ということで、おさらい。
2012年2月7日、第9巡回区の控訴裁判所はProposition 8は違憲であるとの判決を下しています。(参照)
控訴裁判所の判決は、Proposition 8の効力は同性のカップルから結婚というステータスを取り上げるものであり、それ以上でもそれ以下でもないとしています。つまり、Proposition 8があるからといって、同性のカップルが子供(養子)を育てることができなくなるわけじゃないし、他のカップルの出産に影響を与えるわけでもない。信教の自由とか子供の教育とも関係がないということ。
なるほど。そう言われると、「同性婚を認めたら、おかしな社会になっちゃうじゃないか」というような主張は通用しないわけですね。だって、同性婚が認められようが認められまいが、同性のカップルが一緒に暮らして、子供を育てることが禁じられるわけじゃないですからね。
控訴裁判所の判決はさらに、結婚というステータスにはカップルの継続的な関係を法的に社会的に保証するという効果があることをふまえて、Proposition 8は同性のカップルから結婚というステータスを奪うことで、同性のカップルの尊厳を貶める効果しか持たないとしています。で、憲法はそんなことを認めていないので、違憲だというわけです。
All that Proposition 8 accomplished was to take away from same-sex couples the right to be granted marriage licenses and thus legally to use the designation of ‘marriage,’ which symbolizes state legitimization and societal recognition of their committed relationships. Proposition 8 serves no purpose, and has no effect, other than to lessen the status and human dignity of gays and lesbians in California, and to officially reclassify their relationships and families as inferior to those of opposite-sex couples. The Constitution simply does not allow for “laws of this sort.”
もちろんPropositon 8の支持者たちはこの判決に反発して、7月31日、連邦最高裁に上告します。(参照)
上告の理由のなかでProposition 8の支持者たちは、
・結婚は異性間でしか子供をつくれないという生物学的な前提に基づいた制度である。責任を持って子供を産み、育てることは社会や人類の繁栄につながる一方、無責任な出産や子育ては社会的なコストとなる。結婚制度の目的は、異性間の性的な関係を規制することで、子供たちが安定した環境で育つことができるようにすることだ。
・異性間の性交渉によって子供ができてしまうことはあっても、同性間の性交渉で子供ができてしまうことはない。
・同性婚を認める最近の流れができる前は、結婚が責任ある出産と子育てという社会の重要な利益に基づいた制度であるということは何の疑いもなく受け入れられてきた。これこそが最高裁が結婚を「我々の生存と存続にとって根本的な問題だ」と認識してきた理由だ。
Indeed, prior to the recent movement to redefine marriage to include same-sex relationships, it was commonly understood, without a hint of controversy, that the institution of marriage owed its very existence to society’s vital interest in responsible procreation and
childrearing. That is why, no doubt, this Court has repeatedly recognized marriage as “fundamental to our very existence and survival.”
・同性婚を認める判決は、伝統的な結婚の定義を認めたネブラスカ州の憲法改正を支持した2006年の第8巡回区の裁判所の判決と食い違う。この判決では、「出産を結婚と結びつけて考えれば、結婚によって得られる社会的な認知や利益を異性間のカップルに与え、同性間のカップルに与えないことが正当化される。異性間のカップルは子供ができてしまうことがあるが、同性間のカップルではそのようなことがないからだ」とされた。
Indeed, the decision below collides directly with the Eighth Circuit’s 2006 decision upholding Nebraska’s constitutional amendment affirming the traditional definition of marriage. The State’s interest in “ ‘steering procreation into marriage,’ ” the Eighth Circuit held, “justifies conferring the inducements of marital recognition and benefits on opposite-sex couples, who can otherwise produce children by accident, but not on samesex couples, who cannot.”
・1974年の判決では、「あるグループを追加することが正当な目的を達成することにつながり、他のグループを追加することでは同様の効果が得られない場合」、区別をつけることは正当化されるとしている。(中略) だから、第9巡回区の控訴裁判所が行ったような、伝統的な結婚の定義を修復することが結婚制度を傷つけないようにするために必要かどうかという問いかけは、正しい問いかけではない。問うべきなのは、異性間の結婚を認めることが、同性間の結婚を認めることでは達成できないような利益をもたらすかどうか、ということだ。
It follows, then, that a classification will be upheld when “the inclusion of one group promotes a legitimate governmental purpose, and the addition of other groups would not,” Johnson v. Robison, 415 U.S. 361, 383 (1974),(中略)Thus, the relevant inquiry is not, as the Ninth Circuit would in effect have it, whether restoring the traditional definition of marriage was necessary to avoid harm to that institution. Rather, the question is whether recognizing opposite-sex relationships as marriages furthers interests that would not be furthered, or would not be furthered to the same degree, by recognizing same-sex relationships as marriages.
・かつてカリフォルニア州が異性婚と同性婚を区別したことが合理的であったのならば、現在においても同じような区別を付けることは合理的であるはずだ。また、他の41州で異性婚と同性婚を区別することが合理的であるとされるのならば、カリフォルニア州でも同様であるべきだ。
・Proposition 8に反対する人たちも認めるように、同性婚を認めることは社会的に大きなインパクトがある。学者のグループからは、同性婚を認めれば結婚と出産の結びつける考え方が弱くなり、男性が子供に対して持つ責任感を弱くするかもしれないという懸念も出ている。だからカリフォルニア州がこの難しい問題を慎重に取り扱おうとしていることは合理的だ。
・Proposition 8の目的はちゃんとした出産や子育てを守るための結婚制度を守ることにあり、第9巡回区の控訴裁判所が主張するような、同性のカップルを差別することにあるのではない。控訴裁判所の主張は、多くのカリフォルニア州民や他の41州の州民、federal Defense of Marriage Actを支持した議員や裁判官の名誉を傷つけるものだ。
The Ninth Circuit’s charge thus defames over seven million California voters and countless other Americans who believe that traditional marriage continues to serve society’s legitimate interests, including the citizens and lawmakers of at least 41 other States, the Members of Congress and President who supported enactment of the federal Defense of Marriage Act, the large majority of state and federal judges who have addressed the issue,
なんていう風に主張するわけです。
簡単にまとめると、
控訴裁判所は、
・同性婚を認めないことで得られる利益はない。Proposition 8の目的は同性のカップルを差別的に扱うことにあり、違憲。
と主張し、
Proposition 8の支持者は、
・異性間の結婚を認めることで、ちゃんとした出産や子育てを促すことができる。
・同性間の結婚を認めても、ちゃんとした出産や子育てが促されるわけではない。
・同性間の結婚を認めることは、社会的に大きな影響を与える。ちゃんとした出産や子育てに対する意識が弱まるかもしれない。
・同性間の結婚がもたらす影響は未知数であり、カリフォルニア州が慎重に行動することは合理的だ。
・Proposition 8は合憲
と主張している、という感じですかね。
最高裁はこのProposition 8の裁判と、同性のカップルにDefense of Marriage Actに対する裁判の両方をまとめて判決を出します。どんな判決を出すかについては、例によって中間派のケネディ判事の判断が注目されているようですが、ケネディ判事はヒアリングで同性のカップルに同情的な発言もしつつ、「未知の領域」に踏み込むことに慎重であるべきだとしたりもしているので、判決の行方はよく分かりません。さすが中間派。同性婚を全50州で認めるような判決はでないだろうとか、カリフォルニア州の知事や司法長官がProposition 8は違憲であると認めていることから、最高裁は「上告する必要がない」なんていう判断を下すのではという見方もあります。(参照、ロイター)、(参照、WSJ)
ちなみにオバマ政権はProposition 8に反対する姿勢を明確にしています。(参照、NYT) 米国の最高裁では、裁判と関係のない人が意見を述べることができるルールがあるようで(参照、Wikipedia)、それに基づいて司法省がamicus curiae briefなる文書を最高裁に提出したということらしいです。
原文はこれ。
エリック・ホルダー司法長官のコメントはこちら。
画像は最高裁の前でアピールする同性婚支持者たち。
問題のひとつとなっているのは、カリフォルニア州のProposition 8が違憲であるかどうかという点。Proposition 8といえば、以前のブログでも書いたことがあるのですが、2008年11月にカリフォルニア州憲法に盛り込まれた同性婚を禁じる条項のことです。懐かしい。このブログでは"Provision 8"って書いているけど、多分これがProposition 8のことだと思います。なんで間違えてるんですかね。ということで、おさらい。
2012年2月7日、第9巡回区の控訴裁判所はProposition 8は違憲であるとの判決を下しています。(参照)
控訴裁判所の判決は、Proposition 8の効力は同性のカップルから結婚というステータスを取り上げるものであり、それ以上でもそれ以下でもないとしています。つまり、Proposition 8があるからといって、同性のカップルが子供(養子)を育てることができなくなるわけじゃないし、他のカップルの出産に影響を与えるわけでもない。信教の自由とか子供の教育とも関係がないということ。
なるほど。そう言われると、「同性婚を認めたら、おかしな社会になっちゃうじゃないか」というような主張は通用しないわけですね。だって、同性婚が認められようが認められまいが、同性のカップルが一緒に暮らして、子供を育てることが禁じられるわけじゃないですからね。
控訴裁判所の判決はさらに、結婚というステータスにはカップルの継続的な関係を法的に社会的に保証するという効果があることをふまえて、Proposition 8は同性のカップルから結婚というステータスを奪うことで、同性のカップルの尊厳を貶める効果しか持たないとしています。で、憲法はそんなことを認めていないので、違憲だというわけです。
All that Proposition 8 accomplished was to take away from same-sex couples the right to be granted marriage licenses and thus legally to use the designation of ‘marriage,’ which symbolizes state legitimization and societal recognition of their committed relationships. Proposition 8 serves no purpose, and has no effect, other than to lessen the status and human dignity of gays and lesbians in California, and to officially reclassify their relationships and families as inferior to those of opposite-sex couples. The Constitution simply does not allow for “laws of this sort.”
もちろんPropositon 8の支持者たちはこの判決に反発して、7月31日、連邦最高裁に上告します。(参照)
上告の理由のなかでProposition 8の支持者たちは、
・結婚は異性間でしか子供をつくれないという生物学的な前提に基づいた制度である。責任を持って子供を産み、育てることは社会や人類の繁栄につながる一方、無責任な出産や子育ては社会的なコストとなる。結婚制度の目的は、異性間の性的な関係を規制することで、子供たちが安定した環境で育つことができるようにすることだ。
・異性間の性交渉によって子供ができてしまうことはあっても、同性間の性交渉で子供ができてしまうことはない。
・同性婚を認める最近の流れができる前は、結婚が責任ある出産と子育てという社会の重要な利益に基づいた制度であるということは何の疑いもなく受け入れられてきた。これこそが最高裁が結婚を「我々の生存と存続にとって根本的な問題だ」と認識してきた理由だ。
Indeed, prior to the recent movement to redefine marriage to include same-sex relationships, it was commonly understood, without a hint of controversy, that the institution of marriage owed its very existence to society’s vital interest in responsible procreation and
childrearing. That is why, no doubt, this Court has repeatedly recognized marriage as “fundamental to our very existence and survival.”
・同性婚を認める判決は、伝統的な結婚の定義を認めたネブラスカ州の憲法改正を支持した2006年の第8巡回区の裁判所の判決と食い違う。この判決では、「出産を結婚と結びつけて考えれば、結婚によって得られる社会的な認知や利益を異性間のカップルに与え、同性間のカップルに与えないことが正当化される。異性間のカップルは子供ができてしまうことがあるが、同性間のカップルではそのようなことがないからだ」とされた。
Indeed, the decision below collides directly with the Eighth Circuit’s 2006 decision upholding Nebraska’s constitutional amendment affirming the traditional definition of marriage. The State’s interest in “ ‘steering procreation into marriage,’ ” the Eighth Circuit held, “justifies conferring the inducements of marital recognition and benefits on opposite-sex couples, who can otherwise produce children by accident, but not on samesex couples, who cannot.”
・1974年の判決では、「あるグループを追加することが正当な目的を達成することにつながり、他のグループを追加することでは同様の効果が得られない場合」、区別をつけることは正当化されるとしている。(中略) だから、第9巡回区の控訴裁判所が行ったような、伝統的な結婚の定義を修復することが結婚制度を傷つけないようにするために必要かどうかという問いかけは、正しい問いかけではない。問うべきなのは、異性間の結婚を認めることが、同性間の結婚を認めることでは達成できないような利益をもたらすかどうか、ということだ。
It follows, then, that a classification will be upheld when “the inclusion of one group promotes a legitimate governmental purpose, and the addition of other groups would not,” Johnson v. Robison, 415 U.S. 361, 383 (1974),(中略)Thus, the relevant inquiry is not, as the Ninth Circuit would in effect have it, whether restoring the traditional definition of marriage was necessary to avoid harm to that institution. Rather, the question is whether recognizing opposite-sex relationships as marriages furthers interests that would not be furthered, or would not be furthered to the same degree, by recognizing same-sex relationships as marriages.
・かつてカリフォルニア州が異性婚と同性婚を区別したことが合理的であったのならば、現在においても同じような区別を付けることは合理的であるはずだ。また、他の41州で異性婚と同性婚を区別することが合理的であるとされるのならば、カリフォルニア州でも同様であるべきだ。
・Proposition 8に反対する人たちも認めるように、同性婚を認めることは社会的に大きなインパクトがある。学者のグループからは、同性婚を認めれば結婚と出産の結びつける考え方が弱くなり、男性が子供に対して持つ責任感を弱くするかもしれないという懸念も出ている。だからカリフォルニア州がこの難しい問題を慎重に取り扱おうとしていることは合理的だ。
・Proposition 8の目的はちゃんとした出産や子育てを守るための結婚制度を守ることにあり、第9巡回区の控訴裁判所が主張するような、同性のカップルを差別することにあるのではない。控訴裁判所の主張は、多くのカリフォルニア州民や他の41州の州民、federal Defense of Marriage Actを支持した議員や裁判官の名誉を傷つけるものだ。
The Ninth Circuit’s charge thus defames over seven million California voters and countless other Americans who believe that traditional marriage continues to serve society’s legitimate interests, including the citizens and lawmakers of at least 41 other States, the Members of Congress and President who supported enactment of the federal Defense of Marriage Act, the large majority of state and federal judges who have addressed the issue,
なんていう風に主張するわけです。
簡単にまとめると、
控訴裁判所は、
・同性婚を認めないことで得られる利益はない。Proposition 8の目的は同性のカップルを差別的に扱うことにあり、違憲。
と主張し、
Proposition 8の支持者は、
・異性間の結婚を認めることで、ちゃんとした出産や子育てを促すことができる。
・同性間の結婚を認めても、ちゃんとした出産や子育てが促されるわけではない。
・同性間の結婚を認めることは、社会的に大きな影響を与える。ちゃんとした出産や子育てに対する意識が弱まるかもしれない。
・同性間の結婚がもたらす影響は未知数であり、カリフォルニア州が慎重に行動することは合理的だ。
・Proposition 8は合憲
と主張している、という感じですかね。
最高裁はこのProposition 8の裁判と、同性のカップルにDefense of Marriage Actに対する裁判の両方をまとめて判決を出します。どんな判決を出すかについては、例によって中間派のケネディ判事の判断が注目されているようですが、ケネディ判事はヒアリングで同性のカップルに同情的な発言もしつつ、「未知の領域」に踏み込むことに慎重であるべきだとしたりもしているので、判決の行方はよく分かりません。さすが中間派。同性婚を全50州で認めるような判決はでないだろうとか、カリフォルニア州の知事や司法長官がProposition 8は違憲であると認めていることから、最高裁は「上告する必要がない」なんていう判断を下すのではという見方もあります。(参照、ロイター)、(参照、WSJ)
ちなみにオバマ政権はProposition 8に反対する姿勢を明確にしています。(参照、NYT) 米国の最高裁では、裁判と関係のない人が意見を述べることができるルールがあるようで(参照、Wikipedia)、それに基づいて司法省がamicus curiae briefなる文書を最高裁に提出したということらしいです。
原文はこれ。
エリック・ホルダー司法長官のコメントはこちら。
画像は最高裁の前でアピールする同性婚支持者たち。
2013年3月22日金曜日
オバマ大統領のかっこいい演説@エルサレム
中東歴訪中のオバマ大統領がかっこいい演説をしています。
オバマ大統領は1期目にイスラエルを訪問しなかったこともあって、「イスラエルに冷たいんじゃないの」と言われています。21日にエルサレムで若者を前にして行った演説は全面的にイスラエルの肩を持つという感じもない。ただ、「平和が大事なんだ」と熱く訴えてる感じは流石のかっこよさです。(参照) (動画)
演説の最初の方は、「イスラエルとアメリカはずっと仲良しだよね」とか「ハマスはひどいよね」とか「ヒズボラはテロ組織だよね」なんていういつもの話。イランの核開発についても「外交による平和的な解決が一番だけど、テーブルの上にはあらゆる選択肢がある」なんていう、どっかで聞いたことのあるような話。
で、かっこいいのはパレスチナ問題に関する部分。イスラエルの人たちが平和を愛しているのに、パレスチナ人がイスラエルに対するテロを繰り返していることを認め、アメリカはいつでもイスラエルの味方であることを強調しつつ、
Politically, given the strong bipartisan support for Israel in America, the easiest thing for me to do would be to put this issue aside -- just express unconditional support for whatever Israel decides to do -- that would be the easiest political path. But I want you to know that I speak to you as a friend who is deeply concerned and committed to your future, and I ask you to consider three points.
と切り出します。政治的には、イスラエルと仲良しだということを強調するだけで問題を脇に追いやってしまうことが簡単だけど、イスラエルの未来を真剣に考えている友人として、イスラエルの人々に3つの点について考えて欲しいというわけです。
まず平和が重要であるということ。そのためには、パレスチナを国家として認めることが大事だと。
First, peace is necessary. (Applause.) I believe that. I believe that peace is the only path to true security. (Applause.) You have the opportunity to be the generation that permanently secures the Zionist dream, or you can face a growing challenge to its future. Given the demographics west of the Jordan River, the only way for Israel to endure and thrive as a Jewish and democratic state is through the realization of an independent and viable Palestine. (Applause.) That is true.
で、そのためには相手の立場になって考えることが重要だと。パレスチナの人が自分たちの国で生きられないのは公正じゃない。今の世代だけでなく、その両親や祖父母の世代でも、毎日、人々の行動を制限しようとする外国の軍隊が存在する土地で生きなければならないのは公正じゃない。イスラエルの入植者によるパレスチナ人への暴行が処罰されなかったり、パレスチナ人が自らの土地を耕作できなかったり、ヨルダン川西岸で移動の自由が制限されたり、自分たちの家から追い出されたりするのは公正じゃない。占領や排除は答えではなくて、イスラエルの人たちが自分たちの国を作ったように、パレスチナの人たちにも自分たちの国で自由に生きる権利がある、と訴えます。以前のエントリで勉強したのでよく分かります。オバマ大統領はイスラエルによるヨルダン川西岸への入植活動が不当であることを、イスラエルの若者たちに直接訴えているわけです。
Put yourself in their shoes. Look at the world through their eyes. It is not fair that a Palestinian child cannot grow up in a state of their own. (Applause.) Living their entire lives with the presence of a foreign army that controls the movements not just of those young people but their parents, their grandparents, every single day. It’s not just when settler violence against Palestinians goes unpunished. (Applause.) It’s not right to prevent Palestinians from farming their lands; or restricting a student’s ability to move around the West Bank; or displace Palestinian families from their homes. (Applause.) Neither occupation nor expulsion is the answer. (Applause.) Just as Israelis built a state in their homeland, Palestinians have a right to be a free people in their own land. (Applause.)
そして話は「平和は実現可能だ」と続きます。
Peace is possible. It is possible. (Applause.)
で、ここから聴衆の若者をあおります。政治家は人々の支持がないとリスクをとれないから、変化を導くのは君たちなんだと。恐怖に捕らわれるよりも希望を抱け。この聖なる地でユダヤ教徒とキリスト教徒とイスラム教徒が平和に暮らす未来を信じろ。不可能だなんて思うな。イスラエルは強い国で、アメリカだって味方だ。イスラエルは現実を冷静に見つめる知恵があるけど、理想を見つめる勇気だってある、と。
And let me say this as a politician -- I can promise you this, political leaders will never take risks if the people do not push them to take some risks. You must create the change that you want to see. (Applause.) Ordinary people can accomplish extraordinary things.
I know this is possible. Look to the bridges being built in business and civil society by some of you here today. Look at the young people who've not yet learned a reason to mistrust, or those young people who've learned to overcome a legacy of mistrust that they inherited from their parents, because they simply recognize that we hold more hopes in common than fears that drive us apart. Your voices must be louder than those who would drown out hope. Your hopes must light the way forward.
Look to a future in which Jews and Muslims and Christians can all live in peace and greater prosperity in this Holy Land. (Applause.) Believe in that. And most of all, look to the future that you want for your own children -- a future in which a Jewish, democratic, vibrant state is protected and accepted for this time and for all time. (Applause.)
There will be many who say this change is not possible, but remember this -- Israel is the most powerful country in this region. Israel has the unshakeable support of the most powerful country in the world. (Applause.) Israel is not going anywhere. Israel has the wisdom to see the world as it is, but -- this is in your nature -- Israel also has the courage to see the world as it should be. (Applause.)
そして、
Sometimes, the greatest miracle is recognizing that the world can change. That's a lesson that the world has learned from the Jewish people.
最大の奇跡は世界は変えられると信じること。これは世界がユダヤの人々から学んだことだ。
かっこいい。
ただ、演説の動画をみてみると、聴衆がそんなに熱狂的に反応しているわけでもないです。実際にテロの恐怖にさらされている人たちと、私のように外野からみている人間では受け止め方が違うのかもしれません。パレスチナ問題はそんなに甘いもんじゃないんでしょうか。あと、イスラエルによるヨルダン川西岸への入植に対する批判も含めて、特段新しいことを言っているわけでもないような気がします。
そう考えると、そんなにかっこよくない気も。
オバマ大統領は1期目にイスラエルを訪問しなかったこともあって、「イスラエルに冷たいんじゃないの」と言われています。21日にエルサレムで若者を前にして行った演説は全面的にイスラエルの肩を持つという感じもない。ただ、「平和が大事なんだ」と熱く訴えてる感じは流石のかっこよさです。(参照) (動画)
演説の最初の方は、「イスラエルとアメリカはずっと仲良しだよね」とか「ハマスはひどいよね」とか「ヒズボラはテロ組織だよね」なんていういつもの話。イランの核開発についても「外交による平和的な解決が一番だけど、テーブルの上にはあらゆる選択肢がある」なんていう、どっかで聞いたことのあるような話。
で、かっこいいのはパレスチナ問題に関する部分。イスラエルの人たちが平和を愛しているのに、パレスチナ人がイスラエルに対するテロを繰り返していることを認め、アメリカはいつでもイスラエルの味方であることを強調しつつ、
Politically, given the strong bipartisan support for Israel in America, the easiest thing for me to do would be to put this issue aside -- just express unconditional support for whatever Israel decides to do -- that would be the easiest political path. But I want you to know that I speak to you as a friend who is deeply concerned and committed to your future, and I ask you to consider three points.
と切り出します。政治的には、イスラエルと仲良しだということを強調するだけで問題を脇に追いやってしまうことが簡単だけど、イスラエルの未来を真剣に考えている友人として、イスラエルの人々に3つの点について考えて欲しいというわけです。
まず平和が重要であるということ。そのためには、パレスチナを国家として認めることが大事だと。
First, peace is necessary. (Applause.) I believe that. I believe that peace is the only path to true security. (Applause.) You have the opportunity to be the generation that permanently secures the Zionist dream, or you can face a growing challenge to its future. Given the demographics west of the Jordan River, the only way for Israel to endure and thrive as a Jewish and democratic state is through the realization of an independent and viable Palestine. (Applause.) That is true.
で、そのためには相手の立場になって考えることが重要だと。パレスチナの人が自分たちの国で生きられないのは公正じゃない。今の世代だけでなく、その両親や祖父母の世代でも、毎日、人々の行動を制限しようとする外国の軍隊が存在する土地で生きなければならないのは公正じゃない。イスラエルの入植者によるパレスチナ人への暴行が処罰されなかったり、パレスチナ人が自らの土地を耕作できなかったり、ヨルダン川西岸で移動の自由が制限されたり、自分たちの家から追い出されたりするのは公正じゃない。占領や排除は答えではなくて、イスラエルの人たちが自分たちの国を作ったように、パレスチナの人たちにも自分たちの国で自由に生きる権利がある、と訴えます。以前のエントリで勉強したのでよく分かります。オバマ大統領はイスラエルによるヨルダン川西岸への入植活動が不当であることを、イスラエルの若者たちに直接訴えているわけです。
Put yourself in their shoes. Look at the world through their eyes. It is not fair that a Palestinian child cannot grow up in a state of their own. (Applause.) Living their entire lives with the presence of a foreign army that controls the movements not just of those young people but their parents, their grandparents, every single day. It’s not just when settler violence against Palestinians goes unpunished. (Applause.) It’s not right to prevent Palestinians from farming their lands; or restricting a student’s ability to move around the West Bank; or displace Palestinian families from their homes. (Applause.) Neither occupation nor expulsion is the answer. (Applause.) Just as Israelis built a state in their homeland, Palestinians have a right to be a free people in their own land. (Applause.)
そして話は「平和は実現可能だ」と続きます。
Peace is possible. It is possible. (Applause.)
で、ここから聴衆の若者をあおります。政治家は人々の支持がないとリスクをとれないから、変化を導くのは君たちなんだと。恐怖に捕らわれるよりも希望を抱け。この聖なる地でユダヤ教徒とキリスト教徒とイスラム教徒が平和に暮らす未来を信じろ。不可能だなんて思うな。イスラエルは強い国で、アメリカだって味方だ。イスラエルは現実を冷静に見つめる知恵があるけど、理想を見つめる勇気だってある、と。
And let me say this as a politician -- I can promise you this, political leaders will never take risks if the people do not push them to take some risks. You must create the change that you want to see. (Applause.) Ordinary people can accomplish extraordinary things.
I know this is possible. Look to the bridges being built in business and civil society by some of you here today. Look at the young people who've not yet learned a reason to mistrust, or those young people who've learned to overcome a legacy of mistrust that they inherited from their parents, because they simply recognize that we hold more hopes in common than fears that drive us apart. Your voices must be louder than those who would drown out hope. Your hopes must light the way forward.
Look to a future in which Jews and Muslims and Christians can all live in peace and greater prosperity in this Holy Land. (Applause.) Believe in that. And most of all, look to the future that you want for your own children -- a future in which a Jewish, democratic, vibrant state is protected and accepted for this time and for all time. (Applause.)
There will be many who say this change is not possible, but remember this -- Israel is the most powerful country in this region. Israel has the unshakeable support of the most powerful country in the world. (Applause.) Israel is not going anywhere. Israel has the wisdom to see the world as it is, but -- this is in your nature -- Israel also has the courage to see the world as it should be. (Applause.)
そして、
Sometimes, the greatest miracle is recognizing that the world can change. That's a lesson that the world has learned from the Jewish people.
最大の奇跡は世界は変えられると信じること。これは世界がユダヤの人々から学んだことだ。
かっこいい。
ただ、演説の動画をみてみると、聴衆がそんなに熱狂的に反応しているわけでもないです。実際にテロの恐怖にさらされている人たちと、私のように外野からみている人間では受け止め方が違うのかもしれません。パレスチナ問題はそんなに甘いもんじゃないんでしょうか。あと、イスラエルによるヨルダン川西岸への入植に対する批判も含めて、特段新しいことを言っているわけでもないような気がします。
そう考えると、そんなにかっこよくない気も。
2013年3月1日金曜日
イランの核開発が思うように進んでない疑惑
Foreign Affairsのサイトを眺めていたら、「イランはまだ核開発にもたついている」(Iran Is Still Botching the Bomb)という記事を見つけた。(参照) それによると、イランが核爆弾を持つことになるのは早くても2015~16年ぐらいだという報道が1月下旬に出ていたらしい。知らんかった。
イランといえば、昨年9月にイスラエルのネタニヤフ首相が「イランは2013年夏ごろには核爆弾製造に向けた最終段階に入るので、しっかりとレッドラインを引いて対応せねばならない!」と熱弁をふるったわけですが、その分析は間違っていたというわけです。へぇ。
ということで、元記事をみてみたら、McClatchyという米カリフォルニア州サクラメントを拠点とするメディアグループのサイトで、そこの取材によると、
Intelligence briefings given to McClatchy over the last two months have confirmed that various officials across Israel’s military and political echelons now think it’s unrealistic that Iran could develop a nuclear weapons arsenal before 2015. Others pushed the date back even further, to the winter of 2016.
ということらしいです。Intelligence briefingsって何だよという気はしますが、まぁ、2015年より前に核兵器を持つことは非現実的で、一部には2016年冬になるだろうという人もいるらしい。
さらにはイスラエルでは、「西側やIAEAは、『イランは核開発は継続しているんだけど、後戻りできないような状態にならないようにゆっくり進めている』と考えている」という報道もあるということです。
Writing in Israel’s Hebrew-language daily newspaper Yediot Ahronot, military correspondent Alex Fishman said, "Officials responsible for assessing the state of the Iranian nuclear program, both in the West and in the International Atomic Energy Agency, believe that while the Iranians have continued to pursue their nuclear program, they have been doing so cautiously and slowly, making sure not to cross the point of no return."
イスラエルの外交筋が「経済制裁が効いているから、核開発をゆっくり進めているんだ」と分析しているという記述もあります。
で、この記事を元にして、Foreign Affairsでは、南カリフォルニア大学のJacques Hymans准教授が核開発の遅れの理由について、
・経済制裁でダメージを受けたイランが意図的に開発のスピードを遅らせたというのなら、イラン側がその見返りを要求しないとおかしい。
・ネタニヤフ首相が今年1月の選挙を意識して、意図的にイランの核開発のスピードを速めに見積もって危機感をあおり、自らへの支持を集めようとしたんだいう説もあるかもしれないが、イスラエルがイランの核開発のスピードを速く見積もるというのは今に始まった話ではない。
・一番可能性が高いのは、イスラエルや米国の諜報機関の分析が失敗していたということだ。イランのような国にはまともに計画通りに核兵器を開発できるような体制がとれないという現実を把握すべきだ。
なんていう風に分析しています。
で、そのうえで、
イランの核開発は挑発的で、戦争の危機は現実にあるわけだから、イスラエルはきちんと状況を分析して発信せねばならない。いつもいつも「オオカミが来るぞ!」と騒いでいたら、信頼を失ってしまいますよ。
といったことを書いています。
Hymans氏によると、1992年にはイスラエルのペレス外相が「イランは1999年までに核兵器を持つだろう」なんていう風に言ったこともあったらしい。あと、米国のイラク攻撃の理由となった「イラクは大量破壊兵器を持っている」という説は間違いだったことが明らかになっている。諜報機関の分析が間違っているっていうのは珍しいことではないのかもしれません。
ただ、ちょっと前には、IAEAが「イランがIR-2mと呼ばれる遠心分離機を設置した。核開発のスピードが格段に上がる可能性がある」という内容の報告書を発表しているわけで(参照)、元記事の信憑性がどうなのかなという気もします。米国がイラクを攻撃したという事例は、「イランの核開発がどの段階であろうとも、攻撃されるときは攻撃される」という話なのかもしれません。
画像はハインマンス准教授のサイトにアップされていたもの。画像のファイル名の最後が"harajuku%20girls.jpeg"となっているので、原宿で撮影したもののようです。おもしろい人なんでしょうか。
イランといえば、昨年9月にイスラエルのネタニヤフ首相が「イランは2013年夏ごろには核爆弾製造に向けた最終段階に入るので、しっかりとレッドラインを引いて対応せねばならない!」と熱弁をふるったわけですが、その分析は間違っていたというわけです。へぇ。
ということで、元記事をみてみたら、McClatchyという米カリフォルニア州サクラメントを拠点とするメディアグループのサイトで、そこの取材によると、
Intelligence briefings given to McClatchy over the last two months have confirmed that various officials across Israel’s military and political echelons now think it’s unrealistic that Iran could develop a nuclear weapons arsenal before 2015. Others pushed the date back even further, to the winter of 2016.
ということらしいです。Intelligence briefingsって何だよという気はしますが、まぁ、2015年より前に核兵器を持つことは非現実的で、一部には2016年冬になるだろうという人もいるらしい。
さらにはイスラエルでは、「西側やIAEAは、『イランは核開発は継続しているんだけど、後戻りできないような状態にならないようにゆっくり進めている』と考えている」という報道もあるということです。
Writing in Israel’s Hebrew-language daily newspaper Yediot Ahronot, military correspondent Alex Fishman said, "Officials responsible for assessing the state of the Iranian nuclear program, both in the West and in the International Atomic Energy Agency, believe that while the Iranians have continued to pursue their nuclear program, they have been doing so cautiously and slowly, making sure not to cross the point of no return."
イスラエルの外交筋が「経済制裁が効いているから、核開発をゆっくり進めているんだ」と分析しているという記述もあります。
で、この記事を元にして、Foreign Affairsでは、南カリフォルニア大学のJacques Hymans准教授が核開発の遅れの理由について、
・経済制裁でダメージを受けたイランが意図的に開発のスピードを遅らせたというのなら、イラン側がその見返りを要求しないとおかしい。
・ネタニヤフ首相が今年1月の選挙を意識して、意図的にイランの核開発のスピードを速めに見積もって危機感をあおり、自らへの支持を集めようとしたんだいう説もあるかもしれないが、イスラエルがイランの核開発のスピードを速く見積もるというのは今に始まった話ではない。
・一番可能性が高いのは、イスラエルや米国の諜報機関の分析が失敗していたということだ。イランのような国にはまともに計画通りに核兵器を開発できるような体制がとれないという現実を把握すべきだ。
なんていう風に分析しています。
で、そのうえで、
イランの核開発は挑発的で、戦争の危機は現実にあるわけだから、イスラエルはきちんと状況を分析して発信せねばならない。いつもいつも「オオカミが来るぞ!」と騒いでいたら、信頼を失ってしまいますよ。
といったことを書いています。
Hymans氏によると、1992年にはイスラエルのペレス外相が「イランは1999年までに核兵器を持つだろう」なんていう風に言ったこともあったらしい。あと、米国のイラク攻撃の理由となった「イラクは大量破壊兵器を持っている」という説は間違いだったことが明らかになっている。諜報機関の分析が間違っているっていうのは珍しいことではないのかもしれません。
ただ、ちょっと前には、IAEAが「イランがIR-2mと呼ばれる遠心分離機を設置した。核開発のスピードが格段に上がる可能性がある」という内容の報告書を発表しているわけで(参照)、元記事の信憑性がどうなのかなという気もします。米国がイラクを攻撃したという事例は、「イランの核開発がどの段階であろうとも、攻撃されるときは攻撃される」という話なのかもしれません。
画像はハインマンス准教授のサイトにアップされていたもの。画像のファイル名の最後が"harajuku%20girls.jpeg"となっているので、原宿で撮影したもののようです。おもしろい人なんでしょうか。
2013年2月28日木曜日
イランと6カ国の協議
イランの核開発をめぐって、イランと安保理常任理事国+ドイツ(P-5+1)というメンバーによる協議がカザフスタンで行われていました。NYTに記事が出ていました。(参照) ちなみにホワイトハウスでの会見でも、取り上げられています。(参照)
この記事によると、
・イランへの経済制裁を一部だけ緩めることと引き替えに、イランの濃縮ウランを凍結(constrain)するという案について協議されている。
・3月18、19日に技術専門家による会合をイスタンブールで開く。
・4月5、6日に政治レベルでの会合をアルマティで開く。
・P-5+1は、イランがFordoのウラン濃縮施設を閉鎖するという提案を取り下げた。
・P-5+1は、イランがウラン濃縮を中止し、再開することが難しくなるような措置(低濃縮ウランを遠心分離器に運び入れる装置の一部を解体するとか)をとることを提案した。
・P-5+1とイランは、イランが20%濃縮ウランを医療目的のために保有することで合意した。
イラン交渉団のトップであるジャリリ最高安全保障委員会事務局長は会見で今回の協議について「現実的で、よりイランの主張に沿ったものだ」とし、「ターニングポイントになりえる」と話したらしい。いつもの攻撃的な口調は陰を潜めていたということです。
3月の技術専門家による会合は、イランに対して提案を再度説明するためのものです。P-5+1の側にはイランが4月の会合で、受け入れがたい反対提案をもって戻ってくるのではないかという警戒感もあるようです。また、イランに対する経済制裁の緩和には原油取引や金融取引は含まれないとのこと。
イラン経済は経済制裁によって大きなダメージを受けているわけで、イラン政府は国民に対して「きちんと交渉を有利に進めているぞ」とアピールする必要がある。P-5+1側がFordoのウラン濃縮施設の閉鎖提案を取り下げたことには、そうしたイラン政府の顔を立てるという意味あいもあるようです。そのうえで、イランがウラン濃縮を続けることを諦めて、今もっている分も医療用とするのであれば、経済制裁をちょっとだけ緩和してやってもいい、なんていう作戦なんでしょう。
厳しい経済制裁を課して、それの緩和と引き替えに相手から譲歩を引き出すという強硬戦略の重要なポイントなんだと思います。ここで上手くイランの譲歩を引き出せれば作戦成功。逆にイランの核開発に歯止めをかけられないようだったら、「経済制裁なんてやっても結局、イランは核保有国になったじゃないいか」なんていう北朝鮮みたいな話になっていく。
難しいですね。画像はイランのジャリリ事務局長。ケロロ軍曹みたいな名前ですが、アフマディネジャド大統領の100倍ぐらい男前な気がします。
この記事によると、
・イランへの経済制裁を一部だけ緩めることと引き替えに、イランの濃縮ウランを凍結(constrain)するという案について協議されている。
・3月18、19日に技術専門家による会合をイスタンブールで開く。
・4月5、6日に政治レベルでの会合をアルマティで開く。
・P-5+1は、イランがFordoのウラン濃縮施設を閉鎖するという提案を取り下げた。
・P-5+1は、イランがウラン濃縮を中止し、再開することが難しくなるような措置(低濃縮ウランを遠心分離器に運び入れる装置の一部を解体するとか)をとることを提案した。
・P-5+1とイランは、イランが20%濃縮ウランを医療目的のために保有することで合意した。
イラン交渉団のトップであるジャリリ最高安全保障委員会事務局長は会見で今回の協議について「現実的で、よりイランの主張に沿ったものだ」とし、「ターニングポイントになりえる」と話したらしい。いつもの攻撃的な口調は陰を潜めていたということです。
3月の技術専門家による会合は、イランに対して提案を再度説明するためのものです。P-5+1の側にはイランが4月の会合で、受け入れがたい反対提案をもって戻ってくるのではないかという警戒感もあるようです。また、イランに対する経済制裁の緩和には原油取引や金融取引は含まれないとのこと。
イラン経済は経済制裁によって大きなダメージを受けているわけで、イラン政府は国民に対して「きちんと交渉を有利に進めているぞ」とアピールする必要がある。P-5+1側がFordoのウラン濃縮施設の閉鎖提案を取り下げたことには、そうしたイラン政府の顔を立てるという意味あいもあるようです。そのうえで、イランがウラン濃縮を続けることを諦めて、今もっている分も医療用とするのであれば、経済制裁をちょっとだけ緩和してやってもいい、なんていう作戦なんでしょう。
厳しい経済制裁を課して、それの緩和と引き替えに相手から譲歩を引き出すという強硬戦略の重要なポイントなんだと思います。ここで上手くイランの譲歩を引き出せれば作戦成功。逆にイランの核開発に歯止めをかけられないようだったら、「経済制裁なんてやっても結局、イランは核保有国になったじゃないいか」なんていう北朝鮮みたいな話になっていく。
難しいですね。画像はイランのジャリリ事務局長。ケロロ軍曹みたいな名前ですが、アフマディネジャド大統領の100倍ぐらい男前な気がします。
2013年2月21日木曜日
ケリー国務長官が初めての主要演説
米国のケリー国務長官が就任後初めてのちゃんとした演説をバージニア大学で行いました。第3代大統領であり、初代国務長官でもあったジェファーソン様のお膝元であります。(参照)
ネット中継を見たのですが、ケリー国務長官は思っていたよりもおじいちゃんっぽい感じがしました。調べてみたら69歳。クリントン前国務長官よりも4歳年上です。民主党の大統領候補になったのは2004年。奥さんがケチャップで有名なハインツ社のオーナーの未亡人だなんていうことが話題になったりもした人です。顔が長いのは思っていた通りでした。
演説は「外交っていうのはあまり意味がないように思われがちだけど、実はとても大事なものなんだよ」っていう話のように思えました。「イラン許すまじ!!」「北朝鮮ぶったおす!!」みたいな話じゃなかったですが、私のように外交についてあまり知識がない人間にとっては、「アメリカってこんなこと考えて外交やってんのかぁ」と勉強になる内容だったと思います。
まぁ、なんで外交が大事かっていうと、
It’s important not just in terms of the threats that we face, but the products that we buy, the goods that we sell, and the opportunity that we provide for economic growth and vitality. It’s not just about whether we’ll be compelled to send our troops to another battle, but whether we’ll be able to send our graduates into a thriving workforce. That’s why I’m here today.
ということなんだそうです。
第二次世界大戦当時、日本やドイツが米国の主要な貿易相手になると考えた人はいなかった。ニクソン大統領が米中国交を樹立したとき、中国が2番目の貿易相手になるとは誰も考えていなかった。クリントン大統領がベトナムとの国交を正常化させたときも同じ。新たに外交関係を築いて米国にとっての市場を拡大していくことが、米国内で住んでいる人たちの雇用や生活にも大きな影響を与えている。EUとの自由貿易協定やTPPなんかにもそういう意味がある。中国も同じことを考えてアフリカに投資している。米国もアフリカとの関係を強化せねばならない。
そして、新興国の経済活動を支援することで、テロ活動を抑制することもできる。
But let me emphasize: Jobs and trade are not the whole story, and nor should they be. The good work of the State Department, of USAID, is measured not only in the value of the dollar, but it’s also measured in our deepest values. We value security and stability in other parts of the world, knowing that failed states are among our greatest security threats, and new partners are our greatest assets.
The investments that we make support our efforts to counter terrorism and violent extremism wherever it flourishes. And we will continue to help countries provide their own security, use diplomacy where possible, and support those allies who take the fight to terrorists.
And remember – boy, I can’t emphasize this enough; I’m looking at a soldier here in front of me with a ribbon on his chest – deploying diplomats today is much cheaper than deploying troops tomorrow. We need to remember that. (Applause.) As Senator Lindsey Graham said, “It’s national security insurance that we’re buying.”
なんていう風に説明したりしています。
あと、今、歳出の一律削減の可能性があるけれど、そんなことになったら大変だと。これについては外交予算は全体の1%しかないんだから、カットしなくてもいいじゃないかって力説していました。
When I talk about a small investment in foreign policy in the United States, I mean it. Not so long ago, someone polled the American people and asked, “How big is our international affairs budget?” Most pegged it at 25 percent of our national budget, and they thought it ought to be pared way back to ten percent of our national budget. Let me tell you, would that that were true. I’d take ten percent in a heartbeat, folks – (laughter) – because ten percent is exactly ten times greater than what we do invest in our efforts to protect America around the world.
In fact, our whole foreign policy budget is just over one percent of our national budget. Think about it a little bit. Over one percent, a little bit more, funds all of our civilian and foreign affairs efforts – every embassy, every program that saves a child from dirty drinking water, or from AIDS, or reaches out to build a village, and bring America’s values, every person. We’re not talking about pennies on the dollar; we’re talking about one penny plus a bit, on a single dollar.
なんか、誰にむけて演説しているんだかって感じですね。
オバマ大統領が2月12日にやった一般教書演説(参照)は、聞いていてびっくりするほど外交問題に触れなかった。で、ケリー国務長官の演説はびっくりするほど経済の話をしている。こんなもんなんでしょうか。とてもイランや北朝鮮に積極的に介入していこうって感じじゃないです。
そういえばこんな発言もありました。
When we join with other nations to reduce the nuclear threat, we build partnerships that mean we don’t have to fight those battles alone. This includes working with our partners around the world in making sure that Iran never obtains a weapon that would endanger our allies and our interests.
イランや北朝鮮が核開発をやっている間は他の国々と一緒に忍耐強く経済制裁を続けて、向こうが核廃棄や民主化に動き出すつもりになったら、外交的な投資として支援するとかいうつもりなんですかね。知らんけど。
ネット中継を見たのですが、ケリー国務長官は思っていたよりもおじいちゃんっぽい感じがしました。調べてみたら69歳。クリントン前国務長官よりも4歳年上です。民主党の大統領候補になったのは2004年。奥さんがケチャップで有名なハインツ社のオーナーの未亡人だなんていうことが話題になったりもした人です。顔が長いのは思っていた通りでした。
演説は「外交っていうのはあまり意味がないように思われがちだけど、実はとても大事なものなんだよ」っていう話のように思えました。「イラン許すまじ!!」「北朝鮮ぶったおす!!」みたいな話じゃなかったですが、私のように外交についてあまり知識がない人間にとっては、「アメリカってこんなこと考えて外交やってんのかぁ」と勉強になる内容だったと思います。
まぁ、なんで外交が大事かっていうと、
It’s important not just in terms of the threats that we face, but the products that we buy, the goods that we sell, and the opportunity that we provide for economic growth and vitality. It’s not just about whether we’ll be compelled to send our troops to another battle, but whether we’ll be able to send our graduates into a thriving workforce. That’s why I’m here today.
ということなんだそうです。
第二次世界大戦当時、日本やドイツが米国の主要な貿易相手になると考えた人はいなかった。ニクソン大統領が米中国交を樹立したとき、中国が2番目の貿易相手になるとは誰も考えていなかった。クリントン大統領がベトナムとの国交を正常化させたときも同じ。新たに外交関係を築いて米国にとっての市場を拡大していくことが、米国内で住んでいる人たちの雇用や生活にも大きな影響を与えている。EUとの自由貿易協定やTPPなんかにもそういう意味がある。中国も同じことを考えてアフリカに投資している。米国もアフリカとの関係を強化せねばならない。
そして、新興国の経済活動を支援することで、テロ活動を抑制することもできる。
But let me emphasize: Jobs and trade are not the whole story, and nor should they be. The good work of the State Department, of USAID, is measured not only in the value of the dollar, but it’s also measured in our deepest values. We value security and stability in other parts of the world, knowing that failed states are among our greatest security threats, and new partners are our greatest assets.
The investments that we make support our efforts to counter terrorism and violent extremism wherever it flourishes. And we will continue to help countries provide their own security, use diplomacy where possible, and support those allies who take the fight to terrorists.
And remember – boy, I can’t emphasize this enough; I’m looking at a soldier here in front of me with a ribbon on his chest – deploying diplomats today is much cheaper than deploying troops tomorrow. We need to remember that. (Applause.) As Senator Lindsey Graham said, “It’s national security insurance that we’re buying.”
なんていう風に説明したりしています。
あと、今、歳出の一律削減の可能性があるけれど、そんなことになったら大変だと。これについては外交予算は全体の1%しかないんだから、カットしなくてもいいじゃないかって力説していました。
When I talk about a small investment in foreign policy in the United States, I mean it. Not so long ago, someone polled the American people and asked, “How big is our international affairs budget?” Most pegged it at 25 percent of our national budget, and they thought it ought to be pared way back to ten percent of our national budget. Let me tell you, would that that were true. I’d take ten percent in a heartbeat, folks – (laughter) – because ten percent is exactly ten times greater than what we do invest in our efforts to protect America around the world.
In fact, our whole foreign policy budget is just over one percent of our national budget. Think about it a little bit. Over one percent, a little bit more, funds all of our civilian and foreign affairs efforts – every embassy, every program that saves a child from dirty drinking water, or from AIDS, or reaches out to build a village, and bring America’s values, every person. We’re not talking about pennies on the dollar; we’re talking about one penny plus a bit, on a single dollar.
なんか、誰にむけて演説しているんだかって感じですね。
オバマ大統領が2月12日にやった一般教書演説(参照)は、聞いていてびっくりするほど外交問題に触れなかった。で、ケリー国務長官の演説はびっくりするほど経済の話をしている。こんなもんなんでしょうか。とてもイランや北朝鮮に積極的に介入していこうって感じじゃないです。
そういえばこんな発言もありました。
When we join with other nations to reduce the nuclear threat, we build partnerships that mean we don’t have to fight those battles alone. This includes working with our partners around the world in making sure that Iran never obtains a weapon that would endanger our allies and our interests.
イランや北朝鮮が核開発をやっている間は他の国々と一緒に忍耐強く経済制裁を続けて、向こうが核廃棄や民主化に動き出すつもりになったら、外交的な投資として支援するとかいうつもりなんですかね。知らんけど。
2013年2月20日水曜日
太陽政策しかないんじゃないのっていう話
Foreign Affairsに載っていた、ジョージタウン大学のVictor Cha教授の文章も文教授が言うような太陽政策の効果を疑問視しています。(参照)
Cha教授によると、北朝鮮が民主化するかもなんていう期待は1994年に金正日体制ができたときにもあった。金正日は中国を何度か訪問して、中国による市場主義の導入と経済発展を目にしたし、その度にマスコミや学者は「民主化するぞ」なんて喜んだけど、その期待は裏切られ、北朝鮮はミサイル発射や核実験を繰り返してきた。しかも北朝鮮は2010年には韓国の哨戒艦を魚雷で沈め、延坪島を砲撃した。韓国政府や国民は北朝鮮との交渉に飽き飽きしているというわけです。
Cha教授はさらに、オバマ政権は北朝鮮に非核化を求め続け、中国は北朝鮮を本気で支援しなくなっていることを指摘します。また金正恩は軍部を完全には掌握しておらず、国民の間にも経済状況に対する不満があるため、何かしらの実績をもって自分の力を誇示する必要があり、そのため、原理的な主体思想に向かっているともしています。で、こうした状況の行き着く先は、
Toward a dead end for Kim, I think, and perhaps a nightmare loose-nukes scenario for the United States.
だそうです。
つまり、北朝鮮では軍部や国民の間に金正恩体制への不満が高まっているんだけど、度重なる挑発行為の結果、韓国からも米国からも中国からも支援を受けることが難しくなっている。だから金正恩は自らの力を誇示して国内を安定化させようとするんだけれど、それは若くて実績のない指導者には難しいことで、結局は金正恩体制が崩壊して、核技術が流出していく。文章は"if it does, Obama may find his pivot to Asia absorbed by a new crisis on the Korean peninsula."なんていう言葉で締めくくられています。こりゃ困ったことです。北朝鮮が韓国などからの太陽政策を政策を受け入れなかった結果、自らを追い詰めてしまって、朝鮮半島情勢が不安定化するというシナリオです。
で、こういう状態をなんとかできないかということで、Cate InstituteのTed Carpenterは、ワシントンポストで、「あまり北朝鮮を追い詰めるな」と言っています。Cate Instituteは小さな政府を追及するリバタリアンが集まるシンクタンクらしいです。
Carpenterは、経済制裁のような強硬策をとっても北朝鮮の核開発の野望は止められなかったと言います。北朝鮮は中国が本気にならない限り完全に孤立することはないし、中国は米国主導の東アジアとの緩衝地帯である北朝鮮を完全に見捨てることはない。北朝鮮はそのことを知っているので、いつまでも核開発を続けることができるというわけです。だから、米国は核保有国である北朝鮮とつきあっていくしかない。核保有国をほったらかしにするぐらいだったら、交渉によってコントロールの余地を残しておく方がいい。そのためには経済制裁を緩和してもいい。最終的な目標は、北朝鮮が核保有国として責任ある行動をとることに意義を見いださせることであるとのことです。
U.S. leaders should reverse course on economic sanctions, ending most unilateral measures — which bar virtually all economic contact except for U.S. humanitarian aid — and leading, together with Beijing, an effort to roll back multilateral sanctions. The ultimate goal should be to give North Korea a stake in behaving responsibly as a nuclear power.
まぁ、太陽政策が効くのかどうか分からないけど、強硬策は通用しないし、それどころか朝鮮半島の不安定化に結びつく可能性があるんだったら、太陽政策でいった方がマシだよねっていう議論は分からんでもないな。国際社会がこれ以上の経済制裁をとるっていっても、それほど新しい手段があるわけでもないだろうし、中国は北朝鮮を本気で支援するわけでないにしても、完全に見捨てるわけでもないわけだから、金正恩が国内へのアピールのために核開発を続ける可能性は高いんだと思う。だとしたら、変に体制が崩壊したりしないためにも北朝鮮との経済関係を築くのが得策かも。変に体制が崩壊して、北アフリカみたいになっても困るわけじゃないですか。あと、北朝鮮を追い詰めた結果、「金正恩が暴発」なんていう事態になったら目もあてられない。正直、北朝鮮が民主化してもしなくても、人権侵害があってもなくても、日本の平和が維持されるのが一番かなって。
まぁ、北朝鮮の挑発に屈するみたいでシャクだっていう気持ちもありますけど、名を捨てて実を取るって感じでしょうか。どうなんでしょう。
画像はTed Carpenterさん。
Cha教授によると、北朝鮮が民主化するかもなんていう期待は1994年に金正日体制ができたときにもあった。金正日は中国を何度か訪問して、中国による市場主義の導入と経済発展を目にしたし、その度にマスコミや学者は「民主化するぞ」なんて喜んだけど、その期待は裏切られ、北朝鮮はミサイル発射や核実験を繰り返してきた。しかも北朝鮮は2010年には韓国の哨戒艦を魚雷で沈め、延坪島を砲撃した。韓国政府や国民は北朝鮮との交渉に飽き飽きしているというわけです。
Cha教授はさらに、オバマ政権は北朝鮮に非核化を求め続け、中国は北朝鮮を本気で支援しなくなっていることを指摘します。また金正恩は軍部を完全には掌握しておらず、国民の間にも経済状況に対する不満があるため、何かしらの実績をもって自分の力を誇示する必要があり、そのため、原理的な主体思想に向かっているともしています。で、こうした状況の行き着く先は、
Toward a dead end for Kim, I think, and perhaps a nightmare loose-nukes scenario for the United States.
だそうです。
つまり、北朝鮮では軍部や国民の間に金正恩体制への不満が高まっているんだけど、度重なる挑発行為の結果、韓国からも米国からも中国からも支援を受けることが難しくなっている。だから金正恩は自らの力を誇示して国内を安定化させようとするんだけれど、それは若くて実績のない指導者には難しいことで、結局は金正恩体制が崩壊して、核技術が流出していく。文章は"if it does, Obama may find his pivot to Asia absorbed by a new crisis on the Korean peninsula."なんていう言葉で締めくくられています。こりゃ困ったことです。北朝鮮が韓国などからの太陽政策を政策を受け入れなかった結果、自らを追い詰めてしまって、朝鮮半島情勢が不安定化するというシナリオです。
で、こういう状態をなんとかできないかということで、Cate InstituteのTed Carpenterは、ワシントンポストで、「あまり北朝鮮を追い詰めるな」と言っています。Cate Instituteは小さな政府を追及するリバタリアンが集まるシンクタンクらしいです。
Carpenterは、経済制裁のような強硬策をとっても北朝鮮の核開発の野望は止められなかったと言います。北朝鮮は中国が本気にならない限り完全に孤立することはないし、中国は米国主導の東アジアとの緩衝地帯である北朝鮮を完全に見捨てることはない。北朝鮮はそのことを知っているので、いつまでも核開発を続けることができるというわけです。だから、米国は核保有国である北朝鮮とつきあっていくしかない。核保有国をほったらかしにするぐらいだったら、交渉によってコントロールの余地を残しておく方がいい。そのためには経済制裁を緩和してもいい。最終的な目標は、北朝鮮が核保有国として責任ある行動をとることに意義を見いださせることであるとのことです。
U.S. leaders should reverse course on economic sanctions, ending most unilateral measures — which bar virtually all economic contact except for U.S. humanitarian aid — and leading, together with Beijing, an effort to roll back multilateral sanctions. The ultimate goal should be to give North Korea a stake in behaving responsibly as a nuclear power.
まぁ、太陽政策が効くのかどうか分からないけど、強硬策は通用しないし、それどころか朝鮮半島の不安定化に結びつく可能性があるんだったら、太陽政策でいった方がマシだよねっていう議論は分からんでもないな。国際社会がこれ以上の経済制裁をとるっていっても、それほど新しい手段があるわけでもないだろうし、中国は北朝鮮を本気で支援するわけでないにしても、完全に見捨てるわけでもないわけだから、金正恩が国内へのアピールのために核開発を続ける可能性は高いんだと思う。だとしたら、変に体制が崩壊したりしないためにも北朝鮮との経済関係を築くのが得策かも。変に体制が崩壊して、北アフリカみたいになっても困るわけじゃないですか。あと、北朝鮮を追い詰めた結果、「金正恩が暴発」なんていう事態になったら目もあてられない。正直、北朝鮮が民主化してもしなくても、人権侵害があってもなくても、日本の平和が維持されるのが一番かなって。
まぁ、北朝鮮の挑発に屈するみたいでシャクだっていう気持ちもありますけど、名を捨てて実を取るって感じでしょうか。どうなんでしょう。
画像はTed Carpenterさん。
太陽政策は効くのかっていう話
前のエントリーで北朝鮮に対して経済制裁なんかやったってどうせ効かないんだから、もっと経済関係を深める方向でいくべきなんじゃないかという人もいることに触れましたが、もうちょっと調べておいた。
北朝鮮との経済関係を深めるといえば「太陽政策」っていう言葉が思いつく。1998~2008年にかけて韓国の金大中政権や盧武鉉政権でとられたりしたそうで、WSJのブログにその政策アドバイザーだった人のインタビュー記事的なものが載ってました。(参照) 延世大学教授の文正仁(Moon Chung-in)という人です。
金大中、盧武鉉時代の太陽政策に対しては「結局、北朝鮮による核開発を止められなかった」という評価があるのですが、文教授は「ブッシュ政権の誕生のせいで太陽政策の効果は弱まったし、李明博政権は太陽政策の成果を潰してしまった」と反論します。そのうえで、やっぱり北朝鮮と経済的な関係を強めることで、北朝鮮は自然と民主化への道を進むのだと説いています。実際、北朝鮮では以前に比べて「お金」が持つ意味が大きくなっているそうで、計画経済下では意味を持たないはずのお金が重要になっているのは、外国との交流の結果、北朝鮮が変化しつつあることの証拠だというわけです。
金正恩は、経済の疲弊で苦しんでいる国民を満足させないと、体制を維持できない。だから北朝鮮に対して、状況を克服するには外国との関係をもつことが重要だということを北朝鮮に分からせる。そうすれば、北朝鮮が経済協力の申し出を断ることはできないという読みです。
で、文教授は北朝鮮に対して、このように対話を持ちかけるべきだとします。
Our approach should be to say something like this to the North Korean leadership: ‘I don’t care about the North Korean dynasty. It’s your problem. You could be like Deng Xiaoping. We want that kind of leader. But you could wind up like Ceausescu. That’s your problem. For us, we want peace with you. We want economic cooperation. We will work hard to create a peaceful environment in which you can pursue that kind of project without worry and anxiety.’
つまり北朝鮮の国内体制については文句は言わない。北朝鮮が民主化せず、人権侵害を続けていたとしても、北朝鮮との平和的な関係を維持するためには目をつぶって経済関係の強化を持ちかける。「鄧小平になるかチャウシェスクになるかは、そちらにまかせるけど、こちらとは仲良くやりましょう」というわけですね。ほほぅ。
でも、こうした太陽政策に対しては、「そんなに上手くいくかいな」という声もある。American Enterprise InstituteのMichel AuslinはWSJで、"There is no indication that Pyongyang will seriously consider giving up its weapons programs for any amount of aid."と言っています。さらに米国は北朝鮮に対して、「米国や同盟国に大量破壊兵器なんか使いやがったら、ぶっつぶすぞ」と宣言したうえで、北朝鮮との非核化交渉を止め、北朝鮮が国内での人権侵害を止めることを条件に外交交渉を始めるように明言すべきだとしています。
making a clear declaration that any use of weapons of mass destruction by North Korea against America or its allies would be an act of war resulting in a devastating U.S. response to end the Kim regime's existence. Washington should end all further negotiations on denuclearization with Pyongyang, but it should also make public its willingness to engage in regular diplomatic discussions once the regime's human rights abuses stop.
文教授とは正反対ですね。米国にとって民主主義の拡大は非常に重要だということでしょう。
長いんで続きます。画像は文正仁教授。
北朝鮮との経済関係を深めるといえば「太陽政策」っていう言葉が思いつく。1998~2008年にかけて韓国の金大中政権や盧武鉉政権でとられたりしたそうで、WSJのブログにその政策アドバイザーだった人のインタビュー記事的なものが載ってました。(参照) 延世大学教授の文正仁(Moon Chung-in)という人です。
金大中、盧武鉉時代の太陽政策に対しては「結局、北朝鮮による核開発を止められなかった」という評価があるのですが、文教授は「ブッシュ政権の誕生のせいで太陽政策の効果は弱まったし、李明博政権は太陽政策の成果を潰してしまった」と反論します。そのうえで、やっぱり北朝鮮と経済的な関係を強めることで、北朝鮮は自然と民主化への道を進むのだと説いています。実際、北朝鮮では以前に比べて「お金」が持つ意味が大きくなっているそうで、計画経済下では意味を持たないはずのお金が重要になっているのは、外国との交流の結果、北朝鮮が変化しつつあることの証拠だというわけです。
金正恩は、経済の疲弊で苦しんでいる国民を満足させないと、体制を維持できない。だから北朝鮮に対して、状況を克服するには外国との関係をもつことが重要だということを北朝鮮に分からせる。そうすれば、北朝鮮が経済協力の申し出を断ることはできないという読みです。
で、文教授は北朝鮮に対して、このように対話を持ちかけるべきだとします。
Our approach should be to say something like this to the North Korean leadership: ‘I don’t care about the North Korean dynasty. It’s your problem. You could be like Deng Xiaoping. We want that kind of leader. But you could wind up like Ceausescu. That’s your problem. For us, we want peace with you. We want economic cooperation. We will work hard to create a peaceful environment in which you can pursue that kind of project without worry and anxiety.’
つまり北朝鮮の国内体制については文句は言わない。北朝鮮が民主化せず、人権侵害を続けていたとしても、北朝鮮との平和的な関係を維持するためには目をつぶって経済関係の強化を持ちかける。「鄧小平になるかチャウシェスクになるかは、そちらにまかせるけど、こちらとは仲良くやりましょう」というわけですね。ほほぅ。
でも、こうした太陽政策に対しては、「そんなに上手くいくかいな」という声もある。American Enterprise InstituteのMichel AuslinはWSJで、"There is no indication that Pyongyang will seriously consider giving up its weapons programs for any amount of aid."と言っています。さらに米国は北朝鮮に対して、「米国や同盟国に大量破壊兵器なんか使いやがったら、ぶっつぶすぞ」と宣言したうえで、北朝鮮との非核化交渉を止め、北朝鮮が国内での人権侵害を止めることを条件に外交交渉を始めるように明言すべきだとしています。
making a clear declaration that any use of weapons of mass destruction by North Korea against America or its allies would be an act of war resulting in a devastating U.S. response to end the Kim regime's existence. Washington should end all further negotiations on denuclearization with Pyongyang, but it should also make public its willingness to engage in regular diplomatic discussions once the regime's human rights abuses stop.
文教授とは正反対ですね。米国にとって民主主義の拡大は非常に重要だということでしょう。
長いんで続きます。画像は文正仁教授。
2013年2月18日月曜日
米国の対北朝鮮経済制裁
じゃぁ、米国による北朝鮮への経済制裁ってどんなものなのか。対イランの場合、米国が2012年2月にやった経済制裁がイラン経済にダメージを与えているなんていう話もあった(参照)ので、ちょっと調べておいた。
米国の北朝鮮に対する経済制裁っていうのは歴史が長い。国務省のサイトには、
The United States imposed a near total economic embargo on North Korea in 1950 when North Korea attacked the South. Over the following years, some U.S. sanctions were eased, but others were imposed. U.S. economic interaction with North Korea remains minimal.
なんて書いてあって、随分とざっくりとした説明しかしていない。
ただ、財務省のサイトのこのページにあるSanctions BrochuresというPDFファイルをみると、
2008年6月26日のExecutive Order 13466(参照)
2010年8月30日のExecutive Order 13551(参照)
2011年4月18日のExecutive Order 13570(参照)
なんかが大切なんじゃないかという気がするので、このあたりのことについて調べることにする。
まず、最初のE.O.13466(2008)ですけど、国連安保理の1度目の経済制裁決議の約2年後に当時のブッシュ大統領が出したものです。内容は、
・2000年6月16日に凍結され、この大統領令直前まで凍結されていた、北朝鮮および北朝鮮人が保有する全ての資産と利息を凍結する。
・米国の個人や団体は北朝鮮籍の船を保有してはならない。
ぐらいのもんです。資産の凍結は2000年6月16日からやってたみたいですね。
で、次のE.O.13551(2010)ですが、これは国連安保理の2度目の経済制裁決議の約1年後、オバマ大統領が出したものです。2度にわたる核実験や2010年3月の韓国哨戒艦沈没事件、国連安保理による2度の経済制裁決議を踏まえ、先のE.O.13466(2008)を強化するものです。内容は、
・Annexで示された個人や団体、北朝鮮との武器取引に関する助言や金融取引を行っているとみなされる個人や団体、北朝鮮によるマネーロンダリングや通貨偽造、現金密輸、麻薬取引などに関わっているとみなされる個人や団体の資産や利息を凍結
というものです。
さらに次のE.O.13570(2011)は、前回のE.O.13551(2010)の約8カ月後にオバマ大統領が出したもので、
・あらゆる物品、サービス、技術を北朝鮮から米国に輸入することを禁止
するものです。
で、どんな個人や団体が資産凍結などの対象になっているかは、Specially Designated Nationals and Blocked Persons List(SDN List)に出ているそうです。(参照) sanction program別のリストで"DPRK"を検索してみると、46件ほどヒットします。
こうした対北朝鮮経済制裁を対イラン経済制裁と比べてみたいんですが、
対イラン経済制裁の強化を決めたE.O.13599では、資産凍結の対象は、
・the Government of Iran
・any Iranian financial institution, including the Central Bank of Iran
・any person determined by the Secretary of the Treasury, in consultation with the Secretary of State, to be owned or controlled by, or to have acted or purported to act for or on behalf of, directly or indirectly, any person whose property and interests in property are blocked pursuant to this order.
こんな感じ。あらゆる金融機関とかイラン中央銀行とかが明記されているところが対北朝鮮経済制裁と違うような気もしますが、そのあたりはSDNリストでカバーされているみたいな気もするので、あまり差がないような気もする。超自信なさ気な表現になっていますが。2012年2月の対イラン経済制裁が話題になったのは、日本のエネルギー企業や銀行がイランと取引関係があったからで、別に経済制裁の度合いが(対北朝鮮に比べて)すごく強くなったからというわけではないのではないか。
そういえば、ファリード・ザカリアがCNNの「GPS」で、「イランやキューバをみれば経済制裁は効かないことが分かる。またミャンマーは(ASEAN加盟国として)アジア経済とのつながりをもつなかで、民主化への道を踏み出した。だから北朝鮮に対しても経済的なつながりを強める方向をとるべきだ」とかいって、シラキュース大学と北朝鮮の大学との間で続けられているdigital information library開発について触れていました。(CNNの以前の報道) そんなことやってたのか。
なるほど。
米国の北朝鮮に対する経済制裁っていうのは歴史が長い。国務省のサイトには、
The United States imposed a near total economic embargo on North Korea in 1950 when North Korea attacked the South. Over the following years, some U.S. sanctions were eased, but others were imposed. U.S. economic interaction with North Korea remains minimal.
なんて書いてあって、随分とざっくりとした説明しかしていない。
ただ、財務省のサイトのこのページにあるSanctions BrochuresというPDFファイルをみると、
2008年6月26日のExecutive Order 13466(参照)
2010年8月30日のExecutive Order 13551(参照)
2011年4月18日のExecutive Order 13570(参照)
なんかが大切なんじゃないかという気がするので、このあたりのことについて調べることにする。
まず、最初のE.O.13466(2008)ですけど、国連安保理の1度目の経済制裁決議の約2年後に当時のブッシュ大統領が出したものです。内容は、
・2000年6月16日に凍結され、この大統領令直前まで凍結されていた、北朝鮮および北朝鮮人が保有する全ての資産と利息を凍結する。
・米国の個人や団体は北朝鮮籍の船を保有してはならない。
ぐらいのもんです。資産の凍結は2000年6月16日からやってたみたいですね。
で、次のE.O.13551(2010)ですが、これは国連安保理の2度目の経済制裁決議の約1年後、オバマ大統領が出したものです。2度にわたる核実験や2010年3月の韓国哨戒艦沈没事件、国連安保理による2度の経済制裁決議を踏まえ、先のE.O.13466(2008)を強化するものです。内容は、
・Annexで示された個人や団体、北朝鮮との武器取引に関する助言や金融取引を行っているとみなされる個人や団体、北朝鮮によるマネーロンダリングや通貨偽造、現金密輸、麻薬取引などに関わっているとみなされる個人や団体の資産や利息を凍結
というものです。
さらに次のE.O.13570(2011)は、前回のE.O.13551(2010)の約8カ月後にオバマ大統領が出したもので、
・あらゆる物品、サービス、技術を北朝鮮から米国に輸入することを禁止
するものです。
で、どんな個人や団体が資産凍結などの対象になっているかは、Specially Designated Nationals and Blocked Persons List(SDN List)に出ているそうです。(参照) sanction program別のリストで"DPRK"を検索してみると、46件ほどヒットします。
こうした対北朝鮮経済制裁を対イラン経済制裁と比べてみたいんですが、
対イラン経済制裁の強化を決めたE.O.13599では、資産凍結の対象は、
・the Government of Iran
・any Iranian financial institution, including the Central Bank of Iran
・any person determined by the Secretary of the Treasury, in consultation with the Secretary of State, to be owned or controlled by, or to have acted or purported to act for or on behalf of, directly or indirectly, any person whose property and interests in property are blocked pursuant to this order.
こんな感じ。あらゆる金融機関とかイラン中央銀行とかが明記されているところが対北朝鮮経済制裁と違うような気もしますが、そのあたりはSDNリストでカバーされているみたいな気もするので、あまり差がないような気もする。超自信なさ気な表現になっていますが。2012年2月の対イラン経済制裁が話題になったのは、日本のエネルギー企業や銀行がイランと取引関係があったからで、別に経済制裁の度合いが(対北朝鮮に比べて)すごく強くなったからというわけではないのではないか。
そういえば、ファリード・ザカリアがCNNの「GPS」で、「イランやキューバをみれば経済制裁は効かないことが分かる。またミャンマーは(ASEAN加盟国として)アジア経済とのつながりをもつなかで、民主化への道を踏み出した。だから北朝鮮に対しても経済的なつながりを強める方向をとるべきだ」とかいって、シラキュース大学と北朝鮮の大学との間で続けられているdigital information library開発について触れていました。(CNNの以前の報道) そんなことやってたのか。
なるほど。
2013年2月17日日曜日
国連安保理決議による北朝鮮への経済制裁
北朝鮮がロケットを発射してミサイル技術の実験をしたり、核実験をやったりしている。で、国際社会としては経済制裁でプレッシャーをかけたいんだけど、いくらやってもあんまり効果がないらしい。なんだかよく分らないので、北朝鮮に対してどんな経済制裁が行われているのか調べておいた。国連安保理ベースで。
国連安保理は1月22日の安保理決議2087で対北朝鮮経済制裁の強化を決めています。(参照)
このなかに、
4. Reaffirms its current sanctions measures contained in resolutions 1718(2006) and 1874 (2009);
というパラグラフがありまして、現在の経済制裁は2006年の安保理決議1718と、2009年の安保理決議1874が元になっていると分ります。で、この二つの安保理決議がどういう内容だったかを調べてみた。
まず安保理決議1718。(参照) 2006年10月14日の決議です。北朝鮮はこの年の7月5日にミサイル発射実験、10月9日に初めての核実験を行っています。
決議は国連憲章7章(ACTION WITH RESPECT TO THREATS TO THE PEACE, BREACHES OF THE PEACE, AND ACTS OF AGGRESSION)の41条に基づいたものです。
41条は、
"The Security Council may decide what measures not involving the use of armed force are to be employed to give effect to its decisions, and it may call upon the Members of the United Nations to apply such measures. These may include complete or partial interruption of economic relations and of rail, sea, air, postal, telegraphic, radio, and other means of communication, and the severance of diplomatic relations."
という文言で、決議の実効性を高めるために、軍事力行使以外の、経済関係や交通、運輸、通信、放送などの封鎖や外交圧力といった方法をとることができるというものです。
で、安保理決議1718でどんな経済制裁をやるのかは8パラ以降に書かれていまして、
・加盟国は北朝鮮への物品の供給や販売、輸送を行わないよう行動する。禁止される物品は、戦車、戦闘機、ヘリ、艦船、ミサイル、関連部品など。および贅沢品
・北朝鮮は、上記の物品の輸出を止め、加盟国は上記の物品を北朝鮮から調達することを禁止する。
・加盟国は、上記の物品の製造、メンテナンスに関連する技術や訓練などを北朝鮮に供給したり、北朝鮮から調達することを禁止する。
・加盟国は、北朝鮮の核兵器や大量破壊兵器などに関連すると認められる個人や団体などが保有している金融資産などを凍結する。
・加盟国は、北朝鮮の核兵器や大量破壊兵器などに関連すると認められる個人や家族が、自国内に入ることを妨げるための必要な措置をとる。ただし、自国民が自国に入ることは妨げない。
・加盟国が、上記の項目が遵守されるようにするため、必要に応じて北朝鮮に持ち込まれる貨物や、北朝鮮から運び出される貨物に対する検査を行うために協調するよう求める。
・金融資産などの凍結については、食糧や医薬品など基本的な生活に関わるものなどは除外。
・北朝鮮関連の個人や家族の入国禁止については、人道的活動や宗教活動などと認められるものは除外。
・輸出入禁止の対象となる物品や、金融資産凍結の対象となる個人や団体の詳細は、安保理か新たに設立される委員会で決める。
ざっとこんな感じです。結構いろいろやってます。
で、次は2009年6月12日の安保理決議1874。(参照) 北朝鮮が4月5日にミサイル発射、5月25日に核実験を行ったことを受けたものです。これも国連憲章7章41条に基づいています。
内容は、
・北朝鮮による物品輸出や、北朝鮮からの物品輸入の禁止の対象を、あらゆる武器や関連品、送金、技術的な訓練などに拡大。
・北朝鮮への物品供給や販売の禁止の対象を、あらゆる武器や関連品、送金、技術的な訓練などに拡大。ただし小型の武器などは例外。
・加盟国に対して、禁止されている物品が含まれていると疑われるあらゆる荷物を検査するよう求める。
・加盟国に対して、禁止されている物品を運んでいると疑われるあらゆる船を検査するよう求める。
・加盟国が、禁止されている物品を押収し、破壊することを認める。
・加盟国は、禁止されている物品を運んでいると疑われる北朝鮮の船に対して、燃料補給などを行うことを禁じる。ただし、合法的な経済活動に影響を与えることを目的とはしない。
・加盟国に対して、北朝鮮の核開発などに使われる可能性がある金融資産に関連する金融サービスや送金を禁止するよう求める。
・加盟国に対して、北朝鮮への新たな経済支援を行わないように求める。人道的支援は例外。
という感じ。禁輸される物品が拡大されて、検査体制が強化されて、送金なども停止されたといった内容です。
で、次が冒頭で書いた国連決議2087。北朝鮮が2012年12月12日にミサイル発射実験を行ったことを受け、13年1月22日に採択されました。北朝鮮はその後、2月12日に3度目の核実験もやっています。
内容は、
・禁輸品や資産凍結の対象となる個人や組織を追加。
・船に対する検査を拒否された場合の対応策を決めるための委員会を新設する。
・金融取引の禁止措置をのがれて現金(bulk cash)が北朝鮮に持ち込まれていることを残念に思う。
ぐらい。なんかあまり内容がないです。もうやれることは言っちゃったし、やろうといったことは守られていないし、っていう気分なんでしょうか。この決議は国連憲章7章には基づいていないです。なんか無力感。
ちなみに、安保理決議1718で設立が決まった委員会はこちらです。禁輸品とか、資産凍結の対象となっている組織なんかのリストもこのサイトからリンクが張られている。もっと沢山の個人や団体がリストアップされているのかと思っていたのですが、なんかあんまり多くないような気がします。
画像は北朝鮮が2012年12月12日に打ち上げたロケット。
国連安保理は1月22日の安保理決議2087で対北朝鮮経済制裁の強化を決めています。(参照)
このなかに、
4. Reaffirms its current sanctions measures contained in resolutions 1718(2006) and 1874 (2009);
というパラグラフがありまして、現在の経済制裁は2006年の安保理決議1718と、2009年の安保理決議1874が元になっていると分ります。で、この二つの安保理決議がどういう内容だったかを調べてみた。
まず安保理決議1718。(参照) 2006年10月14日の決議です。北朝鮮はこの年の7月5日にミサイル発射実験、10月9日に初めての核実験を行っています。
決議は国連憲章7章(ACTION WITH RESPECT TO THREATS TO THE PEACE, BREACHES OF THE PEACE, AND ACTS OF AGGRESSION)の41条に基づいたものです。
41条は、
"The Security Council may decide what measures not involving the use of armed force are to be employed to give effect to its decisions, and it may call upon the Members of the United Nations to apply such measures. These may include complete or partial interruption of economic relations and of rail, sea, air, postal, telegraphic, radio, and other means of communication, and the severance of diplomatic relations."
という文言で、決議の実効性を高めるために、軍事力行使以外の、経済関係や交通、運輸、通信、放送などの封鎖や外交圧力といった方法をとることができるというものです。
で、安保理決議1718でどんな経済制裁をやるのかは8パラ以降に書かれていまして、
・加盟国は北朝鮮への物品の供給や販売、輸送を行わないよう行動する。禁止される物品は、戦車、戦闘機、ヘリ、艦船、ミサイル、関連部品など。および贅沢品
・北朝鮮は、上記の物品の輸出を止め、加盟国は上記の物品を北朝鮮から調達することを禁止する。
・加盟国は、上記の物品の製造、メンテナンスに関連する技術や訓練などを北朝鮮に供給したり、北朝鮮から調達することを禁止する。
・加盟国は、北朝鮮の核兵器や大量破壊兵器などに関連すると認められる個人や団体などが保有している金融資産などを凍結する。
・加盟国は、北朝鮮の核兵器や大量破壊兵器などに関連すると認められる個人や家族が、自国内に入ることを妨げるための必要な措置をとる。ただし、自国民が自国に入ることは妨げない。
・加盟国が、上記の項目が遵守されるようにするため、必要に応じて北朝鮮に持ち込まれる貨物や、北朝鮮から運び出される貨物に対する検査を行うために協調するよう求める。
・金融資産などの凍結については、食糧や医薬品など基本的な生活に関わるものなどは除外。
・北朝鮮関連の個人や家族の入国禁止については、人道的活動や宗教活動などと認められるものは除外。
・輸出入禁止の対象となる物品や、金融資産凍結の対象となる個人や団体の詳細は、安保理か新たに設立される委員会で決める。
ざっとこんな感じです。結構いろいろやってます。
で、次は2009年6月12日の安保理決議1874。(参照) 北朝鮮が4月5日にミサイル発射、5月25日に核実験を行ったことを受けたものです。これも国連憲章7章41条に基づいています。
内容は、
・北朝鮮による物品輸出や、北朝鮮からの物品輸入の禁止の対象を、あらゆる武器や関連品、送金、技術的な訓練などに拡大。
・北朝鮮への物品供給や販売の禁止の対象を、あらゆる武器や関連品、送金、技術的な訓練などに拡大。ただし小型の武器などは例外。
・加盟国に対して、禁止されている物品が含まれていると疑われるあらゆる荷物を検査するよう求める。
・加盟国に対して、禁止されている物品を運んでいると疑われるあらゆる船を検査するよう求める。
・加盟国が、禁止されている物品を押収し、破壊することを認める。
・加盟国は、禁止されている物品を運んでいると疑われる北朝鮮の船に対して、燃料補給などを行うことを禁じる。ただし、合法的な経済活動に影響を与えることを目的とはしない。
・加盟国に対して、北朝鮮の核開発などに使われる可能性がある金融資産に関連する金融サービスや送金を禁止するよう求める。
・加盟国に対して、北朝鮮への新たな経済支援を行わないように求める。人道的支援は例外。
という感じ。禁輸される物品が拡大されて、検査体制が強化されて、送金なども停止されたといった内容です。
で、次が冒頭で書いた国連決議2087。北朝鮮が2012年12月12日にミサイル発射実験を行ったことを受け、13年1月22日に採択されました。北朝鮮はその後、2月12日に3度目の核実験もやっています。
内容は、
・禁輸品や資産凍結の対象となる個人や組織を追加。
・船に対する検査を拒否された場合の対応策を決めるための委員会を新設する。
・金融取引の禁止措置をのがれて現金(bulk cash)が北朝鮮に持ち込まれていることを残念に思う。
ぐらい。なんかあまり内容がないです。もうやれることは言っちゃったし、やろうといったことは守られていないし、っていう気分なんでしょうか。この決議は国連憲章7章には基づいていないです。なんか無力感。
ちなみに、安保理決議1718で設立が決まった委員会はこちらです。禁輸品とか、資産凍結の対象となっている組織なんかのリストもこのサイトからリンクが張られている。もっと沢山の個人や団体がリストアップされているのかと思っていたのですが、なんかあんまり多くないような気がします。
画像は北朝鮮が2012年12月12日に打ち上げたロケット。
2013年2月14日木曜日
オバマケアの合憲性
最高裁のことを調べていて、「そういえば去年の6月ごろになんか大きな判決があったな」と思い出した。でも何の裁判だったか覚えていない。で、ちょっと検索してみたら、2012年6月28日にPatient Protection and Affordable Care Act(ACA)の合憲性を問う裁判がありました。そうそう、それそれ。オバマケアのやつでした。ということで改めて調べておいた。
これは、National Federation of Independent Business v. Sebeliusという裁判。判決文はこちら。
オバマ政権は2010年、医療保険に入っていないせいで医療費を払えない無保険者をなくそうとして、ACAを成立させます。オバマ政権1期目の最大の成果とされるこの法律ですけど、2つの点で合憲性が問われました。
ひとつめは、個人に医療保険への加入を義務づけ、2014年以降、保険に入っていない個人に対して"shared responsibility payment"の支払いを求めるという点。ACAでは「罰金」として位置づけられています。連邦議会が個人に医療保険加入を強制するような法律を作ることができんのかよ、っていう問題があります。
ふたつめは医療保険制度「メディケイド」の拡大。メディケイドは低所得者や障害者、妊娠している女性、子供などを対象とした医療保険制度で、連邦政府と州政府が資金を出し合って、州が運営する仕組みになっている。ACAは州に対してメディケイドがカバーする対象を、収入が貧困レベルの133%よりも少ない成人にまで引き上げるよう求めています。多くの州はもっと収入の低い層しかメディケイドの対象にしていなかったり、そもそも子供のいない成人は対象にしていなかったりしているので、ACAの規定に従えばメディケイドがカバーする人の数は増える。ACAは対象拡大に必要な資金は連邦政府が出すことにしていますが、もしも州が対象を拡大しない場合は、拡大に必要な資金を出さないばかりか、もともと出していた連邦政府の資金負担も止めてしまうと定めています。
こうしたACAに対して26州と個人、National Federation of Independent Businessが訴訟を起こします。第11区巡回区の控訴裁判所は、個人に対する医療保険加入の義務化について「連邦議会にそのようなことを決める権限はない」として違憲判決を下し、メディケイドの拡大については合憲との判断を下した。では、最高裁はどう判断するのっていうことですよ、問題は。判決の内容によっては、オバマ政権1期目の最大の成果がチャラになってしまうことになりかねません。
で、判決の内容なんですが、まず判決は、ACAが決めた個人に対する医療保険加入の義務化が、合衆国憲法が連邦政府に与えた「商取引を規制する権限」によって認められるという考え方を否定します。商取引を規制する権限というのは、合衆国憲法第1条8節3項で連邦議会の権限として定められている"To regulate Commerce with foreign Nations, and among the several States, and with the Indian tribes"のことです。
判決は過去の最高裁判例に従えば、この商取引を規制する権限は「すでに存在している商取引を制限する権限」のことだとします。ところが、医療保険加入の義務化は、「商取引をしていない」個人に「(医療保険加入という)商取引をする」よう強制することになり、連邦議会の権限を超えている。そんなことを認めてしまえば、連邦議会の権限は際限なく拡大してしまう恐れがあるとしています。
また判決は、医療保険加入の義務化が、合衆国憲法のNecessary and Proper Clause(第1条8節18項)によって容認されるという考え方も否定します。18項は"To make all Laws which shall be necessary and proper for carrying into Execution the foregoing Powers, and all other Powers vested by this Constitution in the Government of the United States, or in any Department or Officer thereof"という文言で、「第8節で示された権限や憲法で付与された権限を実行するために必要かつ適切な法律を作ることができる」という内容です。
判決は、18項について「連邦議会に対して憲法に付随する権限を認める」という内容であって、「憲法に列挙されている以上の独立した権限を認める」ものではないと判断します( Although the Clause gives Congress authority to “legislate on that vast mass of incidental powers which must be involved in the constitution,” it does not license the exercise of any “great substantive and independent power[s]” beyond those specifically enumerated)。医療保険加入の義務化は憲法の精神に照らして必要な措置とはいえないとして、Necessary and Proper Clauseに基づいて合憲だということはできないとします。
一方、判決は、医療保険加入の義務化は「健康保険未加入者に対して税金を課す」ことだと解釈されなければならないとします。合衆国憲法第1条8節1項で連邦議会は徴税権を認められていますから、「医療保険加入を義務づけるんじゃなくて、医療保険未加入者にshared responsibility paymentを払えと言っているだけだよ」という解釈だったら認められるかもしれないね、ということです。
で、判決はshared responsibility paymentを税金とみなせると判断します。このpaymentは「医療保険加入以外に選択肢がないというほど高額に設定されているわけではない」「医療保険への加入を忘れていたような、意図的ではない未加入者に対しても支払いが求められる」「IRSを通じて税金と同じように政府に対して支払われる」などの特徴があり、「医療保険に加入していないことを違法とみなすものではない」という判断で、ACAで「罰金」と位置づけられているものの、実際には罰金という性格からは遠く、むしろ「医療保険未加入者に対する課税」とみることができるということです。
また判決は、メディケイドの拡大について、州がメディケイドの対象を拡大しなければ、連邦政府が全ての資金負担を止めてしまうことについては違憲だと判断します。
合衆国憲法の1条8節1項は徴税権と同時に、連邦議会が合衆国の福祉のためにお金を使うことを認めていて、この権限に基づいてメディケイドのような連邦政府と州による共同の制度を作ることができる。ただ過去の判例では、州が自発的に連邦政府との共同制度に協力するかどうかという点が問題になることはある。今回の判決は、連邦議会が、州が共同制度を受け入れるよう圧力をかける目的で連邦政府の負担を止めてしまうぞと脅すことは、フェデラリズムに反することになる(When Congress threatens to terminate other grants as a means of pressuring the States to accept a Spending Clause program, the legislation runs counter to this Nation’s system of federalism)として、ACAの仕組みを批判。さらに連邦政府の負担を止めてしまうことは州にとって影響が大きく、メディケイドの拡大を受け入れざるをえない状況に追い込まれてしまう。また、ACAが求めるメディケイドの拡大は、これまでは限定的だった対象者を貧困レベルの133%未満の成人全体に拡大する劇的なものであり、それを負担停止をちらつかせて州に強制するのは違憲であるということです。ただし、ACA全体が違憲だというわけではなく、連邦政府の負担停止の部分だけが違憲だということです。
この判決については、ACAの「医療保険加入の義務化」に関する部分が合憲とされ、「メディケイド」も負担停止のところを修正すれば合憲だとみなされたわけですから、全体としては「オバマケアは合憲」と言えるんだとも思います。
ただ、最高裁の判断は「『医療保険加入の義務化』って言っても、強制するっていう意味で義務化するわけじゃなくて、『入らない人にはそれほど高くない税金をかけますよ』っていう意味なわけだし、メディケイドの拡大も州が拒否できる余地を作るんだったら、合憲って考えてもいいよ」というぐらいの内容です。shared responsibility paymentがどのぐらいの額かは知らないですけど、ACAは成立したものの、実際には医療保険に加入する人は増えないし、メディケイドの拡大に取り組む州も増えないっていう結末になるような気もする。違うんだろうか。
銃規制の話もそうですが、個人のことは個人で決めるという原則が尊重されている米国では、大統領が社会の仕組みやあり方について口出しする余地は小さいんじゃないだろうか。外交とか安全保障とかでは大きな権限があるんだろうけど。まぁ、よく分りませんが。
画像は「オバマケア」で画像検索して出てきたやつ。
これは、National Federation of Independent Business v. Sebeliusという裁判。判決文はこちら。
オバマ政権は2010年、医療保険に入っていないせいで医療費を払えない無保険者をなくそうとして、ACAを成立させます。オバマ政権1期目の最大の成果とされるこの法律ですけど、2つの点で合憲性が問われました。
ひとつめは、個人に医療保険への加入を義務づけ、2014年以降、保険に入っていない個人に対して"shared responsibility payment"の支払いを求めるという点。ACAでは「罰金」として位置づけられています。連邦議会が個人に医療保険加入を強制するような法律を作ることができんのかよ、っていう問題があります。
ふたつめは医療保険制度「メディケイド」の拡大。メディケイドは低所得者や障害者、妊娠している女性、子供などを対象とした医療保険制度で、連邦政府と州政府が資金を出し合って、州が運営する仕組みになっている。ACAは州に対してメディケイドがカバーする対象を、収入が貧困レベルの133%よりも少ない成人にまで引き上げるよう求めています。多くの州はもっと収入の低い層しかメディケイドの対象にしていなかったり、そもそも子供のいない成人は対象にしていなかったりしているので、ACAの規定に従えばメディケイドがカバーする人の数は増える。ACAは対象拡大に必要な資金は連邦政府が出すことにしていますが、もしも州が対象を拡大しない場合は、拡大に必要な資金を出さないばかりか、もともと出していた連邦政府の資金負担も止めてしまうと定めています。
こうしたACAに対して26州と個人、National Federation of Independent Businessが訴訟を起こします。第11区巡回区の控訴裁判所は、個人に対する医療保険加入の義務化について「連邦議会にそのようなことを決める権限はない」として違憲判決を下し、メディケイドの拡大については合憲との判断を下した。では、最高裁はどう判断するのっていうことですよ、問題は。判決の内容によっては、オバマ政権1期目の最大の成果がチャラになってしまうことになりかねません。
で、判決の内容なんですが、まず判決は、ACAが決めた個人に対する医療保険加入の義務化が、合衆国憲法が連邦政府に与えた「商取引を規制する権限」によって認められるという考え方を否定します。商取引を規制する権限というのは、合衆国憲法第1条8節3項で連邦議会の権限として定められている"To regulate Commerce with foreign Nations, and among the several States, and with the Indian tribes"のことです。
判決は過去の最高裁判例に従えば、この商取引を規制する権限は「すでに存在している商取引を制限する権限」のことだとします。ところが、医療保険加入の義務化は、「商取引をしていない」個人に「(医療保険加入という)商取引をする」よう強制することになり、連邦議会の権限を超えている。そんなことを認めてしまえば、連邦議会の権限は際限なく拡大してしまう恐れがあるとしています。
また判決は、医療保険加入の義務化が、合衆国憲法のNecessary and Proper Clause(第1条8節18項)によって容認されるという考え方も否定します。18項は"To make all Laws which shall be necessary and proper for carrying into Execution the foregoing Powers, and all other Powers vested by this Constitution in the Government of the United States, or in any Department or Officer thereof"という文言で、「第8節で示された権限や憲法で付与された権限を実行するために必要かつ適切な法律を作ることができる」という内容です。
判決は、18項について「連邦議会に対して憲法に付随する権限を認める」という内容であって、「憲法に列挙されている以上の独立した権限を認める」ものではないと判断します( Although the Clause gives Congress authority to “legislate on that vast mass of incidental powers which must be involved in the constitution,” it does not license the exercise of any “great substantive and independent power[s]” beyond those specifically enumerated)。医療保険加入の義務化は憲法の精神に照らして必要な措置とはいえないとして、Necessary and Proper Clauseに基づいて合憲だということはできないとします。
一方、判決は、医療保険加入の義務化は「健康保険未加入者に対して税金を課す」ことだと解釈されなければならないとします。合衆国憲法第1条8節1項で連邦議会は徴税権を認められていますから、「医療保険加入を義務づけるんじゃなくて、医療保険未加入者にshared responsibility paymentを払えと言っているだけだよ」という解釈だったら認められるかもしれないね、ということです。
で、判決はshared responsibility paymentを税金とみなせると判断します。このpaymentは「医療保険加入以外に選択肢がないというほど高額に設定されているわけではない」「医療保険への加入を忘れていたような、意図的ではない未加入者に対しても支払いが求められる」「IRSを通じて税金と同じように政府に対して支払われる」などの特徴があり、「医療保険に加入していないことを違法とみなすものではない」という判断で、ACAで「罰金」と位置づけられているものの、実際には罰金という性格からは遠く、むしろ「医療保険未加入者に対する課税」とみることができるということです。
また判決は、メディケイドの拡大について、州がメディケイドの対象を拡大しなければ、連邦政府が全ての資金負担を止めてしまうことについては違憲だと判断します。
合衆国憲法の1条8節1項は徴税権と同時に、連邦議会が合衆国の福祉のためにお金を使うことを認めていて、この権限に基づいてメディケイドのような連邦政府と州による共同の制度を作ることができる。ただ過去の判例では、州が自発的に連邦政府との共同制度に協力するかどうかという点が問題になることはある。今回の判決は、連邦議会が、州が共同制度を受け入れるよう圧力をかける目的で連邦政府の負担を止めてしまうぞと脅すことは、フェデラリズムに反することになる(When Congress threatens to terminate other grants as a means of pressuring the States to accept a Spending Clause program, the legislation runs counter to this Nation’s system of federalism)として、ACAの仕組みを批判。さらに連邦政府の負担を止めてしまうことは州にとって影響が大きく、メディケイドの拡大を受け入れざるをえない状況に追い込まれてしまう。また、ACAが求めるメディケイドの拡大は、これまでは限定的だった対象者を貧困レベルの133%未満の成人全体に拡大する劇的なものであり、それを負担停止をちらつかせて州に強制するのは違憲であるということです。ただし、ACA全体が違憲だというわけではなく、連邦政府の負担停止の部分だけが違憲だということです。
この判決については、ACAの「医療保険加入の義務化」に関する部分が合憲とされ、「メディケイド」も負担停止のところを修正すれば合憲だとみなされたわけですから、全体としては「オバマケアは合憲」と言えるんだとも思います。
ただ、最高裁の判断は「『医療保険加入の義務化』って言っても、強制するっていう意味で義務化するわけじゃなくて、『入らない人にはそれほど高くない税金をかけますよ』っていう意味なわけだし、メディケイドの拡大も州が拒否できる余地を作るんだったら、合憲って考えてもいいよ」というぐらいの内容です。shared responsibility paymentがどのぐらいの額かは知らないですけど、ACAは成立したものの、実際には医療保険に加入する人は増えないし、メディケイドの拡大に取り組む州も増えないっていう結末になるような気もする。違うんだろうか。
銃規制の話もそうですが、個人のことは個人で決めるという原則が尊重されている米国では、大統領が社会の仕組みやあり方について口出しする余地は小さいんじゃないだろうか。外交とか安全保障とかでは大きな権限があるんだろうけど。まぁ、よく分りませんが。
画像は「オバマケア」で画像検索して出てきたやつ。
2013年2月13日水曜日
2010年のMcDonald v. Chicago
で、今度こそMcDonald v. Chicagoの内容になります。判決は2010年6月28日に下されました。(判決文)
判決ではまず、銃を持つ権利を訴える人たちの主張について、
・修正第14条に従えば、修正第2条に定められた銃を持つ権利を州が否定することはできない。Slaughter-House Casesに基づいた「合衆国民の権利」と「州民の権利」を分ける考え方は否定されるべきだ。
・それに修正第14条のデュープロセス条項は、修正第2条に定められた銃を持つ権利も対象としている。
と要約しています。
デュープロセス条項というのは修正第14条の「州は合衆国民の権利を侵害するような法律をつくってはだめだよ」という文言の後にセミコロンで区切って続けられている部分のこと。" nor shall any State deprive any person of life, liberty, or property, without due process of law"となっていて、「州はデュープロセス(適正な法手続き)なしに、個人の生命や平和や財産を奪ってはならない」という内容です。だから、シカゴ市は銃を持つ権利を奪ってはならないということですね。
「シカゴの場合はきちんと法律を作っているんだから、適正な法の手続きを踏んでいるんじゃないの?」っていう気もするのですが、このデュープロセス条項には「実体的デュープロセス」という考え方があって、その考え方によると、「デュープロセス条項が保証する権利の内容は手続き的なものだけではなく、立法によっても奪うことができない実体的なものだ」ということになるんだそうです。阿川尚之の「憲法で読むアメリカ史(下)」の106ページにそんなことが書いてあります。
一方、判決は、シカゴ市側の主張については、
・権利章典(修正第1~10条)で定められた権利は、それが文明的な法制度に不可欠である場合にのみ、州にも適用される。もしも銃を持つ権利を認めない文明国家を想像することが可能ならば、銃を持つ権利は修正第14条のデュープロセス条項によって保護されるものではないということだ。そして、銃の保有を厳しく制限している国家が実際に存在しているのだから、デュープロセス条項は銃を持つ権利を保護するものではない。
とまとめています。
次に判決は、この問題をめぐる過去の最高裁判決について概観します。そのなかで過去の判決を引用するかたちで、
・判断基準となるのは、権利章典で保護される内容が、米国の法秩序や司法制度の基盤に関わるようなものであるかどうかということだ(the governing standard is whether a particular Bill of Rights protection is fundamental to our Nation’s particular scheme of ordered liberty and system of justice.)
と判断。
さらに、銃を持つ権利がfundamentalなものかどうかについて検討する必要があるとし、これについては、2008年のDistrict of Columbia v. Hellerでの判断や、解放奴隷が白人の襲撃を受けるなどしてきた過去の歴史を踏まえて、
・銃による自衛は基本的な権利である
として、
・銃を持つ権利は実体的に保証されているとみなすべきであり、州が公正な手続きで法律を作れば無視できる禁止事項だと考えるべきではない(The right to keep and bear arms must be regarded as a substantive guarantee, not a prohibition that could be ignored so long as the States legislated in an evenhanded manner)
として、実体的デュープロセスの考え方を支持します。
で、結論は、
Held: The judgment is reversed, and the case is remanded.
ということ。控訴裁判所の判決は棄却されて、差し戻しです。
ちなみに判決はSlaughter-House Casesでの判断については、見直す必要がないとしています。そこは見直さないんだけれど、そもそもデュープロセス条項があるから、州が適正な法の手続きなしに銃を持つ権利を奪うことはできないよね、っていう判断なんだと思います。
採決は5対4。判決を支持したのはロバーツ長官、スカリア、ケネディ、トーマス、アリート。DCの裁判のときと同じメンバーです。反対はスティーブンス(10年6月退任)、ギンズバーグ、ブライヤー、ソトマイヤー。
要は「銃を持つ権利はfundamentalなものだから州においても保証される」と言っているということでいいんでしょうか。単純な話じゃないか。
でも、Slaughter-House Casesの判断を元にした控訴裁判所の判断は、銃を持つ権利はfundamentalなものだから、州民として認められる権利であり、それは州による侵害から修正第14条によって守られるものではないという結論だったわけです。これが実体的デュープロセスの考え方をとった最高裁では、「銃を持つ権利はfundamentalなものである」という同じ事実から逆の結論が導かれてしまったわけです。これは単純な話じゃない。
まぁ5対4の判決ですから、どっちに転んだっておかしくない話ではあります。オバマ政権が続くあと4年のうちに、判決を支持した5人の判事のいずれかが引退して、代わりにリベラル系の判事が任命されたりしたら、別の判決が出る可能性だってある。5人のうち高齢なのはスカリアとケネディで、いずれも76歳。この2人のうちどちらかが引退を表明したとき、銃規制の流れが本格的に動き出すのかもしれません。
画像は裁判の原告、Otis McDonaldさん。渋い。モーガン・フリーマンか藤村俊二かっていうぐらい渋い。
判決ではまず、銃を持つ権利を訴える人たちの主張について、
・修正第14条に従えば、修正第2条に定められた銃を持つ権利を州が否定することはできない。Slaughter-House Casesに基づいた「合衆国民の権利」と「州民の権利」を分ける考え方は否定されるべきだ。
・それに修正第14条のデュープロセス条項は、修正第2条に定められた銃を持つ権利も対象としている。
と要約しています。
デュープロセス条項というのは修正第14条の「州は合衆国民の権利を侵害するような法律をつくってはだめだよ」という文言の後にセミコロンで区切って続けられている部分のこと。" nor shall any State deprive any person of life, liberty, or property, without due process of law"となっていて、「州はデュープロセス(適正な法手続き)なしに、個人の生命や平和や財産を奪ってはならない」という内容です。だから、シカゴ市は銃を持つ権利を奪ってはならないということですね。
「シカゴの場合はきちんと法律を作っているんだから、適正な法の手続きを踏んでいるんじゃないの?」っていう気もするのですが、このデュープロセス条項には「実体的デュープロセス」という考え方があって、その考え方によると、「デュープロセス条項が保証する権利の内容は手続き的なものだけではなく、立法によっても奪うことができない実体的なものだ」ということになるんだそうです。阿川尚之の「憲法で読むアメリカ史(下)」の106ページにそんなことが書いてあります。
一方、判決は、シカゴ市側の主張については、
・権利章典(修正第1~10条)で定められた権利は、それが文明的な法制度に不可欠である場合にのみ、州にも適用される。もしも銃を持つ権利を認めない文明国家を想像することが可能ならば、銃を持つ権利は修正第14条のデュープロセス条項によって保護されるものではないということだ。そして、銃の保有を厳しく制限している国家が実際に存在しているのだから、デュープロセス条項は銃を持つ権利を保護するものではない。
とまとめています。
次に判決は、この問題をめぐる過去の最高裁判決について概観します。そのなかで過去の判決を引用するかたちで、
・判断基準となるのは、権利章典で保護される内容が、米国の法秩序や司法制度の基盤に関わるようなものであるかどうかということだ(the governing standard is whether a particular Bill of Rights protection is fundamental to our Nation’s particular scheme of ordered liberty and system of justice.)
と判断。
さらに、銃を持つ権利がfundamentalなものかどうかについて検討する必要があるとし、これについては、2008年のDistrict of Columbia v. Hellerでの判断や、解放奴隷が白人の襲撃を受けるなどしてきた過去の歴史を踏まえて、
・銃による自衛は基本的な権利である
として、
・銃を持つ権利は実体的に保証されているとみなすべきであり、州が公正な手続きで法律を作れば無視できる禁止事項だと考えるべきではない(The right to keep and bear arms must be regarded as a substantive guarantee, not a prohibition that could be ignored so long as the States legislated in an evenhanded manner)
として、実体的デュープロセスの考え方を支持します。
で、結論は、
Held: The judgment is reversed, and the case is remanded.
ということ。控訴裁判所の判決は棄却されて、差し戻しです。
ちなみに判決はSlaughter-House Casesでの判断については、見直す必要がないとしています。そこは見直さないんだけれど、そもそもデュープロセス条項があるから、州が適正な法の手続きなしに銃を持つ権利を奪うことはできないよね、っていう判断なんだと思います。
採決は5対4。判決を支持したのはロバーツ長官、スカリア、ケネディ、トーマス、アリート。DCの裁判のときと同じメンバーです。反対はスティーブンス(10年6月退任)、ギンズバーグ、ブライヤー、ソトマイヤー。
要は「銃を持つ権利はfundamentalなものだから州においても保証される」と言っているということでいいんでしょうか。単純な話じゃないか。
でも、Slaughter-House Casesの判断を元にした控訴裁判所の判断は、銃を持つ権利はfundamentalなものだから、州民として認められる権利であり、それは州による侵害から修正第14条によって守られるものではないという結論だったわけです。これが実体的デュープロセスの考え方をとった最高裁では、「銃を持つ権利はfundamentalなものである」という同じ事実から逆の結論が導かれてしまったわけです。これは単純な話じゃない。
まぁ5対4の判決ですから、どっちに転んだっておかしくない話ではあります。オバマ政権が続くあと4年のうちに、判決を支持した5人の判事のいずれかが引退して、代わりにリベラル系の判事が任命されたりしたら、別の判決が出る可能性だってある。5人のうち高齢なのはスカリアとケネディで、いずれも76歳。この2人のうちどちらかが引退を表明したとき、銃規制の流れが本格的に動き出すのかもしれません。
画像は裁判の原告、Otis McDonaldさん。渋い。モーガン・フリーマンか藤村俊二かっていうぐらい渋い。
2013年2月12日火曜日
修正第14条とSlaughter-House Cases
前回の続きです。もうひとつの「決着がついた感」を作った判決というのが、2010年のMcDonald v. Chicagoの最高裁判決です。
シカゴ市ではワシントンDCと同様に「拳銃を保有するには、登録せねばなりません」ルールと「拳銃を登録してはなりません」ルールを組み合わせて拳銃の保有を禁じてきました。そして2009年、第7巡回区の控訴裁判所はこのルールについて、シカゴ市の銃規制は「合憲」との判断を下します。合衆国憲法の修正第2条は「武器を保有する権利」を認めているのですが、その権利は州が制限することができるという考え方です。
この判決はワシントンDCでの銃規制が違憲とされた後のものですが、州と特別区は違うという考えだったようです。(参照)
この判断の背景にあるのが、合衆国憲法修正第14条と1873年のSlaughter-House Casesにおける最高裁判決です。
合衆国憲法修正第14条というのは、
All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the State wherein they reside. No State shall make or enforce any law which shall abridge the privileges or immunities of citizens of the United States; nor shall any State deprive any person of life, liberty, or property, without due process of law; nor deny to any person within its jurisdiction the equal protection of the laws.
という文言。2文目のところで「州は合衆国民の権利や免責を侵害してはならない」としています。これだけだと州は「銃を持つ権利を侵害できない」ということになって、シカゴ市の銃規制は違法だということになりそうです。
ところが、この条文の解釈について、Slaughter-House Casesにおける最高裁判決がありまして、この判決では「州が侵害してはならないのは合衆国民としての権利であって、州民としての権利ではない」とされています。(判決文)
何を言うとんねんという感じですが、
このSlaughter-House Casesの判決はまず、修正第14条の1文目には、「合衆国で生まれたり、帰化したり、管轄地域に属したりしている全ての人は合衆国民であり、住んでいる州の州民である」と書かれているので、合衆国民としての権利と州民としての権利を区別しているのは明確とします。
It is quite clear, then, that there is a citizenship of the United States, and a citizenship of a State, which are distinct from each other, and which depend upon different characteristics or circumstances in the individual.
さらに2文目で「the privileges or immunities of citizens of the United States」という言葉を使っていることを指摘して、州が侵害してはならないと規定されているのは「合衆国民としての権利である」とします。逆に言うと、州民としての権利は州によって制限されることもありえるということです。
Of the privileges and immunities of the citizen of the United States, and of the privileges and immunities of the citizen of the State, and what they respectively are, we will presently consider; but we wish to state here that it is only the former which are placed by this clause under the protection of the Federal Constitution, and that the latter, whatever they may be, are not intended to have any additional protection by this paragraph of the amendment.
そして制限されうる州民としての権利について、fundamentalなものとします。この際、以下のような別の判決での判断を引用したりしています。
what are the privileges and immunities of citizens of the several States? We feel no hesitation in confining these expressions to those privileges and immunities which are fundamental; which belong of right to the citizens of all free governments, and which have at all times been enjoyed by citizens of the several States which compose this Union, from the time of their becoming free, independent, and sovereign.
でまぁ、Slaughter-House Casesでは、職業選択の自由というのはfundamentalな州民としての権利であるから州によって制限されることもあると続くわけですが、McDonald v. Chicagoの控訴裁判所での判決では、職業選択の自由が銃を持つ権利に置き換わる。つまり、銃を持つ権利は修正第14条によって保護されるものではなく、シカゴ市が銃の保有を禁止することは合憲だという判断になります。
当然、主張を退けられた側は最高裁に持ち込みます。で、ようやく2010年のMcDonald v. Chicagoの判決につながります。
長くなったので続きます。画像は修正第14条。
シカゴ市ではワシントンDCと同様に「拳銃を保有するには、登録せねばなりません」ルールと「拳銃を登録してはなりません」ルールを組み合わせて拳銃の保有を禁じてきました。そして2009年、第7巡回区の控訴裁判所はこのルールについて、シカゴ市の銃規制は「合憲」との判断を下します。合衆国憲法の修正第2条は「武器を保有する権利」を認めているのですが、その権利は州が制限することができるという考え方です。
この判決はワシントンDCでの銃規制が違憲とされた後のものですが、州と特別区は違うという考えだったようです。(参照)
この判断の背景にあるのが、合衆国憲法修正第14条と1873年のSlaughter-House Casesにおける最高裁判決です。
合衆国憲法修正第14条というのは、
All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the State wherein they reside. No State shall make or enforce any law which shall abridge the privileges or immunities of citizens of the United States; nor shall any State deprive any person of life, liberty, or property, without due process of law; nor deny to any person within its jurisdiction the equal protection of the laws.
という文言。2文目のところで「州は合衆国民の権利や免責を侵害してはならない」としています。これだけだと州は「銃を持つ権利を侵害できない」ということになって、シカゴ市の銃規制は違法だということになりそうです。
ところが、この条文の解釈について、Slaughter-House Casesにおける最高裁判決がありまして、この判決では「州が侵害してはならないのは合衆国民としての権利であって、州民としての権利ではない」とされています。(判決文)
何を言うとんねんという感じですが、
このSlaughter-House Casesの判決はまず、修正第14条の1文目には、「合衆国で生まれたり、帰化したり、管轄地域に属したりしている全ての人は合衆国民であり、住んでいる州の州民である」と書かれているので、合衆国民としての権利と州民としての権利を区別しているのは明確とします。
It is quite clear, then, that there is a citizenship of the United States, and a citizenship of a State, which are distinct from each other, and which depend upon different characteristics or circumstances in the individual.
さらに2文目で「the privileges or immunities of citizens of the United States」という言葉を使っていることを指摘して、州が侵害してはならないと規定されているのは「合衆国民としての権利である」とします。逆に言うと、州民としての権利は州によって制限されることもありえるということです。
Of the privileges and immunities of the citizen of the United States, and of the privileges and immunities of the citizen of the State, and what they respectively are, we will presently consider; but we wish to state here that it is only the former which are placed by this clause under the protection of the Federal Constitution, and that the latter, whatever they may be, are not intended to have any additional protection by this paragraph of the amendment.
そして制限されうる州民としての権利について、fundamentalなものとします。この際、以下のような別の判決での判断を引用したりしています。
what are the privileges and immunities of citizens of the several States? We feel no hesitation in confining these expressions to those privileges and immunities which are fundamental; which belong of right to the citizens of all free governments, and which have at all times been enjoyed by citizens of the several States which compose this Union, from the time of their becoming free, independent, and sovereign.
でまぁ、Slaughter-House Casesでは、職業選択の自由というのはfundamentalな州民としての権利であるから州によって制限されることもあると続くわけですが、McDonald v. Chicagoの控訴裁判所での判決では、職業選択の自由が銃を持つ権利に置き換わる。つまり、銃を持つ権利は修正第14条によって保護されるものではなく、シカゴ市が銃の保有を禁止することは合憲だという判断になります。
当然、主張を退けられた側は最高裁に持ち込みます。で、ようやく2010年のMcDonald v. Chicagoの判決につながります。
長くなったので続きます。画像は修正第14条。
2013年2月7日木曜日
銃の規制を強化できないっていう話
昨年12月のニュータウンでの事件以降、アメリカで銃規制強化についての議論が続いています。せっかくなので、遅ればせながら、いろいろと調べておいた。
今年の1月16日、オバマ大統領が銃規制強化策を提案しています。(参照)
内容は、
・認可店での銃取引にはバックグラウンドチェックが義務づけられているが、銃取引全体の40%はバックグラウンドチェックが不必要なprivateな取引だという調査もある。犯罪に使われた銃のうち認可店で買われたものは12%でしかないともいう。だから全ての取引でバックグラウンドチェックが行われるようにする法律を成立させるべきだ。ただし、家族間とか一時的な貸与は例外とする。
・バックグラウンドチェックに使うことができる精神病歴のデータは増えてはきているが、GAOの最近の調査ではデータの活用が十分にできない州も多い(参照)ので、システムを強化する。
・オーロラの事件でもニュータウンの事件でも、1994年から2004年まで施行されたPublic Safety and Recreational Firearms Use Protection Act(Federal Assault Weapons Ban (AWB))の規制対象だったセミオートマチックライフルが使われた。なのでこの規制を強化したうえで再導入するような法律を成立させるべきだ。
・AWBの規制対象だった10超の弾薬を入れられる弾倉を再び禁止できるような法律を成立させるべきだ。
・軍や警察での使用目的以外でのarmor-piercing ammunitionの製造と輸入は禁じられているけど、保有や取引は禁じられていない。議会はこれを禁じる法律を成立させるべきだ。
・犯罪者の手に銃がわたらないようするため、警察活動への制限を緩和するなどする法律を成立させるべきだ。
・Centers for Disease Controlなどの組織は研究費用を銃規制強化のための調査に使うことが議会によって禁じられている。でも大統領としてCDCなどに対して銃犯罪の原因と抑止に関する調査を行うよう指示する。
・学校の安全性強化のための取り組みを議会に要請する。
・精神病治療の強化を提案する。
ってことになっています。
なんか「これだけ?」って感じですね。どう考えたって、こんな規制で悲惨な事件が防げるわけがない。「銃の取引は全面禁止!」とかにすればいいのに。
ただ、まぁ、武器保有の権利を認めた有名な合衆国憲法修正第2条ってのがあって、そうはできないっていうことなんだと思います。修正第2条っていうのは、"A well regulated militia being necessary to the security of a free state, the right of the people to keep and bear arms shall not be infringed."という文言ですね。統制のとれた民兵が州の安全を保つために必要であることと、武器を持つ権利は侵害されてはならないということが示されています。
しかも修正第2条と銃規制の関係については、2008年と2010年の最高裁判決で決着がついた感がある。
2008年のDistrict of Columbia v. Hellerの判決では、ワシントンDCの法律、Firearms Control Regulations Act of 1975の一部が修正第2条に違反していると認定された。(判決文)
このDCの法律は、登録されていない拳銃(hand gun)を持つこと(1975年以前に登録されたものなどを除く)と拳銃を登録することの両方を禁止することで、拳銃の保持を禁止しています。あと、銃は弾を抜いて、分解して、引き金にカギ(trigger lock)をかけて保管することも義務づけている。
で、最高裁はこの法律について、
・修正第2条の前半部分(A well regulated militia being necessary to the security of a free state)は、条項の目的を示したものではあるけれど、後半部分(the right of the people to keep and bear arms shall not be infringed)の対象を限定したり、拡大したりするものではない。つまり「民兵が必要だから、民兵が武器を持つ権利は侵害されてはならない」というのではなく、「州の安全のために民兵は必要だし、人々が武器を持つ権利は侵害されてはならない」と解釈されるべきだということだと思います。多分。
・「民兵」というのは共同防衛に従事できる健康な全ての男性のこと。アンチフェデラリストたちは、連邦政府が民兵を武装解除して、正規軍や一部の民兵だけが統治を行えるようになることを恐れていた。つまり武器を持つ権利を制限する議会の権限を否定したということで、民兵という理想が維持された。
・こうした最高裁の解釈は各州の憲法とも合致している。
・修正第2条が起草される過程でも、個人が武器を持つ権利は明確に規定されてきた。
・過去の学者や裁判所や議員の判断も、こうした最高裁の解釈と合致している。
・こうした最高裁の解釈は過去の最高裁の解釈とも合致している。
・ただし修正第2条に制限がないわけではない。犯罪歴がある者や精神病患者による武器保有の禁止、学校や政府庁舎への武器の持ち込みの禁止、武器売買の際の規制などは認められる。
・ワシントンDCの法律が拳銃の保有を禁じていることは違憲である。銃から弾を抜いて、分解して、引き金にカギをかけたうえで保有するよう求めていることも、個人が自衛のために銃を使うことをできなくすることから、違憲である。
とのことです。
つまりワシントンDCでは1975年から、事実上、拳銃の保有が禁止されていた。オバマ大統領が提案しているような「セミオートマッチックライフルを規制しましょうよ」とか「弾倉の容量を制限しましょうよ」なんていうのではなく、「拳銃持っちゃだめ」っていう厳しい内容でした。日本人の感覚からすれば、「オバマ大統領も米国全体がこういうルールになるような提案をすればいいのに」なんて思ってしまうわけですが、この2008年の最高裁判決があるため、そんな提案をしたところで修正第2条違反になってしまうことは明白なわけです。
ちなみにこのときの判断は5対4。惜しい。判断を支持したのは、ロバーツ長官、スカリア、ケネディ、トーマス、アリート。反対したのはスティーブンス(10年6月退任)、スーター(09年6月退任)、ギンズバーグ、ブライヤー。中間派のケネディが支持に回ったのがポイントなんでしょう。
ただ、このときの判決では、「州や特別区がどんな法律作ったっていいじゃんかよ。連邦政府の憲法が口を出す筋合いじゃねーよ」っている論点が積み残しになりました。この主張が認められれば、修正2条違反であったとしても、州や特別区による厳格な銃規制が認められる可能性もあるわけですが、その可能性も2010年の判決で閉ざされてしまうことになります。
長くなったので続きます。
画像は引き金にかけるカギ。
今年の1月16日、オバマ大統領が銃規制強化策を提案しています。(参照)
内容は、
・認可店での銃取引にはバックグラウンドチェックが義務づけられているが、銃取引全体の40%はバックグラウンドチェックが不必要なprivateな取引だという調査もある。犯罪に使われた銃のうち認可店で買われたものは12%でしかないともいう。だから全ての取引でバックグラウンドチェックが行われるようにする法律を成立させるべきだ。ただし、家族間とか一時的な貸与は例外とする。
・バックグラウンドチェックに使うことができる精神病歴のデータは増えてはきているが、GAOの最近の調査ではデータの活用が十分にできない州も多い(参照)ので、システムを強化する。
・オーロラの事件でもニュータウンの事件でも、1994年から2004年まで施行されたPublic Safety and Recreational Firearms Use Protection Act(Federal Assault Weapons Ban (AWB))の規制対象だったセミオートマチックライフルが使われた。なのでこの規制を強化したうえで再導入するような法律を成立させるべきだ。
・AWBの規制対象だった10超の弾薬を入れられる弾倉を再び禁止できるような法律を成立させるべきだ。
・軍や警察での使用目的以外でのarmor-piercing ammunitionの製造と輸入は禁じられているけど、保有や取引は禁じられていない。議会はこれを禁じる法律を成立させるべきだ。
・犯罪者の手に銃がわたらないようするため、警察活動への制限を緩和するなどする法律を成立させるべきだ。
・Centers for Disease Controlなどの組織は研究費用を銃規制強化のための調査に使うことが議会によって禁じられている。でも大統領としてCDCなどに対して銃犯罪の原因と抑止に関する調査を行うよう指示する。
・学校の安全性強化のための取り組みを議会に要請する。
・精神病治療の強化を提案する。
ってことになっています。
なんか「これだけ?」って感じですね。どう考えたって、こんな規制で悲惨な事件が防げるわけがない。「銃の取引は全面禁止!」とかにすればいいのに。
ただ、まぁ、武器保有の権利を認めた有名な合衆国憲法修正第2条ってのがあって、そうはできないっていうことなんだと思います。修正第2条っていうのは、"A well regulated militia being necessary to the security of a free state, the right of the people to keep and bear arms shall not be infringed."という文言ですね。統制のとれた民兵が州の安全を保つために必要であることと、武器を持つ権利は侵害されてはならないということが示されています。
しかも修正第2条と銃規制の関係については、2008年と2010年の最高裁判決で決着がついた感がある。
2008年のDistrict of Columbia v. Hellerの判決では、ワシントンDCの法律、Firearms Control Regulations Act of 1975の一部が修正第2条に違反していると認定された。(判決文)
このDCの法律は、登録されていない拳銃(hand gun)を持つこと(1975年以前に登録されたものなどを除く)と拳銃を登録することの両方を禁止することで、拳銃の保持を禁止しています。あと、銃は弾を抜いて、分解して、引き金にカギ(trigger lock)をかけて保管することも義務づけている。
で、最高裁はこの法律について、
・修正第2条の前半部分(A well regulated militia being necessary to the security of a free state)は、条項の目的を示したものではあるけれど、後半部分(the right of the people to keep and bear arms shall not be infringed)の対象を限定したり、拡大したりするものではない。つまり「民兵が必要だから、民兵が武器を持つ権利は侵害されてはならない」というのではなく、「州の安全のために民兵は必要だし、人々が武器を持つ権利は侵害されてはならない」と解釈されるべきだということだと思います。多分。
・「民兵」というのは共同防衛に従事できる健康な全ての男性のこと。アンチフェデラリストたちは、連邦政府が民兵を武装解除して、正規軍や一部の民兵だけが統治を行えるようになることを恐れていた。つまり武器を持つ権利を制限する議会の権限を否定したということで、民兵という理想が維持された。
・こうした最高裁の解釈は各州の憲法とも合致している。
・修正第2条が起草される過程でも、個人が武器を持つ権利は明確に規定されてきた。
・過去の学者や裁判所や議員の判断も、こうした最高裁の解釈と合致している。
・こうした最高裁の解釈は過去の最高裁の解釈とも合致している。
・ただし修正第2条に制限がないわけではない。犯罪歴がある者や精神病患者による武器保有の禁止、学校や政府庁舎への武器の持ち込みの禁止、武器売買の際の規制などは認められる。
・ワシントンDCの法律が拳銃の保有を禁じていることは違憲である。銃から弾を抜いて、分解して、引き金にカギをかけたうえで保有するよう求めていることも、個人が自衛のために銃を使うことをできなくすることから、違憲である。
とのことです。
つまりワシントンDCでは1975年から、事実上、拳銃の保有が禁止されていた。オバマ大統領が提案しているような「セミオートマッチックライフルを規制しましょうよ」とか「弾倉の容量を制限しましょうよ」なんていうのではなく、「拳銃持っちゃだめ」っていう厳しい内容でした。日本人の感覚からすれば、「オバマ大統領も米国全体がこういうルールになるような提案をすればいいのに」なんて思ってしまうわけですが、この2008年の最高裁判決があるため、そんな提案をしたところで修正第2条違反になってしまうことは明白なわけです。
ちなみにこのときの判断は5対4。惜しい。判断を支持したのは、ロバーツ長官、スカリア、ケネディ、トーマス、アリート。反対したのはスティーブンス(10年6月退任)、スーター(09年6月退任)、ギンズバーグ、ブライヤー。中間派のケネディが支持に回ったのがポイントなんでしょう。
ただ、このときの判決では、「州や特別区がどんな法律作ったっていいじゃんかよ。連邦政府の憲法が口を出す筋合いじゃねーよ」っている論点が積み残しになりました。この主張が認められれば、修正2条違反であったとしても、州や特別区による厳格な銃規制が認められる可能性もあるわけですが、その可能性も2010年の判決で閉ざされてしまうことになります。
長くなったので続きます。
画像は引き金にかけるカギ。
2013年1月31日木曜日
サンタ計画
サンタクロースになれるんじゃないだろうか。
もちろんトナカイとか煙突といった要素は無理かもしれないけれど、クリスマスに子供にプレゼントを配るというだけだったら誰でもできる。12月ぐらいになったらコツコツと手作りのおもちゃを用意して、クリスマスイブの夜に近所の子供の家の郵便受けに投函して回るのだ。対象年齢を3~5歳ぐらいの子供に絞れば、そんなに手の込んでいないおもちゃでも喜んでもらえるはずだ。彼らはどんぐりを集めたって喜ぶのだから。
ただ、これを一人でやっても広がりがないので、インターネットか何かで同士を募って地域で展開する。プロジェクトネームは「サンタ計画」だ。参加資格はクリスマスイブの夜に手作りのおもちゃを近所の子供に配れる人で、絶対に正体を子供たちに知られちゃいけない。サンタたちはクリスマスの朝、近所の子供が郵便受けを開けて喜ぶのを陰から見守ることを至上の喜びとする心優しき人たちなのだ。
近所にサンタが複数住んでいる子供はクリスマスの朝にいくつものプレゼントを見つけることになる。超うれしいに違いない。逆に近くにサンタがいない子供はプレゼントをもらえないことになるけれど、それはそれで「来年はもらえるかな」ってことになるし、ミステリアスな感じが強くなってていいじゃないか。クリスマスイブの夜はサンタ同士が郵便受けの前で鉢合わせするかもしれない。「あぁ、どうも」なんて言って、思わず一緒に飲みに行きたくなるだろうけれど、ここは我慢して子供たちのためにプレゼントを配り続ける。すばらしいことだ。
「誰かは分らないけど、サンタはいるんだよ。マジで」っていう世の中になれば面白いと思う。
もちろんトナカイとか煙突といった要素は無理かもしれないけれど、クリスマスに子供にプレゼントを配るというだけだったら誰でもできる。12月ぐらいになったらコツコツと手作りのおもちゃを用意して、クリスマスイブの夜に近所の子供の家の郵便受けに投函して回るのだ。対象年齢を3~5歳ぐらいの子供に絞れば、そんなに手の込んでいないおもちゃでも喜んでもらえるはずだ。彼らはどんぐりを集めたって喜ぶのだから。
ただ、これを一人でやっても広がりがないので、インターネットか何かで同士を募って地域で展開する。プロジェクトネームは「サンタ計画」だ。参加資格はクリスマスイブの夜に手作りのおもちゃを近所の子供に配れる人で、絶対に正体を子供たちに知られちゃいけない。サンタたちはクリスマスの朝、近所の子供が郵便受けを開けて喜ぶのを陰から見守ることを至上の喜びとする心優しき人たちなのだ。
近所にサンタが複数住んでいる子供はクリスマスの朝にいくつものプレゼントを見つけることになる。超うれしいに違いない。逆に近くにサンタがいない子供はプレゼントをもらえないことになるけれど、それはそれで「来年はもらえるかな」ってことになるし、ミステリアスな感じが強くなってていいじゃないか。クリスマスイブの夜はサンタ同士が郵便受けの前で鉢合わせするかもしれない。「あぁ、どうも」なんて言って、思わず一緒に飲みに行きたくなるだろうけれど、ここは我慢して子供たちのためにプレゼントを配り続ける。すばらしいことだ。
「誰かは分らないけど、サンタはいるんだよ。マジで」っていう世の中になれば面白いと思う。
2013年1月27日日曜日
アラブの春ってどうよ。
マリがややこしいなって書いた数日後にアルジェリアで日本人が巻き込まれた人質事件がありました。マリに対するフランスの軍事支援を止めされることが目的のひとつだと報じられています。犯行を主導したグループがリビアで武器を調達して犯行に及んでいるということで、「アラブの春以降、北アフリカの国々がイスラム過激派を押さえきれなくなっている」っていう解説をよく見かけます。
つまり、リビアでカダフィ大佐が独裁政権を維持しているころはイスラム過激派が好き勝手できる余地はなかったのに、アラブの春でカダフィ政権が倒れた後は国内を統治する力が弱くなって、イスラム過激派が武器を調達などのテロの準備をしやすくなっているということです。
となると、「アラブの春って結局いいことだったの?」っていう疑問も出てくるわけで、民主化した結果、地域で戦乱が始まりましたっていうんじゃ、民主化なんかしない方がマシだったっていう理屈だって成り立つ。エジプトでもムバラク政権が倒れた後、選挙でモルシ大統領が誕生したものの、軍部との対立など政治的な混乱が続き、経済活動が落ち込んでいる。そうなるとムバラク政権の方がよかったっていう人も出てくる。シリアなんかはアサド政権打倒を目指して反政府勢力が立ち上がったわけですが、内戦状態が長期化しているわけです。そうなると、アサド政権のままの方がよかったんじゃないのっていう話にもなる。そんな感じのテーマについて、Foreign Affairsに2つのエッセイが載っていました。
ひとつめが、"The Promise of the Arab Spring"というタイトルで、コロンビア大学のSheri Berman教授が書いたもの。それでもアラブの春は重要なステップだという内容です。
Berman教授によると、独裁国家が民主化した後、政治的に混乱が起こるのはよくあることで、18世紀のフランス革命や20世紀初頭のイタリアの民主化、同時期のドイツにおけるワイマール共和国の成立なんかの後にも同様の混乱の時期があった。そうしたことを考えると、アラブの春の後ですぐに戦乱が収まらないからといって、特定の国や地域や宗教のもとでは民主主義は成立しない、独裁主義でやった方がいいんだなんて決めるつけることは、歴史的な視点を無視した暴論だということになります。
まぁ、欧州の歴史には全く詳しくないですが、1789年に民衆がバスチーユ監獄を襲って始まったフランス革命はなんだかんだと国内の混乱を生み出して、1799年にはナポレオンによる独裁政権の樹立に至ります。イタリアの民主化も結局はムッソリーニによるファシズム政権に至り、ワイマール共和国もナチスドイツの台頭を許すことになる。"In fact, stable liberal democracy usually emerges only at the end of long, often violent struggles, with many twists, turns, false starts, and detours"というわけです。
あと、Berman教授は、こうした民主化後の混乱というのは民主化自体に問題があったから起こったのではなく、民主化前の独裁政権時代の統治手法に問題があったのだと指摘しています。つまり独裁政権は国内の一部の勢力を庇護しながら別の勢力を搾取の対象とすることで、国内の勢力を拮抗させて統治を実現していたのが、民主化によって独裁政権が消滅してしまうと、国内の対立関係だけが残ってしまって戦乱が起こるtということ。分ったような分らんような話ですが、Berman教授は欧州の独裁政権の歴史が専門なんだそうで、それはまぁ、そういうことなんでしょう。エッセイではこのあたりの説明も、歴史をたどりながらきちんと説明しています。米国だって英国からの独立を勝ち取った後、南北戦争になっているわけだし。
となると、長い目でみるとアラブの春のような民主化はやはり望ましいものだ。最後のパラグラフはこんな具合になっています。
The widespread pessimism about the fate of the Arab Spring is almost certainly misplaced. Of course, the Middle East has a unique mix of cultural, historical, and economic attributes. But so does every region, and there is little reason to expect the Arab world to be a permanent exception to the rules of political development. The year 2011 was the dawn of a promising new era for the region, and it will be looked on down the road as a historical watershed, even though the rapids downstream will be turbulent. Conservative critics of democracy will be wrong this time, just as they were about France, Italy, Germany, and every other country that supposedly was better off under tyranny.
で、Foreign Affairsに載っていたもう一つのエッセイは、"The Mirage of the Arab Spring"というタイトルで、Seth G. Jonesというランド研究所のAssociate Directorが書いたものです。内容としては、アラブの春の是非を問うわけではなく、米国としてどうやって対処していくべきかということを論じたもの。結論は、まだ民主化運動が強いかたちでは波及していない湾岸の王政国家での民主化を米国があえて後押しする必要もないよね、となっています。
アラブの春は2011年12月にチュニジアで起こった暴動で始まり、チュニジア、リビア、エジプト、イエメンで政権が打倒されました。いずれも数十年単位の長期にわたる独裁政治が続いていた国ですが、民主化を求める人々の運動によって、あっさりと政権が倒れてしまったわけです。それをみていた湾岸の王政国家は「うちでも民主化運動が起きるんじゃないか」と心配している。Jonesによると、サウジ、UAE、クウェート、オマーン、バーレーン、カタールで作る湾岸協力会議(GCC)がヨルダンやモロッコをメンバーに加える形で拡大の動きをみせていたり、エジプトに資金援助して影響力を持とうとしているのは、そうした警戒感の表れだということです。
ただまぁ、こうした湾岸王政国家は裕福な資源国であることもあって、民主化を求める動きはそれほど強くなっていない。サウジなんて「税金がない」とさえ言われる国ですから、国民が不満を持ちようもない。米国の独立戦争は「代表なくして課税なし」がスローガンの一つだったわけですが、サウジなんかは「課税がないんだから代表もなくていいよね」ってなもんです。また、東欧の民主化はソ連の弱体化が背景にあったわけですが、サウジなんかはまだまだ裕福で、金の力で民主化運動を押さえることができる。サウジではイスラム教の指導者たちがデモや反乱を禁じる宗教解釈も出ていて、宗教指導者も王家によってコントロールされているという見立てです。
で、問題なのは、こういう湾岸の状況に対して米国はどのように対処していくべきかという点です。米国は根本的に民主主義と自由主義経済の拡大を目指しているわけで、その理屈に沿えば、湾岸王政国家で民主化運動が起こるならばそれを支援する立場を取るのが筋です。
ただ、湾岸王政国家で民主化運動が起これば、それは世界のエネルギー供給を賄っている地域で長い戦乱が始まることを意味します。また、アラブの春で民主化した国々では反米感情が強まる傾向にあります。そうなると、こうした国々が反米テロ活動の温床になってしまう可能性は少なからずあるわけで、米国の安全保障にとって好ましい事態ではありません。
ということで、結論部分はこうなっています。
The uprisings of the last two years have represented a significant challenge to authoritarian rule in the Arab world. But structural conditions appear to be preventing broader political liberalization in the region, and war, corruption, and economic stagnation could undermine further progress. Although the United States can take some steps to support democratization in the long run, it cannot force change. Middle Eastern autocrats may eventually fall, and the spread of liberal democracy would be welcomed by most Americans, even if it would carry certain risks. Yet until such changes occur because of the labor of Arabs themselves, U.S. policy toward the Middle East should focus on what is attainable. As former U.S. Secretary of Defense Donald Rumsfeld might put it, Washington should conduct its foreign policy with the Arab world it has, not the Arab world it might want or wish to have at a later time.
湾岸王政国家で民主化運動が拡大したとき、オバマ政権はどうするんですかね。いまさら「民主化は支援しません」というわけにもいかないし、だからといって民主化支援で「パンドラの箱」を開けるわけにもいかない。湾岸王政国家で民主化運動が起きないような努力をしているか、それとも懸命に祈っているかっていう感じなんでしょうか。
写真はサウジのアブドラ国王。責任重大な人です。
つまり、リビアでカダフィ大佐が独裁政権を維持しているころはイスラム過激派が好き勝手できる余地はなかったのに、アラブの春でカダフィ政権が倒れた後は国内を統治する力が弱くなって、イスラム過激派が武器を調達などのテロの準備をしやすくなっているということです。
となると、「アラブの春って結局いいことだったの?」っていう疑問も出てくるわけで、民主化した結果、地域で戦乱が始まりましたっていうんじゃ、民主化なんかしない方がマシだったっていう理屈だって成り立つ。エジプトでもムバラク政権が倒れた後、選挙でモルシ大統領が誕生したものの、軍部との対立など政治的な混乱が続き、経済活動が落ち込んでいる。そうなるとムバラク政権の方がよかったっていう人も出てくる。シリアなんかはアサド政権打倒を目指して反政府勢力が立ち上がったわけですが、内戦状態が長期化しているわけです。そうなると、アサド政権のままの方がよかったんじゃないのっていう話にもなる。そんな感じのテーマについて、Foreign Affairsに2つのエッセイが載っていました。
ひとつめが、"The Promise of the Arab Spring"というタイトルで、コロンビア大学のSheri Berman教授が書いたもの。それでもアラブの春は重要なステップだという内容です。
Berman教授によると、独裁国家が民主化した後、政治的に混乱が起こるのはよくあることで、18世紀のフランス革命や20世紀初頭のイタリアの民主化、同時期のドイツにおけるワイマール共和国の成立なんかの後にも同様の混乱の時期があった。そうしたことを考えると、アラブの春の後ですぐに戦乱が収まらないからといって、特定の国や地域や宗教のもとでは民主主義は成立しない、独裁主義でやった方がいいんだなんて決めるつけることは、歴史的な視点を無視した暴論だということになります。
まぁ、欧州の歴史には全く詳しくないですが、1789年に民衆がバスチーユ監獄を襲って始まったフランス革命はなんだかんだと国内の混乱を生み出して、1799年にはナポレオンによる独裁政権の樹立に至ります。イタリアの民主化も結局はムッソリーニによるファシズム政権に至り、ワイマール共和国もナチスドイツの台頭を許すことになる。"In fact, stable liberal democracy usually emerges only at the end of long, often violent struggles, with many twists, turns, false starts, and detours"というわけです。
あと、Berman教授は、こうした民主化後の混乱というのは民主化自体に問題があったから起こったのではなく、民主化前の独裁政権時代の統治手法に問題があったのだと指摘しています。つまり独裁政権は国内の一部の勢力を庇護しながら別の勢力を搾取の対象とすることで、国内の勢力を拮抗させて統治を実現していたのが、民主化によって独裁政権が消滅してしまうと、国内の対立関係だけが残ってしまって戦乱が起こるtということ。分ったような分らんような話ですが、Berman教授は欧州の独裁政権の歴史が専門なんだそうで、それはまぁ、そういうことなんでしょう。エッセイではこのあたりの説明も、歴史をたどりながらきちんと説明しています。米国だって英国からの独立を勝ち取った後、南北戦争になっているわけだし。
となると、長い目でみるとアラブの春のような民主化はやはり望ましいものだ。最後のパラグラフはこんな具合になっています。
The widespread pessimism about the fate of the Arab Spring is almost certainly misplaced. Of course, the Middle East has a unique mix of cultural, historical, and economic attributes. But so does every region, and there is little reason to expect the Arab world to be a permanent exception to the rules of political development. The year 2011 was the dawn of a promising new era for the region, and it will be looked on down the road as a historical watershed, even though the rapids downstream will be turbulent. Conservative critics of democracy will be wrong this time, just as they were about France, Italy, Germany, and every other country that supposedly was better off under tyranny.
で、Foreign Affairsに載っていたもう一つのエッセイは、"The Mirage of the Arab Spring"というタイトルで、Seth G. Jonesというランド研究所のAssociate Directorが書いたものです。内容としては、アラブの春の是非を問うわけではなく、米国としてどうやって対処していくべきかということを論じたもの。結論は、まだ民主化運動が強いかたちでは波及していない湾岸の王政国家での民主化を米国があえて後押しする必要もないよね、となっています。
アラブの春は2011年12月にチュニジアで起こった暴動で始まり、チュニジア、リビア、エジプト、イエメンで政権が打倒されました。いずれも数十年単位の長期にわたる独裁政治が続いていた国ですが、民主化を求める人々の運動によって、あっさりと政権が倒れてしまったわけです。それをみていた湾岸の王政国家は「うちでも民主化運動が起きるんじゃないか」と心配している。Jonesによると、サウジ、UAE、クウェート、オマーン、バーレーン、カタールで作る湾岸協力会議(GCC)がヨルダンやモロッコをメンバーに加える形で拡大の動きをみせていたり、エジプトに資金援助して影響力を持とうとしているのは、そうした警戒感の表れだということです。
ただまぁ、こうした湾岸王政国家は裕福な資源国であることもあって、民主化を求める動きはそれほど強くなっていない。サウジなんて「税金がない」とさえ言われる国ですから、国民が不満を持ちようもない。米国の独立戦争は「代表なくして課税なし」がスローガンの一つだったわけですが、サウジなんかは「課税がないんだから代表もなくていいよね」ってなもんです。また、東欧の民主化はソ連の弱体化が背景にあったわけですが、サウジなんかはまだまだ裕福で、金の力で民主化運動を押さえることができる。サウジではイスラム教の指導者たちがデモや反乱を禁じる宗教解釈も出ていて、宗教指導者も王家によってコントロールされているという見立てです。
で、問題なのは、こういう湾岸の状況に対して米国はどのように対処していくべきかという点です。米国は根本的に民主主義と自由主義経済の拡大を目指しているわけで、その理屈に沿えば、湾岸王政国家で民主化運動が起こるならばそれを支援する立場を取るのが筋です。
ただ、湾岸王政国家で民主化運動が起これば、それは世界のエネルギー供給を賄っている地域で長い戦乱が始まることを意味します。また、アラブの春で民主化した国々では反米感情が強まる傾向にあります。そうなると、こうした国々が反米テロ活動の温床になってしまう可能性は少なからずあるわけで、米国の安全保障にとって好ましい事態ではありません。
ということで、結論部分はこうなっています。
The uprisings of the last two years have represented a significant challenge to authoritarian rule in the Arab world. But structural conditions appear to be preventing broader political liberalization in the region, and war, corruption, and economic stagnation could undermine further progress. Although the United States can take some steps to support democratization in the long run, it cannot force change. Middle Eastern autocrats may eventually fall, and the spread of liberal democracy would be welcomed by most Americans, even if it would carry certain risks. Yet until such changes occur because of the labor of Arabs themselves, U.S. policy toward the Middle East should focus on what is attainable. As former U.S. Secretary of Defense Donald Rumsfeld might put it, Washington should conduct its foreign policy with the Arab world it has, not the Arab world it might want or wish to have at a later time.
湾岸王政国家で民主化運動が拡大したとき、オバマ政権はどうするんですかね。いまさら「民主化は支援しません」というわけにもいかないし、だからといって民主化支援で「パンドラの箱」を開けるわけにもいかない。湾岸王政国家で民主化運動が起きないような努力をしているか、それとも懸命に祈っているかっていう感じなんでしょうか。
写真はサウジのアブドラ国王。責任重大な人です。
オバマの就任式演説と世論調査
オバマ大統領が2期目の就任式で演説しました。(参照)
不勉強なもので大統領の就任式の演説を聴いたのは初めてなんですが、「なんか選挙戦のときも言ってたようなことを言っているんじゃないのか」という気がしました。同性愛とか移民とか、個別の政策について沢山話していたので、そんな気がしたのかもしれません。それに「あんまり盛り上がってないなぁ」という感じもした。あんなもんなんでしょうか。
あと、「2人の娘のうちの妹(サーシャ)の方はなんか退屈そうだなぁ」という印象も強い。お姉ちゃん(マリア)の方はしっかりした子だなって感じでしたけどね。14歳だけど身長5フィート11インチ(180センチ)なんだって。(参照) 流石です。
で、この演説についてギャラップが世論調査をやっています。(参照)
演説を見たり聴いたりして「今後の4年間に希望を持てるようになった」と思ったは、全体の37%で、1期目のときの62%から大きく減っています。ブッシュ前大統領の2期目のときの43%よりも低い。民主党支持層に限れば66%だそうですが、これも1期目の87%から減っている。共和党支持層はオバマ1期目の演説のときは、肯定的な答えと否定的な答えが同じぐらいの割合だったですが、今回はほとんどが否定的な反応をしている。
ギャラップの分析は、
It certainly would be understandable for Americans to be less excited about a president's second inauguration than his first, with the novelty of his being president long since passed. That is especially likely to be the case for Obama, whose first inauguration was historic as the first black U.S. president. Further, Obama took office in 2009 at a time when many Americans were yearning for better days as the country remained in an economic recession, and were looking to the young, energetic, and inspiring Obama to provide that hope. Four years later, conditions in the United States have improved in many respects, but there remain many signs -- most notably, a still-high unemployment rate -- of a nation not fully recovered.
とのこと。
まぁ、そうですわな。
写真は2期目の就任式に出席した強そうな嫁さんとしっかりしてそうな長女とあくびしちゃっている次女。
不勉強なもので大統領の就任式の演説を聴いたのは初めてなんですが、「なんか選挙戦のときも言ってたようなことを言っているんじゃないのか」という気がしました。同性愛とか移民とか、個別の政策について沢山話していたので、そんな気がしたのかもしれません。それに「あんまり盛り上がってないなぁ」という感じもした。あんなもんなんでしょうか。
あと、「2人の娘のうちの妹(サーシャ)の方はなんか退屈そうだなぁ」という印象も強い。お姉ちゃん(マリア)の方はしっかりした子だなって感じでしたけどね。14歳だけど身長5フィート11インチ(180センチ)なんだって。(参照) 流石です。
で、この演説についてギャラップが世論調査をやっています。(参照)
演説を見たり聴いたりして「今後の4年間に希望を持てるようになった」と思ったは、全体の37%で、1期目のときの62%から大きく減っています。ブッシュ前大統領の2期目のときの43%よりも低い。民主党支持層に限れば66%だそうですが、これも1期目の87%から減っている。共和党支持層はオバマ1期目の演説のときは、肯定的な答えと否定的な答えが同じぐらいの割合だったですが、今回はほとんどが否定的な反応をしている。
ギャラップの分析は、
It certainly would be understandable for Americans to be less excited about a president's second inauguration than his first, with the novelty of his being president long since passed. That is especially likely to be the case for Obama, whose first inauguration was historic as the first black U.S. president. Further, Obama took office in 2009 at a time when many Americans were yearning for better days as the country remained in an economic recession, and were looking to the young, energetic, and inspiring Obama to provide that hope. Four years later, conditions in the United States have improved in many respects, but there remain many signs -- most notably, a still-high unemployment rate -- of a nation not fully recovered.
とのこと。
まぁ、そうですわな。
写真は2期目の就任式に出席した強そうな嫁さんとしっかりしてそうな長女とあくびしちゃっている次女。
2013年1月15日火曜日
ジャック・ルーって誰?
2期目のオバマ政権の財務長官にジャック・ルー大統領首席補佐官が就くことになりました。おかしなサインをすることが話題になってますが(参照)、他のことも調べておいた。
この記事やウィキペディアやホワイトハウスのページによると、ニューヨーク出身のルーさんはミネソタ州のチャールトン大学在学中にニューヨーク州選出のベラ・アブザグ下院議員(民主党)のもとで1年間働いた後で大学をやめ、1974年からはマサチューセッツ州選出のジョー・モークリー下院議員(民主党)のもとで働き、さらに23歳のとき(1973年ごろ)、同じくマサチューセッツ州選出のティップ・オニール下院議長(民主党)の政策アドバイザーになります。その後、クリントン大統領時代の行政管理予算局(OMB)ディレクターとして財政均衡の実現に貢献。オバマ政権下では、クリントン国務長官の国務副長官をやり、2010年11月からは再びOMBのディレクターを勤め、さらに2012年1月から大統領首席補佐官をしています。
ちなみに最終学歴がチャールトン大学中退っていうわけではなく、その後、働きながらハーバードとジョージタウンで学位をとっているみたいです。あとシティグループなど民間で働いていたこともある。
つまりはバリバリの民主党員で、普通の家庭に対して政府が果たすべき役割を重視しているっていう人ですね。若いころには低所得者用住宅の建設や、国際的な飢餓問題のためのファンド設立に奔走したこともあるらしい。そのうえ数字に強く、タフなネゴシエイターでもある。敬虔なユダヤ教徒で金曜日は日が沈む前に仕事を切り上げてしまうそうです。あと、12弦ギターも弾く。ギター以外は見た目通りって感じ。
ただ、オニール下院議長の政策アドバイザーだった当時、グリーンスパン委員会との連絡役として、Social Securityの健全性を維持するために、支給年齢を65歳から67歳に引き上げるなどする法律の成立に貢献したそうです。民主党員の中にはこの法律を不本意に思う人もいたようですが、ルーさんはこの法律が議会を通過したときに使われた小槌をオフィスに飾っているらしい。あと、ルーさんはメディケアの支給年齢を65歳から67歳に引き上げることについても、賛成しているとの証言もある。バリバリの民主党員なんだけど、プラグマティストでもあるということです。
そんなルーさんの財務長官就任に対して、共和党の一部では反発があります。(参照) 理由は要するにルーさんが頑固な民主党員で、交渉で数字を並べ立てて煙に巻こうとするような奴だからっていうことみたいですけど、まぁ、気に入らないんでしょうね。
この記事やウィキペディアやホワイトハウスのページによると、ニューヨーク出身のルーさんはミネソタ州のチャールトン大学在学中にニューヨーク州選出のベラ・アブザグ下院議員(民主党)のもとで1年間働いた後で大学をやめ、1974年からはマサチューセッツ州選出のジョー・モークリー下院議員(民主党)のもとで働き、さらに23歳のとき(1973年ごろ)、同じくマサチューセッツ州選出のティップ・オニール下院議長(民主党)の政策アドバイザーになります。その後、クリントン大統領時代の行政管理予算局(OMB)ディレクターとして財政均衡の実現に貢献。オバマ政権下では、クリントン国務長官の国務副長官をやり、2010年11月からは再びOMBのディレクターを勤め、さらに2012年1月から大統領首席補佐官をしています。
ちなみに最終学歴がチャールトン大学中退っていうわけではなく、その後、働きながらハーバードとジョージタウンで学位をとっているみたいです。あとシティグループなど民間で働いていたこともある。
つまりはバリバリの民主党員で、普通の家庭に対して政府が果たすべき役割を重視しているっていう人ですね。若いころには低所得者用住宅の建設や、国際的な飢餓問題のためのファンド設立に奔走したこともあるらしい。そのうえ数字に強く、タフなネゴシエイターでもある。敬虔なユダヤ教徒で金曜日は日が沈む前に仕事を切り上げてしまうそうです。あと、12弦ギターも弾く。ギター以外は見た目通りって感じ。
ただ、オニール下院議長の政策アドバイザーだった当時、グリーンスパン委員会との連絡役として、Social Securityの健全性を維持するために、支給年齢を65歳から67歳に引き上げるなどする法律の成立に貢献したそうです。民主党員の中にはこの法律を不本意に思う人もいたようですが、ルーさんはこの法律が議会を通過したときに使われた小槌をオフィスに飾っているらしい。あと、ルーさんはメディケアの支給年齢を65歳から67歳に引き上げることについても、賛成しているとの証言もある。バリバリの民主党員なんだけど、プラグマティストでもあるということです。
そんなルーさんの財務長官就任に対して、共和党の一部では反発があります。(参照) 理由は要するにルーさんが頑固な民主党員で、交渉で数字を並べ立てて煙に巻こうとするような奴だからっていうことみたいですけど、まぁ、気に入らないんでしょうね。
2013年1月14日月曜日
アフリカで1人あたりGDPが最も高い国
アフリカで1人あたりGDPが最も高い国は赤道ギニア。
このページを参照しました。1万4500ドルで、世界ランキングでも45位。人口135万人という小さい国で、石油や天然ガスが出るみたいですね。
ちなみにマリは669ドルで162位。へえ。
このページを参照しました。1万4500ドルで、世界ランキングでも45位。人口135万人という小さい国で、石油や天然ガスが出るみたいですね。
ちなみにマリは669ドルで162位。へえ。
マリがややこしい
西アフリカのマリ共和国のイスラム武装勢力に対してフランス軍が空爆を行っています。よく分らないので調べておいた。
マリでは2012年3月にクーデターがあったのですが、このときの流れは外務省のサイトにある各トピックスの中身をのぞいていくと、それまでの経緯がまとめられたりしています。それによると、
3月21日にマリの国軍の一部が武器の調達を要求して騒乱を起こします。マリ国軍は北部におけるトゥアレグ族の独立運動グループと戦ってきたのですが、「武器が足りないぞ」との不満があったようです。で、翌22日には民主主義再建・国家復興のための国家委員会(CNRDRE)が国家の指揮権を掌握して憲法の停止を宣言します。
これを受けた4月2日、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)はマリに対する経済制裁を発動。6日にはECOWASとCNRDREの交渉の結果、憲法秩序回復に向けた枠組みが合意されます。この合意に基づいてトゥーレ大統領は辞任し、12日にはトラオレ国民議会議長が暫定大統領に就任します。
これでクーデター騒動は落ち着くわけなんですが、憲法秩序回復に向けた合意がなされた6日、マリ国軍の混乱に乗じるかたちで、トゥアレグ族の武装勢力アザワド地方開放国民運動(MNLA)が北部の主要都市に信仰して、北部の独立を宣言をしちゃう。
で、ここから先がごちゃごちゃするんですが、このあと北部ではトゥアレグ族によるMNLAとイスラム武装勢力「アンサール・ディーン」(Ansar Dine)の対立が激しくなって、6月下旬にはアンサール・ディーン側が「MNLAをやっつけた。北部を制圧しているのは我々だ」と宣言するに至ります。(参照、ロイター) アンサール・ディーンはイスラム法を全土に広めようとするイスラム武装勢力で、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM。AQMIとも)とも関係が深い。このAQIMはマリ北部を拠点にしてアルジェリア政府の打倒を目指しているアルカイダ系の組織です。ちなみにマリ北部にはMUJWA(Movement for Unity and Jihad in West Africa)という組織もあって、これは活動範囲を西アフリカ全域に広げたAQIMの分派だそうです。各組織の概要はウィキペディアを参照。(アンサール・ディーン AQIM MUJWA)
国際社会の対応としては3月のクーデター後にECOWASがマリに対する経済制裁を発動したほか、米国もそれまで行ってきたマリへの支援をストップしています。それまでのマリと米国の関係はエクセレントで民主主義の強化と経済成長を通じた貧困撲滅という共通のゴールを持っていたのに、クーデターとは何事だというわけです。米国はトラオレ暫定政権に対して大統領選挙の実施を求め、北部の反政府勢力に対してもテロリスト集団との関係を断ち切って、法に基づいた政治的な解決の道をとるよう求めています。(参照)
国連も7月に安保理決議2056を全会一致で採択し、クーデターを批判するとともに、さらにMNLAによる独立宣言も無効であるとし、AQIMによるテロ活動にも懸念を示しています。10月の安保理決議2071では、安保理決議に基づいた軍の派遣を求めるマリ暫定政権からの要望に留意するとしたうえで、マリ情勢は国際社会の平和と安全への脅威だとの認識を示して、加盟国に対してマリ国軍に対するサポートを要請(calls upon)。さらに12月の安保理決議2085では、マリの安定確保にはマリ国軍の再配備が重要であるとして、マリ全土での安定確保とテロリストの脅威を取り除くため、加盟国に対してマリ国軍へのサポートを促している(urges)。
で、フランスはこの国連決議に基づいて2013年1月10日からマリへの空爆をやっているそうです。ただ、これであっさりと安定を回復できればいいですが、イスラム武装勢力を敵に回すっていうのは思い切った決断だという気もします。砂漠での戦闘は泥沼化するわ、フランス国内でもテロリストが暗躍するわっていう展開にもなりかねない。どうなるんでしょう。
画像はウィキペディアにのっていた2012年4月時点のマリの地図。
追記(1月17日)
12月の安保理決議2085では、アフリカ諸国主導の"International Support Mission in Mali"を派遣することを承認。その目的として、マリ政府が北部の支配権を回復することをサポートすることなどを挙げて、軍事介入にお墨付きを与えています。肝心なところが抜けていました。
マリでは2012年3月にクーデターがあったのですが、このときの流れは外務省のサイトにある各トピックスの中身をのぞいていくと、それまでの経緯がまとめられたりしています。それによると、
3月21日にマリの国軍の一部が武器の調達を要求して騒乱を起こします。マリ国軍は北部におけるトゥアレグ族の独立運動グループと戦ってきたのですが、「武器が足りないぞ」との不満があったようです。で、翌22日には民主主義再建・国家復興のための国家委員会(CNRDRE)が国家の指揮権を掌握して憲法の停止を宣言します。
これを受けた4月2日、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)はマリに対する経済制裁を発動。6日にはECOWASとCNRDREの交渉の結果、憲法秩序回復に向けた枠組みが合意されます。この合意に基づいてトゥーレ大統領は辞任し、12日にはトラオレ国民議会議長が暫定大統領に就任します。
これでクーデター騒動は落ち着くわけなんですが、憲法秩序回復に向けた合意がなされた6日、マリ国軍の混乱に乗じるかたちで、トゥアレグ族の武装勢力アザワド地方開放国民運動(MNLA)が北部の主要都市に信仰して、北部の独立を宣言をしちゃう。
で、ここから先がごちゃごちゃするんですが、このあと北部ではトゥアレグ族によるMNLAとイスラム武装勢力「アンサール・ディーン」(Ansar Dine)の対立が激しくなって、6月下旬にはアンサール・ディーン側が「MNLAをやっつけた。北部を制圧しているのは我々だ」と宣言するに至ります。(参照、ロイター) アンサール・ディーンはイスラム法を全土に広めようとするイスラム武装勢力で、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM。AQMIとも)とも関係が深い。このAQIMはマリ北部を拠点にしてアルジェリア政府の打倒を目指しているアルカイダ系の組織です。ちなみにマリ北部にはMUJWA(Movement for Unity and Jihad in West Africa)という組織もあって、これは活動範囲を西アフリカ全域に広げたAQIMの分派だそうです。各組織の概要はウィキペディアを参照。(アンサール・ディーン AQIM MUJWA)
国際社会の対応としては3月のクーデター後にECOWASがマリに対する経済制裁を発動したほか、米国もそれまで行ってきたマリへの支援をストップしています。それまでのマリと米国の関係はエクセレントで民主主義の強化と経済成長を通じた貧困撲滅という共通のゴールを持っていたのに、クーデターとは何事だというわけです。米国はトラオレ暫定政権に対して大統領選挙の実施を求め、北部の反政府勢力に対してもテロリスト集団との関係を断ち切って、法に基づいた政治的な解決の道をとるよう求めています。(参照)
国連も7月に安保理決議2056を全会一致で採択し、クーデターを批判するとともに、さらにMNLAによる独立宣言も無効であるとし、AQIMによるテロ活動にも懸念を示しています。10月の安保理決議2071では、安保理決議に基づいた軍の派遣を求めるマリ暫定政権からの要望に留意するとしたうえで、マリ情勢は国際社会の平和と安全への脅威だとの認識を示して、加盟国に対してマリ国軍に対するサポートを要請(calls upon)。さらに12月の安保理決議2085では、マリの安定確保にはマリ国軍の再配備が重要であるとして、マリ全土での安定確保とテロリストの脅威を取り除くため、加盟国に対してマリ国軍へのサポートを促している(urges)。
で、フランスはこの国連決議に基づいて2013年1月10日からマリへの空爆をやっているそうです。ただ、これであっさりと安定を回復できればいいですが、イスラム武装勢力を敵に回すっていうのは思い切った決断だという気もします。砂漠での戦闘は泥沼化するわ、フランス国内でもテロリストが暗躍するわっていう展開にもなりかねない。どうなるんでしょう。
画像はウィキペディアにのっていた2012年4月時点のマリの地図。
追記(1月17日)
12月の安保理決議2085では、アフリカ諸国主導の"International Support Mission in Mali"を派遣することを承認。その目的として、マリ政府が北部の支配権を回復することをサポートすることなどを挙げて、軍事介入にお墨付きを与えています。肝心なところが抜けていました。
2013年1月10日木曜日
チャック・ヘーゲルって誰?
2期目のオバマ政権の国防長官はチャック・ヘーゲルに決まりました。たれ目で一重まぶたの普通のおじさんです。ネブラスカ州出身でベトナム戦争に従軍。下院議員のスタッフをしたり、ファイヤーストーン社のロビイストをしたり、携帯電話会社を起業して成功した後、1996年に上院議員に初当選し、外交畑を歩んできた人です。
共和党ですが、ブッシュ政権をおおっぴらに批判したりもしている。イラク戦争の決議には賛成したものの、 “Actions in Iraq must come in the context of an American-led, multilateral approach to disarmament, not as the first case for a new American doctrine involving the preemptive use of force.”なんて言ったりしている。(参照) あと、イラク増派に反対したり、対イラン制裁に反対したり、アンチ・イスラエルな言動をみせたりすることでも知られている。(参照)
このページによると、 “We are each a product of our experiences, and my time in combat very much shaped my opinions about war. I’m not a pacifist; I believe in using force, but only after following a very careful decision-making process.”なんていう言葉もあって、なんかカッコイイです。ただ、共和党からのウケはよくないらしい。
で、このページに、ヘーゲル自身が寄稿したForeign Affairs誌の記事というのが紹介されていたので読んでおいた。8年ほど前に書かれたものですが、参考になるんだと思います。(参照)
まず目に付くのは、軍事力だけじゃなくて、その軍事力で何を達成しようとしているのかという理念が大事なんだという主張ですね。米国が他国から信頼されるような国であることが重要だということです。
A wise foreign policy recognizes that U.S. leadership is determined as much by our commitment to principle as by our exercise of power. Foreign policy is the bridge between the United States and the world, and between the past, the present, and the future. The United States must grasp the forces of change, including the power of a restless and unpredictable new generation that is coming of age throughout the world. Trust and confidence in U.S. leadership and intentions are critical to shaping a vital global connection with this next generation.
そのためには現実を直視することが大事で、「神から与えられた使命だ」的な教条主義的な考え方では失敗しますよと。ひとりよがりになっちゃいけないということですね。
a Republican foreign policy for the twenty-first century will require more than traditional realpolitik and balance-of-power politics. The success of our policies will depend not only on the extent of our power, but also on an appreciation of its limits. History has taught us that foreign policy must not succumb to the distraction of divine mission. It must inspire our allies to share in the enterprise of making a better world.
ただ、軍事力の行使を否定するわけでもない。アメリカだもの。
Traditionally, a Republican foreign policy has been anchored by a commitment to a strong national defense. The world's problems will not be solved by the military alone, but force remains the first and last line of defense of U.S. freedom and security. When used judiciously, it is an essential instrument of U.S. power and foreign policy. Terrorists or states that attack the United States should expect a swift and violent response.
そのうえでヘーゲルは、外交で守るべき7つの原則というのを列挙していきます。
・法治国家、所有権の尊重、科学技術の開発、自由貿易、人的資本への投資といった理念を大事にして、世界経済のリーダーであり続けること。
・エネルギー安全保障の重要性を確認すること。たとえ原油の中東依存度が下がったとしても、中東の不安定化は原油価格の上昇と通じて米国経済に影響する。
・国連やNATOを重視する。国連には問題も多いけれど、昔よりはマシになっている。米国が主導権を握らねばならないときもあるが、権限やコストやリスクを分担することも必要だ。
・中東の民主化、経済改革を支援する。理念での勝負で負けるわけにはいかない。イスラエルとパレスチナの紛争も解決せねばならなし。中東の安定は米国とイランの対話や、イランのテロ支援や核開発といった問題へのアプローチとなる。リビアのカダフィ大佐が核開発を放棄したことは良い例だ。
・NAFTAなど西半球諸国との経済連携の重視。
・世界中の貧困や病気と戦っていく。途上国の安定につながる。
・public diplomacyの強化。
さらに重要な連係相手として、EU、ロシア、インド、中国を挙げています。ロシアについてはエネルギー調達での連係を強化することが必要だとし、インドは人口を背景とした潜在力があるが、パキスタンとのカシミール問題の解決を進めねばならないと指摘。あと中国との関係は、北朝鮮の核開発問題への影響力、ミサイル技術やdual-use technology(軍事、民生の両方に使える技術)の拡散、中台問題の解決において、特に重要だとしています。
外交政策に詳しいわけじゃないですが、まぁ、普通の穏健な内容って感じなんでしょうか。ただ、どうしてもイランが核開発を止めないっていうことになって、イスラエルが怒り始めたりしたとき、どんな対応をとろうとするのか分りませんけど。
共和党ですが、ブッシュ政権をおおっぴらに批判したりもしている。イラク戦争の決議には賛成したものの、 “Actions in Iraq must come in the context of an American-led, multilateral approach to disarmament, not as the first case for a new American doctrine involving the preemptive use of force.”なんて言ったりしている。(参照) あと、イラク増派に反対したり、対イラン制裁に反対したり、アンチ・イスラエルな言動をみせたりすることでも知られている。(参照)
このページによると、 “We are each a product of our experiences, and my time in combat very much shaped my opinions about war. I’m not a pacifist; I believe in using force, but only after following a very careful decision-making process.”なんていう言葉もあって、なんかカッコイイです。ただ、共和党からのウケはよくないらしい。
で、このページに、ヘーゲル自身が寄稿したForeign Affairs誌の記事というのが紹介されていたので読んでおいた。8年ほど前に書かれたものですが、参考になるんだと思います。(参照)
まず目に付くのは、軍事力だけじゃなくて、その軍事力で何を達成しようとしているのかという理念が大事なんだという主張ですね。米国が他国から信頼されるような国であることが重要だということです。
A wise foreign policy recognizes that U.S. leadership is determined as much by our commitment to principle as by our exercise of power. Foreign policy is the bridge between the United States and the world, and between the past, the present, and the future. The United States must grasp the forces of change, including the power of a restless and unpredictable new generation that is coming of age throughout the world. Trust and confidence in U.S. leadership and intentions are critical to shaping a vital global connection with this next generation.
そのためには現実を直視することが大事で、「神から与えられた使命だ」的な教条主義的な考え方では失敗しますよと。ひとりよがりになっちゃいけないということですね。
a Republican foreign policy for the twenty-first century will require more than traditional realpolitik and balance-of-power politics. The success of our policies will depend not only on the extent of our power, but also on an appreciation of its limits. History has taught us that foreign policy must not succumb to the distraction of divine mission. It must inspire our allies to share in the enterprise of making a better world.
ただ、軍事力の行使を否定するわけでもない。アメリカだもの。
Traditionally, a Republican foreign policy has been anchored by a commitment to a strong national defense. The world's problems will not be solved by the military alone, but force remains the first and last line of defense of U.S. freedom and security. When used judiciously, it is an essential instrument of U.S. power and foreign policy. Terrorists or states that attack the United States should expect a swift and violent response.
そのうえでヘーゲルは、外交で守るべき7つの原則というのを列挙していきます。
・法治国家、所有権の尊重、科学技術の開発、自由貿易、人的資本への投資といった理念を大事にして、世界経済のリーダーであり続けること。
・エネルギー安全保障の重要性を確認すること。たとえ原油の中東依存度が下がったとしても、中東の不安定化は原油価格の上昇と通じて米国経済に影響する。
・国連やNATOを重視する。国連には問題も多いけれど、昔よりはマシになっている。米国が主導権を握らねばならないときもあるが、権限やコストやリスクを分担することも必要だ。
・中東の民主化、経済改革を支援する。理念での勝負で負けるわけにはいかない。イスラエルとパレスチナの紛争も解決せねばならなし。中東の安定は米国とイランの対話や、イランのテロ支援や核開発といった問題へのアプローチとなる。リビアのカダフィ大佐が核開発を放棄したことは良い例だ。
・NAFTAなど西半球諸国との経済連携の重視。
・世界中の貧困や病気と戦っていく。途上国の安定につながる。
・public diplomacyの強化。
さらに重要な連係相手として、EU、ロシア、インド、中国を挙げています。ロシアについてはエネルギー調達での連係を強化することが必要だとし、インドは人口を背景とした潜在力があるが、パキスタンとのカシミール問題の解決を進めねばならないと指摘。あと中国との関係は、北朝鮮の核開発問題への影響力、ミサイル技術やdual-use technology(軍事、民生の両方に使える技術)の拡散、中台問題の解決において、特に重要だとしています。
外交政策に詳しいわけじゃないですが、まぁ、普通の穏健な内容って感じなんでしょうか。ただ、どうしてもイランが核開発を止めないっていうことになって、イスラエルが怒り始めたりしたとき、どんな対応をとろうとするのか分りませんけど。
2013年1月5日土曜日
fiscal cliff は決着+先送り
年末年始も米国議会の方々は一生懸命仕事をなさって、fiscal cliff(財政の崖)は一旦は回避されたということみたいです。ただ、歳出の一律削減については2カ月先送りということですし、債務上限の引き上げ問題もありますから、まだまだ議論せねばならないことは山積しているんだと思います。
で、1月1日、American Taxpayer Relief Act of 2012が上院、下院を通過して、2日のオバマ大統領の署名を経て成立しました。リンク先のサマリーによると、
Makes permanent the tax reduction provisions of the Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act of 2001 for individual taxpayers whose taxable income does not exceed $400,000 ($450,000 for married couples filing a joint return)
ということですから、個人で40万ドル未満、夫婦で45万ドル未満に対する減税は恒久化されるということですね。オバマ大統領は選挙戦中、Cut the deficit by $1.5 trillion over the next decade through tax reform, including the expiration of tax cuts for single taxpayers making over $200,000 and married couples making over $250,000.(参照)としてきましたから、個人、夫婦ともに20万ドルずつは譲歩したというかたちになります。
あと、相続税の最高税率は従来の35%から40%に引き上げ。相続税率は何もしなければ55%まで上がるはずだったので、民主、共和の双方が妥協したという感じですか。40万ドル以上の所得層に対するキャピタルゲイン税率は従来の15%から20%に引き上げ。
また、失業保険については、
Extends unemployment provisions, including: (1) emergency unemployment compensation payments for eligible individuals through January 1, 2014, and (2) requirements that federal payments to states cover 100% of such payments until December 31, 2013.
ということです。emergency unemployment compensation(EUC)っていうのは、通常の失業保険を26週間受け取った後でも仕事が見つからない場合に受けられる失業保険のことで、これをあと1年間延長する。(参照) で、そのための資金は連邦政府が面倒をみるということですね。
一方、歳出の一律削減については、
Amends the Balanced Budget and Emergency Deficit Control Act of 1985 to reduce the required amount of deficit reduction calculated for FY2013 by $24 billion.
Postpones to March 1, 2013, the allocation by the Office of Management and Budget (OMB) and order by the President of total reductions to budget functions (half from the defense function). Implements the FY2013 sequester on March 27, 2013.
Reduces FY2013 discretionary spending limits to those applicable for FY2012. Reduces FY2014 limits from $1.066 trillion to $1.058 trillion.
つまり、
FY2013で削減するはずだった$24 billionについてはキャンセル。
一律削減の実施は3月27日まで延期。
FY2013の裁量的支出の上限はFY2012の水準まで引き下げ、FY2014については$1.058 trillionまで引き下げ。
ということですね。まぁ要は先送りです。
この法律については、ホワイトハウスによるサマリーもあります。
Social Securityの給付額決定にchained-CPIを使うかどうかという問題も先送りみたいですね。ティーパーティなんていう人たちがいる米国でさえ、歳出削減っていうのは政治的に難しいんでしょう。もちろん日本も社会保障制度の圧縮の議論は進んでいない。消費税増税の道筋は一応ついたのかもしれませんが。
で、1月1日、American Taxpayer Relief Act of 2012が上院、下院を通過して、2日のオバマ大統領の署名を経て成立しました。リンク先のサマリーによると、
Makes permanent the tax reduction provisions of the Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act of 2001 for individual taxpayers whose taxable income does not exceed $400,000 ($450,000 for married couples filing a joint return)
ということですから、個人で40万ドル未満、夫婦で45万ドル未満に対する減税は恒久化されるということですね。オバマ大統領は選挙戦中、Cut the deficit by $1.5 trillion over the next decade through tax reform, including the expiration of tax cuts for single taxpayers making over $200,000 and married couples making over $250,000.(参照)としてきましたから、個人、夫婦ともに20万ドルずつは譲歩したというかたちになります。
あと、相続税の最高税率は従来の35%から40%に引き上げ。相続税率は何もしなければ55%まで上がるはずだったので、民主、共和の双方が妥協したという感じですか。40万ドル以上の所得層に対するキャピタルゲイン税率は従来の15%から20%に引き上げ。
また、失業保険については、
Extends unemployment provisions, including: (1) emergency unemployment compensation payments for eligible individuals through January 1, 2014, and (2) requirements that federal payments to states cover 100% of such payments until December 31, 2013.
ということです。emergency unemployment compensation(EUC)っていうのは、通常の失業保険を26週間受け取った後でも仕事が見つからない場合に受けられる失業保険のことで、これをあと1年間延長する。(参照) で、そのための資金は連邦政府が面倒をみるということですね。
一方、歳出の一律削減については、
Amends the Balanced Budget and Emergency Deficit Control Act of 1985 to reduce the required amount of deficit reduction calculated for FY2013 by $24 billion.
Postpones to March 1, 2013, the allocation by the Office of Management and Budget (OMB) and order by the President of total reductions to budget functions (half from the defense function). Implements the FY2013 sequester on March 27, 2013.
Reduces FY2013 discretionary spending limits to those applicable for FY2012. Reduces FY2014 limits from $1.066 trillion to $1.058 trillion.
つまり、
FY2013で削減するはずだった$24 billionについてはキャンセル。
一律削減の実施は3月27日まで延期。
FY2013の裁量的支出の上限はFY2012の水準まで引き下げ、FY2014については$1.058 trillionまで引き下げ。
ということですね。まぁ要は先送りです。
この法律については、ホワイトハウスによるサマリーもあります。
Social Securityの給付額決定にchained-CPIを使うかどうかという問題も先送りみたいですね。ティーパーティなんていう人たちがいる米国でさえ、歳出削減っていうのは政治的に難しいんでしょう。もちろん日本も社会保障制度の圧縮の議論は進んでいない。消費税増税の道筋は一応ついたのかもしれませんが。
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